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第116話 一緒にいると噂とかされそうな人

 開拓村アルケーに戻り、保存食や交易品となりそうな品物を新たに積み、再びニキの街へと戻っていく。

 もちろん、各種報告の処理や開拓の相談事、建築計画の決定など、長めに村を離れる為の事前準備などを片付ける職務をこなしてからだが。

 いない間は芸術家ターレスとアレク将軍に委ね、困ったら魔王に聞けと伝えておいた。

 普段何もせずごろごろしているので、せめて不在時の決定役ぐらいはやって貰うのだ。

 ニキの街で仕入れた様々な物資もあるので、またしばらくはもつだろう。

 

「大体、ただの普通の少年に全権限を任せる方がおかしいと思うんですよ」

「どうみても人材集めてきて、各所を上手く回してまとめてるお前が一番適任だけど。あと一切普通ではないし、少年でもないな」


 褒められているようで全否定された。師匠酷い。

 別れてから再び宿で合流したのだが、1日の間なので特に感慨はなかった。


「それで、何か目ぼしい依頼はありましたか?」

「ああ。隣街カヴァッラまでの護衛依頼があってな。丁度通り道だし引き受けておいたぞ」


 目的地であるヴァルバリアまでにはいくつか街や村を経由する事になる。

 近づけば近づく程、街道の治安も良くなり、護衛の仕事の需要もなくなるのだが、カヴァッラの辺りならば護衛を頼む人もいるようだ。

 宿に飾ってある地図を眺めながら、カデュウは考える。


「地図を見る感じだと馬車で2日ぐらいかな?」


「普通の街道で隣町に行く依頼ってお安そう」

「もちろん、高くはないぞ。だが、一緒に行くだけでお小遣いくれるようなものだからな。危険があれば護衛対象がいようがいまいが対処する事になるんだし」

「お金貰えるだけ得だね」


 ユディとソトの会話の通り報酬こそ安いが、何事も無ければ、同行しただけで依頼達成するという美味しい依頼だ。

 以前のような芸術家による頭のおかしい条件みたいのがなければ、すぐに他の冒険者が引き受けてしまうだろう。

 運が良かった面も大きいが、ソト師匠がギルドで張り付いてくれていたおかげと言える。


「もう一つ、隣町に行くだけで護衛を頼むという事は一般市民ではありえない事だ。つまりある程度以上の資産がある人物とお知り合いになれる。要するにコネに繋がるって事だ、そのコネが役立つかどうかはともかくな」

「ほほー。ソトも色々考えてるんだね」


「当然だ。さあ、私を崇め見直すのだ。褒め称え頭をなでなでするのだ!」

「えらいえらい」

「なんかお子様っぽい扱い!?」

「言われた通りにしたのに」


 そりゃあお子様っぽい要求をしたらそうなるよね。


「で、その依頼人はどんな人なんですか?」

「名前しか書いてないな。イオニアスなんたら、だって」




「やあやあ。よろしくね」

「え? 仮面の店主の人ですか? どうしてここに」

「嫌だなあ、依頼、引き受けてくれたでしょ? 私が護衛依頼を出した謎の男、その名もイオニアス・アオイドス・ホルメイロス。吟遊詩人さ」


 そこに居たのは、怪しい仮面をつけて店の設備を貸し出してくれたあの店主だ。

 思いもよらない展開にカデュウは混乱した表情で、イオニアスと名乗った仮面の店主に質問せざるを得なかった。


「え? 料理屋の店主じゃなかったんですか?」

「料理屋の主人は近くにいた小柄で小太りなおじさんだよ。私は偉そうにしてただけでね!」

「店主、って名乗ってませんでしたか!?」

「知り合いの店で主と誤解されまくるように振る舞う事から、“店主”と呼ばれているのさ! どうだい、驚いたかい? はっはー!」


 なんだろう、この人。

 触ってはいけない系のノリを感じる。

 吟遊詩人はアレな人が多いのだろうか。


「何でそんなわけのわからない事を……」

「面白いからさ。今だってほら、驚いただろう? 感情の起伏は楽しみの元だ。いやいや、真面目な理由もあってね。あの手の店というのは客の話から様々な情報が入ってくるのさ。それは吟遊詩人にとって大切なもの、話のネタさ。……どうだい、納得いったかい?」

「はあ、まぁ……」


 ノリに圧倒され、適当に答えてしまったが、一応つっこまなければいけない気もする。


「あの……」

「なんだい? なんでも聞いてごらん。なんでも答えるとは限らないがね!」


「その仮面無い方が、話を聞きやすいのではないかな、と……」

「いいねぇ、うん、いいよぉ。率直で実に良い。だが答えはNOだ! 私はこの仮面を気に入っている! ……とまあこんな感じで答えるとしたら、話を逸らしているわけだ。こういう手合いは不利な話題になるとすぐ話を逸らすから、その都度指摘してあげると良いよ」


 唐突にありがたい事言った、みたいな教え諭すような口調へと変わった。

 何だこの人。


「……えーと。それ話逸らしてますよね。その仮面無い方がいいのでは」

「グッド! 良い事を学んだね! その通り、仮面無しに顔を晒せるなら警戒感も薄れ話は聞きやすいだろう。だが私が話しにくい、恥ずかしいからだ。これはもう仕方ないね!」


 いやまあ、好きにしてくれていいんだけれども。

 変なテンションなのは仮面の呪いか何かかとすら思えてくるが、話を聞く限りでは人見知りの為の道具のようなものなのだろうか。


「さて、さてさて。準備はいいかな、早速出発しようではないか冒険者諸君?」

「ソト師匠、あまりコネにならなそうな人でしたが……」

「……中にはこういう変わり者の依頼もある、私のせいじゃないぞ」

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