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第115話 YOUは何故学院に?

 積荷と共にニキにある商会に向かったカデュウは、まったく想定外の話を持ち出され困惑していた。

 イルミディム地方の冒険者ギルドとも親密なクニドス商会は、薬物や各種素材を専門に扱っているのでうってつけと考え商談を持ちかけたのだが、意外な理由によって断られてしまう。


「つまり、その。ここまで品質が良い薬草や魔術素材ですと、私共では取り扱えないのですよ」


 クニドス商会の支部長は残念だという表情を滲ませ申し訳なさそうに謝罪した。


「この手の物の専門商会、とお聞きしていたのですが……?」

「確かに私共の専門であり、この地にクニドス商会以上に薬材を扱う商人はおりますまい」

「では、どういう事なんです?」


「他所の方には少々分かりづらいかもしれませんが……。この地は魔術大国ゴール・ドーンの領土であり、その下には魔術師の集う魔導学院逆さの塔(リバル・ベルベ)があります。魔術に関わる最高品質の素材は魔導学院にしか販売してはいけないのです」


「無論、冒険者の皆様であれば私共が買い取って学院へと持ち込む事は出来るのですが、相手が商人ならば私共に許される事は魔導学院の紹介をする事ぐらいでして……」

「一応、冒険者でもあるのですが、……それでも?」


「ああ、誤解を招くような表現でしたな。正確には取引量の規定です。冒険者が持ち込むような少量であれば姓名を記録し、冒険者ギルドも立ち会った上で、引き取る事が許可されておりますが、……これだけの量となりますと」


 量の問題となれば、カデュウに為す術はなかった。

 何しろ定期的に同じような高品質の品物を販売しようと考えていたのだ。

 一度だけ無理を通しても、あまり意味はない。


「つまり、直接魔導学院へと売り込むしかないのですね」

「そういう事になります。せっかく来て頂いたのに申し訳ない。せめて学院への紹介状を用意します」




「というわけで、魔導学院を目指す事になったよ」

「ほほう、ついに私に魔術講師のオファーが来たか……」

「来てません」


 いつもの調子でころころ表情が変わるソト師匠は放置しておく。

 そこへ開店の準備を終わらせたクロスが、カデュウに飲み物を差し出して会話に参加した。

 赤い液体で少しぎょっとするが、ハーブの香りがする。


「はい、ローズヒップブレンドティー」

「ローズヒップか、びっくりした。あれも在庫が結構あったよね。品質が良いせいで売れなかったけど」

「品質が良いのに売れないって変な話ね」


 本当にその通り、変な国もあったものだ。


「魔導学院、という事はゴール・ドーンの帝都ヴァルバリアに行くのね?」

「うん。ここから6日はかかると思うけど、間に街もあるし、交易しながら向かおうかなって」

「ふーん。いいんじゃない? あ、食料が足りないね。戻って積んでくる?」


 今回は近場の街で交易品の売却をしてハーブティーの販売をする予定だったので、ユディの指摘通り旅用の保存食等は少なめになっていた。

 売り切ったらまた村に戻って在庫を積むつもりだったし。


「ここで香草の在庫を捌いたら開拓村に戻って遠出の準備をしようか。交易品になりそうなものをもっと積みたいし」

「……おにく」


 食い意地の張った子も食料の補充を望んでいた。

 魔王鹿の燻製干し肉を持ってきてあげよう。

 栄養があるのか食べると体の調子が良くなるし、何より美味しい優れものだ。


「冒険者ギルドはどうするー? ついでにやれそうなものやっていくか?」

「そうですね、道中の街に向かう配達や護衛依頼ぐらいならこなしていきましょう。ソト師匠は残って良さそうな依頼を探しておいて貰えますか?」

「な……捨てる気なのか!?」

「捨てないです、ちゃんと戻ってきますから、一人で出来ますか?」

「ふん、子供扱いするな。お一人様のプロだぞ、私は!」


 ころころと表情を変えながら、ソト師匠が頬を膨らませていた。

 実にお子様っぽい。


「それぼっち……、いえなんでもないです。村長の仕事も少し溜まってると思うのでそれをこなしてから1日ぐらいで戻ってきます、宿代は払っておきますからここに泊っておいてください」


「ちゃんと戻ってこいよ、不安が一杯で心配だからな! かわいそうだぞ私が!」

「うーん、それじゃクロス。ソト師匠の補佐で残ってあげてくれる? 師匠一人だとまともな依頼探せるか不安が一杯で心配だし」

「そうね。一人にしておくとソトさん泣きそうだし。騙されて変な依頼掴みそう」

「お子様じゃないぞ! で、でも、誰かと一緒の方が楽しいからな、うん」


 実に手間のかかる指導者であった。


「そーだ、ここら辺のコーヒーは独特らしいぞ。夕食が楽しみだな!」

「へえ、そうなんですか? グローディアならではの料理と聞いてますから、僕も楽しみです」




 その期待を裏切らず、とても美味しい料理の数々であった。

 ヤギのミルクで作るフェタチーズやトマトを添えハチミツのソースをかけた香草のサラダ。

 骨付きラムをオリーブ油とレモンに漬け、様々な具と共に蒸し焼きにしたクレフティコという料理。

 海の街という事もあり、マグロの塩焼きなども出てきた。

 

 最近流行の料理というクレフティコやマグロの塩焼きは別だが、全体的に甘い味付けだ。

 やたらハチミツが入っているのが古代グローディア流らしい。

 そして最後に、噂のグローディアコーヒーが……。


「クソにがっ!」


 ソト師匠もびっくりの味。

 コーヒーの粉を直接煮込んだものらしい。おかげで凄く粉っぽく、苦いのです。


「儂らは砂糖を入れて飲むからのう。好きなだけ入れるといいよ、ああ混ぜない方がいい。上澄みを飲みんじゃ」


 宿の主人による解説が入る。 

 まぁ、とにかく甘い味付けを好む土地柄のようだ。

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