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第113話 魔王軍の食糧事情

 ある日の事、皆で食事と休憩を取った後に、魔王が暇そうにやってきた。

 雑談を交えつつ、ふと魔王城についての話をしてみたのだが……。


「余は魔王であり、ミルディアス帝国の皇帝であるぞ? 大まかな所は把握しているが、余が関わっていたわけではないので詳しくは知らん」


 意外だったというか、ある意味当然だったというか、そんな答えが返ってきた。


「そうだな、覚えている範囲ならば召喚の間や遠聴の間などはあった。地下には錬金術師や付与魔術師の工房、宮廷魔術師の研究室。鍛冶師の工房や書庫もあったし、当たり前だが厨房もな。元々が人の城であったのだから城として基本的な所は揃っているし、その後魔王の城となったので、魔王軍が付け足したものも存在する」


「どんなものですか?」


「例えば厨房は魔物向けのものが増設された。あいつらバリバリ食うからな」


 確かに、魔物といえど食事はするだろう。

 となればその食料を用意する必要が出てくるのは自然の流れだ。


「魔物ってどんなものを食べてたんですか?」

「それこそ個体によって異なる。万能の食料などという便利なものはない。……だがまあ、汎用性の高い食料代わりならば魔王軍ならではのものがある」


「それは、どのような……?」


「人間には真似出来んぞ? いや出来なくはないが。従属関係による魔力供給、もしくは共食いだな。何せ数が多かった、地上以外の魔物達も来ていたのでな」


 現状、食料供給はされているものの安定しているとは言い難い。

 兵士達や奴隷商人に捕まっていた子達だけでも150名近くが増えたのだ。

 どちらも食料調達のプロではなく、傭兵団のように狩りが上手いわけでもない。


 皆、頑張ってくれてはいるが、少々不足するのは仕方のない事だ。

 アインガング村を通じて必要な物資や食料は買っているのだが、資金を消費しているのでいずれ限界はくる。

 それまでに農業運営が上手くいく予定ではあるが、自然を相手にするものなので確実にとは言い切れないだろう。


 なので他の手段があるのならと、興味を示したカデュウだが、魔王軍のまったく参考にならない話にがっかりした。

 共食いって。


「いや、共食いしてるようなのは食料が足りない地域の連中だぞ。この魔王城でそんな事はありえん、部下に優しい魔王様として評判だったからな?」


 魔王のくせに、そんな親しみやすい庶民派みたいなアピールされても困る。


「うーん、残念ですね。魔王軍の優れた所ならば取り入れたかったんですが、共食いはちょっと……、魔力供給で人は生きれませんし」


「何度も言うが、余は魔王であって食料担当官ではないのだ。そのような些事は全て任せてあったわ。……いや待てよ? アレがあったか」

「……? 何か、良いものを思い出したんですか?」


「うむ。呼んでくる故、何時間かしたら畑に来るが良い」

「呼んでくる……?」


 どういうわけか魔王はそのまま自室に戻って行った。

 カデュウも他の場所に仕事に向かい、数時間経過した頃。


 ――巨大な、ドラゴンが現れた。


 虹色の光を放つ神々しさすら感じるその竜は、畑の辺りに降り立った。


「……もしかして、呼んでくるって……アレの事?」


 先程魔王に言われた通り、急いで畑に向かう。

 現場に到着した時にはすでに他の皆もそこに集まっていた。

 正直、怖くて近づきたくはないけど、行かなくてはならないだろう。


「魔王さん、もしかしてドラゴンを呼んだんですか?」

「左様。余のペットであったドラゴンのマウマウだ、可愛がってやってくれ」


 最初に魔王城で見かけた、あの時のドラゴンなのだろうか、なんとなく似ている気がする。


「はぁ……。それで、このドラゴンを呼んでどうするんですか?」

「ふふふ。こやつは虹竜、あるいは豊穣竜とも言われておってな。こやつが長年住んでいたから、この森やこの地は肥沃な地になったのだ。さあ、見せてやるが良い、その力を!」


 魔王の言葉に応じ、ドラゴンは天に向かって咆える。

 すると、不思議な雫が、空から降り注いだ。


 虹のような、雨のような、光の雫がゆっくりと。

 大地に吸い込まれ消えていく。


「……特に、何も起きないですよ?」

「見た目に反し地味だが、地に活力が行き渡り植物の生長が早くなっている……はずだ」


「……しばらく月日が経過しないとわからないんですね」

「魔力で無理矢理成長させているわけではないからな。あくまで自然で健全な形の成長を促進させているので、悪影響などはない……はずだ」


「なんでそんな歯切れが悪いんですか、怪しさが増すじゃないですか」

「だから余は魔王であって農家ではないのだ。農業の事など知らんわ」


 そりゃその通りなのではあるが。


「ちなみに魔術で無理矢理育てると、悪影響があるんですか?」

「うむ。度合いによるが、風味が落ちたり食感に影響は出る可能性が高い。そも、植物に干渉する魔術の目的といえば戦闘や建築に用いるものであるからな。食用に研究した魔術師も稀にいたが、戦場食だ。味を気にするようなグルメな奴はまともな方法で育てたものを買うわな」


「はい、その通りですね。味が第一です」


 食にうるさいカデュウにはその理屈がとてもよくわかった。


「ルルルル……」

「ん? おお、そうであった。マウマウよ、こやつがカデュウだ、覚えておけよ」


 ドラゴンが首を縦に振る。

 ドラゴンもそういう仕草なんだなぁ、などと妙な感心をしてしまう。


「ルルルルル……」

「ははは、面倒くさがりめ。人語を使わず竜語で挨拶とはな」

「何て言ってるんですか?」


「魔王様の寵愛を受けし矮小なる下等生物共、加護を与えてやるから死ぬまで感謝しろ、と言っておる」

「めちゃ酷い内容だった! でも一応加護はくれるんですね……」


「ルルル……」

「作物が出来たらお供えしてもいいんだからね、と食べ物を要求しておる」

「ツンデレみたいになりましたね……」


「そったらことなら、どっかに台でも作ってお供えしようかえ。豊作にしてくれるとはありがてえドラゴンさんじゃあ」


 畑にいた農家のパラド爺さんがニコニコした顔で見事に順応していた。

 まったく動じずきっちり話を聞いてまとめる辺り、さすがはプロ農家である。

 肥沃になって農業生産の質量がともに上がるのならばありがたい。

 地味ではあるがとても助かる加護、となるはずだ。


「思ったのとは違うけど、思ったのよりはずっと理想的な魔王さんの加護、なのかな?」


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