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第112話 魔王城の機能

 仮面の人に紹介してもらった海と森のホスピタリスは人気の宿のようだ。

 カデュウ達が予約を入れたすぐ後に2組の客が来て満室になったあたり、ギリギリと言うべきかその手前と言うべきか。

 ニキの街の中でも一際古風なグローディア様式の建築物は、今まで見てきた他の街の建物とは一線を画している。

 今までイルミディム地方に来た事が無かったカデュウにとって、印象に強いものだった。


「うわぁ~、凄いなぁ。まるで古代の神殿みたい」

「廃棄された昔の神殿を再利用して宿にしております。さすがに昔の人でもこんな家には済んでおりませんよ」


 宿の主人である老人が宿の成り立ちを解説してくれた。


「ああ、なるほど。それでこんなに荘厳な建築なんですね」


 古代の人凄い! と思っていたら、特別な建物だったようだ。

 大理石やら豪華な色使いやらが彩り、見事な彫像が出迎えるエントランスホールはとてもリーズナブルな宿の物とは思えなかった。


「こんな凄い所なのに、思ったより格安でビックリしました」

「ニキの街に滞在する人は多くないのです、皆さまゴール・ドーンの帝都ヴァルバリアに向かうか、ゴール・ドーンとは別の国へと旅立つか、でして。ニキの街も良い所なのですが、鮮烈さには欠けてしまいますからのう」


「富裕層の滞在者が望めないので、価格を落として一般の旅人を狙って回転数をあげているわけですか」

「宿の質では他所に負けるつもりはありませんが、街自体に用事がないと言われてはどうにもなりませんからのう。しかしおかげさまで、こうして冒険者様や吟遊詩人を始めとした旅の方々にご愛用頂けるようになりました。これはこれで楽しい毎日でございますとも」


 人の良さそうな優しい笑顔を宿の主人はカデュウに向けた。

 繁栄していても、やがて時代の変化によって流れは変わる。

 その変化に合わせて新たな道を切り開いたのだから大したものだ。


「素晴らしい経営手腕ですね、お見事です。……では数日間の滞在ですがよろしくお願いします」

「ええ、自慢の宿と料理を楽しんで頂ければ嬉しいですのう」


 宿泊の手配は整い、片付けの終わった仲間達を案内して、今は宿で休んでいる。


「凄いなー、どこか神秘的だし豪華だし、貴族の館みたいだな」

「ソト、はしゃいでるね。私は逆に落ち着かないけど」


 同じ傭兵団のソトとユディは宿の感想が逆であった。

 ユディは常に傭兵暮らしで普段ワイルドな生活をしていたからだろう。


「今回の目的は、交易だから朝方にこの街の商会に約束を取り付けておいたよ。薬草も革も良い品だから多分買ってくれると思うけど」

「問題は魔王城の機能復活の件ね」


 寝椅子でくつろぎながらクロスが重要な点を指摘した。

 開拓当初はまず食料や建築に関わる事を最優先していた為、魔王城の詳細な調査はほとんど行っていなかった。

 水路の確認やゴーレム水道の建設などでチェックはしたが、それはあくまで一部である。


 たまに少しずつ調査はしており、その結果見つかった遺品なども見つかってはいる。

 だが、曲がりなりにも古代帝国の皇帝が住んで、その後魔王城と呼ばれた、伝説の城だ。

 広い上に廃墟と化していて、さらに罠の類も考慮する必要があって調査は難航している。

 がれきの撤去も行ってはいるが、まだまだ通行出来ない箇所も少なくない。


 そんな中で、ようやく魔王城のまだ使えそうな箇所を発見したのだ。


「うん。やはり地下施設は強力な封印があって手に負えない。でもいくつかの箇所は条件させ整えば利用出来そうだね。鍛冶の炉は壊れてなさそうだったし、ワインセラーもワイン自体がないという点以外は問題なかったね」


「そっちは普通の設備。昔の冒険者だって理由もなく、そんなとこわざわざ壊さないでしょ」

「そうだよね、激戦の最中にそんなとこ意図的に壊してドヤ顔する人なんているわけないよね」


 でも意外といたかもしれないなぁ、とヤマトゥーの件を思い出してしまう。

 頭がゆだっている人ならあるいは……。


「特殊なのと言えば、遠聴の間だっけ。魔王さんの話だと遠くにいる人とでも会話出来るようになるらしいね。使えるようになれば便利だけど、マジックアイテムが足りないんだよね……。お高そうだな……」


「いつでも魔村長の仕事が出来るようになるじゃない。便利ね」

「いつでも休みが無くなるの、僕……?」


 とはいえさすがに常時連絡が取れるようなものではないとは思うけど。

 のんびりした旅が良いなあ……。


「それと召喚の間。召喚陣は徹底的に壊されてたけど、部屋そのものは無事だったのは意外だね。壊してる時間なんかなかったのかも」


召喚士(サモナー)はいないけど、イスマが使えるかもって言ってたな」

「……つかえるかも」


 仲良く寝椅子で、ソトとイスマがごろごろしている。


「みんな寝ながらだね……」

「こうして寝椅子でくつろぎながら会話するのが古代グローディア風って宿のお爺さんが言ってたじゃない」


 文化が違うというのは大きいが、昔の人の風習も変わっていて面白いものだ。


「しかし、魔王さんの昔の話は興味深かったね」


 魔王から聞かされた、過去の話をカデュウは思い返していた。

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