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第105話 これなるは、伝説を覆すための物語 8

 ヤマトゥーの残滓を消し飛ばしたベルベ・ボルゼに大きな変化が起きていた。


「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ……おお!? ここは……一体?」


 呪縛が解き放たれ、恐らく蘇生が成功したのだろう。

 幻想の成功、というべきだろうか。よくはわからないが。


「久しいな、余の忠実なるベルベ・ボルゼよ」


 ベルベ・ボルゼが横たわるすぐ傍。

 気が付けばいつの間にか、その場に魔王が立っていた。


「ま、魔王様! このような格好で申し訳ございませぬ。少々、……お待ちを」

「良い良い。貴様は一度死に、こうして蘇ったのだ。記憶はあるか?」

「……少し、覚えております。……憎きヤマトゥーに敗れ、今また打ち倒した。……そうか……復活させられて……」


 過去の記憶の空間から現実に戻った事、条件が満たされた事で先程の重傷は無かった事になっていた。

 その小さな体を起こし、ベルベ・ボルゼが立ち上がる。

 そこに、復活させた者達がやってきた。

 ルチアとイスマだ。


「ええ、ごきげんよう。はじめまして、かしら。あなたの幻想を紡いだものよ」

「お前は、……確かに繋がりを感じる。しかし、そこの子供にも繋がりを感じるぞ?」

「……どうも、復活のお手伝いです」


 いつもの無表情のまま気さくを装って手を振るうイスマ。

 表情と声とポーズが一致しておらず、かわいらしさを振りまいているかのようだ。


「私には命令権はないのだけれど、あなた私と一緒に来ていただける?」


 ルチアはベルベ・ボルゼを誘うが、それに対しきょとんとした表情を見せる。

 そして手を顔の前で交差させた。


「無理無理。礼は言うが、我は、魔王様の守護をせねばならん。ここを離れるわけには」

「いや、構わんぞ? 今、この地はこの人間共に委ねておる、余もすでに命を狙うものなどいなくなった有様よ。996年も封印されておるからな、はっはっは」


 笑う魔王の姿を凝視し、その力をまったく感じ取れない事に気付いたのだろう。

 ベルベ・ボルゼは自らが倒された後の結末を感じ取ってしまった。


「……なんと。我が不甲斐無いばかりに、……申し訳ありませぬ、魔王様」

「過ぎた事であるし、余が敗れたの原因よ。……では、貴様の守護の任を解く。久方ぶりにそやつと世界を旅してくるが良い。そして我にその話を聞かせるのだ。何しろ暇でな」

「……それが、新たなご命令とあらば。もうひとりの主よ、それで構わぬか?」


 ベルベ・ボルゼを復活させたもう一人の主、イスマの方を伺う。

 無表情のまま、イスマはこくりと頭を動かした。


「……そゆ約束だから、それでいいよ。……そのうち遊びに来てね」

「蘇ってみれば主が3つに増えていたとは、ややこしいものよ。最も繋がり薄き主よ、魔王様の命により、この魔元帥ベルベ・ボルゼが同行してやる」


 少女の姿をしたベルベ・ボルゼがニヤリと笑う。


「あら、ありがとう。嬉しいわ、ベルちゃん」

「それにお前残ってると、ここの人間死んじゃうかもしれんしな、毒で」

「そ、そうですな。それは魔王様に申し訳が立たない……」


 致命的な理由であった。主に村の住人にとって。

 死に際には、死後300年も生物が近寄れない猛毒を出してたらしいし……。


「魔王様に見出された人間共よ、魔王様の事を頼む」

「はい、魔王さんの事はお任せ下さい!」

「人の癖に見どころがある奴だ。――いいか、巨乳好きは殺せ! 敵だ!」


 それ魔王関係ないよね。私怨だよね。




「ベルベ・ボルゼ様、魔王様、お久しゅうございます」


 ダークエルフの老婆にして魔王軍の幹部、魔将フェアノールが姿を見せた。

 片膝をついた姿勢でその言葉を待つ。


「……もしや、フェアノール、か? 老いたのう」


 ベルベ・ボルゼは時の流れをその目で見て、感慨深そうに呟いた。


「おお、生きておったのか。余も懐かしいなー」

「恥ずかしながら生き長らえておりました。これより再び忠義を全うしたく思います」

「よかろう。現在の余の第一の忠臣であるカデュウに従い、余を楽しませよ」

「はは! ありがたきお言葉に御座います」


 え? 魔村長に従わせるの?

 そんなに偉いの魔村長?

 響きは最高にしょぼいよ?


「我が部族の者共よ、魔王様のお言葉を聞いたな! 試練を見たな! これより先、我らフェアノール族はカデュウ殿に従いて、古の大森林の同胞達と共存する、よいな!」


 長老フェアノールの言葉に、ダークエルフ達がひざまずく。

 その視線の先にはカデュウの姿が。


「いや、そんな事しなくていいですから……、仲良くして頂ければ……」


 ともあれ、これでようやく当初の目的であったエルフ達との協力関係が成立した。

 協力というか同盟と言っても差し支えない強固な結びつきであろう。


「契約は達成された、試練は果たされた。ならば私も、褒美を贈るのが筋というものでしょうね。新しきお友達、カデュウ」


 左腕を突き出して、ルチアが微笑んだ。

 美しい表情、誰でも魅了されるのだろうが、何度も見たので慣れていた。

 人間、何でも慣れるものである。


「先程の幻想空間、土地の記憶は抜けてるけれど、あれをそのまま残しておくわ。あの中で戦っても怪我しないから、訓練なんかにはいいかもね」


「あの空間が使えるんですか! それは重宝しそうですね!」

「解除するのも面倒だし……、喜んでくれて嬉しいわ。好きなように使って頂戴」




「姉さん! ここに来てやしたか!」


 水夫姿の小太りの男、ハッチが勢い良くやってきた。

 海賊組、と呼ばれている他の2人、老人のウミル、船長のマンダムもそれに続く。


「あら、あなた達。行方不明になったと思ったら、こんな所に居たの?」

「へい。パン屋をした後で海に流され、ここの海岸で拾われて世話になってまさぁ」


 この海賊達、ルチアの関係者だったのか……。

 なんとなく、彼らの異常な身体能力と生命力も納得が行った。

 きっと、彼らも“幻想”の仲間なのだろう。

 そしてパン屋をして流されるってって何事。


「じゃあ、丁度いいわね。そのままここで役立って頂戴」


 静かに微笑んで、ルチアが海賊達に命を下した。


「へい、がってんでさぁ!」

「飯もくれるしの……」

「メスはくれんのう……」


 相変わらずフリーダムな海賊達である。




 試練は無事終わり、やってきたエルフ達と共に、村の中で宴会が開かれていた。

 いつの間にかお祭り状態で、それぞれに皆が楽しんでいる。

 ようやく、古の大森林のエルフ達、そしてこの村の者達が一丸となったのだ。


 その様子を眺めながら、カデュウは黒髪の少女のそばで佇んでいた。

 

「アイスって、ヤマトゥーと同郷だったんだね」

「それだと恥ずかしい事のように聞こえてしまいますね。ちなみに、恐らく本当の名はヤマト、ですね。ヤマトノカミ、がなまって伝わったのでしょう」

「ああ、それでヤマトゥー・ノゥカミ……」

「1000年ぐらい前に私と同じようにこっちに転移してきたのでしょう。あんなのじゃなくてカデュウは幸運でしたね!」

「そうだね。……ん? アイスも割と取り扱い注意というか……」


 その言葉を遮るように、黒髪の少女アイスはくるりとカデュウの方を向き、にっこりと人懐っこい元気な笑顔で手を差し出した。


「というわけで、アマノハから来ました、愛洲香影(あいすこうえい)流継承者アイス・ジンコーです。またよろしくですよ!」

これにて2章終了です。

アイスとイスマの背景も入れつつ開拓を進めてみました。

少々ギャグっぽい〆になって驚かれたかもしれません。

次からはもうちょっと真面目そうなラストになるとは思います。


3章までの繋ぎに、また設定を差し込んでおきますね。

名前多くて誰こいつみたいになりそうですし。


それではまた、3章もお付き合い頂ければ嬉しいです。

ご感想などもあればお気軽にどうぞ~。

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