第103話 これなるは、伝説を覆すための物語 6
毒竜との戦いが行われる、その後方では、見世物の舞台のように人が集まっていた。
傭兵団をはじめ開拓村の住人達、各エルフ部族からやってきた者達などだ。
その間近で繰り広げられながら自分達には触れる事も触れられる事もない、不思議な光景を、のん気に飲み食いをしながら鑑賞していた。
「あの子達、あの若さで凄く落ち着いているわね」
「おう、そうだろ姉ちゃん。あいつらは俺が見込んだ予備団員達だぜ、年齢の割に実戦経験がかなり豊富だ。最下層とはいえ戦場で育った、俺の娘と互角に渡り合うんだからよ」
カデュウ達からは見えも聞こえもしない現実の世界にて、観客となっているルチアやゾンダ、そして副長のメルガルトが戦いぶりを評価していた。
「おいゾンダ、勝手に予備団員に認定するなよ。迷惑だろあいつらに」
「いいじゃねえか、メル。どうせうちの団に縛りはねェんだ、好きな時に好きな事してりゃいいっていう気楽な傭兵団よ」
クリーチャー傭兵団の自由度は数ある傭兵団の中でも特筆すべきものだ。
好きな時に戦い、好きな時に現れ、好きな時に別行動をする。
そのような緩すぎる規則ながらもまとまっているのは、極度の少数精鋭さに加えて、居心地の良い空気があるからだ。
「しかし、お前さんが強くはないって言ってた、あの竜が大分強そうじゃねえか」
「あなたの場合は元々の強さに英雄の力が上乗せされ、相性も良すぎたのか相乗効果が起きていた。だから、あなたにとっては強くはないわ」
「あいつらにとっては、勝てるかどうかわからん相手になる、ってことか」
「倒し方に気付けなければ、次の段階にも進めないでしょうね」
面白そうにその戦いを見つめ、ルチアが素直な感想をこぼす。
「あの子、カデュウは少々頼りないかしら? 正面からの戦いには向いてなさそう」
「才能は他の奴と比べてあまり無いな。フルトよりも無さそうだ」
「団長酷え!? さらっとディスらないで下さいよ、俺だって気にしてるんですから」
「だが、あいつは面白い。戦い方や発想のセンスはかなりのものだ。自分の実力を理解して工夫をする奴は俺は好きだね。フルトは地味だからな、堅実でつまらん」
「やめて、心を抉らないで団長! 堅実さをもっと褒めてあげて!」
「カデュウはノヴァドさんに似てるな、あそこまで悪辣非道ではないが。それに動きもフド傭兵団に近い。先生とやらがあそこ出身か、本家の暗殺教団の奴かもな」
カデュウの戦いぶりを見ながら、メルガルトがその細かい動作を分析していた。
第一線で戦い続けた者達からのカデュウの才能の評価は低い。
しかし、それを補うだけの長所がある、というのがゾンダやメルガルトの共通の評価であった。
「クロスは才能の塊って感じだな。普段の模擬戦でも目立ってたが、身体能力もセンスも技量も高く魔術も使えるって万能型だ。おまけにカデュウと同じく戦い方がえげつねぇ、姫じゃねえよありゃ」
「ただ、個人力が高いせいか連携に関してはカデュウ以外とはイマイチだな」
「デキる奴だからどうしても自分でやっちまうんだろうな」
「ユディもその傾向はある、若いうちはやりがちだな」
同じ先生に師事した影響なのだろう、クロスもまた動きとしてはカデュウと似ているのだが、その才能はまったく異なっている。
その連携面に難を指摘するのはユディの師でもある、メルガルト。
「どいつも自分が輝く事しか考えてない奴らだが、カデュウが個々を生かしている。それぞれの実力を発揮しやすいように状況を構築しているな」
「ふはは! 私の弟子だからな! 指揮官というよりは潤滑油、居て欲しい時に、居て欲しい所に、居る事が出来る。前線の影のリーダーってとこだ。ちなみに私は指揮官だぞ」
感心するように顎に手を添えるメルガルトの横に、いつの間にかソトが立っていた。
自身の仲間を褒められ我が事のように喜んでいる。
「いやほんと、カデュウちゃんすげーわ。派手じゃないけど、チームに必要なタイプだよ。俺でも傍にいたらうまく使ってくれっかな。金髪ロリは働かない癖にうるせーけど……」
「あんだと! 石もくれない地味フルトの癖に!」
ぷんすかとフルトに怒るソトの手には、食べかけの燻製肉が握られている。
さながら祭りのように、皆それぞれが楽しんでいるのだ。
レティシノや傭兵団の女性達がせっせと料理を作り、それを誰かが持っていく。
「アイスって子が面白いわね。英雄の記憶があるとはいえ奇妙な動きをしてるわ」
「うむ、アイスは訓練の時でも変な動きしてたぞ。独特の不思議な剣技を使う、あの中でも面白い逸材だ。他と比べたら技量特化型ってとこだな」
横で話を聞いていたソトは、ルチアの方を向かずに戦いを見続けていた。
「みんなウチの自慢の奴らだよ。……石くれるしな」
「あの広範囲攻撃が来る前に、ここで全員分の大技を叩き込むよ!」
「このままじゃ埒が明かないですからね! 了解です!」
「おっけー、全力でやってしまおう」
「ならば、英雄の記憶を引き出すとしましょう。得意とした必殺技を!」
“天槍”と呼ばれる英雄スロートの必殺技。
複数の風の精霊を使って何度も加速を重ね、魔力を込めた槍で突進する。
いわゆるチャージアタックだが、その軌道は風の精霊のブーストによって複雑に変化し、その破壊力は超加速と槍に込められた魔力に加え、敵に合わせた魔術を槍に宿す。
今回の場合は氷結の魔術、毒竜の体液を飛び散らせない為の対策だ。
さらに導聖術によって、聖なる力も流し込み、魔に連なるものの力を封じる。
魔術、精霊術、導聖術を使いこなす、三術の使い手として名を馳せた伝説のエルフならではのものであった。
「――ドライ・アインフリーレン!」
馴染む、馴染む、理想の動きへと。
魔術と極技の完全なる融合、剣技にして魔術。
数多の技の記憶から、支援に徹する技を繰り出す。
放たれる刃は、伝説の魔剣クイン・カシュナルトによって多重に増やされる。
幻も、そうでない刃も。
魔剣士である英雄ランチノイドが得意とした幻惑の剣技。
「――幻影陣」
普段ならばありえない力強さで、全てを薙ぎ払う勢いの戦槌を振るう。
ユディが用いた事もないウォーハンマーを、体の一部のように軽々と軽妙に。
英雄ガバチョの猛撃こそは、その全てが必殺技となる。
幾度も振るわれるその全てが、竜をも屠り去る破壊力を持って。
「この英雄さん、技の名前考えたりしてないんだけど」
そして、正面より、ヤマトゥーを宿したアイスが斬りかかった。
斬り、蹴り、斬り、蹴り、斬り、蹴り。攻撃と同時に跳躍を重ね、駆けあがり。
頭上の遥か高みより、縦回転を加え大上段からの斬り降ろしを浴びせ斬る。
遥かなる古の剣技を受け継ぐという、英雄ヤマトゥーの奥義。
「――テングラマ!」
英雄の力による4方向同時攻撃が毒竜の身体に炸裂する。
1つ1つが絶技となるそれら全てを叩き込まれた毒竜は、ついに倒れ伏した。
外野はもきゅもきゅ飲み食いしながら、のん気に鑑賞してます。
3D映像みたいなものだから迫力ありそうですね。
英雄の記憶については、当人の性能に上乗せする形なので能力は半々ぐらい、
技などは貸してもらえるけど必要な記憶以外はほぼ無いので戦い方の選択は本人の癖が出るという感じです。
たまには後書きで喋ってみました。