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第102話 これなるは、伝説を覆すための物語 5

「ありがとう、クロス」

「大丈夫? それじゃ、私も行くから」


 解毒はされたものの、まだ体が上手く動かないようだ。

 回復を待つため、横になったまま少し考える。

 あの恐ろしく強い毒竜にどうやって勝ったのだろうか、と。


 過去の英雄とは実戦経験がまったく違うという点もあるだろうが、そもそも正しい手順で戦っていないのではないだろうか。

 圧倒的な超再生がある以上、一人一人が単発で攻撃しても多少痛がるだけですぐに傷は再生されてしまう。


「……倒す事は目的ではなく、その怨念の元を見つけて晴らす事」


 だが、まずは動きを止めない事には、進みそうにない。

 まさか全滅させられる事が条件でもあるまいし、英雄の記憶が宿った意味も何かあるはずだ。


「……英雄の、記憶。……記憶というのなら、戦い方だけではなく、その場で何が起きていたのかがわかるのかな?」


 怨念、つまり、恨みとなる元があったという事。

 ならば、記憶の中にその答えがあるのではないだろうか。


「どうして戦い方はわかるんだろう。そこから辿って行けば……」


 記憶を探る。何が起きたのか、何があったのか。

 その日、その時、その瞬間に至るまでの。


「――あった。この戦いの過程と、結末」


 動かなくてはならない。すでに仲間達に大分負担がかかっている。

 怨念の原因はまだ、わからない。

 しかし、まずは――。


「――うん。考えるのは、戦いを終わらせて安全を確保してから」




「お待たせ。苦労をかけたね、みんな」


 毒竜との戦場、その最前線に、カデュウが戻った。

 皆、それぞれが持ちこたえているものの、状況は厳しいようだ。


「時間をかけて、何か見つかった?」

「うん。この戦いにどう勝利するか、まではね」


「私の印象だと、お手上げって感じだけど、よっと。めちゃくちゃだよ、これ」


 戦いながら、攻撃を避けながら、ユディが答える。


「うー。なんかみんなバラバラで戦いづらいですね? 好き勝手に斬っていたいのに」

「あなたが好き勝手にしてるからじゃない? 私も好き勝手にしてたけど」


 アイスもクロスも連携を意識した戦い方ではない。

 個別に戦っているようなものなので、数の優位が生かせていないのだ。


「むー。カデュウなら勝手に合わせてくれるのにー。ほわわっ、こっちきた」

「じゃ、僕が勝手にフォローするから、態勢を立て直そうか」





「――【織りなす広域幻影ファンタズマ・テクストゥス】」


 アイスに突進する毒竜の視界を魔術で幻惑する。

 本物のアイスの姿を隠し、幻影のアイスを動かして、錯覚させるのだ。


 本来ならカデュウは習得していない魔術。

 幻影の範囲を広げ戦闘域全体の味方を支援出来る高位の魔術だ。

 それを短縮詠唱で扱える者が、本職は剣士なのだから驚く。

 日常的に戦闘が起きていた古の冒険者達には、万能さが必然だったのかもしれない。


 アイスだけでなく、他の味方もまた同じように、幻影による支援を行う。


「ほーら、ドラゴンさん、こっちだよーっと」


 幻影のアイスの姿に翻弄された毒竜の身体にユディの戦槌が突き刺さる。

 毒竜も幻影に向かい反撃をするも、当然そこには何もない。


「斬りつけて――すぐ退避!」


 その隙をついてカデュウも胴体に斬りつけそして後退。

 ここで引き付ければ――。


「先生直伝のコンビネーション、強者相手の戦い方の応用よね」

「いいタイミングですよー。竜って斬りがいがあります。この斬るのが難しい身体をさくっといけるのが凄く快感です」


 クロスとアイスが、個別ながら隙をついて攻撃が出来るというわけだ。

 思うように斬り裂き突き刺し、竜毛による攻撃の気配が見えればすぐさま離れる。

 それぞれが個別に自由に戦うのなら、その自由さを融合させればいい。

 先生に教わった連携と、ソトに教わったポジショニングとタイミングの極意。

 個々の強さを生かし、個性を生かせば、こうして強敵とでも良い戦いが出来るのだ。


 そんな事を繰り返していけば、毒竜はやがて苛立っていき、再び大技を使う事も予測出来ていた。


「待ってたよ、この時を!」

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