第101話 これなるは、伝説を覆すための物語 4
間一髪、その毒液の撒き散らしやブレスを回避したカデュウ達は、それぞれ四方に散って集中砲火を避ける。
「カデュウ」
「うん、クロス」
ぴたりとした呼吸で意思を疎通しあった2人が、毒竜の攻勢を静めに動いた。
近づくクロスに反応し、毒竜はブレスを浴びせようとするが、竜の目にも映らなかったカデュウの素早い牽制によってタイミングをずらされた。
クロスの放った槍のチャージアタック、そして続く連撃に毒竜も苦しむ。
「では、私も。剣閃の煌めきを見せちゃいましょう」
ここまで抑え気味にしていたアイスが、好機と見たのか横から竜の腕を目掛けて剣を走らせる。
ずっ……、とその腕はずれていき、見事切り落とされた。
「斬るのは楽しいですねー。また生えるからいいですよね、何度も何度も斬れます」
楽しそうに微笑んでそんな事を言っている。
さらに何度も硬い竜の皮や毛を軽々と切り裂いていく。
「さすが、良い切れ味です。私の無銘の安物とは全然違いますねー」
その痛みに怒ったのか、毒竜が猛毒の液体をアイスに飛ばす。
だが、反撃を予測していたカデュウがあらかじめ適切なポジションを取っていた。
そこに割込み、カデュウは剣圧によって毒液を逸らす。
そのまま、カデュウは次のサポートの為に別の場所に移動を始めた。
「うらー! とにかく殴っちゃえばいいんだよね」
戦槌を振り回すユディが、毒竜をその衝撃で怯ませる。
次はユディが狙われる事は予測していたので、毒竜の攻撃が始まる前に、忍び寄っていたカデュウがその頭部に斬りつけ、注意を引き付ける。
「そろそろみんな離れて、来るよ!」
再び毒竜が、周囲全域に猛毒を撒き散らす。
さらに、その竜毛を勢いよく伸ばし、周囲の石柱などに突き刺さっていた。
「――ル、ルルル、ルルルル」
「鳴き声? ……いや、竜語、……による詠唱?」
これは、水のマナが集まって――。
「まずい、避けて!」
猛毒を吸い上げた水竜巻が毒竜を中心にして、いくつも立ち昇り暴れまわる。
元々サポートに徹していて、やや後方に控え、いち早く気付き退避したカデュウ以外は、至近距離で戦っていたのだ。
気付かぬ者には回避不能であった一瞬の状況。
クロスも、ユディも、アイスも、その水竜巻に飲まれ巻き込まれた。
吐き出された後にそれぞれは宙を舞い、回転しながら地面に叩きつけられる。
――まずは、回復手段を持つクロスからだ。
優先順位を即座に把握したカデュウが、迷わず行動を開始した。
「――【除毒の治癒】」
導聖術の解毒の術。治癒も兼ね備えた高位の術。
カデュウが宿す英雄は、多彩な魔術に加え高位の導聖術も使いこなすようだ。
魔術帝国ミルディアスの終わりである古き混沌の時代には、より魔術が身近だったという影響もあるだろう。
毒竜は、大技の直後だからなのか、動きを止めている。
「……ん、ありがと。ユディは私が。これ麻痺毒なんかも混ざってる、気を付けてね」
「了解、僕はアイスを治すね」
アイスの方に出来る限りの速度で向かうが、毒竜も動き出し、アイスの方へと巨体を走らせていた。
間に合うか……!
アイスの倒れた身体を目掛けて、勢い良く交差する毒竜とカデュウ。
竜の口が開かれその顎がアイスに触れる瞬間――、カデュウが横からさらっていく。
ギリギリの所で、アイスを救い出したカデュウだが、わずかにかすった腕の傷と、そこに入り込む毒がその代償であった。
アイスの治癒をしたいところだが、まずは避難しなくてはならない。
猛烈な勢いで毒竜が追ってくる。
なんでこんなに怒ってるんだ。散々攻撃はしたから当然かもしれないけど。
「待っててね、アイス。すぐ助けるから」
「……あ」
何か喋ろうとしているようだが、猛毒と麻痺で口も動かせないようだ。
――気配を感じ横に飛ぶ。
その瞬間、今まで走っていたコースに毒のブレスが吹き付けられた。
「こわっ! クロス、早くしてぇ!」
「はい、おまたせ。でも残念、ユディちゃんでした」
毒竜とカデュウの間を遮り、治癒が終わったユディが颯爽と現れる。
「よくもやってくれたな、でっかいトカゲめ。これがユディの分、これもユディの分、そしてこれがユディちゃんの分だ!」
「全部、自分の分!?」
変なテンションながらその攻撃の迫力は凄いもので、一撃を当てる度に竜の巨体が大きく揺れる。
「よし、ありがとユディ! アイスの治療にかかるから、引き付けておいて!」
「おっけー任せてまっかまか。倒してしまってもかまわんのだろう?」
「かまうよ! 倒すのが目的じゃないからね!?」
さっきから言動がおかしいけど、まだ正常じゃないのでは……。
不安になりながらも、アイスを横にして導聖術を行使する。
「――【除毒の治癒】」
「すぅぅ……はぁぁ……。やっと息出来ました……、危なかったです」
麻痺毒という事は麻痺する箇所によっては呼吸も止まってしまう。
心臓が止まっていたら、もっと酷い事になっただろう。
「えへへ。ありがとですよ」
「じゃ、僕はユディの援護を、……あれ? ……身体が重」
バランスを崩しカデュウが倒れる。上手く体が動かせない。
「……ああ、そっか。さっき、……毒が少しだけ」
「カデュウ!? ……クロス、クロスは!?」
「もう来てるから大丈夫。アイスは、動けるようになったら、ユディの支援に行ってくれる?」
「よかった、お願いしますよ。……それでは、斬ってきます」
アイスが駆ける。一人で支えるのも限界があるだろう。
クロスによる回復を受ける中、苦しい現状をどう打開するか、カデュウは考えていた。