表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/270

第99話 これなるは、伝説を覆すための物語 2

 魔元帥ベルベ・ボルゼ。

 魔王城の護りを任されし司令官、魔王の忠臣たる毒竜。

 竜毛を持つという、一際変わった竜でもある。


 伝説に曰く、この毒竜を壮絶な死闘の果てに打ち倒したという英雄達。


 極技の魔剣士、“無刃”のランチノイド。

 ドワーフの狂戦士、“戦槌”のガバチョ。

 三術の槍使い、“天槍”のスロート。

 そして、異国の剣士、“人徳”のヤマトゥー。


 魔王討伐戦を見事勝利に導いた、伝説の英雄と呼ばれる生還者と、死者。

 高潔なる英雄ヤマトゥーと相打ちの形となった毒竜は、その怨念によって長き間に渡り、この地に呪いをもたらしたという。

 

 魔王城付近にはほとんど生物が近寄らないのもその名残なのかもしれない。

 森の生物達に刻まれた死の記憶がそうさせるのだろう。


 その伝説の毒竜が、今、蘇った。




「おーし、小手調べだぜェ!! どりゃァァ!!」

「プギェー!?」


 ……と思ったら、ゾンダによる眼にも止まらぬ戦槌の一撃によって伝説の竜は吹き飛ばされた。

 ピクピクしている。もう倒された。

 伝説とはなんだったのか。


「……え? 終わり? ……なんだオイ、クソ弱いぞ?」


 あまりの衝撃の展開に、誰もが呆然としてしまった。


「……ストップ。あなたはちょっと強すぎるわね。交代よ、交代」

「なにぃぃ!?」

「倒すのが目的じゃなくて、怨念を晴らす事が条件だって言ったでしょう。戦いながらそこをうまくやってくれないと試練は達成出来ないのよ」


 どうやら倒せばいいというわけではないらしい。


「大体、その毒竜も再現の為にかなり制限されているの。強くはないし、貴方達には過去の英霊の力が上乗せされてるから、強すぎるとちょっと問題があるのよ」


 その話を聞いて交代する気になったのだろう。

 ゾンダ団長は後ろを向き見物人の列に戻っていった。


「……しゃあねえ、エルバスに譲るか」

「私もドワーフ役なんて嫌ですよ」

「そこの褐色の子でも大丈夫よ、さっきドワーフ役の資格もあったもの」

「え、そうなの?」


 ルチアの視線がユディを差す。

 ドワーフの血が混ざっているからだろうか。

 種族の適合者だけならエルフや人間などは他にもいるから、単純にそれだけが条件ではなさそうなのだが。


「それでは、ユディに譲りましょう。ドワエルですしね、エルフの私などより適任です」

「やるけどさー、その変な種族やめて」


 改めてメンバーがルチアの下に集まった。

 先程のような事態にならないように、より詳細な情報がもたらされる。


「さ、次が本番ね。さっきも言ったけど、あなた達には英雄の力の一端が宿るの。経験不足でも戦い方は英雄達の記憶が教えてくれる。高度な演劇のようなものよ」


「つまり、その劇の中で、史実とは異なる何かを見つけて毒竜の怨念を晴らさなければならないわけですか」


「その通り。さっきみたいにいきなり攻撃して一撃勝利なんて論外ですからね」

「先に言えよぉ、俺だって演技派なんだぞ」


 見物人のゾンダ団長から苦情が出るが、話を聞く前にいきなり殴っていては説明も出来ないだろう。

 演技がどうとかの問題ではなかった。


「なんか、ぐだぐだしてる……。おかげで緊張感はなくなったけど……」

「今のすっとんだ毒竜を見てわかるでしょうけど、実際に戦っている場はここではなくて996年前の魔王城の幻影の中。だから街は壊れないから安心なさい。あなた達がダメージを負う事も無いわね」


「確かに、別の風景が映ってましたね……」


 街が壊れないのはありがたい。せっかく作りだしたばかりだし。


「それより、イスマがなんかすごい術使ってましたよ?」

「……ぶい」

「ぶい、じゃねーよ。説明しねえのかよ」


 呆れ顔のシュバイニーからつっこみが入る。

 口下手なのか面倒臭がりなのか。


「……“死世の救”(クリシュ・ストラ)。救世王クリシュと不死王ダーラの力」


 よくわからないが、つまり異なる大陸で祭り上げられていた、イスマの力であろうか。


「あなた達が“世界の鍵”と呼ぶもの。その中の一端に生命に宿る力がある、それが“鍵言術”(ノグエト・ゼム)。あるいは顕現術とも」


 説明が足りなすぎたのか、ルチアから補足される。

 “世界の鍵”。転移される前に、ハクアが使っていた不可思議な力。


「その子の“鍵”は、灼熱の大地パルシス大陸のモノ。生死に干渉する力、といえばわかりやすいかしら」

「つまり、死霊術(ネクロマディア)みたいなものですか?」

「……だいたいそんなかんじ」

「雑だな、お前」


 もしかして、あの時パネ・ラミデの遺跡に沸いていた大量のアンデッドは、イスマの力が暴走して……?

 生体感知みたいな事をしていたのも、その力の一端だったのかもしれない。


「ところが無くなった死者の肉体は蘇生出来ない。そこで私が“幻想”をもって創りあげるというわけ」

「“幻想”ってなんなんです?」


 根源的な事を尋ねるアイス。

 はっきりとした事はカデュウにもわからない、ふわっとした概念のようにも思える。


「簡単に言えば、精霊とか妖精とか世界を管理するモノ達、想い、記憶、といった世界を構成する要素。幻獣の類もその範疇ね、そこの毒竜のように」

「なるほど、そこに転がってる竜は、ルチアさんとイスマの合作なんですね」

「ええ、その通り。ついでに言うと、新しいお友達、イスマイリが力を使えなかったのは土地の問題、本来パルシス大陸の力なの。しかし完全に途絶えているわけではなく、こちらの土地でも繋がりさえすれば制限はあれど多少は使えるのよ」


 もしかして約束とは、その力を使えるようにする代わりの協力という取引だろうか。

 十全でなければイスマもシュバイニーも困るだろうから、そこに異論はないが。


「……さ、余計な話はこれでおしまい。試練を再開しましょう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ