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第98話 これなるは、伝説を覆すための物語 1

 フェアノール族と協力していく為の条件。

 それは、“星の幻想”による試練を果たす事。

 肝心の時期が不明という話なので取り掛かれずにいたのだが、ついに対処する時がやってきた。


 開拓村の皆が集まって来て、何を行うのか興味津々で見守っていた。

 試練の結果を確認する為に、大森林の各エルフ部族達も見物している。

 村の住人が各自に食べ物を振る舞ったりと、まるで祭りか見世物のような雰囲気だ


「達成条件を伝えます。それは、この地の怨念を晴らす事」


 ルチアの語るその内容は、とても壮大な条件に聞こえる。

 どういう事なのだろうか。


「これから、選抜した者達に、とある相手と戦っていただくわ」


 ここではない何かを見つめながら、ルチアの手がかざされる。

 その動作に魅せられるように、そして何かが起きるのだと、周囲も静まる。


「資格持ちし者よ、呼応しなさい」


 その言葉と共に、地より光が込み上げた。

 ――身体が、光る。

 薄っすらとした光だが、これが資格なのだろうか。


「僕ですか? 責任者だから仕方ないけど……かよわいし、戦いには向いてないですよ」


 戦闘の専門家が大勢いるのに、新人冒険者のカデュウが選ばれてしまった。

 気楽に見物だと考えていたが、本能的にどこかでこうなる可能性も考慮していたのかもしれない。

 意外に動揺は感じなかった。


「あん? 俺も資格あるのか?」


 見物していた傭兵団の中から声が上がる。

 強い光を放ち、ゾンダが前に出た。

 一番の強者なのだからカデュウよりよほど相応しい。


「私もぴかぴかしてますよー」

「私は光ってないぞ、何故だ!」


 ソト師匠は選ばれなかったらしい。

 光っている者は、カデュウ、ゾンダ、アイス、クロス、ユディ、エルバスの6名。


「あら、4人までなのだけれど。意外と多かったわね。……それじゃ役割の適正はみながら決めましょう」

「人数制限があるんですか」


 よし、それならかよわいから大丈夫……。


「それぞれ、ハーフエルフ、ドワーフ、エルフ、そして主役を選びます」


 ……などと思っていた時期がありました。

 まさかの種族縛り?

 ハーフエルフって1人しかいないような……。


「ほぉん? 劇みたいだな?」

「ドワーフ役の適正者が2名いるわね、どちらか1人を選んで」


 ルチアはドワーフ役の候補者、ゾンダとエルバスを目で差した。


「なんだかわからんが、楽しそうだ。俺でいいだろ。な?」

「ええ、団長にお譲りしますよ。エルフの私がドワーフ役っておかしいでしょう」


「で、エルフ役も2名いるけど、お好きな方1人を選出して」


 クロスとユディが睨み合っている。

 2人ともエルフではないはずなのだが。種族ではなく別の条件なのだろうか。


「エルフに相応しいのは、姫である私でしょう?」

「私の方が一応エルフの血引いてるし」

「待ってください。何故エルフの私がエルフ役で選ばれてないのですか!?」


 ドワーフ役候補のエルフさんから苦情があがった。


「ぷっ。エルフの癖にドワーフ役で選ばれる脳筋エルフがいるらしい」

「地味フルト、派手に散りたいのですか」


 瞬時に首根っこを掴まれ、フルトは片手で持ち上げられた。


「すんません、やめてください。命ばかりはお助けを」



「あっちは良いとして、エルフ役はどうするの?」


 エルフ役候補はお互い譲らず、ユディはルチアに判断を委ねた。

 エルフのイメージ良いからなぁ……。人気だなぁ。

 ハーフエルフ役で良ければ譲るんだけどなぁ。


「どちらかというと術が使えた方がいい気がするわね、役割的に」

「それじゃあ、私になりますね。魔術はあまり得意ではないけれど」


 ユディに見せつけるような自慢げな表情でクロスが前に出た。


「ぶーぶー。エルフなのにー」

「お前はドワーフの血も人間の血も混ざってるけどな」


 父親のゾンダ団長から、予想外の話が飛び出す。

 エルフとドワーフと人間の血が混ざっているとは、滅茶苦茶珍しいのでは。


「そうなんですか? その場合、種族的になんて呼ぶんでしょうね?」

「略してハーフエルフでいこうよ」


 ドワーフの血は無きものとされた。

 酷い差別だ。


「俺がドワーフとエルフの子で、お前のカーちゃんは人間だから、……ハーフドワエルじゃねえか?」


 ドワエルとかいう新種族が生まれた。

 いや、以前から居たのかもしれないけれど。

 しかしドワーフとエルフの親を持つ人、というのは他に知らない。


「ドワエルって響きはちょっとださい」



 いつのまにやら、夕暮れが訪れていた。

 赤みがかった黄金色の空模様。


 空が黄昏の光を放つ頃。

 光と闇が入れ替わる境目。

 古なる神話の時代に災厄と魔物の神バスコが躍動したとされる黄金の時。

 ――遥かなるはじまりの民が曰く、逢魔が時。


「さ、それじゃ試練の参加者は集まって」


 前に出る。参加者、カデュウらがルチアの前に揃い立った。


「約束通り、お手伝いをお願いね。新しいお友達、イスマイリ」

「……しかたない」


 イスマに向かってルチアが語り掛ける。

 約束? イスマと知り合いなのだろうか?

 あるいは、最近知り合った?


 そのような思考の間に、儀式が始まった。


「これより行うは、歴史の再現。怨念の解消。伝説への挑戦」


 周囲から、ルチアの周りから、仄かな輝きが生まれる。

 幻想的な輝き。


「《星は謳い、幻想が満ちる。魔と精霊が躍る、その刻》」


 魔術陣のような何かが、高速に1本1本広がっていく。

 陣は高さを変え角度を変え大きさを変え幾重にも重なる、何重にも何重にも。

 儚い光を放つ、魔術ならざる輝きの線。淡い淡い、この世ならざる不思議な光。


「《地に眠りしモノ、魔を宿せしモノ、積もり積もりし幻想よ》」

「《……無は灰に、灰は灰に、灰は死に》」


 そこに別の詠唱が重ねられる、イスマによる術だ。

 黒き輝きと明るく力強い光、生死を象徴するような一際変わった魔術陣。


「《遥かなる時を超え、ここに星の記憶を呼び起こす》」

「《……死はすなわち生の証、生はすなわち死への旅路》」


「《輝き。光。幻想。灰は蘇る、その色を取り戻して》」


 幻想と生死の光が混ざり合うい、複雑に多重に。

 そして、力ある言葉が発せられた。


「――【不死王の選抜者オイ・メロポロイ・アタナトイ】」

「……死の大地より救いあれ、生を求める古きモノ」


「――【星と厄災の物語テラーステラ・ストーリー】」

「おとぎ話の毒竜、魔元帥ベルベ・ボルゼよ。幻想を糧に呪縛を断ち切るが良い」


 ゆっくりと、しかし着実に仄かな輝きと共に、大きな姿が形作られる。

 それは巨大な幻獣。竜。

 世にも珍しい竜毛に覆われた伝説の毒竜。


「さあ、伝説は再臨した。見事、かの竜の怨念を晴らして見せなさい、英雄達」


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