『怪物の解剖学』を読み解く 種村季弘 著 あるいは独身者の究極のパラダイスとは? 大増補改訂版2019.6.22
☆序説 種村季弘という おのこ(男)
種村季弘 (たねむら・すえひろ)とは異端とかアウトサイダーに関するマニアックな?広範な知識で知られている学者(ドイツ文学者)である。既に故人である。
1933年(昭和8年)3月21日 - 2004年(平成16年)8月29日)
まあ、それ以外にも江戸文化とか食文化にも精通していてその方面の著作も面白いのだが
ここでは取り上げないこととする。
日本の幻想文学(泉鏡花とか、、、)にも精通している、が、、、それもここでは取り上げない。
じゃあ何を取り上げるのか?
というと
「奇人 変人 詐欺師 贋物 錬金術 魔術、神秘学、吸血鬼や怪物、オートマタ、人形、、歴史上のいかがわしくも魅力的な事象に取りつかれた男」
、、としての種村季弘である。
それって?今でいえば、、「桐生操」、、、みたいなものですか?
まあ。ちょっと違うけど、、似てるよね?
私見では桐生操の著作は、、深い洞察力?に欠けるけどね?
ただ、、面白く?ミーハー的に?、、異端歴史・残酷歴史を開陳してるだけ、、です。
つまり、、、浅薄なのです。
ところが、種村季弘の方は、、異見?卓見?だらけですよ。
哲学的というのか
思想的というのか
深い、、、ということでしょうね
そういう彼を代表する作品(著作)としてあくまでも私が独断で選ぶとこうなる↓
怪物の解剖学
ビンゲンのヒルデガルトの世界 幻視者ヒルデガルトの世界
贋作者列伝
謎のカスパール・ハウザー 野生児発見??
山師カリオストロの大冒険 17世紀欧州を悪知恵で渡り歩いた男
パラケルススの世界 奇跡の医者。マギスター
吸血鬼幻想
薔薇十字の魔法
上記のこのすべてについて語ってもよいのだろうが
それも、、はっきりいて煩雑すぎて煩わしいので?
この中のさらに代表作?ということで
一冊だけ取り上げたい。
それが「怪物の解剖学」である。
1974年初版、、ということは相当古い本である。
内容的にはすごい網羅的でブンダーカマーここにあり、、
って感じでトリビアな異人や異世界の該博な知識と蘊蓄とトリビアとに充ちている、
いささか、、衒学趣味でもある。
トリビアや博識をひけらかす?という風にもとられかねないのである。
それが少々嫌味?、、、でもあるが、、、
が、、、
さっきも言ったように彼なりの深い洞察・異見・卓見にも充ちている。
だがいわゆる神秘学系のそういう知識としてはやや古めかしい?という印象も
今となっては
免れないだろう。、何しろ50年前の本である。
今はこの手の、奇人 変人 詐欺師 贋物 錬金術 魔術、神秘学、吸血鬼や怪物、オートマタ、人形、、などについても相当分野別の深い研究本もある御時世である。
当時としては画期的でまだ日本人がそういう世界に無知だったころ、
たとえば当時の私がはじめてこの本を読んだとき
もう驚天動地、、というか
その目くるめく世界に痺れてしまった、、という感動は今の人が読んだら?もうないのかもしれない。
1974年、、こういう、、奇人 変人 詐欺師 贋物 錬金術 魔術、神秘学、吸血鬼や怪物、オートマタ、人形、、などという世界に全く無知だった私がこの本を読んだときの驚きは筆舌に尽くしがたいものでした。
当時こういう書物は類書がなかったからです、
無かったと言い切ると語弊があるでしょうね。
というのはこの手の偉大な先達として既に
澁澤龍彦が、、令名を馳せていたからです。
今回ここでは彼については述べる余裕がないので述べませんが、、。
さて種村ワールドは
その後私がこういう異世界に取りつかれて独学で研究し始めた契機ともなった本であり
その内容はなんでもありという感じですごい広範にわたっているのだが
まあ今となっては、
個々の事象、、の細かい。深い追及はない、、というまあ行ってみれば百科事典のような概略の
大まかな?解説だけというものです。
ということは逆に、神秘系の百科事典??という位置づけにもなるのでしょうか?
あるいは神秘系への入門書的な役割、、
イニシエーションともいえるのでしょう。
まあ
さて
前置きはこのくらいにして。。
☆本論 怪物の解剖学を読み解く
その前に、、、まず皆さまにご注意申し上げておきたいことがある。
この本ですが、初学者向けの入門書などではありません。
ある程度の、、というか相当の予備知識がないと全く意味不明。理解不能の本だということです。
というのも、、、、
この本、非常に衒学的で?誰も知らないような?レアな話題に充ちているからです。
そして内容は種村氏のトリビアな博識満載ですから。かなりの予備知識が無ければ読むのが困難です。
というか読めません。
そういうわけで、、、もし皆様がわかりやすい?楽しい?くだけた?そういうような
単なる歴史小説・伝記本だろうくらいで読み始めると、すぐ挫折します。
この本はまさに、、タネムラ・ワールド全開本ですから、要注意です。
そういう意味ではお気軽に?歴史ネタ?として、奇人 変人 詐欺師 贋物 錬金術 魔術、
神秘学、吸血鬼や怪物、オートマタ、人形、、などという異世界を、
楽しみたいだけならば、桐生操のその手の本のほうが良いでしょうね。
まずは、、この本の紹介文を書評誌から引用してみよう。
【ヨーロッパ文化史に登場するゴーレムからロボット、自動人形に至る人工生命の数々―その系譜を発掘し、神話の時代から近代へと至る変遷をエピソード豊かに描き出しながら、創造者の条件と創造行為の深層を考察!!また近代の闇に沈潜し胎動する“独身者の機械”のかずかずに光をあてつつ、これら怪物たちが甦る来たるべき祝祭空間に思いをはせる刺激にみちたエッセイ集。」
そして、、、、、、目次は以下のとおりである
目次
ゴーレムの秘密
怪物の作り方
魔術師シモン
壜のなかの精霊
少女人形フランシーヌ
始原児の再生
自動人形庭園
マンドラゴラの旅
機械人間の系譜
ピュグマリオンの恋
ドッペルゲンゲルの彷徨
鉱物の花嫁
で、、、、、ここからは私の各目次の梗概解説となります。
わたしの私見(読み解き)もいささか述べてみます。
☆ゴーレムの秘密
グスタフマイリンクのゴーレムから初めてゴーレム伝説の敷衍的知識
ゴーレムといえば、、あの無声映画の傑作が思い出されますよね?
泥から作られて命を吹き込まれた怪物はのちの人造人間の鼻祖なのかもしれない?
☆怪物の作り方
フランケンシュタイン。プロメテウス。タロス。ダイダロス。
人はなぜ怪物を作り出してしまうのだろうか?
フランケンシュタイン博士にしても、そもそもは人造人間を作りたかったはずだった。
今でいえば試験管ベビー、クローン人間、それが現実化しつつある現代、
はたして人類は予想に反して再び危険な怪物を作り出そうとしているのだろうか?
☆魔術師シモン
シモン・マグスについてのトリビアな知識と蘊蓄
この人はいわゆるマギスターの元祖といわれる人です。
が、、末路は悲惨です。
いつだって、魔術師の最後は残酷な死なのです。
☆壜のなかの精霊
ホムンクルスについての考察
ホムンクルスとはパラケルススによると、、
試験管に精液とその他の秘密のものを入れて培養すると
小さな人間が誕生するという、、まあ今でいえば試験管ベビーです。
死刑台のこびと
その昔、絞首刑台が町はずれにあった欧州の町
そのぶら下がった死刑囚の垂らした精液が地面に落ちるとそこからこびとが誕生したと言う伝説。
☆少女人形フランシーヌ
デカルトの私生児、フランシーヌの秘密
デカルトという人はモットーが「隠れて生きよ」だったから
その人生は謎の部分が多いのです。
デカルトにはフランシーヌという娘(私生児)がいて5歳くらいまで生きたらしい?
だが?
永遠の独身者であるデカルト、、、、
それが実は本当はデカルトが作った「オートマタ」だったらしいのだ。
☆始原児の再生
ファウストのホムンクルス
ゲーテという人はすごい該博な知識と洞察力に充ちた人で、
私もいつか「ゲーテ全集」を完読したいと思ってるわけだが、
当然ホムンクルスにも関心があって研究?したようだ。
☆自動人形庭園
キルヒャー
ボーカンソンのアヒル(オートマタ)
このアヒルは、餌を与えると咀嚼して脱糞までしたという
驚異のオートマタだったという
ゲーテも見に行ったらしい。
こういう自動人形で遊園地?を作ったらそれはまさに生命無き機械人間の楽園になっただろうね
☆マンドラゴラの旅
アルニムの「エジプトのイザベラ」
ポルフィロの夢
マンドラゴラとは根っ子が人間型していてまあ生きてるというものです
そういえば、、ハリポタにも出てましたよね。あれです。
こいつを引っこ抜いて生育するとまあ何でもかなうというかそういうものです。
エジプトのイザベラではベラ(主人公)が引っこ抜いて願望達成につかいます。
「ポルフィロの夢」というのはいわゆる「錬金術文書」でして
日本で初めて、澁澤龍彦がその著書で詳しく解説しています。
なお最近新訳が出ています。↓
「ヒュプネロートマキア・ポリフィリ─全訳・ポリフィルス狂恋夢」
☆機械人間の系譜
ホフマン「四大の聖霊」
「ガバリス伯爵」
少女崇拝者たち
こういう機械人間願望というのは例えばアニメの世界などで連綿と継承されているんですね
「銀河鉄道999」でも鉄郎は機械の体を求めて旅立つわけですから。
☆ピュグマリオンの恋
オウイディウスの「転身物語」
「ゴーゴリの妻」
人形花嫁の復讐
ゴーゴリはロシアの作家です。怪奇小説を多く残しています。
「ヴィイ」「肖像画」などがそうですね。
ところでかれには奇妙なうわさが付いて回った。というのは彼は生涯独身で女っけは皆無。
だが彼には実は妻がいたというのです。
それは、、デカルトのフランシーヌ人形のような自動人形の妻だったというのです。?
☆ドッペルゲンゲルの彷徨
ティークの「案山子」
ジャンパウル
ホフマン
ドッペルゲンゲル(自分の同体)を見るとその人は死期が近いといわれる。
芥川龍之介も見たという、
ティークの「案山子」も実は誰かのドッペルゲンゲルだったのだろうか?
☆鉱物の花嫁
冬物語 (シェークスピア)
人間から超人間へ
ファルンの鉱山 ホフマン
鉱物のパラダイス
鉱物に囲まれた楽園幻想としてのパラダイスは実は肉身の死ということと同義である。
人は無機化することでしか(つまりは死)そのパラダイスには参加できないのだから。
オートマタの花嫁を抱くにはあなたもまたオートマタと化さなければならないのだから
鉱物の花嫁を抱くにはあなたもまた鉱物化(石化)しなければならないのだから、、、。
さてそれでは独身者の究極の楽園とは何だろうか?
それは。。。
自動人形の機械動物や鉱物(宝石)の花花に囲まれて、
オートマタの恋人と恋いを語らい
自動人形の花嫁を迎えて、、、、、
フランシーヌのような自動人形のかわいい娘を誕生させて
それらに取り囲まれて、、
究極はあなた自身も「機械化」して生命無き無機質の
そうです
「鉱物質の楽園」を創造することなのでしょう。
これがある意味の
究極のパラダイス・楽園なのです。
人はだれでも、、こういう
「鉱物質パラダイス幻想」
「水晶宮楽園幻想」
「自動機械の楽園幻想」を心の奥底に秘めているのです。
それが証拠には
あの
巨大なテーマパークって
よくよく眺めてみれば
「究極の無機質・鉱物質のパラダイス」
、、でしょう?
唯一違うのは
まだあなた自身が肉質のままで
まだ
鉱物化しえていない
無機質化しえていない
という一点だけです。
そうです
あなたが無機質な鉱物(機械・メカ)と化してしまえば、、
この究極の楽園はまさに究極の『祝祭空間』となって完成(完結)するのです。
さあ
あなたにはその準備、、無機質化 鉱物化、、、の準備ができていますか?
もうすぐ究極のパラダイスの完成ですよ
あなたも機械の体になるのです。
さあ
決断してください
さあ
究極の「鉱物質の楽園」を完成させるのです。
付録
彼の世界を知るのには以下の全集が良いだろう
種村季弘のラビリントス 全10巻 青土社 1979
怪物のユートピア
影法師の誘惑
吸血鬼幻想
薔薇十字の魔法
失楽園測量地図
怪物の解剖学
アナクロニズム
悪魔禮拝
壷中天奇聞
パラケルススの世界