一刻の丘を越えて
見知らぬ世界に転生した一郎(猫)偶然見つけた小屋にて少女と老人と出会う。
一緒に住むことになった一郎の新たな生活が始まるのであった…。
一郎がミーアとお爺さんと一緒に暮らす様になり、3日が過ぎた。
お爺さんの事は「じーさん」と呼ぶことにした(ダーさんは恥ずかしい)。
昼間はミーアと外で遊び、夜はじーさんにこの世界の事を教わってた。
じーさんは普段木彫りで民芸品を作っており、作品がある程度溜まったら街へ出かけてお金に換えてくる。
たまに旅人が小屋を訪ねた時にも売買や物々交換、宿泊等で生計を立てている様だ。
「猫って缶詰かキャットフードしか食わないと思ってたけど、食おうと思えば何でも食えるんだな」
一郎は朝食に出たサラダを齧りながら不思議な気分になる。
「街には猫がいっぱい居るみたいだよ。お魚さんとか食べるんだって!」
ミーアがサラダを頬張りながら話す。
「野生の肉食動物は生肉を食べるからね。一郎も機会があればどうだい?」
じーさんが意地悪そうに尋ねた。
「出来れば遠慮したいな…」
ミーアとじーさんがクスクスと笑う。
「さて、それじゃあ私は少し出かけるよ。そうだ、一郎も来るかい?」
「…どこに行くんだいじーさん?」
「ここらの丘は一刻の丘と呼ばれている。旅人が一刻休憩するのに丁度良いとの事から来た名前だ。
一刻の丘は森、山、街へ続く道に分岐していて、今から山へ色々調達しに行こうというわけだ!」
じーさんの服装、装備からしてそこそこ大変そうな気がした一郎であったが、二つ返事で着いて行くことにした。
「(疲れたらじーさんのリュックの中で休もうっと…)」
新緑の草原を上り、しばらく歩くと土の感触が変わり、赤みのある粘土質な荒野を思わせる地面に変わってきた。
「山はもう少しだ。この辺りの土は焼き物をするのに丁度良い売ればお金にもなるぞ。しかし、ここから街へ運ぶのは大変でなぁ…」
一郎は猫の手で粘土をこねている自分を想像してみるが、まともな物が出来る気がしなかった。
木の密度が増えていき、周りの景色が木々で溢れてきた。
「さあ、ここが山の入り口だ。所々足場が悪いから、気を付けてな」
山に着くまでに少々疲れた一郎。じーさんのリュックに登ろうかと思ったが、自分の足が土で汚れているのに気づき、仕方なく歩くことにした。
山の中は様々な植物が自生しており、じーさんが色々と教えてくれる。
「この黄色い花は根っこまで全部食べられるぞい。花と茎は和え物、根は煎じてお茶と一緒に飲めば風邪に効く」
「こっちのツルは丈夫で中々使い勝手が良い。葉の裏にトゲを持った虫が巣を作るから気を付けてな」
「この木はツェンサと言って、今は裸だが、暖かくなると綺麗な花が咲いて、涼しくなると木の実がなる。割って食べれば美味しいぞ」
一郎はじーさんの説明に相槌を打ちながら、黄色い花を少し齧ってみた。
「うっ、苦い…」
「はっはっはっ!そのままじゃあ苦かろう!!いくつか採ったから帰ったら料理してやろう」
じーさんが植物、枝、材木等をリュックに入れる。手当り次第入れるもんだから、リュックの形がデコボコになっている。
「(こりゃあ、帰りも歩かないとな…)」
「じーさん、お昼はどうするんだい?」
小腹が空いた一郎が尋ねた。
「む?お腹が空いたかい?本当なら昼食にしたいのだが、匂いで野生動物に襲われないように食べ物は何も持ってきてないんだよ。もう少しで果物の木があるからそこれで我慢しておくれ」
「え?それは先に行って欲しかったなぁ…」
「んん、ごめんよ。でも先に行ったら一郎はきっと来なかったじゃろ?」
「……確かに」
山はそれほど高くは無く、道も程々に歩きやすかった。頂上付近に大きな木が1本あり、辺りは美味しそうな匂いが漂っていた。
「ん?じーさん良い匂いだね。もしかしてこれかい?」
じーさんが木になっていた果実を1つ取り一郎に差し出した。
「アクタビの実じゃ。皮ごと食べられるから、そのまま食べるといい」
黄色と黄緑が入り交じった蜜柑サイズの果実は、齧るとほのかに甘くみずみずしい果肉はフレッシュ感満載であった。
「なかなかウマい。梨とリンゴの中間って感じの食感かな?」
じーさんも丸ごと齧りつく。滴る果汁を袖で拭い、口いっぱい頬張る。
「どれ、そろそろ帰ろうか?」
じーさんがよいっしょ!と重い腰を上げる。
「まだ頂上じゃないけど、もう帰るのかい?」
「この辺りは暗くなるのが早い。早めに降りねば何も見えなくなる」
「そうか。じゃあ帰ろう」
少し残念そうな顔の一郎。道すがら気になった事をじーさんに尋ねる。
「じーさん。この山の頂上には何があるんだい?」
「何も無いさ」
じーさんがあっさりと答える。
「じゃあ、山の向こうには何があるんだい?」
「森と山がずーっと続いている。わしのお祖父さんから聞いた話では、山の奥の奥の奥辺りまで行くと海に出るそうだ。本当かどうかは知らん」
じーさんがどこか遠い目で頂上を見つめる。
「ま、どうせ行けそうにないけどね」
帰りは下るだけなので行きより早く、難なく帰れた。
家に着くとミーアが出迎えてくれた。
「おかえり〜」
「ただいまミーア。今日は何してたんだい?」
「へっへーん!お勉強してたの!」
と、ミーアは机に置いてあった紙をえっへん!といった感じに一郎に見せた。
「足し算かな?引き算かな?…どれどれ……」
① 12×7=
② 14×5=
「(…一瞬答えがパッと出てこなかったが、これくらいなら俺でも余裕だな)」
「どーお?凄いでしょ!一郎にも教えてあげようか?」
ミーアのドヤ顔が止まらない。
「お、おぉ。今度教わろうかな…」
ミーアの気迫に押されてしまう一郎。
「二人とも、ご飯にするから手伝っておくれ」
じーさんがキッチンから声をかける。
「はーい!」
一郎はミーアに抱えられ、キッチンへ行くのであった。




