猫転生
ニートのまま突然の死を迎えた一郎。目が覚めると見知らぬ場所におり、自分の身体の異変に気付くが…。
真っ暗な闇の中、遠くに蝋燭の灯りが1つ…。
遠くから灯りが1つ、また1つ。沢山の灯りが集まって、周囲が次第に明るくなる。
蝋燭の灯りで闇より光が大きくなり、次第に全てを照らしてゆく。しかし、足元に微かな影。今にも消えそうな微かな命の灯2つ。
「交換しようか?」
「ぼくも次は人間になってみたかったんだ……」
優しい声がする。とても、とても温かい声だ。
微睡む様に世界が歪み、また闇へと戻っていく。
…
……
………ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
「はっ!」
突然の目覚めに勢い良く起き上がろうとするが、上手く起きれない。
次に驚いたのは己の身体の変化だった。
全身毛むくじゃら!手足の肉球!長い尻尾!
何が起きたか分からずパニックになるが、辺りを見回すとどうやら森の様だ。すぐそばにきれいな水溜りがあった。
水溜りを恐る恐る覗くと、そこには小さな三毛猫の姿があった。
「完全に猫だ……。俺、火事で意識を失って、そこから何がどうなったらこうなるんだ!?」
猫と化した一郎は、自分の置かれた状況に理解が追い付いていなかった。
「と、とととりあえず、一旦落ち着こう。この水でも飲んで頭を整理しよう」
一郎は水溜りに猫舌を伸ばすが、水が上手く飲めなかった。家で飼っていたミケが飲んでいた様にペロペロ水を掬ってみるが、一向に口の中に水が入らない。
「くそぉ、水すら飲めないのかよ〜。普段ミケはどうやって飲んでたんだ?」
今度は口先を水に近づけ、飲んでみる。
「ズズ…ブフォ!ガハッ…!ゴフェ!!エッホォ!ゴホッゴホッ!。ちくしょう…ゴオッ!モロに鼻に入った…オエェ…」
仕方がないので、口を大きく開き、下顎を水に入れ口の中に入れることにした。
「何とか水は飲めたが、今度ベロで飲む練習しないとな。それにしても、4足歩行も尻尾動かすのも違和感ない。ちょっと話し辛いけど、言葉も喋れる。黙ってれば唯の猫と変わりないが、どうしたものか…」
一郎が下顎で水を掬っていると、近くからクスクスと誰かが笑う声がした。
「誰だ!誰かそこにいるのか!?」
突然の人の気配に思わず声が大きくなる一郎。
「ああ、ごめん。ごめん。驚かせるつもりは無かったんだ。 ただ、水を飲む君の姿があまりにも面白過ぎてさ。ついつい見入ってしまったよ」
と、すぐそばの茂みから金髪のイケメン風男子が顔を出した。
元来イケメンに縁の無い一郎は、いわゆる美男子とやらに嫌悪感を抱いていた。少しイラッときたが、逆にそれが一郎を冷静にさせた。
「見入って…ってどこから見てたんだ?」
「ん〜、最初からさ。アホ面かまして水を飲む姿は滑稽そのものだったよ。はっはっは」
更にイラッとした一郎。
「そうかい、そうかい。…で、君は何故顔だけ出しているんだ?」
思い出し笑いが一通り落ち着き、冷静になった金髪イケメン。
「そちらに行きたいのは山々なんだが、ちょっと今問題があってだね。その〜、なんだ。あまり身体を見られたくないんだよね」
「よく分からんが、こちらは俺ひとrいやいや、猫1匹だ。見られて困る事もあるまい。聞きたいこともあるから、ひとまずこっちへ来てくれないか?」
しばらく困った顔をしながら、半ば諦めたかの様にイケメンが切り出す。
「分かったよ。その代わり絶対笑わないでくれよ?」
とイケメンが茂みの中から足を出す。
素足、生足、ピンクのレースのパンツ。上半身裸……。
「デゥヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッーー!」
イケメンの不自然な恰好に思わず吹き出し大笑いしてしまう一郎。あまりの可笑しさに息が出来ず悶えてしまう。
「ハハハハハ、お前女性物の下着しか身に着けてないってどうゆう事だよwww。変態か!?変態なのか!?あー可笑しいwwwww」
顎が外れそうになるほど笑い、腹筋は崩壊寸前。
「だから嫌だったんだよ…。」
しばらく笑い続けた一郎であったが、ようやくイケメンの恰好にも慣れ落ち着きを取り戻していた。
「ようやく落ち着いたかい?それじゃあ説明するよ?一度しか言えないからよく聞いてね」
急な説明口調に一郎は戸惑った。
「え?説明って?」
「まず、君は確かに火事で死んだ。そして今度は猫に生まれかわったんだ。安心して新しい人生を謳歌して貰って構わない」
突然の事に一瞬何の事だか分からず呆けてしまう一郎。
火事? 猫に転生? 新しい人生? 急に何を言い出すんだ?
そもそも「何故火事の事を知っているのか?」という疑問に気付いた一郎はイケメンの説明を遮る様に問い質す。
「お、お前は何者だっ!」
イケメンはいつも通りの様な言い方で答える。
「すまないが、その質問に深く答える事は出来ない。ただ、君の様な転生者を案内する者。とだけ答えておこうか。君の前世での行いについては知らないが、どうやって死んだとか次に何に転生したい、とかを感じて案内するのが僕の仕事なんだ。そこそこ給金も良い」
もはや己の理解を超えた出来事に一郎の頭は真っ白になってしまった。
茫然とする一郎をよそ眼に、イケメンは説明を続ける。
「あまり深く考える必要はない。君は猫だ。人間のルールに縛られる事無く好きに生きればいい。それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
イケメンの姿が霧が晴れるかの如く辺りへ消えてしまう。一郎は茫然としたまま何もすることが出来ずにに消えゆくイケメンを眺める事で精いっぱいだった。
しばらくして一郎は思った。
「どうしてパンツ1枚だったんだろう?」
森の隙間に入り込む日差しがただただ暖かった。




