王国
1人小屋でくつろぐ一郎。
この日はあいにくの雨模様。1日中ゴロゴロしていた。
じーさんがソファに座り一息つく。
「良かったのか?一緒に行かなくて」
じーさんがお茶をすすりながら一郎を見る。
「本当は心配だけどさ、またペット禁止だと困るし……」
一郎はじーさんの方を見ることなく丸くなったまま返事をした。
「ミーアが王国へ行って随分経ったなぁ……」
じーさんが天井を見てポツリと呟いた。
ミーアは1人馬車に乗り、王国の街並みを堪能していた。
アッポさんから貰った手紙と地図を頼りに目的の場所を探す。
アッポさんの紹介でとある場所で住み込みで勉強を教えてもらう事になっていた。
「……多分ここかな?
すみません、止めて下さい」
馬車を降り、軽く埃を払うと古ぼけた教会へ入っていった。
見た目は小さな教会だが中は思ったより広く、年期の入った長椅子が立ち並ぶ礼拝堂には色鮮やかなステンドグラスが目に付いた。
壁際には本棚が多数あり、ミーアには表紙から何の本かすら見当もつかない程難しそうであった。
礼拝堂の一番奥にはボロボロのピアノと大きな像が1つあった。
ミーアは恐る恐るピアノの鍵盤蓋に触れてみる。
見た目はボロボロだが、綺麗に手入れがされており、使い手の愛着が覗えた。
「こんにちは」
ミーアの後方から女性の声がした。
ミーアは驚き、慌てて振り返る……。
「ご、ごめんなさい」
戸惑いながら頭を下げるミーア。
「はじめまして……でいいのかな?
私はアッサリーム。ここの管理人よ」
若く、赤いワンピースが良く似合うその女性は
爽やかな笑顔でミーアを迎え入れた。
「私はミーアと言います。
アッポさんからの紹介でここへ来ました」
ミーアはアッポさんからの手紙をアッサリームへ手渡した。
「……どれどれ」
手紙に目を通すアッサリーム。
「アッポさんから手紙を貰って話は聞いていたわ。
全寮制の学校が定員で行けなかったのは残念ね」
コツ、コツ、とアッサリームの靴音が教会内に優しく響く。
「ここは、学校へ行けない子ども達の為に
私や他の大人たちが代わりに勉強を教えているの。
内容だって、決して学校に劣らないわ!」
両手を腰に当てエッヘンとポーズを決めるアッサリーム。
「あなたの家は、今日からこの教会よ。
好きに使ってね♪
まずは部屋に案内するわ。着いてきて」
アッサリームは礼拝堂の袖口から通路へと案内する。
ミーアは戸惑いながらも後に続いた。
「そうそう、私の事はアリサ。
もしくはアリサ姉ちゃん。と呼んでね。
みんなからはそう呼ばれてるわ」
「アリサ……お姉ちゃん」
1人っ子のミーアには『お姉ちゃん』と呼ぶのが
少し恥ずかしかった。
それと同時に何だか少し嬉しい様な気もした。
「ここがあなたの部屋よ」
ギギギィ……と重苦しい錆び付いた音で扉は開いた。
中は四畳半程の空間で、窓が1つ。そして物は何1つ無かった。
「…………」
埃っぽい。と思わず言いそうになったが、部屋があるだけありがたい。
と思い、ミーアは口を閉ざした。
部屋に荷物を置き――と言っても着替えくらいしか無いけど――
礼拝堂へ戻るミーア。
「アリス……お姉ちゃん」
はにかみながらアッサリームを呼ぶミーア。
呼ばれた本人はニヤニヤしていた。
「いい! 妹が出来たみたい!!」
何やらご満悦の様だ。
「今日は誰も来る予定無いし、このまま王国を探索しに行こうか?」
その言葉に胸が高まるミーア。
2人並んで歩く姿は、まるで本当の姉妹の様に見えた……。




