ニート死す
ドンドンドン!!
「ババァ!早く餅持って来い!!!」
ドンドンドン!!
元旦早々に壁を叩く音と怒号が響く。この部屋の主の声だ。名を一郎という。
彼は大学受験に失敗し、その後定職に就く事も無く、実家で部屋にこもりきり。すっかりベテランニートになってしまった。
「いち君。あけましておめでとう。お雑煮、ここに置いておくね」
雑煮の載った小さなお盆を床に置くと、母親は真ん丸に肥えた身体に似つかわしくない小さな足音で階段を下りてゆく。
鍵の掛かった扉の下には、小さなお盆が通れる位の両開きの扉が付いており、そこからお盆を取り出すと一郎はゲームをしながら無言で雑煮を食べ始めた。
彼の膝の上には小さな猫が1匹座っていた。一郎は猫を「ミケ」を呼び、とても可愛がっていた。
「ババァの雑煮は相変わらずうめぇなあ。なぁミケ?」
頭を撫でられたミケは喉をゴロゴロと鳴らし、一郎の手に頭をスリスリと擦り付ける。ふと一郎の顔を見上げると、彼の眼には涙が溢れていた。
「バ、…母さん。ごめんよ。雑煮食ったら子どもの頃を思い出しちまった。」
一郎はミケを抱えて立ち上がり、扉の鍵を12日ぶりに開けた。
が、その刹那コゲ付くような異臭に気付く。廊下を進み、階段へ差し掛かると1階には煙と炎がたちこめており、一郎は一瞬にして家が火事であることに気付いた!
袖で口を塞ぎ、左腕でミケを抱えながら階段を急ぎ足で降りる一郎。居間の机には小さなおせち料理。煙で殆ど見えないが、付けっ放しのテレビ。
「母さん!母さん!どこだ!!返事しろ!!」
辺りを注意深く見回すが、母親らしき姿は見当たらない。居間の奥のキッチンからは、より一層激しい炎とけたたましい黒煙が上がっていた。
恐怖の慄き暴れるミケを強く抱きしめ、一郎はキッチンへと進む。
そこには、うつ伏せに倒れこむ母親がいた。慌てて駆け寄り揺さぶるが、ぴくりとも動かない。その横ではガスコンロにかかった鍋から轟々と爆炎が上がっていた。
「非力な俺じゃ母さんを運ぶ間に全員焼けちまう!先に火を消さないと…」
自分の着ている服を洗面所の水で濡らしミケを包むと、水を出し手当り次第に壁や床に水をかけていく一郎。そしてコンロの火元に向かってバケツで水をかけた瞬間、炎は爆発し一郎を包んだ。
その場で倒れこむ一郎。その隣にはすでに息絶えたであろう母親の姿がかろうじて見えた。
「母さんごめん…。最後まで役立たずだった…よ。ミケもごめんね。先に外に出してあげれば良かった。」
薄れゆく意識の中、彼の心には人生に対する後悔の念しか残らなかった。
「今度……生まれ変わった…ら、、、猫がいい…なぁぁ……」
一郎 29歳 死亡




