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就任前夜

「単刀直入に言うが、大臣やってくれないか?」


「お断りします。」


応接間には、二人の男、男と言ってもお互い老齢だが、が相対して座っている。人払いをしているので、二人だけのいわゆる密会となる。


「えっ!?そこは有り難く拝命しますじゃないの?しかも、即答で断るなよ!」


「いやいや、だって私、今年で73歳ですよ。この前の選挙だって辞退したかったの覚えてますよね?」


この国は、大戦前は王政であったが、今は議会制民主主義をとっている。宰相府と官僚、そして、議会である。議会は大院と小院で構成され、大臣は宰相が大院から選ぶことになっているが、例外も何度かはあった。


「で、辺境方面担当大臣だからさ。よろしく頼むよ。」


「いやいやいや、あれならむしろ誰でもいいじゃないですか?もっと若い人起用しましょうよ?ってか、なんで完全にスルーしたんですか?」


もっと老齢な議員で大臣や宰相になった方もいるが、老害だとは思わないにしても、もっと若くて体力や野心を滾らせた者にやらせて見た方がよいと思っている。しかも、辺境方面担当大臣は宰相府に所轄部署があるにはあるが、特命大臣なので世間からは、名誉職大臣だの、若手の登竜門だの言われている。


「ん?記憶にないねぇ〜。」


(くそ、狸オヤジめ!って俺は狸爺か!)


「ん?どちらかと言えば狐って言われるぞ。君は確かに狸爺だな。」


(心読むの止めてくれませんかね。)


「まぁさ、宰相殿の支持率悪化してるじゃない。だからさ、無難な君を私としては推挙したい訳よ。」


「もう今期限りでお勤め辞めて、孫におじーちゃまーって言われながらの余生を送りたいのに、新聞屋に揚げ足取りされて、オメェの爺さんダメ大臣なんだよな、って孫が虐められたら誰が責任とるんですか?」


今の宰相は好景気を背景にそこそこの人気があったのだが、宰相の奥方の不祥事に始まり、当の宰相にもスキャンダルが発覚し、さらには彼が任命した大臣たちも大なり小なりの問題をやらかし、支持率は急降下。多少の目くらましのための大臣刷新な訳だが、本質的な解決は何もしていない訳で、次に何かやらかすと今度は宰相の進退問題につながりかねない。







「おー、そんだけ気迫あるならやってけそうだな。おけ、宰相にはエドワード君が遺された人生、魂にかけても務めあげます、って伝えておくよ。」


「いやいやいやいや、何をどう取ればそうなるのですか?あーもうそれなら議員辞職しますよ。マジで!」


「まぁまぁ、君の気持ちも分からないでもないがね


 ……20年だな、あれからもう。」


「(ぐっ!?)そ、そうでふね。」


「お父上が存命であれば……。」


「(絶対嘘泣きだよね?しかし…)ニイさん、いえ、ニール卿……謹んで、祖神にかけても、大臣のお役目拝領します。」


「うむ、しかと。では、明日からは忙しくなるので、酒はほどほどにな?それでは夜分に失礼した。」


「は!」


………


えーい!なんでこうなった?!しかも辺境担当って北の領土問題と南の前線基地問題のあれだよ。そもそも外務省と国防省の管轄で大臣になっても何も出来ないじゃないか!っていうかいるのはそんな大臣職はいるのか?

とは言え、ニール卿に受けた恩を返す機会といえばそうなるか。はぁ、とりあえず酒飲んで明日考えよ。


………


「さてと、早速官邸に向かうとするかね。」

エドワード邸を辞して、馬車に乗り込むと側近にそう告げる。


ニールは席につくなり、目を瞑り、考えを動かす。


まぁ、エドを隠居させたい気持ちもあるのだが、政権基盤を固めるためにももう2、3年は、せめて次の国政選挙までは頑張ってもらうしかないな。辺境大臣は名ばかり名誉職ではあるが、それはあくまでも平時であればの話。そう平時であればもっと若いのにやらせて、経験値を積ませ、次の宰相の器にしていくのも一手なのだ。しかし、今は恐らくまずいのだ。今も昔も南方がくすぶっているが、均衡が崩れれば大問題に発展するのは北の方だ。その均衡を保てるかどうかがエドのこれからの仕事だが、それは追い追い理解してもらうか。


「ニール様、そろそろ官邸に着きます。」

「あい、分かった。」


そして、宰相殿も最初は良かったのだが、器に対して野心が大きくなり過ぎた。あれももう少し機を見る才覚があれば、新聞屋や官僚に足元をすくわれることにはならなかったろうに。世襲議員はこんなのばかりかね。はぁ。


ため息が出たところで馬車もちょうど止まりどうやら官邸に着いたようだ。


「では、報告に行くとしますか。」

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