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私の弟

「これほどとは思いませんでしたわ」


 私は戦場のド真ん中で天界最強と名高い男と向き合っていた。


 『創造者』ルシファ。


 お母様とエイナリンに続き、超越者級という全生物の頂点に立つ男。


 どうやらエイナリンに対する特殊な呪法具を持っているらしい奴をお父様と一緒にエイナリンから引き離したまでは良かったのですが、エクスマキナ二体の猛攻を受けてお父様と離されてしまったのは痛恨でしたわ。


 気付けばこうして一対一という最悪の状況で向き合うことに。ハッキリ言ってこれっぽちも勝てる気がしませんわ。


 ですがこれでも私は魔王の娘。例えここで散ることになろうとも、その前に魔族の意地を見せつけてやりますわ。


「炎よ王の元に集いなさい」


 魔技。詠唱を唱えあらかじめ決められた現象のみを起こす魔法とは違い、気や魔力の練り方次第で型にとらわれない強力な攻撃を行える実践的な戦技。


 準言語を用いて魔法(せかい)からのサポートを受けはするものの、それはあくまでも補助的なものに過ぎず、魔力量や魔力操作こそが重要視されるこの戦技は、私にはもってこいの技なのです。


「燃え盛りなさいな。魔技『魔王炎』」


 私の力を何倍にも高める魔王の剣にありったけの魔力を込めて全てを焼き尽くす業火を作り出す。


 炎の剣を手に私はルシファへと斬りかかった。悔しいですが技でも力でも私はルシファに及びません。そんな私がルシファに唯一負けぬもの、それは武器の性能。


 お母様の愛情がたっぷりとこもったこの魔王の剣でルシファの奴を真っ二つにしてやりますわ。


「はああああ!!」


 スキル『万物の炎環』を使ってルシファ周辺の大気を発火、ルシファの視界から私の姿を隠します。無論、魔力や気の流れを察知するのでしょうが、一瞬だけでもこちらを見失ってくれればそれで十分ですわ。


 その一瞬でルシファの背後に回り込んだ私は魔王の剣を大きく振りかぶり、ありったけの力を込めて振りおろしてやります。しかしそれはーー


「その歳でその動き。大したものだ」

「がは!?」


 銀の槍に腹部を思いっきり貫かれることで、停止を余儀なくされました。


 とっさに身を捻りましたが、それでもこの傷は……。


「ぐ、ごほ、ゴホ。……そ、それが、何なのですの?」


 傷が広がるのを承知で前へと踏み込み、今度こそ剣を振り下ろす。

 するとルシファの背後から、エイナリンにどこか似た姿を持つ銀の天使が現れて、魔王の剣を受け止めましたわ。


 スキルで作られた人形風情が私の剣を止めるなど、屈辱に歯を食い縛り炎をいっそう猛らしますが、魔力が壁となって、私渾身の炎はルシファどころか人形にすらろくすっぽ届きません。


 まるでエイナリンに稽古を付けて貰っているかのような感覚。私とルシファの間に存在するどうしようもない格差。


 ルシファが槍を一振りすると、私は無様に地を転がった。


「見事な奮闘だった。最後に何か、言い残すことはあるかな?」


 銀の槍に光が集う。エイナリンを殺すために特化した光は、しかし他の生物にもその凶悪さの一端を発揮する。……悔しいですが、やはり勝てそうもありませんわね。


「では一言だけ」

「聞こうか」

「天界最強と言われるだけあって、貴方は確かに強いですわ。ひょっとすればお父様ですら貴方には勝てないかもしれない」

「ふむ。今から殺す者に称えられるのは、流石の私も初めてかもしれないな」


 優雅に微笑むその姿はここが戦場と言うことを失念しそうになるほどの品性を感じさせます。まったく、そのお高くとまった面をぶっ飛ばせないことが悔しくて仕方ありませんわ。

 

 だから、ねえお願いよ? リバークロス。 お姉ちゃんの仇は貴方に任せましたわよ。


 私は私を敵として見ていないこの憎き怨敵を睨み付けてやります。そしてーー


「でもいつか必ず、私の弟が貴方を倒すでしょう。その時になってこの言葉を思い出すといいですわ」


 その疑いようのない未来を告げた。


 ルシファは少しだけ考えるそぶりを見せる。今攻撃すれば……いえ無駄でしょうね。それにこの傷、全然治る気配がありません。血を流しすぎて体が重い。もう魔王の剣を使った近接戦闘でも完全に目がありませんわね。


「……確かにあの者の才能は凄まじいと認めよう。しかし大局を見る視野に乏しく、魔法はともかくとして武術には課題が多く見えた。総合的な戦闘力はともかくとして、剣術や体術なら君の方が勝っているくらいだ。そんな彼が私を倒せる可能性は限りなく低いように思えるがね?」

「貴方はあの子を、リバークロスを知らないからそんなことが言えるのですわ」


 初めて会った時からずっと私の先を歩く生意気で、でもとても可愛い私の弟。


 あの子に追い付きたくて必死に修行をしましたわ。その甲斐あって魔王の剣を持っていれば魔将にだって引けを取らない力を得たと言うのに、こんな所で終わりだなんて、悔しくて仕方ないですわ。


 せめて最後に一矢。ですがこの男、最後の言葉を聞くとか言っておきながらその実、私を安全圏から確実に殺せるよう力を溜めているだけですわね、これ。


「遺言は確かに聞いた。では去らばだ」


 ちょうど力が溜まっただけのくせにルシファはしれっとそんなことを言います。


 頭にきますが位置取りは完璧。後もう少し前なら自爆でもしてダメージを、もう少し後ろなら一旦引ける可能性が、しかしルシファはそのどちらを選んでも対処できるような、そんな距離から動きません。


 これじゃあ隙を見せた瞬間にグサリですわね。


 とはいえ、なにもしなければ殺されて終わり。……仕方ありません。こうなればダメもとですわ。スキルを使って私の存在を全て炎に変換して、あの余裕ぶった男に少しでも魔王の娘の意地を見せつけてやります。


 さようなら。私の愛しい家族。


 リバークロスにお兄様。お母様やお父様の顔が浮かんでは消えていきます。この燃えるような気持ちを全てスキルに。


 スキル『万物の…


「ルシファアアア!」


 突然、黒金の星が降って来たかと思えば、ルシファと激突。そのまま目にも止まらぬ超高速の斬り合いを繰り広げる。


「エイナ……リバークロス!?」


 まるで一つの星が落ちてきたかのような巨大な魔力。ルシファの隙のない完成された槍術にまったく引けを取らない、洗練され尽くされた剣術。

 

 それは超越者級であるルシファと力も技も完全に拮抗してました。


 圧倒的なまでのその力と技に、一瞬エイナリンが助けに来てくれたのかと思えば、そうではありませんでした。


「信じられません……わね」 

 

 憎き天将共に数で押されている所を助けた時も、確かに強くなってるとは思っていましたわ。でもまさかここまでだなんて。

 

 この力はまるで……。


 私はここで初めて四番目の超越者級がこの世界に誕生したことを知りました。


「まったく。弟の癖に……生意気ですわ」


 いつもいつも姉である私を置いて先に進む。本当に生意気ですわね。でも待ってなさいな。私はあなたのお姉ちゃんなのですから、必ず追い付いてやりますわ。


 だから今は少しだけ……休………憩…です、わ。


「姉さん!?」


 瞼を閉じる直前、リバークロスのらしくない大声を聞いた気がして、私は……わ、たし……は…。


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