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オリジナル

 二つの究極の魔法がぶつかり合う。魔軍を吹き飛ばそうとするルシファの魔法をエイナリンの魔法が受け止める形になったが、相性では勝っているはずのエイナリンの空間魔法がルシファの形成魔法に押され始める。


 こののままエイナリンが撃ち負ければ、魔族側の被害は甚大だ。


 だがそれを黙って許す魔将達ではない。魔将達がそれぞれ第一級魔法を発動させエイナリンの魔法を打ち破り始めたルシファの魔法を押し返す。しかしそこで天将が動きを止めた魔将達へと襲いかかった。


「魔将の方々をお守りしろぉ~!!」


 天将の前に立ちふさがる上級魔族達。そして極限の力がぶつかり合う傍らで繰り広げられる激しい攻防。誰もが皆、勝利に向けて足掻いていた。そんな中、俺は一直線にエイナリンの下を目指して飛んだ。


 超越級魔法の発動と同時にルシファが放っていた銀の聖槍。それを前にエイナリンは焦ることなく防ごうとするのだがーー


「止めろ!」

「ほえ?」


 俺の思念を受けとったエイナリンが呑気に小首をかしげる。俺は銀の槍の前に飛び出すとルシファとエイナリンが詠唱を行っている間に溜めていたエネルギーを解き放った。


「絶命技『輪廻転生』」


 ありったけの力を込めて聖槍を弾き飛ばした。弾かれた聖槍はせめてもの抵抗とばかりに内包していた輝きを解き放つ。銀の大爆発が俺達を襲った。


「ちい!」

「セクハラですか~?」


 俺は余裕をぶっこいでるエイナリンを抱き締めると、翼を広げてできるだけエイナリンの体を銀の光から隠し、爆発の衝撃から守る。だがーー


「アチチ!? 何ですかこれ~!? メチャクチャ強力な『呪』が掛けられてるじゃないですか~!? しかも私限定? 愛され過ぎてて怖いです~!」


 光を浴びずとも俺の体越しにエイナリンがダメージを受ける。


 聖槍ロンギオン。かつて魔王に破壊されたエクスマキナ四体の核を使って作られた破格の魔法具。それだけでも厄介だというのにルシファという天界最上位の存在がエイナリンを殺す為だけに生み出した創造魔法が掛かっている。


 天界最強の存在が天界最高の魔法具を使い、たった一人を殺す為だけに己の能力をつぎ込んだ結果完成した最強の呪法具。


 エイナリン殺しの聖槍。


 しかもこの槍の恐ろしいところはエイナリンにのみ特化した力であるにも関わらず、他の者にもその異能が僅かながらも有効だというところだ。


「く、がぁああ!?」


 銀の光を浴びた背中が焼けるように熱い。魔力を全開にして壁を出来るだけ作ろうとするが、魔力を侵食するように銀の光が体まで届いてくる。エイナリンに発揮する効果に比べれば威力は格段に落ちるとはいえ、それでも銀の聖槍は単純な魔力(エネルギー)差を覆して相手を殺すというその異能を十分に発揮していた。


 それもそのはず、ルシファの考えはこうだ。この世界で最も強い存在(とルシファは信じてる)であるエイナリンを殺せる槍ならば、それはつまりこの世界の全ての生物を殺せる槍である。


 もしもあの槍がエイナリンの命を奪うことがあれば、現在エイナリンの体にダメージを与えているのと同じ(こうか)が全ての者に適応されてしまう。


 そう、ルシファの創造魔法はエイナリンを殺した時に真の完成を見るのだ。


「お坊っちゃま。大丈夫ですか~?」

「黙ってろ!」


 俺に庇われているとは言え、エイナリンに特化した『呪』は俺の体越しにエイナリンへとダメージを与えている。なのにエイナリンは苦しむそぶりも見せず平然としている。


 俺はエイナリンを抱く腕に力を込めた。そのまま俺たちは爆発に押される形で戦域からかなり離れた森の中へと墜落する。


 地面に叩きつけられた衝撃は人間なら原型を留めてはいなかっただろうが、その程度なら俺もエイナリンにも大したダメージにはならない。地面に大きな線を引いて止まる体。


「それで、もう一度聞きますけど~。大丈夫なんですかー?」


 そこで気づいた。エイナリンの顔が近い。格好だけみるなら俺がエイナリンを押し倒しているようだ。こいつの顔をこれほど間近で見たのは数えるほどしかないが、その度に思うことがある。


「…………見かけだけは本当に綺麗だよな、お前」


 周囲に決して溶け込まない輝く金の髪と瞳は、まるで夜空で一身に光を集める月のようだ。創造魔法を維持できなくなりつつある、消耗しきった頭でそんなことをボンヤリと考えた。


「私が絶世の美魔なのは当然ですー。それよりもどうやら助けられたようですね~。一応お礼を言っておきますよ~」


 俺はもう姿勢を維持するのもキツくてエイナリンの上にそのまま倒れ込む。ひょっとすると邪魔ですと言って放り投げられるかとも思ったのだが、そんなことはなかった。


「無茶しましたね~」


 頬と頬が触れ合っている感覚が酷く心地良い。そう思っているとエイナリンが俺の頭を優しく撫でて来た。


「……子供扱いすんなよ」


 なけなしの気力を振り絞って抗議すると珍しくエイナリンが苦笑した。


「さすがに私を助けられるような男を子供扱いなんてしませんよ~」


 エイナリンは俺の体をそっとどかして立ち上がる。そしてエイナリンには珍しい無表情で俺を観察するようにじっと見下ろしてきた。


「……アクエロなら無事だぞ」

(ま、まだまだ行ける……かもし…れない)


 銀の光の影響か、さすがのアクエロも体力がつきかけているようだ。まぁこいつの場合は放っておけば勝手に回復するだろうしあまり心配はしていない。


「それは良かったです~。なにせ私はアクエロちゃんラブですからね。リバークロスはそこで休んでるといいですよ~。後は私がやりますから」

「ハッ。それは頼もしいことで」


 憎まれ口を叩いた後にふと気になった。何だろうか? 何か違和感が……あっ!


「お前、俺の名前を……」


 呼ばれたのはひょっとしたら初めてかもしれない。そう思うと何だか気恥ずかしいような、嬉しいような、とにかく妙な気分になる。


「子供扱いしないとさっき言ったでしょ~。私は有言実行の良い女なのです~」

「……好きに言ってろ」


 ヤバイな。本格的に体が動かなくなってきた。戦場で意識を手放すことに物凄い抵抗を覚えるが、こうなればエイナリンを信じて一休みするしかないか。


 しかしそこで墜落した俺たちを追って最悪の者達がやってくる。


「お久しぶりです。エイン・ナインス・ルシフェリア。私たちのオリジナル」


 エクスマキナ。それも残った三体全員が来やがった。恐らく今が俺やエイナリンを殺れるチャンスだと思ったのだろうが、なにも全員が来なくても良いだろうに。天将が来ないのがせめてもの救いだが、恐らく父さん達が頑張ってくれているのだろう。


 それにしても、オリジナル? 見上げたエイナリンの横顔にはいつもの掴み所のない笑みが浮かぶだけだった。


「これはこれは大体百年ぶりですか~? 細部の違いを見るにお母さんは懲りずに『私』を目指しているようですね~」

「マスターは貴方が天族の敵となられたことに酷く胸を痛めております」

「いやいやー。あのマッドサイエンティストにそんな感性残ってるとは思えないんですけど~」


 飄々とした態度で肩を上下させるエイナリン。そうか! このエクスマキナ達を見たとき誰かに似ていると思ったがエイナリンだったのか。


「最高純度の天魂を投与、生体をベースとして作られた唯一の成功作。真なる機械仕掛(デウスエクス)けの(マキナ)。本来貴方は魔族を滅ぼすために作り出された(もの)でした。しかしそれが今では魔王と並んで天界最大の脅威となってしまった」


 エクスマキナ三体はそれぞれ二対の武器、斧、手甲、槍を構えた。


「マスターはお望みです」

「貴方の破壊を」

「貴方の帰還を」


「「「故に私達は貴方を(はかい)します」」」


「ハッ! 返り討ちですよ~」


 エイナリンが腰の双剣を抜き放つ。


「形状変化。モード『銃』 ファイヤ」


 銀色に輝く剣が瞬く間に銃へとその形を変える。そしてエイナリンの魔力を瞬間的に羽上げ流星のごとく打ち出す。人の胴体に大穴を開ける程度に絞られたサイズだが、その威力は第一級魔法にすら匹敵する。


「多重シールド展開」


 エクスマキナの厄介なところは内部に搭載された魂を消費することで詠唱を抜いて強力な魔法を行使できることだ。今発生させたシールドもお手軽に展開したくせに滅茶苦茶固い。


 そうしてエクスマキナのシールドにエイナリンの放った流星が激突する。


「…………完全防御。不可」


 エイナリンの攻撃がシールドを貫いた。かなり威力を削がれたとは言え、まだまだ強力な一撃がエクスマキナに命中。そのまま吹き飛ばした。


「形態変化。モード『ケルベロス』。さぁ、食べちゃっていいですよー」


 そう言って剣をエクスマキナへと向かって放り投げるエイナリン。剣は空中でグニャグニャと蠢き、その形を変える。


 現れたのは銀色に輝く巨大な三つ首の番犬。二本の斧を持つエクスマキナが番犬へと斬りかかり、もう一体が真っ直ぐにエイナリンを目指す。


「形状変化モード『剣』。リバークロス、アクエロちゃん。もうすぐ救援が来るのでそれまで流れ弾に当たらないように気を付けてくださいよ~」


 そこで手甲をつけたエクスマキナがエイナリンに殴りかかってきた。それをエイナリンはヒラリと躱すと、疲弊しきった今の俺では視認しきれない速度で刃を振るう。だがそれはシールドによってあっさりと止められた。


「あらら~。やっぱり固いですね~」

「この距離なら外しません」


 至近距離からエイナリンへと放たれる魔法(こうげき)。シールドもそうだが詠唱を必要としない攻撃の早さと威力こそが、エクスマキナの本領だ。


 最速にして巨大。そんな力を前にエイナリンはいつものように不敵に笑った。


「甘いですよー」


 そうして究極のスキル、その一つが発動する。


『在りし日の残骸』


それは対象を過去へ置き自身のエネルギーを消費させることで現在へと到達させる力。対象がエイナリンの下へ辿り着く頃には隆盛を誇っていた始まりの力は見る影もなくなり、見るも無惨な残骸へと成り果てているのだ。


「魔法の著しい減衰効果を確認。物理攻撃へ移行しま…」

「ピーピーうるせぇーですよ~」


 エイナリンが武器を持っていない方の手でエクスマキナを思いっきり殴り飛ばす。そこへ最初に吹き飛ばされたエクスマキナと、ケルベロス化したエイナリンの武器を砕いたエクスマキナがやってくる。


「あちゃ~。やっぱりケルちゃんじゃあ勝てませんか~」


 エイナリンが手を向けるとバラバラに砕かれたケルベロスの体が銀の粒子に早替わり、そのままエイナリンの手元へ吸い寄せられるように集結。再び剣の形へと戻った。


 そうして一対二による激しい剣戟が繰り広げられる。


「って、チケー」


 くそ。動きたいのに動けない。これ背中どうなってる? 見るのが怖いくらい感覚が無いんだが…アクエロ? おい、アクエロ!?


(損傷と疲労が大きすぎる。負荷を減らすためにダメージを出来るだけ引き受けてから私は眠る。ふふ、生きて会話が出来るかは運次第。それじゃあリーバークロス。愛してるわ)


 一歩的にそんなことを言ってアクエロは眠りに落ちた。


「……くそ、ヤバいな」


 気づけば創造魔法も解けている。この状態で流れ弾が当たればひとたまりも無い。だが今や動くこともままならない俺一人の力では、この戦域からの脱出は厳しい。


 エイナリンも俺に近づけさせまいと戦ってくれてはいるが、エイナリンにしろエクスマキナにしろ使う魔力がでかすぎて戦いの余波が自然と大きくなる。


 このままでは偶発的に起こる致命の一撃に巻き込まれるのも時間の問題だろう。


「……絶体絶命か」


 死ぬ時は死ぬ。それは結局自分も例外ではない。女達を逃がした時にこうなることが決まったのか、あるいは単に運がなかっただけなのか。考えてもそんなこと分かるわけもなく、俺はただ自嘲した。


 エイナリンが俺の方へ向かってきた流れ弾を防ぐ。だがその隙を突かれて一撃入れられた。続く第二撃はうまく躱したが、エイナリンらしくないその失態にエクスマキナが不思議そうに首を傾げる。その瞳が次に見たのは俺だった。


「……あの悪魔を狙いましょう」

「それが良いようですね」

「賛成です」


 あ、本当に終わった。そう思ったときエイナリンの体から今までで最大の魔力が放出された。


「リバークロスに手を出したら、バラバラにするだけでは許しませんよ~」


 穏やかながらゾッとするような声。かつて誰かの背中をあんなに頼もしく思えたことがあっただろうか。


「有効性を確認。排除に移ります」

「リア充死すべし」

「問い。リア充とは何ですか?」

「とても甘いものです」

「甘い物は大好物です」

「解。私もリア充になりたい」


 マジなのか、ギャグなのか、そんな掛け合いをしながら襲いかかってくるエクスマキナ達。こんな間抜けな台詞を聞きながらの最後などごめんだ。頑張れエイナリン。


 エイナリンは双剣を持ってエクスマキナ一体の腕を切り飛ばし、もう一体をシールドごと吹き飛ばすが、三体目が抜けてきた。エイナリンもすぐに三体目に対して攻撃しようとしたのだが、腕を斬られたエクスマキナが隙を見せたエイナリンを背後から斬りつける。


 エイナリンはそれをギリギリで躱したが、三体目はもう俺の目の前だ。


 拳を振り上げるエクスマキナ。それを風と雷と氷が押し返した。


「リバークロス様!!」

「……お前等」

 

 現れたのは俺の女達だった。エイナリンの言っていた救援とはこいつ等のことだったのか。無詠唱であまり遠くにまで飛ばせなかったのが幸いしたようだ。だがーー


「はわわ。ね、ネコミンあれ」

「ば、馬鹿。落ち着きなさいよウサミン。そんなに引っ張らなくてもちゃんと見えてるわよ」

「どうやら敵が部隊を派遣してきたようだな。さすがはリバークロス様とエイナリン殿。大人気だな」


 遠目にもこちらに向かって来る天族の大部隊が見えた。それもかなり強そうな奴ばかり……あのブーメラン女の部隊も居やがる。数の差がある以上女達だけでは勝てないだろう。


 サイエニアスが素早く指示を出す。


「ウサミン、ネコミン、イヌミン。リバークロス様をお運びしろ。誰が死のうがリバークロス様を必ず盾の王国にまでお連れするんだ。マーレリバー、アヤルネ、マーロナライアは敵の排除だ。三魔がリバークロス様をお運びできるよう立ちふさがる者全てを倒せ。シャールアクセリーナ殿も出来ればアヤルネ達に手を貸してやって欲しい」

「勿論だ。この命はリバークロス様のために」


 シャールアクセリーナが頷くのに合わせてそれぞれが同意する。


「わ、分かりました。任せてください」

「や、やるわよウサミン。ビビってるんじゃないわよ」

「二魔とも声が震えているぞ。……リバークロス様。失礼します」


 イヌミンが俺に肩をかし、腰に回した手でヒョイと持ち上げる。できればこのまま全員で逃げてめでたしめでたしと行きたい所だが、それを許さない者がこの場には存在する。


「その悪魔はここで排除します。逃がすことは許しません」


 戦に出れば全戦全勝。天族最強の兵器を前に立ち塞がったのはサイエニアス、フルフルラ、イリイリアの三人だった。

 

「フルフルラお姉様、どうやらここが私たちの死地となりそうですね」

「あら、イリイリアさん。人形なんかに負ける気ですの?」

「いいえ。いいえ。勝ちましょうフルフルラお姉様。私、もう少しだけあの方の先を見てみたくなりましたの」

「奇遇ね。私も同じ気持ちですわ。貴方もそうなのでしょう? ねぇサイエニアスさん」

「はい。私もリバークロス様の歩く道がどのようなものになるのか、見てみたいと思います」


 不退転の意思を見せる三人にエクスマキナの体から魔力が溢れた。


「敵性生物を確認。危険度中。…邪魔です」

「喋れたとは意外だな、機械兵器。だが邪魔? 邪魔だと? 貴様こそ我らが主の邪魔をするなよ」


 怒り狂った雷がサイエニアスの体から放たれ空へと昇る。いや、それだけではない。フルフルラの周囲の全てが凍り付いていき、イリイリアが召喚した水が大気を満たしていく。


「偉大なる魔王の麒麟児リバークロスの下僕。『雷鬼』サイエニアス」

「『色狂い』の忠実なる奴隷。『皆氷り』のフルフルラ」

「同じく、『水鬼』イリイリア」


 「「「参る」」」


 三人の決死の魔力を前にしてもエクスマキナは微塵も揺るがない。ただ淡々と宣言した。


「排除します」


 そうして戦闘が始まる。始まるのだが、この戦いはあまりにもーー。


「お前達……よせ。お前達では…か、てない」


 駄目だ。意識が遠のく。俺は抗うことも出来ずに眠りへと落ちていく。

 

 深く、深く。まるで堕ちるように、あるいは昇るように世界(ねむり)へと誘われ、俺はそこで一つの夢を見た。


 最早何処にもない。それはそうならなかった世界(げんそう)の物語。


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