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超越者の魔法

「父さん、俺も戦うよ」


 ダメージは酷いが戦えないほどではない。魔将が駆けつけてくれたとはいえエクスマキナが居る限り総合的な戦力はまだ向こうが上回っている。休んでいる暇はなかった。


 俺の言葉に父さんは何も応えなかった。ただ刀を構えて銀髪銀眼の男を睨んでいる。


「久しいな。ルシファ」


 その言葉に俺は思わず目を見開いた。


「と、父さんが自分から挨拶した?」


 あまりにも無口すぎて「何か話さんか」としょっちゅう母さんに小突かれていた父さんが。いや、確かに話すときは割と話すが、それも訓練の時とか本当に気の向いた時くらいだ。


「貴重なワンシーンですわ」

「どういう関係なんだろ?」


 姉さんと兄さんも興味津々だ。銀髪銀眼の男は父さんを見て懐かしそうに眼を細めた。


「コウラン…いやそちらの姿だとコウリキだったかな? だいたい百年ぶりとなるか。そこの三魔は君の子か」

「兄さん。悪魔なんかと話さないでください」


 どうやらハルバードを持った金髪金眼の女と銀の槍を持った銀髪銀眼の男は兄妹らしい。おのれ! 兄妹揃って人の体に穴を開けやがって。


「お前達を斬る」


「へ?]

「あら」

「やれやれ」


 てっきり何か話すのかと思えば一方的に宣言して銀髪銀眼の男ーールシファとか言う天族へと斬りかかる父さん。戦場においてそれは当然の行動ではあるのだが、雰囲気的に会話するものと思っていた俺達兄弟は一瞬だけ呆気にとられた。だが何時までも呆けてはいられない。


「姉さん。頼むから無茶しないでよ」

「それはこっちの台詞ですわ」


 父さんを援護すべく同時に飛び出す俺と姉さん。


「君の相手はこの僕だぁああ!」


 そこに天将第四位が突っ込んできやがった。面倒だが無視は出来ない。迎撃しようとしたのだが、その前に天将第四位の上に拳を握りしめた幼女が降って来た。


「イケメンを潰すのはもったいないが、仕方ない」


 巨大化する幼女の拳、それはまるで巨大なハンマー。大きさではなくそこに込められた魔力が桁違いだ。幼女はその巨人の一撃を持って天将を地へと叩き落とした。


 俺は加速系のスキルを発生させる。狙いは父さんと同じくルシファ……ではなくその隣の金髪金眼の女ーールシファ妹だ。父さんが一対一で簡単に負けることはない。それなら父さんがルシファを押さえている間に俺がその他の天族を倒しまくればあっという間に逆転だ。

 

 一刀でルシファ妹の首をはねるつもりで刃を振るう。ボコられた時の感覚でだいたい分かるが、恐らくこのルシファ妹は天将第四位よりも強い。体を蝕んでいるダメージなど無視して今放てる最高の一撃を刃に込めた。


「クッ!」

 

 それを小さく呻きながらもルシファ妹はハルバードで受け止めてみせた。奇妙な手応え。こちらの力を上手く流されたのが分かる。さすがは天将といったところか。単純な能力はこちらが上回っているが、戦闘に関する技能では向こうに一日の長がある。


「一撃では難しいか」


 だが少々の技術差など魔力で圧倒してしまえばいい。


「これだから超越者は」


 剣とハルバードで鍔迫り合いのように互いの獲物を押し合っていると、俺の思惑を察したようにルシファ妹が呟いた。だが読まれようが関係ないのが単純な力量差というものだ。


 俺は全身の魔力を瞬間的に跳ね上げた。


「クッ!?」

「今度こそ貰った」


 力ずくでルシファ妹の体勢を僅かに崩すことに成功。その際に出来た隙を狙って再び致命の一撃を放つ。


 技術が入り込む余地を与えない圧倒的な力で崩し、そのまま反応できない速さで仕留める。目論見は上手くいき、俺の刃がルシファ妹を切り伏せるーーかと思いきや、刃が届く直前にルシファ妹がエクスマキナと入れ替わった。


「な?」


 マジックのように現れたエクスマキナは俺の剣を二本の剣で受け止めると、そのまま斬りかかってきた。


「くそ。あの女」


 エクスマキナの攻撃を躱しながら入れ替わりの犯人を睨みつける。


「ふふ、怖いですわね」


 片目を銀髪で隠した女が遠くで微笑むのが分かった。やはりあの女は先に倒しておくべきだ。そう思っていると大量の矢が女へと襲いかかった。


「あら、怖い方がもう一魔」


 女が手に持った鞭を振るうと風が発生。矢を容易く弾き飛ばした。


「どうやら君は先に倒しておいた方が良さそうだ」


 魔王の弓を構えた兄さん。その表情は普段見せない真剣なモノだった。


「デートのお誘いなら喜んでお受けしますわよ王子様。…ところで、私ヒソナと言いますの。王子様のお名前を伺っても?」

「天族風情が王の子に対して不敬だぞ」


 そこで片目を銀髪で隠した女ーーヒソナへとシャールエルナールが襲いかかった。


「貴方の相手はこちらですわ」


 血のついた金貨を放るヒソナ。直後その金貨の代わりに二体のエクスマキナが現れた。


 シャールエルナールの風を魔法で弾き、そのままシャールエルナールへと襲いかかる二体のエクスマキナ。シャールエルナールはそれを荒れ狂う風を持って迎え撃つが、やはりエクスマキナが相手ではいかに魔将第三位とは言え分が悪い。援護にいかなければ。


「そう言うわけでさっさと消えろ」


 魔力を全開にして目の前のエクスマキナを一気に倒そうとするが、ダメージと疲労が思ったよりも大きい。今の体調でエクスマキナを瞬殺するのは難しい。それでも徐々にこちらが押し始めた時だった、強い魔力を纏った紅のブーメランが俺の顔面に直撃したのは。


「なんだ?」


 俺は顔面に直撃(正確には透過して躱した)したブーメランが戻る先を見た。


「効いてない、の?」


 そこにいたのは男三人と女三人で構成された天族の小隊。今の俺からみたら大した驚異ではないが、それでもかなりの実力者であることは間違いない。恐らくはサイエニアス達と同程度、天族の精鋭中の精鋭で構成された部隊なのだろう。


「くっ。これならどう?」


 天族の女がブーメランに先程攻撃してきた時の倍近い大量の魔力を込める。


 そこでブーメラン女とその小隊が銃撃を受ける。発砲したのは獣人で構成された鉄砲隊。ブーメラン小隊はそれを魔法で弾くが銃撃は一向に止まらず、既に攻撃どころではない。


 あれなら放っておいて良さそうだなと思った直後、ブーメラン小隊に援軍がやって来た。いや、援軍だけではない。先程新しく転移してきた天軍が最初に転移して来た天軍と合流。数えきれない程の大軍となって攻めて来たのだ。


 だが大軍を有するのはこちらも同じだ。父さん達と共に転移してきた魔族の軍隊が雄叫びを上げてやってきた。


「うおおおおおおおお!!」


 そして天将と魔将が戦うこの戦域を中心にぶつかり合う軍と軍。魔法が飛び交い、刃が振り下ろされ、幾多もの命が一瞬で消えていく。そんな中俺はーー


「仕留めたぞ」


 二体目のエクスマキナを撃破。だが想像以上に力を使った。ルシファとルシファ妹にやられた傷がキツイ。そろそろ一休みしたくなってきた。


「リバークロス様が天族の憎き機械兵器を倒されたぞー!!」


 誰かは知らないが大声で俺の武勲を宣伝してくれる。それも念話ではなくわざわざ天族達に聞こえるように魔法で強化された肉声で。


「リバークロス様万歳! 魔王様万歳!」


 と沸き立つ魔軍。こういう風に褒められるのは悪い気がしない。わざわざ宣伝してくれた人ありがとね。などと思っていると戦場にいる天族の視線が一斉に俺に集まった。


「えっ………と」


 突き刺さる、敵意、敵意、敵意。これはアカン。強敵との連戦に続く、連戦。疲労で俺の集中力も切れかかっている。一旦この場から離れようと思ったその時、俺の隙を付いて一瞬だけアクエロが肉体の主導権を勝ち取った。


 アクエロに操られた俺は腕を組むと念話を併用しながら大声を出す。


「余の名はリバークロス。魔王の息子であり貴様等天族を滅ぼす者なり。天族よ、取るに足らん弱者共よ、まとめて掛かってくるが良い。私はぁ~! 魔王の子供はぁ~! ここにいるぞぁおおおーー!!」


 天族がピタリと動きを止めた……ような気がした。


「魔王の息子」

「魔王の子供」

「居た?」

「本当に居た」

「魔王の息子は実在した」

「そんなの許せない」

「そんな存在を許してはいけない」


 なにやらそこらで不吉な囁き声が聞こえてくる。不満を口にするような、あるいは恐怖を囁くようなその声は徐々に大きくなっていく。それはまるで膨れ上がる風船。やがてそれは当然のように破裂した。


「「「「「魔王の子供を殺せぇー!!」」」」


 巨大な思念が戦場を揺らす。それに俺は、


「えー!?」


 としか言えなかった。いや、本当に何やってくれてるの? と聞くのさえもはや馬鹿馬鹿しい。アクエロは俺の中で腹を抱えて笑い転げていた。


(キャハハハハハ!! ひー。死んじゃう。死んじゃうー!! このままじゃ私達死んじゃうよ~)


 だから、さあ頑張ろう? 共に死力を尽くしてこの困難を乗り越えよう。それはきっととても気持ちいいことだから。そう蛇が囁いてくる。


 連戦の影響か、アクエロのテンションが普段よりも一層高い。だがそれに呆れている暇はない。こうなれば第一級の二重魔法で一気にかたをつけてやる。


 そう思っていると。


「天に座す者よ。試練の時は訪れた。かつて有り、今はもはや何処にもないモノを取り戻せ」


 その瞬間、その詠唱(うた)を聞いた戦場中の強者が緊張に身を強ばらせるのが分かった。


 『天に座す者』。知っている。俺も知っているぞ! その主言語を用いた魔法を。これは……マズイ。


「撃たせるな!」


 父さんが叫ぶ。あれからどんな戦いがあったのか、父さんを囲むように武器を構える三体のエクスマキナ。父さんの援護をしていたはずの姉さんは天軍と一緒に戻ってきた双子に足止めされ、シャールエルナールは手甲の男と、魔将だと思われる黒マントはルシファ妹と戦っていた。


「皇帝よ。天の威光を示す者よ。光輝の旗を掲げその威光をあまねく地に知らしめよ」


 第一級魔法すら超えた巨大な魔法(システム)が起動する。大き過ぎる力が収束する先には銀髪銀眼を魔力で美しく輝かせるルシファの姿。


 誰かが叫んだ。


「第0級。第0級。超級魔法だぁ!! 絶対に撃たせるな! 死んでも止めろ」


 魔将に限らず戦場にいる歴戦の戦士(まぞく)達が全てルシファへと殺到する。


「ルシファ様を死守しろ。盾隊前ぇ。ここが命の捨て所だぞ! 我らが王国に栄光あれ!!」


 武器を持たず背丈よりも遙かに大きな盾を持った全身鎧の天族達がルシファを守るべく全方位に向かって綺麗に整列する。


 戦場に居ながら武器を持たず守りだけに特化した上級天族。そんな天族が何百人も集まり展開されるのは最高硬度の肉壁(けっかい)。それが歴戦の上級魔族をことごとく弾き返す。


「汝こそ世界の救世者。混沌とした世界に生まれし革命者なり」


 激しくぶつかり合う天軍と魔王軍。しかし守りを固めた天軍を前に明らかに魔王軍の精鋭達は攻めあぐねていた。


 俺は決断した。見る限り魔法の完成は恐らく防げない。なら同レベルの魔法をぶつけて相殺するしかない。……この体でやれるか? いや、やるしかない。


「アクエロ!!」

(ふふ。良い、良いわ! 今日は最高の一日ね。さあ二魔で魔法の頂点へと挑みましょう。大丈夫。私たちならきっと出来る)


 言われるまでもない。そうして詠唱を唱えようとした、まさにその時だった。


「永遠の旅人よ、損失と獲得に揺れる悲しき放浪者よ。長き旅路の果てに今お前は答えを得る。さあその眼を開きなさい」


 朗々と響く詠唱(こえ)が戦場に降り注いだのは。来る! 来るぞ! この戦場で最も強い魔力(ちから)を誇る俺とルシファすら上回りかねない巨大な力が空の向こうからやって来る。


 詠唱(うた)は続く。


「覇王よ、王道を行く者よ。溢れる力を持って地を統べる汝は流れる時に何を想うのか」


 スキルを使用した上級魔族の超視力が空の向こうから超スピードでやってくる力の持ち主を捉えた。そして捉えたのは俺だけではなくーー


 ルシファが笑っていた。この状況、不利になるのはどう見ても天族側だというのに、堪えきれない歓喜に身を震わせて、ルシファは詠唱を完成させるべく最後の言葉を世界に刻む。


「騎士の誓いを胸に、さあ刃を振るえ。焦がれたあの光を手にするために」


 そうして魔王軍へと狙いを定めたルシファの手に超越の力が集う。それと同時に反対の手に握られた銀の槍が今までで最高の輝きを放った。……何だろうか? あの輝きを見ていると酷く嫌な予感を覚える。


 あれを『     』に対して撃たせてはいけない。そんな確信(よかん)


 空から響く詠唱(うた)も最後の締めへと入った。


「支配者の束縛を打ち破り。管理者の蒙昧を罰せ。遥かな時の果てで私は再開を果たす」


 ルシファが目も眩む輝きを放つ槍を魔力で形成。それを魔王軍に向けて投擲した。


 第0級形成魔法『神罰が行われた日』


 万物を裁く絶対の権能(いりょく)を秘めた槍に対してエイナリンが全てを消し去る空間を作り出して対抗する。


 第0級空間魔法『永遠が終わる時』


 そしてぶつかり合う超越の力と力。それを前に俺はーー


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