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動き出す超越者達2

『星』が強く瞬くのを妾は確かに感じた。


 思わず手に持っていたグラスを握り潰す。グラスは地に落ちることなく、中に入っていた液体ごと蒸発して跡形もなくこの世界から消え失せた。


 ここから遠い地で、それでもはっきりと感じる力の高まり。いや、これは産声だ。赤子でありながらあまりにも大きなその体が放つ誕生の叫びに世界が震えているのだ。


 それの示すところはつまりーー


「来るか。リバークロス。妾達の居るこの超越者級(いただき)まで」


 笑みが溢れる。これほど高揚したのはいつ以来だろうか。


 あの日、イレギュラーの存在に気付いてからこの策は始まった。いずれは来るだろうとは思っていた。だがそれはもっと経験を積み力を蓄えた後、早くとも数十年は先のことだろうと考えていた。


「それがまさか、今日とはの。ダークエルフを連れて来たときから予感はあり、準備はしておいたが……」


 それでも早い。あまりにも早すぎる。まさかこんなにも早く駆け昇ってくるとは、やはりあのエルフと人間を見つけた時殺さずにおいたのは、そしてあの娘の代わりに従者の仕事をやらされ、感じてもいない不満を演じておるエイナリンの奴めに盾の王国の者等の処刑を教えたのは、我ながら英断だったかもしれんな。


 思い出すのは一つの悪夢。ーー死だ。そこには幾千もの、幾万もの、幾億もの死がただ積み重なっていた。異種族間戦争がもたらすその結末。その地獄の果てで、妾は一人の人間と対峙していた。それはーー


「魔王様」


 その声に、否。その者が纏う力に思考が現実へと戻される。横を見れば美貌を眼鏡で隠した悪魔が一魔。エラノロカも高揚しているのだろう。普段は完璧に制御された力が珍しく顔を除かせておった。先代悪魔王だったエラノロカの力は妾でも片手間に相手に出来るものではなく、その力を向けられれば思考の海に潜っておくことなど不可能じゃった。


「失礼しました」


 妾の視線に気付いたエラノロカはすぐさま力を制御し、威嚇とも取られかねない己の行為に頭を下げる。


「よい。気持ちは妾も同じじゃ。しかし驚いてばかりもいられん。全員に通達せよ。アイギス陥落作戦は現時点をもって最終フェイズへと移行する」

「それでは?」

「うむ。この機は逃さん。妾も出るぞ。全魔将に招集を駆けよ。魔王城(ここ)の守りはエラノロカ。お主に任せる」

「畏まりました。ご武運を」

「全ての運命(ほし)は妾の手の内。心配など無用じゃ」


 さあ、行こう。この作戦が成れば戦況は一気に魔族へと傾く。それは戦術的な意味だけではなく、歴史的にも大きな意味を持つことになるじゃろう。

 五百年。五百年だ。妾がこの世界に生を受けるその前からずっと魔族は劣勢を強いられておった。その現状を変えたいと願い五百年かけてここまできた。


 そして今日、ついに魔族は天族を越える。


「皆よ、見ておるか? ついにこの日が来たぞ。お主達の献身は決して無駄ではなかった。否。妾が無駄になどさせぬ」


 共に魔族を救おうと誓い合い、そして消えていった愛しき者達。今もまだ妾と共に走り続けてくれておる頼もしき者達。


 妾は『魔王』。全ての魔を統べる者なり。


「敗北は、許されぬ」


 決意を胸に、妾は真っ赤に燃える翼を広げた。


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