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究極へ至れ

(スキル発動『挑戦者』『愛の損失』『魔力リミットブレイク』『筋力リミットブレイク』『超直感』『第六感以降の獲得』『気を極めし者』『魔力を極めし者』『絶対制御』『狂う渇望』『壊れる肉体』『再生する肉体』『戦士の誓い』『損失の代償』『獲得者』『幸運者』『先制攻撃』『カウンター』『スキル無効』『魔法吸収』『スキル吸収』『物理攻撃無効』『精神攻撃無効』『肉体創造』『観察者』『分析者』『解明する者』『気の武器化』『魔力具現化』)


「ちょ、おま…馬鹿」


 スキルを使って一時的に無尽蔵な魔力を制御できるだけの肉体を得られれば良かったのに、何を考えているのか、アクエロの奴は五個や十個どころではない数のスキルを発動しやがった。


 アクエロの思考が伝わって来る。


(どうせ最後かもしれないなら、やっぱり全力を尽くすべき。さあ、頑張って私の式神リバークロス)


 極端すぎるぞ! などとツッコンでいる暇はない。その思考を聞いている間もアクエロはどんどんスキルを増やす。足りなければ自らの特異性を発揮して新たに獲得してまでスキルを次々発動させる。


 スキル『疾風の如く』『強者の理由』『守護者』『魔力喰い』『三つの誓い』『紙一重』……。


「く、そおおおお!」


 甘かった。普段は割と常識的なことを言うからいつの間にかまた油断していた。アクエロのぶっちぎりぶりを甘く見ていた。いや、違う。今はそんなことはどうでもいい。こうなったらやるしかない。この馬鹿みたいなスキルの山を制御、制御……できるかぁああ!


「ぐはぁ」


 口から目から鼻から全身の皮膚から血が噴き出す。高まりに高まった気がついに限界を超え、肉体を崩壊させ始めた。それでもーー


 『山をうがつ巨腕』『一撃必殺』『命の対価』『魔力透過』『物質透過』『最強の一撃』『最硬の守り』……。


 それでも尚アクエロは止まらない。自分だって苦しいはずなのに。俺と一緒にその存在(からだ)は崩壊しかけているはずなのに、心底から楽しそうにスキルを発動させ続ける。


(キャハハハハハハ!)


 笑っている。笑っている。俺が転生して出会ってきた中で誰よりも悪魔らしい悪魔が、心底から楽しそうに笑っている。


「くそがぁ。なめんなぁああ!!」


 その何処までも突っ走る姿勢に俺の中で対抗心が芽生える。クソ、巫山戯るなよ。俺にだって現代最強の魔術師だった意地がある。力を追って、追って、ここまでこれた自負がある。そんな俺がこんな小娘に負けるはずがない。魔道に関してのイカレ具合なら俺は誰にも負けない。


「この程度ーー!!」


 全力で力を統合、制御しようとする。だが駄目だ。あまりにも多くの力が入り交じりすぎている。この力をまとめ上げ生物として成立させるなんて限りなく不可能に近い。いくら魔王の血を引く最強の体と、現代で鍛えられた最高の魔術師である俺の技量を持ってしても、ぶっつけ本番で出来るレベルを遥かに越えているのだ。


「何をするつもりかと思えば…まさか自爆とはね」


 呆れたように、あるいは拍子抜けしたように天将が言った。こちらは隙だらけだが無理に攻めてこようとはしない。むしろ逆に距離を取りだした。まぁ気持ちは分かる。なにせ今の俺は力の塊だ。それももうすぐ破裂すると分かっている極大の爆弾。無理に攻めて万が一を貰うよりは自爆するのを待つ方が遥かに賢いだろう。


「く、っそ。……こんな所で」


 意識が遠のき始めている。それでもアクエロはスキルを発動させ続ける。俺の内側で膨れ上がる極限の気。それに流されるように俺の意識は堕ちて、堕ちて、あるいは昇っていった。


 そして誰でもない、何物でも無いそいつが何処か呆れたように言うのだ。


「なんだい? 君、また来たのかい?」


 それに答える気力は残されていない。ただまたここに来たのかと漠然と思うだけだ。


「ふーん。そうか君、死にかけているんだね」


 声はどうでもいいようにも、悲しんでいるようでもあった。


「君のことだ虫の知らせ、という言葉を知っているだろ? リバークロス。いやアレイスター」


 懐かしい名前に僅かに意識が反応、少しだけ気力が戻ってくる。


「君がいた世界では何か大きな事件が起こる前、何の力もない者達がかなりの割合で不吉な予感を覚えるというデータがあるみたいじゃないか」


 声はよく知っている世界の男のようにも、女のようにも聞こえた。


「その予感は何処から来るのか? 一説によると人は未来を知っていて、未来の自分の感情を感じ取っているのではという説があるけど、実際はそうじゃない。人が感じ取っているのは未来の自分の感情などではなく、現在繋がっている同じ時代を生きる者達の感情なんだよ」


 いつの間にかそいつは男でも女でもなくただの機械になっていた。機械が言葉を続ける。まるで人のように。


「例えば喧嘩をしそうな雰囲気。例えば事故が起こりそうな状況。特定の条件が揃えば只人でも何だか危なそうだなと危険を感じることがあるだろう? 虫の知らせとか予知だとか言われているものはこれと一緒なんだよ。魔術師の君になら分かるだろうけども、世界というのは物質同士が分離しているようで実は繋がりあった広くもあり狭くもある世界なんだよ。だから遠く離れた他人の感情だって分かるし、その感情が悪意に染まれば嫌な予感となって胸騒ぎを覚えたりするんだ」


 それがなんなのだろうか? 俺はこんな話を聞いている場合ではないのではないか? 思考がハッキリしてくる程に焦燥感が心に満ちてくる。


「予感を覚えて行動を変えれば、当然もっともそうなる可能性が高かった世界(げんじつ)は形を変える。それは平行世界でもパラレルワールドでもなく、なかった話になるのさ」


 前とは違い緊急時だということを覚えているからか、要領のえない話に段々と苛々してきた。いつの間にか俺は気力を取り戻していた。


 俺は叫んだ。


「話が長いぞ! 一体それがなんだと言うんだ!?」

「いや君、それに触れようとしてるぜ」

「は?」


 直後、俺ではない誰かの記憶が弾けた。記憶? 違う。こんなことは未来にも過去にも無かった。これはただそうなる可能性が最も高かっただけの世界(はなし)。もはやただの幻想と化したその世界(かのうせい)が、この場所の隅の方で埃を被ったゲームディスクのように置いてあったのだ。


 それに触れている。そのあったかもしれない世界(よかん)の一部が俺の中で再生される。


 それはあまりにも困難な戦いに挑む男の話。


 種族差が生み出す圧倒的な戦力差。それでも男は人類を勝利に導くために人の身でありながら異種族間戦争、その最前へと立つ。そんな男に、


 銀色の髪の勇者(おさななじみ)が、


 多少発育の悪い青い髪と瞳の賢者(エルフ)が、


 国を失った第一王女が、


 剣聖と呼ばれる妙に馬の合う親友(バカ)が、


 筋肉命の破壊僧が、


 世界を越えてついてきてしまった弟子が、


 皆が力を貸し、それぞれの伝え方で男に言うのだ。大丈夫だと。お前は負けない。お前なら出来ると。


 何故ならお前は史上最強の『  』なのだから。


 ………………………………………

 …………………………

 …………………

 …………


「……う、うおおおおおおおおおおおおおお!!」

(リバークロス?)


 気付けば意識は体に戻っていた。聞こえてきたのはアクエロの驚愕の声。だが普段とは違いその声は今にも消えてしまいそうなほど、弱々しいものだった。


 俺の肉体は最早血だらけを通り越して崩れかけだった。何よりも外側以上に内側がやばい。一体原型を留めている臓器がいくつあるのか。だが今の俺は不思議とそんな状態をまるで問題だとは思わなかった。


 あれほど困難と思っていた行為に一筋の光が見えたのだ。既にある道を歩くのと、自分で道を作らなければならないのが大きく違うように。知識(イメージ)を持っているかいないかは時に生死を分ける。


 そう。出来る。出来るぞ! 今の俺にはこの膨大な(スキル)を制御させることが出来る。その確信(よかん)があった。


 そして俺は呟く、夢の中で見たように。何処を探しても存在しない可能性(まぼろし)の俺がそうしたように。


「統合せよ、極限の力達」

「まさか!?」


 こちらの崩壊をただ待っていた天将がここに来て血相を変えた。だが遅い。


 百を越える上位スキルが俺の中で次々に統合されていく。その結果生み出されるたった一つの(スキル)


 究極(アルティメット)スキルーー『進化の終着点』


 そうして俺は辿り着く。この世界の真の頂点。その頂へと。全身に満ちる究極の魔力(ちから)(ちから)。俺は今この瞬間、一個の生物が持てる力の限界を超越したのだ。


 そしてーーー


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