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三年間

 あれからメッチャ不機嫌な感じで帰って行ったマイシスターの代わりにアクエロちゃんに事情を聞けば、どうも悪魔には近親間での性交渉にタブーがないようじゃ。

 

 魔族は本能で強い子を作るために自分と同格以上の相手を求める傾向があるらしいのじゃが、強い魔族であればあるほど相手を見つけるのが難しく、そうすると必然、自分と同じ血を引く者は同格の相手として程良い物件になるそうじゃ。


 それに人と違い個体間の能力差が激しい魔族は、例え相手が近親でも子供に何らかの問題が発生すると言うことはないようじゃ。とは言え、やはり向こうの常識がある儂としては若干受け入れがたい考え方じゃのう。


 そんな儂の内面を見抜いたのかアクエロちゃんが、


「リバークロス様はお心のままに行動されれば良いのです」


 と言ってくれた。いやー、やはり味方の有無は大きいのう。これはマイマザーに本当に感謝じゃて。


「私としては~。お坊っちゃまとお嬢様。とてもお似合いだと思いますよー? 大丈夫。アクエロちゃんなら私が面倒を見てあげますから~」


 エイナリンがアクエロちゃんの背後に回って、その両肩に手を置く。何じゃこやつは? マジでガチか? マジでガチなのか? そ、そんなの興奮……しとる場合でもないの。


「アクエロちゃんは僕のものだよ」


 儂はアクエロちゃんの手を取ってエイナリンから引き離した。うーむ。子供体型のせいで母親を取られまいとする子供のようじゃな、儂。


「リバークロス様」


 何やら儂の言葉にジーンとしておる様子のアクエロちゃん。じゃが儂としてもこの右も左も分からん世界で、心臓を捧げてきた唯一無二の味方を渡す分けにはいかん。

 

 何せまだ悪魔がどう言った生態の生物かも分かっとらんのじゃ。権力争いに、悪魔ならではの儀式。魔王の息子だと油断していたら殺されましたではせっかくの転生人生、目も当てられん。味方は多いに越したことはないのじゃ。


「むー。さっそく私からアクエロちゃんを奪うとは。さすがはお坊っちゃま、良い度胸をしてますね~」


 とりあえず当面の問題はこやつじゃな。できればアクエロちゃん同様味方になってくれると良いのじゃが、今の発言を聞くだけでも忠誠心0なのが丸分かりじゃ。


 エイナリンはあくまでも仕事だから儂に仕えておる。つまりそれは仕事次第ではいつでも敵になる可能性があると言うことじゃ。


「何言ってるんだよ。エイナリンも僕のものなんだから奪ってなんかないでしょ」


 とりあえずソフトに儂がお主の主だと主張をして見る儂。さて、エイナリンの反応はいかに?


「ハッ。ヘソで茶が沸くです~」


 はい、嘲笑いただきました。う~む。これは時間をかけて信頼関係を作るしかないかのう。まぁ、普通はそうするもんじゃし。取り合えず今はーー


「やかん持ってこようか?」

「こちらにリバークロス様」


 エイナリンの言葉にマジレスしたら、アクエロちゃんがまさかの有能さを発揮じゃと? こうなっては仕方ない。


「よし、エイナリンを取り押さえるんだアクエロちゃん」

「畏まりました、リバークロス様」


 あれ、今消えなかった? と思うほどの速さでエイナリンの背後に回り込んだアクエロちゃんがそのままエイナリンを取り押さえた。


「ああ、イヤ! 何をするの? このままエッチなことをする気でしょう? でも負けない。私負けないから」


 台詞は微妙じゃが、瞳に涙を溜めたエイナリンの演技は中々迫真じゃった。それにアクエロちゃんはーー


「五月蝿いです」

「ふぎゃ!?」


 容赦なくエイナリンを床に叩き付けた。それもいつもの無表情でやるもんじゃから、やけに恐い。儂がアクエロちゃんは怒らせない方がよいなと思う瞬間じゃった。


 更にアクエロちゃんは容赦なくエイナリンの服を捲し上げる。


「ああ、何て乱暴なの? でもアクエロちゃんなら、アクエロちゃんなら私」


 勢い余って乳房まで露出されとるくせにどこか嬉しそうなエイナリン。

 それにしてもこやつ、まさかの着痩せタイプじゃと? てっきりアクエロちゃんと同タイプのチッパイかと思っておったのに。こんなの、こんなの、興奮するじゃろが~。


「さぁ、どうぞリバークロス様」


 アクエロちゃんが無表情のままエイナリンのおヘソを指差す。しかし儂の視線はそれ以外の所を泳ぎ回っておってそれどころではなかった。イカン。自制心じゃ。紳士になるんじゃ儂。


「う、うむ」


 ここまで来たらやるしかない。と言うか儂は一体何をやっとるんじゃ? 真面目に考えると虚しくなりそうなので、儂は無心で水の入ったヤカンをエイナリンのおヘソの上に置いた。するとーー


「わ、沸いた……じゃと?」


 まさかの事態。本当にヘソで茶が沸くとは。と言うか茶葉までヤカンの中に入れておいたアクエロちゃん、マジ有能。

 しかしこの現象はやはり魔術じゃよな? 一体どうなっとるのじゃろうか?


 儂はエロに心を捕らわれていた先程までとは違い、魔術師として真剣にエイナリンの体を観察しようと身を乗り出すのじゃった。と、そこでエイナリンとバッチシ目が合う。


「あ、ちなみにですね~。見るだけなら許してあげますけど、お坊っちゃまがもしも私の体に触れたら、お坊っちゃまの腕は有給をとってオークの腹の中に旅行に行くことになります~。だから気を付けてくださいね」


 などと言ってきおった。怖。笑っているはずの目がメッチャ怖いんじゃがこやつ。


 そこで今まで黙って儂等を見ていたマイブラザーが、


「ふふ。二魔と上手くやっているようだね、リバークロス」


 何てことを言ってきおった。う~む。マイブラザーよ、一体どこを見てそう思ったのじゃ? まぁ、ここは0歳児らしく素直に頷いておくかの。


「はい。二人…二魔ともとても良い魔族ですから。頼りになります」


 儂のこの発言に、


「リバークロス様」


 と嬉しそうな声を出すアクエロちゃんと、


「まぁ、当然ですね~」


 と、何故か偉そうに胸を張るエイナリン。いつの間にか立ち上がり捲られた服の乱れもちゃっかりと直しておるし、マジでこやつフリーダムじゃな。


「さて、とりあえず今日は帰るよ。噂の弟を見れて満足したし、結果としてとても実りのある時間だった。アクエロさん。三年後くらいには兄弟で修行を開始したいので、リバークロスの修行は急いでくれませんか?」

「魔王様からは五年は私が見るように言われております」

「リバークロスなら問題ないよ。ね?」


 そう言って黄金の瞳を儂に向けてくるマイブラザー。

 何じゃろうか。こやつちょっと怖いんじゃが。まるで光の届かない闇を見ているような、その中に飛び込むのを躊躇させるような、そんな不安を抱かせよる。


「勿論ですよ兄さん。それと姉さんには謝っておいてください。僕は幼女に興味がないだけで、姉さんが嫌いなわけではないと」


 しかしそれでもせっかくのブラザーじゃ。出来れば仲良くやりたいものじゃな。勿論マイシスターとも。今日は怒らせてしもうたが、この言い訳なら人間の常識を持っていたことを誤魔化せるし、0歳児の謝罪として文句なし……じゃよな?


 自分で言っておきながら不安になる儂に、マイブラザーは柔らかな笑みを浮かべてみせた。


「生まれたばかりなのにもう女性の好みがあるなんて、兄としては頼もしい限りだよ。さすがはその二魔を母上から与えられただけのことはあるね」


 マイブラザーの視線が儂の背後の二人に向けられる。なんじゃ? ひょっとして二人は中々優秀な魔族なんじゃろうか。


「それじゃあまたね、リバークロス。ちょくちょく顔を出しに来るよ」

「あ、はい。待ってます。……兄さん」


 振り向かずに手だけを振って去っていくマイブラザー。うーむ。子供なのになんか格好いい奴じゃの。


「相変わらずレオリオン様は子供の癖に油断なら無いお方です~」

「流石は魔王様のご長男。エグリナラシア様も強力なスキルと魔力の持ち主。これは魔族の将来は明るい」


 マイブラザーのモデルのように洗練された後ろ姿を参考にしようとガン見している儂の耳に二人の会話が入ってくる。

 それにしてもなんじゃ? やはりコツはポケットに入れた片手か? それとも歩法に秘訣でもあるのかの? どうやったらあんなに颯爽と歩けるのじゃろうか?


「その上、下手をすればお二方を凌駕するかもしれないお坊っちゃままで加わるとなると、あ~あ。これはついに来ちゃうかもですよ~」

「魔族と天族の最終戦争。この世界の支配者を決める時が来た?」

「可能性は大きいですよ~。私が堕ちる前もポツポツと優秀な天材が天界に出始めてましたし、百年の休戦を経て双方の戦力が再び充実し始めてます~。お坊っちゃま達がその才能を発揮できるようになるまで、遅くとも五十年あれば十分でしょうから、百年以内に勃発しちゃう可能性大ですよ~」


 ん? 何じゃ? 今背後でとんでもない話をしとらんかの。


「私は何があってもリバークロス様についていくだけ」

「ふふ。そんな一途なアクエロちゃんは私が守ってあげますよー。なにせ私達親友ですからね~」


 何やら盛り上がっておる背後の二人。儂としてはそんな情報を聞かされても、マージデ~? くらいにしか言えんのじゃが。はぁ。それにしても最終戦争じゃと? よりにもよって儂が転生してきたこの時期に?


「マージデ~?」


 とりあえず声に出してみた。そしたら二人にメッチャ変な目で見られてしもうたわい。



 そしてその日から儂の本格的な修行がスタートしたのじゃ。師匠はアクエロちゃんとエイナリンじゃ。習うのは魔法の種類に詠唱。体術と一通りの武器の扱い方。アクエロちゃんもエイナリンもマイマザーが儂に付けるだけのことはあって、その実力に驚愕させられながらも、他にも多くの修行が続いた。


 多くの物を得た。多くの事を知った。それは魔術師としてまさに至福の時間じゃった。特に有意義じゃったのが、修行で発見できた儂の固有スキル『衝撃の転生』じゃ。


 これは相手から受けた衝撃(ダメージ)を打ち消し、更に任意の場所に新たに発生させると言うスキルで、面白いことに転生した衝撃は打ち消した威力に比例しない。つまり完全なランダム仕様じゃ。おかげで強い衝撃を消したのに弱い衝撃が発生したり、逆に弱い衝撃を消したのに強い衝撃が発生したりする。


 ぶっちゃけると儂のスキルはピーキー過ぎて切り札にはしにくい力じゃった。じゃが応用次第でかなり強力な武器になるはずじゃ。


 体の方もスクスクと育ったわい。元々魔族は早く一人で身を守れるようになる為、かなり成長が早いらしいのじゃが、アクエロちゃんの心臓の影響か、普通の魔族に比べても儂の成長は随分と早いらしい。三才になるころには八歳になるマイシスターの身長をほんの少し追い越していた。


「まったく、可愛くない弟ですわね」


 そう言いつつも儂の世話を何かと焼こうとするマイシスターには、何度もホッコリさせられたものじゃ。ちなみに今年十二になるマイブラザーは手足も伸び、二十と言っても通じそうな姿になっておった。


「さて、あれから三年経ったし、今日からリバークロスも僕達と一緒に修行をしようか」


 そう言われて三年前の言葉を思い出す儂。


 正直、修行すればした分だけ力をつけられるこの環境があまりに魅力的で、そんな約束すっかり忘れておったわ。


「アクエロちゃん?」


 一応師匠であるアクエロちゃんにお伺いを立ててみる。エイナリンの奴は知らん。奴は基本自由人じゃから居たり居なかったりと世話しなく、儂も普段は放置しておる。


「リバークロス様のお心のままに」


 そう言って頭を下げるアクエロちゃん。つまり問題はないと言うことじゃな。


「分かったよ兄さん。それじゃあまずは何をする?」


 考えてみれば兄弟での修行というのも興味深いものがあるのう。何せ年の近い者とはこの三年全く会えておらん。修行も最高じゃが、せっかくの転生人生。友人も沢山作って思う存分満喫したいものなのじゃが。


「取り合えず行こうか」

「どこにですか?」


 今居るここは魔王城の練兵場。修行するならここで十分なはずじゃが。

 首を捻る儂にマイブラザーが言った。


「生誕の間。僕達魔族が魔物を作り出す場所さ」


 それを聞いた儂の頭の中に、一狩り行こうぜ! と言うフレーズが浮かぶのじゃった。



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