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到着。そして…

 目的の場所であるドーワーフの真の王国までの道のりは天属領内と言うこともありこれまで以上に慎重に動いた。そのため多少予定していたよりも時間が掛かったのじゃが、それでも特に問題なく儂らはそこへと辿り着いた。


 そこは深い森の中じゃった。罠を警戒して式神を何百体も放ち、次に調査関連に特化したスキル持ちの魔族達による調査隊を送り込む。


 万が一にも無いと思うのじゃが逃走用の魔道トロッコがあり、なおかつドーワーフの民がまだ避難していない場合を想定して、シャールアクセリーナに兵を率いさせ森を迂回させた。そこでドーワーフの表の王国と真の王国をつなぐ地下に線路が通っていないかを調査させる。その際、シャールアクセリーナ達と多少距離が出来るので中継者を何人か配置しておく。


 ちなみに中継者とはその言葉の通り念話を中継する者のことで、今回のように長距離念話の他に、戦闘中の念話を補佐する者のことを指すのじゃ。


 儂もそうじゃが高位の実力を持つ者の思考は戦闘中これ以上無いほど加速する。すると当然じゃが他の者に念話を放っても思考の速度が違いすぎて上手く意味が伝えられないことがあるのじゃ。それを防ぐのが中継者で中継者は速い思念、遅い思念、様々な時間差が生じるそれ等をいったん自分の中で整理し、相手の速度に合わせてから思念を再度送る言わば通訳の役割を持っておるのじゃ。そしてそんな中継者は軍を率いた戦闘は勿論のこと集団戦闘において決して欠かせない重要な存在なのじゃ。


「この下で間違いないな?」

「はい。リバークロス様」


 斥候部隊が見事に仕事を果たし、儂らが森の中に入って一時間程。マーレリバーの案内に従った儂らは現在、人間には見通せないであろう深い峡谷、その闇を覗き混んでいた。


 闇といっても高位魔族の超視力をもってすれ峡谷が生み出す暗闇を暴くなど訳のないこと。目を凝らしてみれば下には何の変哲も無い大地が広がるだけじゃった。だがーー


「幻覚魔法か」


 魔力により発生する大気の僅かな揺らぎ。自然のものと区別が殆ど付かん見事なものじゃが、ここに何かあると指摘された状態で見たならばその微かな違いを見逃すことはなかった。


「ガハハ。ドーワーフもやるな。あると分かっていなかったら俺でも気付かなかったかもしれん」

「しかしここにくるまで一つも罠が無いというのは」

 

 デカラウラスがドーワーフの作った幻覚、そのレベルの高さに感心したように笑い、ウタノリアがここまでの順調さに逆に不満を覚え訝しげに眼鏡の位置を直した。


 豪気で多少楽観的な軍団長統括と警戒心が強く慎重な統括補佐。案外二人は良いコンビになるかもしれんの。


「マーレーリバー、お前はどう思う?」


 ウタノリアの懸念がもっともすぎたので、取り合えず儂は地元民であるマーレリバーの意見を聞いみることにした。


「すみません。私もこの幻術以外はどのような防衛機能があったのか教えられていないんです。でも子供の時何度か好奇心で調べてみたことがあるのですが、その時は森にそれらしきものが幾つかあったように思います」


 昔はあったはずの罠が今は影も形もない。考えられる可能性はーー


「罠が解除されているのは既に王国に誰もいないからか、あるいは防衛機能を完全に捨てることで完璧に身を潜めようとしたのか」


 普通に考えるなら前者じゃろうな。


「うわ、後者なら凄いことしますね。私たちならそんな怖いこと絶体出来ませんよ」

「確かに。私達ならこれでもかと罠を作るよね」

「獣人の性だな」


 うんうん。と頷き合うウサミン達三人。その時フルフルラが小さく手を上げた。


「何だ?」

「リバークロス様、僭越ながら私は罠をすべて解除したのは私たちを絶対に逃れられない場所まで誘き寄せるため。……という可能性があることを愚考いたしますわ」

「なるほどな」


 確かに自分が狩人気取りの獲物なんて珍しくもない話じゃ。人間の時ならまず始めにその可能性を気にしたじゃろうに、言われるまでそんな当たり前のことに頭が回らんとは。やはりこの強すぎる体の影響が人格にまで出ておるの。内心でドーワーフを舐めておった。もっと気を引き締めねばな。


「確かに私たちも似たようなことをやるよね」

「敵が本命の罠に嵌まるとメッチャ爽快だよね」

「獣人の性だな」


 ウサミン達がまた頷き合っておる。それにしても獣人の性とやら何気に多そうじゃのう。っと、いかんいかん。気を引き締めようと思った直後にこれとは…。今は目の前のことに集中せねばな。


「……ウタノリア。幻術を解除しろ。マーロナライアはその補助を。デカウラス、何かあったときのために兵をもっと下げて待機してろ」

「それは良いが。リーバークロス殿はどうするんで?」

「幻術を解除したらまず俺が調査にいく」


 声にこそ誰も出さなかったが、儂のその言葉に明らかに不満そうな感情が多発した。


 皆を代表して軍団長統括であるデカラウラスが意見してくる。


「いや、それはどうかと思うぞ? まずは先ほどと同じように斥候を送り込んで罠の有無を調べるべきだろう。なにも大将自らが危険を侵す必要はない」


 その意見は最良ではあるのじゃが最適ではない。そして儂は魔術師なんじゃよな。


「例えばだ、万が一にでもまだドーワーフの財宝が残っていたと仮定しよう」

「む? ガハハ。この様子では可能性は引くそうだがな」


 なら何で笑うん? と思うたんじゃがツッコンでも無駄な時間になりそうなのでスルーする儂。


「侵入者が入ったとたん爆破などで全てを壊す罠が仕掛けられていた場合、斥候だけでどれくらの財宝を確保できる?」

「いや、国を追われたドーワーフの連中が最後に仕掛けた罠だろ? おそらく第一級クラスの威力になるだろうから斥候を主とする魔族では生きてりゃ御の字だろう」

「そうだろうな。だが俺なら身を守るのと同時に財宝を確保することが可能だ。全部とは行かないだろうが目に付いたものくらいなら守れるだろう」


 まぁ、実際にはそれほど自信があるわけでもないのじゃが、他の者にやらせるよりは魔力操作が上手い儂がやった方が良いじゃろう。


「いや、しかしだな。そんな万が一を想定して危険を侵さずとも良いだろうに」


 軍団長統括と言うポジション故かデカラウラスは中々頷かない。まぁ、自分で言っておいてなんじゃが気持ちは分かる。儂だって自分が副官ポジションにおる時に大将がしなくて良い危険を侵そうとしたら絶対に止める。主に責任問題を恐れての。じゃが今は儂が大将。悲しいことじゃが人に限らず群れで生きる者はその立場によって優先すべき事柄が変化するもんなんじゃよ。


 そういうわけでデカラウラスには苦労してもらおう。儂はデカラウラスか絶対に納得せざるを得ない切り札を使う。


「今回の任務はドーワーフの真の王国にある財が一番の目的だ。元々実りのある報告が出来そうな任務ではなかったが、それでもやることはやるべきだろう。魔王様のためにな(ここ強調)」


 くっくっく。どうじゃ? お主がマイマザーに心酔しておるのは話してて分かった。そんなお主がマイマザーの為に頑張ろうとする健気な儂の邪魔ができるかの? 否、出来るはずがない。


「む、むー。……魔王様のためか」


 予想通りマイマザーの名前が効いたのか、少しの間難しい顔をしておったデカラウラスは降参とばかりに両手を上げた。


「………分かった。そこまで言うなら従おう。だが当然一魔では許可できんぞ」

「分かっている。マーレリバーは当然としてサイエニアス、フルフルラ、イリイリア。付いてこい」


 この三魔とアクエロが居ればどのような状況だろうとマーレリバーをつれたままでも逃げることが可能じゃろう。


「「「仰せのままに」」」


 危険な場所への同行を命じたつもりなのじゃが三人は何故かいつも以上に慇懃に応えた。ちなみにウサミン達は、


「わ、私も付いて行きたかったけど、リバークロス様の命令だからここは我慢だねネコミン」

「そ、そうね。ドーワーフの罠なんて全然怖くないけど、リバークロス様が言うなら仕方ないわ。……うん仕方ない」

「二人とも冷や汗が凄いぞ」

「「だって~」」


 罠怖い。罠怖い。と震えながらイヌミンにすがり付くウサミンとネコミン。なんじゃ? ドーワーフの罠にトラウマでもあるんじゃろうか? まぁ、どのみちどんな罠があるか分からない以上、ウサミンはともかくネコミンを連れていく気はないので三人は留守番じゃがな。


「俺も行こう」

「カラカラ。カラカラ。我輩は遠慮しよう。何があるかもわからない。開けてビックリの場所になど近づきたくもない」


 そう言うのは軍団長の一人ウケンロウスと同じく軍団長のカクカクカクロウ。カクカクカクロウは放っておくとして、ウケンロウスには余計なことをせんように釘を指しておかねばな。

 

「二魔はデカウラスについて居てくれ」


 この二人の実力はまだ未知数じゃが、儂と同年代と言うことから察するに、まだまだ発展途上じゃろうな。よってこんな不確定要素が多い所では無理に使おうとせん方がいいじゃろうな。


「む、しかし」

「命令だ」

「了解した」


 もう少し粘るかとも思ったのじゃが、命令の一言にウケンロウスは嫌な顔一つせずに頭を下げると、簡単に引き下がりおった。何じゃこやつ、バリバリの軍人タイプか。儂としては便利で良いのじゃが、こんなんでマイシスターを守れるのじゃろうか? ……もしどうしよもない無能ならば今度はマジで婚約を破棄させるかの。


 儂がそんな決意を固めておると、ウタノリアが近づいてきた。


「リバークロス様。幻術の解除に成功しました」


 その言葉に儂が峡谷を覗き込んでみると、今までただ地面があるだけの場所にとても簡素な村が出現した。ふーむ。何か思った以上に小さいの。


「よし。中継者はマーロナライアに任せる。アヤルネ。マーロナライアを護衛しろ」

「お任せをリバークロス様」

「任せて」


 普段はのほほんとしたり眠そうだったりする二人じゃが、さすがに今はしっかりとした感じで中々に頼もしく感じられた。


「ウタノリア、シャールアクセリーナ達に今から王国に入ると伝えろ。何か地下で動きがあった場合は可能なら妨害及び交戦を許可すると。ただし敵戦力が自軍を上回っていそうなら絶対に無理をするなとも言っておけ。追撃が掛かった場合の救援はお前のところの兵に任せる」

「畏まりました」

「よし。魔法具の準備はいいな? 分かっているだろうが最も強力な防御系統の物を持っていくぞ」

「大丈夫です。用意は既にできております」


 サイエニアスが指を鳴らすと儂らの周囲に野球ボールほどの球体が飛んできた。それは一人に一つずつ付くと肩より少し上の辺りでピタリと止まった。


 これは魔法具『悪魔の守り』といって悪魔族が作り出した魔法具にして魔王軍で正式採用されておるシールド発生装置じゃ。ただし儂等が使うのは『悪魔の守り』の上位版で、普通の『悪魔の守り』はシールドを発生するだけなのじゃが、この上位版はシールドを発生しつつも魔王の鎧のように球体が変化して巨大な盾にもなる優れものじゃ。


「よし。準備は整ったな。降下するぞ」

「先陣はお任せを」

「良いだろう。マーレリバーは俺の後に続け。フルフルラは殿を。イリイリア、マーレリバーのサポートをしろ」


 儂の指示に従い隊列が出来る。


「大丈夫と思うが十分に気を付けてな」

「ご武運を」


 デカラウラスが気軽な感じで片手を上げ、ウタノリアが丁寧に頭を下げた。


「分かってると思うがもう一度だけ言っておく。ドーワーフがいた場合は基本生け捕りだ。ただし攻撃された場合は各々の判断で反撃を許可する。いいな?」


「了解です」

「分かりました」

「分かりましたわ。ねえ、イリイリアさん」

「ええ、その通りですわフルフルラお姉様」


 四人が四人とも元気よく返事をしてくれる。それは良い。それは良いのじゃが、


「……お前ら、帰ったら返事を合わす練習しとけよ」


 バラバラすぎじゃろ。こういう時に返事が合わんと何か不安な気分になるんで止めて欲しいんじゃよな。


 そんな儂の願いも虚しくーー


「畏まりました」

「分かりました」

「確かに揃えた方が良いわね。ねえ、イリイリアさん」

「ええ、その通りですわ。フルフルラお姉様」

「私達ならバッチリ合うのにね」

「本当よね」

「いや、ウサミンもネコミンもしょっちゅう違う返事の仕方をしているぞ」

「あらあら。まあまあ。やはり皆さん個性的だからこう言うの難しいのかしら?」

「単純に了解とかで良いと思う」

「うむ。こう言うところでこそ日頃の訓練の成果が出るものだ。早速帰ったら特訓だな」

「カラカラ。カラカラ。返事の特訓って何する気だい? その無駄にポジティブな考え方。ああ羨ましい」

「……不安です。やはり私も付いていった方がいいのでは?」

「ガハハ。そうか? 俺はむしろ頼もしいと感じるがな」


 突入する四人だけではなく他の者まで好き勝手に喋り出す始末。


「ああ、もう。行動開始。サイエニアス、降下しろ。お前達もさっさと移動しろよ」


 儂の言葉にそれぞれがまたやかましく返事をするが、さすがにもう聞いてはおれん。


「では行きます」


 宣言と共にサイエニアスが魔力を纏い峡谷が作る闇の中へと身を投じる。儂らもすぐにそれに続いた。


 一瞬の浮遊感。しかしすぐに魔力で落下速度をコントロールしつつ地面の上に居るのと変わらない安定感を作り出す。


「…………攻撃はなしか」


 何かあるとしたらここの可能性が大きいと踏んだのじゃが、谷を半分ほど降りてもまだ何のリアクションもない。まいった。これは本当に空振りの可能性が高いの。


(アクエロ。お前はどう見る?)


 とはいえそれで油断して痛い目を見るのも嫌なので、儂は周囲を警戒しつつアクエロに聞いてみた。


(なんかピリピリする。多分罠)

(やはりあるか)


 アクエロは能力的にもこの手の勘がよく効く。そのアクエロが罠と判断した以上何かある可能性は非常に高い。高いのじゃが、だからといってそれでドーワーフがおると言うことにはならんのが何とも嫌なところじゃ。自動迎撃装置の類い、それこそ入った瞬間に爆発というだけかもしれんしの。


(アクエロ、お前詠唱を唱えた状態でどれだけ魔法の発動を止めていられる?)

(第二級魔法なら二十分は余裕)

(十分だ。詠唱を始めろ。任意の対象、その周囲を守れる空間魔法で頼む)

(了解)


 ひとまず何があっても良いように準備だけは怠らないようにしておく。魔法具と合わせて儂らの魔法を発動させれば第一級魔法でも防ぐのはそう難しくはない。


 守りを万全にした儂は自信満々に大地へと着地。そのままドーワーフの王国、というか寂れた村の中を探索する。


「何もありませんね」


 もっとも早く降りていたサイエニアスが周囲を見回しながら呟いた。そこにイリイリアに守られたマーレリバーがやって来る。


「重要な施設は地下にあると聞いたことがあります」


 その言い方だときっと見たことはないんじゃろうな。やれやれ、ドーワーフの連中本当に徹底しておるの。


「どこが地下の入り口か分かるか?」

「正確には分かりません。でも多分あそこだと思います」


 そう言ってマーレリバーが指差したのは周囲の家よりも少しだけ大きな家じゃった。まぁ、大きいといってもここにある家はどれも元々そんなに大きくはない。材料も見た感じ普通の丸太のようじゃし、ログハウスが何個も並んでおるだけの寂れた村と行った感じじゃの。そんな中マーレリバーが指さしたのは、大きさはともかくとして何かこう雰囲気的に族長とか村長とかが住んでいそうな家じゃった。


 取り合えず入ってみるか。そう儂が口にしかけた時ーー


「リバークロス様。あの建物誰か、……いえ、何かいますわ」


 フルフルラがそんなことをいった。それで儂も建物の中の魔力の流れに目を凝らしてみると、なるほど確かに誰かがおった。しかしこやつ凄いの。まるで周囲に溶けてしまっておるかのように気配が薄い。身隠しに特化したスキルを持っておるのか、あるいはーー


「いかが致しますか?」


 サイエニアスが問うてくる。直接乗り込んでも別に構わないのじゃが、わざわざ相手のペースに乗る必要もなかろう。


「家の壁が邪魔だな。やれ」

「承知しました。……吹き飛べ『雷風』」


 サイエニアスが指を鳴らすと、雷を纏った風が綺麗に家の壁を吹き飛ばした。それも右から左へとエネルギーは移動しており、建物の中に瓦礫が入ることはなかった。


 その代わりに外壁を破壊されたログハウスの中に光が入る。そこに居たのはーー


「ふん。魔族共め。思ったよりずっと早く嗅ぎ付けて来よったな」


 建物の中で一人長椅子に腰掛けていたのは老人じゃった。マーレリバーが叫ぶ。


「おじいちゃん?」


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