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そういえば

 なんか知らんが第二王妃を取り上げたことになっておる儂。


 しかしどういうことじゃろうか? もしもこれが儂に悪意ある者の蛮行であればフルウが儂に報告せんわけはない。フルウの態度がおかしかったことから、フルウは恐らくこのことを知っておった。じゃが儂に忠誠を誓うと約束した以上、儂が決定した(と本人は思っておる)ことに口を挟めなかったのじゃろう。だからせめて王妃に直接交渉出来る場を用意したくて何度も話があると言っておったのじゃろうな。ならば呼びに行く時の奇妙な態度は儂の決定に意見する王妃に対して儂が激昂しないか案じておったというところか。


 ふむ。つまり今の状況は、一、第二王妃が誰かに連れ去られた。二、それを王妃やフルウは儂の決定だと思っている。


 と言ったところかの。しかしフルウが儂に確認してこなかったことから犯人はまだ新参のフルウがそれでも儂の手の者と疑うことのない者で、その上幼女に何らかの用がある者。やれやれ、そんな変態が儂のところにおるわけ………おるわけ……………うむ。普通に居るな。


 はぁ。またあやつか。ここ暫くまじめに働いていると思えばこれじゃもんな。まぁ良い。王妃にはちと酷いかもしれんが、せっかくじゃがらこの状況を上手く使うわせてもらうかの。


「ふむ。第二王女か。返して欲しいか?」

「勿論です。あの子は、そしてマリアも私の全てです。何でもしますのでどうか娘達だけはどうか」


 何でもするというのに娘は差し出せないというのは矛盾してはいまいか? そういうと揚げ足取りになるのじゃろうか?


 王妃にだけ頭は下げられないと思ったのか、フルウまで王妃の横で土下座する。


「リバークロス様。私からもお願いします。どうかイリア様をフローラル様に返してはいただけないでしょうか?」


 いつも~儂が~ワルモノなのね~。……まぁ儂がそういう風な言動をとっておるんじゃが、それでもやはりいい気分ではないの。今回の一件に関してはエイナリンが悪いとして、もう悪者でもなんでも良いのでさっさと話を進めて、ここからおさらばじゃな。


「ではドーワーフの真の王国について説明してもらおうか」


 恐らくは意表を突かれたのじゃろう。分かりやすく王妃の肩が跳ねた。


「………ど、どこでそのことを?」

「関係あるか? ああ、言っておくが情報源は他にもあるぞ? そいつは俺達に協力的でな。もしもそいつの話とお前の話が食い違えば…分かるな?」


 ゲッヘッヘ。お前の娘がどうなっても知らないぜー! と言わんばかりのデビルスマイルを浮かべて見せる儂。こういうことをするから嫌われるんじゃろうな、きっと。まあ今の情勢下で人間に好かれても困るのじゃが。


 王妃は顔を伏せることで表情をうまく隠したが、その体からはものすごい葛藤が溢れた。あとほんのチョッピリ儂への殺意も。それにウサミン達の目付きが変わる。何というかマスコットキャラからマジモンの獣に変わったかのような変化じゃのう。儂は視線で三人を押さえた。

 

 儂はデビルスマイルを浮かべたまま、王妃に少しだけ時間をやる。話した感じ王妃は頭が回る。こちらがどれだけの情報を掴んでいるのかもわかないこの状況で、悪魔を相手に嘘をついたり、また黙秘を貫こうとは思わんはずじゃ。もしも何を犠牲にしても魔族に協力できないと思うならそもそもここにはおらんじゃろうしな。

 

 やがて短くも激しい葛藤を終えた王妃が口を開いた。


「ドーワーフの真の王国は戦争時における武器庫の役割であり籠城時における重要なライフラインを担っています」

「それは知っている。盾の王国はどうやって武器や物資を運んでいる?」

「方法は二つです。空間転移と地下の魔道トロッコを使っています」

「戦時下は両陣営が互いに空間転移を妨害するだろう? 使えるのか?」


 空間と空間を繋ぐ魔法は非常に繊細なコントロールが求められ、魔法でありながら半ば魔術に近い。その為ほんの些細な環境の変化で失敗するし、邪魔する側も比較的簡単に妨害出来るのじゃ。


「確かに空間転移はエントロピーが高い場所での使用は非常に困難になります。ですがあらかじめ魔法具や魔法陣を用いて空間を繋げやすくなる仕掛けを施せば戦場での使用も可能です」

「それにも限界はあるだろう?」

「はい。妨害が強くなれば使えませんし、使用できたとしても大規模な転移は不可能でせいぜい数人が良いところでしょう。ですから戦争中は魔道トロッコがメインとなります」


 魔道トロッコね。大体想像つくのじゃが、どんなものか一応聞いておくかの。


「その魔道トロッコとはどんな物だ?」

「線路と呼ばれる道の上を高速で移動できる大型の移動型魔法具です」

「つまり線路を辿っていけば真の王国まで行けるんだな?」

「いえ、敗北が避けられなくなった時点で線路は塞いだはずです」


 やっぱりの。


「ドーワーフ達だがまだ国に居ると思うか?」

「…それは分かりません」


 その言葉に微かな嘘のようなものを感じた。


「俺は悪魔だぞ? その意味が分かっているな」

「本当です。ただ……まだいる可能性は高いと思います」

「逃走手段は空間魔法一択なのか?」


 でなければとっくに魔道トロッコとかで逃げておるじゃろうな。地下のあらゆる場所に伸びているなら少しやっかい……いや、逆に追いやすいじゃろうか?


「はい。恐らくは。無駄に線路を作って魔族に逆に利用されないためにも盾の王国以外に作っていないと聞いたことがあります」


 ……嘘は言ってない。嘘は言ってないのじゃがこの情報は怪しいのう。戦場では空間転移対策が施されているのが定石。それなのに避難用の線路を作らないとかあるじゃろうか? しかし王妃の言うことにも一理ある。もしも線路をこちらが上手く利用できれば一気に敵の内側に潜れる。向こうもそれは嫌じゃろう。……ふーむ。結論は保留じゃな。


「真の王国にいる者の避難先は?」

「転移先は表のドーワーフの王国です。表の王国は真の王国から転移してくる者達を守る役割もあるのだとか」


 ならば真の王国と表の王国を直線上に繋ぐ場所の地下を調べてみればよいか。


「……他に知っていることは? 例えば真の王国を攻めるのに必要な情報などは持っていないか」


 聞きたいことは大体聞けたので最後に何か隠していないかを確認する。王妃は首を横に降った。


「いえ、それくらいです。原則として武器や物資を提供してもらいこちらは必要に応じて時折武力を貸す以外の関係を天族様から禁じられていましたから」

「なるほどな」


 嘘は言ってない。ふーむ。魔道トロッコと線路の存在を知れたのは中々良かったの。じゃが後は予想通りといったところか。


「あの、娘は…」

「ん? ああ、ちょっとまってろ。フルウ、お前はドーワーフの真の王国について知っていたか?」

「噂程度なら。しかし詳しいことは何も」


 まあ、フルウは護衛が専門だったようじゃしな。


「そうか。ちなみに第二王妃を連れて行ったのはエイナリン……堕天使で間違いないな?」

「え? そ、そうです。解体場に現れたあの強い方です」

「分かった。少し席を外す。盾の王国について詳しいことを王妃に聞いておけ。ウサミン達も立ち会え。ただし何もするなよ?」


 アクエロの時みたいなことが起こらないように、強めに言い聞かせる。ウサミン達はーー


「「分かりました」」

「了解です」


 威勢の良い返事をかえしてきた。返事だけでなければよいのじゃが。まあウサミンとネコミンは不安じゃがイヌミンがおるので大丈夫じゃろう。……多分。


 ほんのチョッピリ不安だった儂は王妃がウサミン達に暴走の理由を与えないようこちらにも釘を指しておくことにする。


「質問を他の者に任せるが重要なことがあれば後で俺かあるいは悪魔族の誰かを寄越す。変な嘘を交えようなど思うなよ。それにバカな行動もな。俺は奴隷に何度もチャンスをやるほど寛大ではないぞ」

「…ドーワーフの真の王国を滅ぼすのですか?」


 王妃が躊躇いがちに聞いてきた。ここで嘘をついても仕方ないじゃろう。


「……そうだ」

「そうですか」


 俯く王妃。その体からは拒絶の意思がこれでもかと溢れていた。もうここには用はない。儂は後のことはフルウに任せその場を後にした。



(アクエロ、聞こえるか?)


 部屋から出た儂はすぐにアクエロへと念話を放った。魔法具は必要ない。距離があると念話は普通使えなくなるんじゃが、儂とアクエロに限って言えば余程のことでもない限りまず繋がる。


(感度良好)


 思った通り、返事はすぐだった。


(準備の方はどうなっている?)

(完璧。兵隊はそれぞれ五魔の軍団長が精鋭を千ずつ連れて来て既に移動の準備に入ってる。私は主に魔法具の選択をしてる)

(魔法具だが地下に空間があるか調べられる物を用意してくれ。後は罠から身を守る防御系のをメインに頼む)

(了解)

(それからエイナリンの奴はどうしてる?)

(私が出発の準備があるから従者の仕事は手伝えないと言ったらすねて自分の階に帰った)

(いや、従者なら主の初任務の手伝いくらいしろよ)

(似たようなことは言った)

(反応は?)

(ワロス、とだけ)

(ワ……。やれやれ。今回付いてくる気はなしか。お前が頼んでも駄目か?)

(頼んでも良い。だけど昔からこの手のことはあまり手伝ってくれない)

(なんで?)

(エイナリンいわく自分が手伝うと私の為にならないからと。私もそう思う。エイナリンは好きだけど、頼るとダメになるし、何よりも面白くない。一緒に居ると緊張感にも欠ける)

(お前な、遊びじゃないんだぞ。こういう時にあいつを使わないで何時使うんだよ)

(自分で頑張った方が楽しい)

(分かった。分かった。とにかくもう少ししたら俺も行くから準備を続けてくれ)

(オーバー)


 念話が切れる。ちなみに念話は携帯電話のようなもので、コールしてして向こうが出なければあちらの様子は一切分からない。……はずなのじゃが、先程のネコミン達の言葉を真似たようにアクエロは何故かこちらが視えるようじゃったの。……どうやっとるんじゃろうか?


 頭を捻るが答えはでない。


「……まあいい。それよりエイナリンだな。何とかして連れていきたいところだが」


 エリナリンの性格からしてアクエロの誘いを断った時点で結論は変わらんじゃろうな。ただまあ、頼むだけならタダじゃし、一応聞いてみるかの。なんせエイナリンが居るのと居ないのではいざという時の生存率が激変する。もしもの時に備えて何とか連れていきたいところじゃの。


 そんなことを考えながらやって来たエイナリンの階層。


「何か用ですか~?」


 自室のドアを明けて儂を出迎えたエイナリンは白いワイシャツにズボン姿。シャツのボタンは一つも止められておらず、その下には何も着ていない。儂の視線は思わずその艶やかな姿に釘つけとなった。


「あれだけいろんな女を抱いておいて~、お坊っちゃまの性欲にはほとほと呆れます~」


 こちらを白い目で見てくるエイナリンはしかし、前を隠そうとはしない。というかこれは儂が特別エロいと言うわけではなく、エイナリンの格好が悪いじゃろ。


 エイナリンのような美女がそんな格好でおれば誰だって視線を奪われるというものじゃ。お? お? エイナリンが動いたことでシャツがズレて、もう少し、もう少しでーー


 儂が鼻息も荒くこれでもかと両目を見開いた。するとーー


「エイナリンお姉さま。大浴場の準備ができま……あ、ああ!?」

「ん?」

 

 エイナリンの自室、その奥の扉から出てきた獣人の少女が儂を見るなり大声を上げおった。ふむ。いきなり人を指差すのは感心しないのう。…しかし、はて? こやつ、よく見ればどこかで会ったことがあるような気がするんじゃが。


「リ、リバークロス様」

「……ああ。思い出した。確か昔姉さん達と来たとき見張りをしていた」


 三人いた獣人の一人。儂がチビちゃと勝手に命名した子じゃの。


「キツネのお姉ちゃんどうしたの? 早くお風呂いこうよ」


 チビちゃん改めキツネ少女の後ろから更に小さいのが顔を見せる。それは解体場で見た幼女。つまりは第二王女じゃな。

 

「……普通に馴染んでるのか」


 無いとは思うたが、それでも酷い目に合った様子がなくて少し安心する。


「あー。スッゴイ強いお兄ちゃんだ」


 第二王女は儂を見るなり満面の笑みを浮かべ駆け寄ってきた。おお!? 何じゃ? 何じゃ? ここまで人間に無警戒で近付いてこられるのはひょっとすれば転生して初めてではなかろうか?


「お兄ちゃん。私達を助けてくれてありがとう」


 そう言って第二王女は勢いよく頭を下げた。

 

「お? おお。いや、バッ。違うからな? 別に助けたわけじゃないからな」

「そうなの?」


 コテン、と首をかしげる第二王女。ええい、何じゃこの素直で可愛らしい生物は。頭撫でてもいいじゃろうか?


「それで何しに来たんですか~?」


 儂が第二王女の頭を撫でようかどうか悩んでおるとエイナリンが何処か呆れたような顔で聞いていた。


「そうだった。エイナリン。勝手に俺のど……保護している人間を連れていくなよな」

「はあ? 何言ってやがるんですか~。いちゃもんつけに来たのなら丁度準備も出来たし風呂に沈めちゃいますよー」

「エロい意味でなら是非お願いします」

「あはは。お坊っちゃまったら~。アクエロちゃんの心臓持ってて本当に良かったですね~」


 どういう意味なのか聞くのが怖いのでそこはスルーする儂。


「とにかく親の元に返してやれ」

「お断りです~。この子は私がもらったんですから、もう私のものです~」


 そう言って第二王女を抱き上げて頬擦りするエイナリン。第二王女は嬉しそうにそんなエイナリンに抱きつく。


「は? 誰があげたんだ?」

「お坊っちゃまに決まってるでしょうが~。本当に惚けたんですか~?」

「俺が? いつ?」


 ひょっとして惚けてるのはエイナリンの方ではなかろうか? 何だかんだでこやつかなり長生きしておるようじゃからあり得ん話ではないの。


「支配者の儀の直前ですよー。私を押し倒した罪滅ぼしにお坊っちゃまの持ち物一つくれる約束でしょうが~」

「あっ。そういえば……」


 あの後色々ありすぎてすっかり忘れておった。しかし持ち物って普通魔法具だとか効果な品だとか、そんなの想像するじゃろうが。それが幼女ってお主……。このままではいかんと何か言い返してやろうと思っておったら、


「えー!? エイナリンお姉様押し倒されちゃったんですか!?」


 キツネ少女が突然大声を上げおった。


「そうなんですよ~。私が美人でか弱いことを良いことに無理矢理迫ってきて~。ああ、思い出すだけで笑い……じゃなかった。涙が出ます~」

「ゆ、許せない! 許せないー!!」


 キツネ少女は耳と尻尾を逆撫でてフシューと獣みたいな威嚇音を出す。そこはかとない迫力があるの。そして首にかけていたらしい何か……あれは笛じゃな。笛を取り出した。


「みんな~。出合え。出合え~」


 笛からピーと音が鳴り響く。出合えってお主。ここは笑うところじゃろうか?


「どうした?」

「敵か? 敵なのか?」

「お姉様? エイナリンお姉様はいずこに?」


 早? 一分も経たん内に三十を越える魔族が廊下から、あるいは狐少女が出てきたのと同じ扉からぞろぞろとやって来た。そしてキツネ少女が儂を指差すと、


「こいつがエイナリンお姉様を汚した」


 と言いおった。というかこいつ呼ばわりとは。儂かなり偉いはずなんじゃが、それを忘れるくらい怒っとるんじゃろうな。前も思うたが意外にもエイナリンの奴、部下にかなり慕われとるようじゃの。


「「「なにー!?」」」


 その部下達が絶叫と言うか発狂する。アカン。感心しておる場合ではなかった。


「落ち着けお前達。俺は魔王の息子で魔将の……」


「「「やかましいーー!!!」


「え!?」


 ここは権力でごり押ししようと思うたら一蹴されれしもうた。おお、怒れる個人の前で権力のなんと儚いことか。


「あーあ、お坊っちゃま逃げた方がいいですよ~。あの子達マジギレしてます~」

「いやいや。お前が止めろよ」

「何で私がそんなことしなくちゃいけないんですか面倒くさい~」

「お前の部下だろ? そしてお前は俺の従者だろ?」

「私は最高の上司なので~、部下の自由意思を尊重してるんでよ~。あと従者は有休を申請します~」

「却下だ。却下」

「却下を却下しますー」


 などと言い合っている内に魔法が飛んできた。


「うお!? マジで撃ってきやがった。正気か?」


 何度でもいうが儂は魔王の息子というだけではなく魔将でもあるんじゃぞ? そんな儂にいきなり魔法をぶっ放つなんてどういうつもりなのか。あれじゃろうか? 治外法権気取りなのじゃろうか? とにかくそっちがその気ならーー


「あ、言っておきますけどー。あの子達傷つけたらお坊っちゃまでもただじゃおかないですからね~」

「な!? こ、この。ならせめてその子を王妃に会わせてやれ。いいな?」

「気が向いたら会わせてやりますよ~。ほら、早く逃げないと初仕事に支障が出ちゃいますよー」

「くっ、お、覚えてろ」


 そうして儂は脱兎のごとく逃げ出すのじゃった。


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