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燃える部屋

「今更ですか~?」


 成長した自分の姿にようやく気づいた儂に、エイナリンが酷く呆れたような視線を向けてくる。

 ううぅ。確かにここまで急成長して気づかなかったのは不覚じゃが、三百ン十歳の儂から見たらどのみち子供なんじゃもん。変わらず小さいんじゃもん。


 儂が若干魔術師としてあり得ない迂闊さにへこんでおると、アクエロちゃんが慰めるように儂の肩を叩いた。


「私の心臓を得たことで増えた魔力に耐えられるよう、体が急成長したのでしょう。流石はリバークロス様です」


 パッと聞いた感じ儂を誉めとるようなアクロエちゃんの言葉じゃが、魔術師として三百年以上生きた儂は騙されんぞ。


「それって、もしも僕の体が成長しなかったらどうなってたの?」

「決まってますー。内側からボン! ですよ~」


 握った両手を声に合わせて嬉しそうに広げて見せるエイナリン。その姿は堕天使というよりも小悪魔といった感じじゃ。


「……アクロエちゃん?」

「リバークロス様なら私を受け入れて貰えると信じていました。大丈夫です。もしもの時は私も死んでいましたから」


 こやつ、今サラリと怖いことを言ったのう。


「いやいや、そういう問題じゃないでしょ」

「そうですよー。その時は私がお坊っちゃまからアクロエちゃんの心臓を抉り出してたので、アクロエちゃんは大丈夫でしたよ~」

「アクロエちゃん『は』? ねぇ、エイナリン。『は』って何?『は』って。その場合僕はどうなっていたの?」

「……ちょっと」

「いいですか、お坊っちゃま。男がそんな細かいことを気にしてはいけません。強く生きてください~」

「……ちょっと貴方達」

「いや、今の話だと僕死んでるからね。全然細かくないからね」


 まったく何を言っとるんじゃこやつは。美人なら何をしても許されると思うたら大間違いじゃぞ。


「はいはい。分かりました。パンツ見せるから許してください。ハイ、どうぞ」

「うひょー!? な、なにそのけしからん下着は。もう一回! もう一回見せてください。お願いします」

「………」

「えー、どうしよっかなー。お給料上げてくれるなら考えますよー」

「え、そんな権限僕には…」


 いや、マイマザーなら頼み込めば給料くらい上げてくれそうじゃの。クッ、0歳児なのが悔やまれる。収入さえあれば儂の全財産をエイナリンに渡して、清く正しいエロを満喫したんじゃが。


「リバークロス様。この身は既に御身のものです。女を楽しみたければ私を存分にご堪能ください」


 腕を組んだアクロエちゃんが堂々と下着姿を見せつけてくる。違うんじゃ。違うんじゃよ、アクロエちゃん。確かにエロい。確かにエロいよ? でもそうじゃないんだ。


「ダメですよアクロエちゃん。こう言うのはチラリと見せるから意味があるんです~。そんな堂々と見せたのでは水着と変わりませんよー。ねぇ、お坊っちゃま~?」

「悔しいがエイナリンの言う通りだよ。いいかい? アクエロちゃん。何故家の中という服を着る必要が無い環境下でも人が服を着てると思うの? それはね、そこにエロさがあるからだよ。着て脱ぐというエロさがあるからこそ、人は家の中でも服を着るんだ」


 近年では裸族と言うエロさから解脱した賢者達が現れておったが、儂はそんなもの認めん。エロがあるから男は女を求めるのじゃ。それは生物として必要なことなのじゃ。


 儂の真剣な眼差しを真正面から受け止めたアクエロちゃんは、コクリと一つ頷いた。


「では、今から服を着て来て、それからここで脱ぎます」

「「マジで?」」


 思わずハモってしまう儂とエイナリン。互いの目が合う。気のせいか火花が散った気がするのう。大体なんじゃ、こやつは。親友とか言っておきながら、まさかのガチレズじゃと? そんなの、そんなの、興奮するじゃろうが~。


 ーーーブチ


「ん? ブチ?」


 何じゃ今の普段はチヤホヤされておるお嬢様が散々無視されたあげく、ついに臨海突破してしまったかのような音は?


「貴方達ね」


 プルプルと震えているのはマイシスターではありませんか。


「私を無視してんじゃありませんわよ!! このド変態どもがぁー」


 幼女から放たれたとは思えぬ凄まじいまでの魔力が物理的な衝撃を伴って突風を巻き起こす。それだけでは終わらずに、なんと次の瞬間には部屋中を駆け回る魔力が燃え上がりおった。


「マジか?」


 儂は慌てて魔力で障壁を張り、炎を遮断する。って、この密閉空間でこの状況は大ピンチじゃ。人は酸素がなければ生きてはいけん。何とかして酸素を得る……あ、儂悪魔じゃった。 


「やりすぎだよエグリナラシア。リバークロスに当たったらどうするんだい?」


 炎の向こうで落ち着いた声が放火魔を嗜めておる。いいぞマイブラザー。もっと言ってやるのじゃ。

 

「心配入りませんわ、お兄様。悔しいですがあの二魔ならこの程度、平気で防ぐでしょうから」

「どちらも庇ってなかったよ」

「え?」


 僅かな沈黙。今マイシスターは一体何を思っておるのかの。そして護衛の二人に庇われなかった儂、ちょっぴりショックじゃて。


「だからアクロエさんもエイナリンさんも、どちらもリバークロスを守らなかったよ」


 あ、止めて。そんなに儂の心を抉らないでマイブラザー。


「そ、そんな、何故? 何故ですの? お兄様、私……やってしまいましたわ。せっかくできた弟を火だるまにしてしまいましたわ」


 酷く動揺したマイシスターの声が炎の向こうから聞こえてきおる。だがしかし、一言言わせてもらおうか。その気持ち、超分かる。


 何せ儂もちょっと前にアクエロちゃんを丸焼きにしたかと焦ったばかりじゃしな。これはやはり炎は軽い気持ちで使ってはならんと言うことなのじゃろうな。何じゃ、急にマイシスターに親近感が沸いてきたの。


 それに聞いておれば意外にマイシスターは家族思いのようじゃし。良かったわい。これなら儂もなんとか悪魔としてやっていけそうじゃな。

 儂がそう思った矢先ーー


「証拠隠滅を、証拠隠滅を計らなくては。お母様にお尻を叩かれてしまいますわ」


 などと、トチ狂った声と共に炎の向こうから感じるのは先程とは比べようもなく高まる魔力。それもさっきとは違い制御され洗練されておる。これはくらうと少し不味そうじゃ。


 大体そんな理由で止めを刺しに来るとは何事なんじゃろうか? お尻がどうのこうの言っておるがマイマザーよ、人を焼いた罰がちょっと軽すぎではなかろうか?


「何て考えてる場合じゃないよね。…風よ起これ。風流」


 この機会に昨日少しだけ習った魔法を使ってみる儂。これは本来は魔力で扇風機程度の微かな風を起こす風属性練習用の魔法じゃ。しかし儂が思うた通り込める魔力を多めにして、少しばかり魔法にアレンジを加えればホラ、この通りじゃ。


「え?」

「へー」


 風が炎を払う。その向こうから今世の兄弟達が顔を見せた。そして別の者達も。


「どう? エイナリン。リバークロス様のお力は」

「確かに。これで生後四日だなんて信じられないですー。才能だけならひょっとすると史上最強かもしれませんー」

「才能だけじゃない。リバークロス様ならきっと史上最強の魔王になられる」

「アクエロちゃん。気持ちは分かりますが、危ない発言はなるべく控えてくださいです~」


 部屋の隅で二人がそんな会話をしておる。護衛の癖になにもしなかったのは、どうやら儂の力の確認のようじゃ。

 うーむ。それにしてもアクエロちゃんはともかくとして、エイナリンは儂が主に相応しくないと判断すれば、平気で見捨てそうな怖さがあるのう。少し気を付けた方がいいかもしれん。


「い、今のは風流の魔法ですの? いくら全力で無いとは言え私の炎を練習用の魔法でああも簡単に消すとは、信じられませんわ」

「いや、ただの風流じゃない。炎を消しやすくするために魔法にいくつかのアレンジを加えていたよ」

「そ、それこそ信じられませんわ。魔法のアレンジなど、無詠唱を極めた者がそこから更に何十年と修行するものですわ」


 って、驚いておるがマイシスターよ。お主も今さっき無詠唱を使ったじゃろうが。……いや、待つのじゃ儂。さっきの炎。魔術師としてな~んか違和感があるのじゃ。


「今の炎……スキル?」


 自然と思い付いた可能性が口から出た。


「なっ!?」

「へー」


 それに二人が、と言うかマイシスターが分かりやすく驚いてくれる。ふむ、どうやら正解だったようじゃな。


「よく私のスキル『万物の炎還』に気づきましたわね。誉めて差し上げますわ」

「ちなみにどんなスキルなの?」


 儂の質問にマイシスターは紅い髪を得意気にかき揚げた。う~む。似合わん奴がやるととことん似合わん仕草なのじゃが、お子さまの癖に中々様になっとるのう。色香すら漂ってきそうじゃ。まさに悪魔恐るべしじゃの。


 そんな風に儂がマイシスターの長所? を一つ発見しておると、マイシスターは儂の質問にどこか楽しそうに答えるのじゃった。


「ふふん。いくら弟でも簡単には教えませんわ。と、普段なら言うところですが、見事に私のスキルを防いだ褒美ですわ。特別に教えて差し上げますわよ。私のスキル『万物の炎還』は私の魔力が『通った』物を炎へと変換するスキルなのですわ」

「ふーん。爆弾みたいな力だね」


 一見すると炎系統の無詠唱が使える者にはあまり意味の無いスキルのようじゃが、中々応用力が高い力のような気がするのう。無機物はともかく生物にはどう作用するのじゃろうか? それ次第で危険度は更に上がりそうじゃな。ある意味、悪魔に相応しいスキルじゃて。


 ん? 何じゃ? 何故かマイブラザーが儂をガン見しておるのじゃが。


「……よく爆弾なんて言葉を知っていたね」

「え? そ、それは…」


 ぬはー。やってもうた。魔法に関することなら本能だとかアクエロちゃんの勉強のお陰だとか言えるのじゃが。さすがに爆弾についてこの短期間に学ぶはずがない。なのにその単語を知っておる儂、超不審人物。


「べ、勉強しましたから」


 堂々と、堂々とするのじゃ。胸を張って何も後ろめたいところはないと言う顔をしておれば大抵のことは誤魔化せるものなのじゃ。


「貴方、今メチャクチャ心がキョドっていますわよ」


 悪魔には通じませんか。そうですか。


「ふふ。ねぇ、エグリナラシア。どうやら僕達の弟は噂以上に面白い奴のようだね」

「どうやらそのようですわね、お兄様。……良いでしょう。リバークロス。貴方を私の弟だと認めますわ。そしてお兄様に続き、将来私と子供を作る権利のある男だとも認めてあげますわ。精々光栄に思うのですわよ」


 おげー。ないわー。姉弟でそれはないわ~。あまりの気持ち悪さについ儂はーー


「はは。それは無いじゃろ。気持ち悪い」


 と、素で返してしもうた。直後、もう一度儂の部屋が大炎上するのじゃった。



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