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下された命令

「リバークロス様。どうしてあのような者を眷族にされたのですか?」


 マーレからドーワーフに関する大体の事情を聞いた後、儂はマーレとサイエニアスを連れてマイマザーの仕事部屋を目指しておった。


 そんな時じゃ、サイエニアスが唐突にそんなことを聞いてきたのは。儂としては、え? サイエニアスさん。それストレートに聞いちゃいますか? といった感じになったが、無論表情には出さなかった。


「一目見たときに気に入ってな。いい女だろ?」


 儂はマーレの視線を気にしながら慎重に答えた。


「我々だけでは不満でしょうか?」


 なんじゃ、その質問。まさかこれは……嫉妬か? ふっ、流石現代ではプレイボーイ(笑)で通してきた儂じゃ。こんな短い時間でサイエニアスのハートをガッチリキャッチ……な分けないよな~。


 内心でおちゃらけることに虚しさを覚えた儂は、サイエニアスが望んでいるであろう答えを返しておく。


「お前達に不満なんてあるはずがないだろ。ギンガを初め異種族の女を集めているのは単に俺の趣味だ。だがお前達は違う。お前達は同じ魔族であり、偉大な王達の好意の形であり、何よりも良い女だ。そんなお前達は紛れもない俺にとっての特別だ。だからあまりつまらんことを聞いてくれるな」


 そして儂は悲しげ、に見えるはずの微笑を浮かべて見せた。そんな儂に対してサイエニアスは、


「し、失礼しました」


 と言って申し訳なさそうに頭を下げる。その頬がほんのりと赤くなっているのは儂の魅力が爆発した成果なんじゃよな? 決してなに気取ってんのコイツ? 的な感じで笑いを我慢しておるわけじゃないんじゃよな?


 などと自分でやっておきながら疑心暗鬼になる儂。ふぅ。やれやれ、格好をつけると言うのは幾つになっても難しいものじゃな。しかしサイエニアスの様子を見るに若干不安は残るものの、恐らくは元人間と魔族、天秤にかければ当然魔族を選びますよアピールは成功したようじゃ。

 

「……リバークロス様」


 そしたら今度はマーレが無表情を保ちながらもどこか不安そうに儂を見上げてきよる。もう、何なの? 異種族とか関係なく皆仲良くすればよかろうに。これも全部戦争が悪い(確信)。


 本当ならあえてここでマーレに冷たくした方がサイエニアスとの比較になって演出としては良いのじゃが、ついさっき感情移入したせいで流石にそんな態度を取るのは良心が傷んだ。


 まぁ、マーレはダークエルフじゃし、大切に扱ったところで文句は出んじゃろう。……多分。いや、例え文句が出てもマーレは儂が守ろう。初めての眷族なんじゃし、それくらいのことはしても罰は当たらんじゃろう。


 儂はマーレに優しく笑いかけた。


「安心しろ。お前が裏切らない限り、俺がお前を捨てることはない」

「はい。ありがとうございます。絶対に裏切りません」


 そう言って遠慮がちに儂の体へと触れてくるマーレ。可愛いのう。可愛いのう。こやつもちゃん付けで呼ぼうか? そんなことを考えながらマーレの頭を撫でておると、


 ジーーー! とサイエニアスから熱視線が浴びせられた。


「……何だ?」

「いえ、お気になさらずに」


 とか言いつつも、ジーーー! と見てくるサイエニアス。いくらなんでもあからさま過ぎじゃろ。こやつには調査関連の仕事は振らないことにしようと思った瞬間じゃった。


「……お前も頭撫でてやろうか?」

「なっ!? ち、違います。これはそういう視線ではありません」


 まぁ、そうなんじゃろうが、そんなに慌てなくてもよいのに。こやつはこやつで可愛いのう。


「よしよし」

「な!? だから、その……う、うぅ~」


 真っ赤になりながらも立場上逆らえないのか、大人しく儂に撫でられるサイエニアス。何か「わ、私の方が年上なのに」とか言っておるし。ホッホッホ。愛い奴。愛い奴。


 手段はともかくこんな良い女と知り合わせて貰えるとは有角鬼族の王に頭が上がらなくなりそうじゃ。その内お礼でも言いに行くかの。そして出来ればその時にでも儂は魔族にとって有益な存在ですよアピールをしておきたいところじゃ。


 その為にも早く手柄を上げておきたいの。今回のドーワーフの件はその点では大きなチャンスじゃ。マイマザーとの話し次第になるが調査に参加出来るよう積極的に志願するべきじゃろうか? いや、しかしマーレの故郷じゃしな。いやいや、だからこそ儂が行った方が融通が……いやいやいや、流石にここでそんなもの利かせたら洒落にならんか? いやいやいやいや。しかし、しかし……ああ。もう、分からん。


 サイエニアスを撫でながらあーでもない。こーでもないと考える儂。


「あ、あの。リバークロス様? 如何されましたか?」

「ん? ああすまない。お前があまりに可愛いので誘惑に負けそうになってな」

「な? そ、その、流石にこんな所では……。い、いえ、勿論リバークロス様がお望みとあらば私に嫌はないのですが。ここでは誰か来たとき邪魔になるでしょうし、何より軍の風紀を乱すと言うか、その…」


 考えを誤魔化すために適当に言ったのじゃが、そんな可愛らしい態度をとられると儂の中のエロ助が起きてしまうではないか。


 少しイタズラしてやろうか? サイエニアスの頭を撫でる手をあんな所やこんな所へと動かそうとしたまさにその時、マーレが儂の開いておるもう一方の腕に触れた。何じゃろうかとマーレを見る。マーレは儂が拒絶しないのを確認すると恐る恐る自身の両腕を儂の腕に絡ませてきた。


 なんじゃ? なんじゃ? 構ってちゃんかの? これはまさに両手に花と言うやつではなかろうか? 


 ああ、癒される。魔術師としてつくづく思うの。やはり人間、結局はこういう日常の欲こそが行動の原動力になるのだと。よし、完璧にはできんじゃろうが、魔族として地位向上を目指しつつ、無理のない範囲でマーレの心と立場が良くなるよう頑張ってみるかの。


 そうして儂は二人の美女を存分に愛でてからマイマザーの下へと向かうのじゃった。



「なるほどドーワーフの真の王国か。確かに盾の王国を攻め滅ぼしたとき、あの大量の武器や物資には違和感を感じておった。籠城しながら幾度となく大規模な魔法攻撃を仕掛けてきながら、まるで尽きる様子が無かったのじゃが、いざ攻め落としてみれば謀ったように武器も物資も殆んどが尽きておったからの」


 魔王城にある謁見の間。息子と言うことで直ぐに通された儂はマーレからの話をマイマザーへと伝えた。


「国を丸ごとフェイクに使うか。ふふ、中々に面白いことを考える。そこのダークエルフよ」

「はい。魔王様」


 マイマザーからの言葉にマーレはいたって平静に答えるが、主である儂には分かった。その体が懸命に震えるのを堪えておることに。出来れば肩でも抱いてやりたかったが、いくら母親と言えども魔王との謁見中にそんなことができるはずもない。


 マイマザーはいかにも贅を凝らしてそうな、やや刺々しい椅子に座っておる。その左右、結構離れた場所に長机があり、そこでかなり強そうな魔族達が書類仕事をしておった。マイマザーのすぐ横にはいつものようにエラノロカの姿。儂等はマイマザーから離れた位置に跪いていた。それこそ魔族でなく人間なら会話が難しそうな距離じゃ。


「妾は五百年程天族共と争っておるが、ドーワーフの真の王国などと言うものは聞いたことがない。その仕組みができたのは最近じゃな?」

「父から聞いた話では百年程前、盾の王国の建国と共に密かに天族の協力……と言うよりも指示を受けて人間、ドーワーフ、エルフの作られし三種族が共同で開発したとのことです。無論ドーワーフを除き人間とエルフの殆んどの者がこれを知りません」


 マーレから聞いたところに寄ると補給を直接受けとる一部の軍人達は事情を知っておるそうなのじゃが、殆んどの者にはドーワーフの秘密の運搬方法とだけ説明しておるそうじゃ。


「なるほどの。さてエラノロカ。今魔王城にドーワーフの奴隷はどれだけおったかの?」

「ドーワーフは数が多くない上に逃げ足が早いのでそれほど多くは。確か労働奴隷と食用に少し居たはずですが合わせても千いるかどうかかと」


 こわ!? 分かっておったが魔族怖いわ~。でもきっと天族は天族で怖いわ~、をやっておるんじゃろうな。つまり戦争怖いわ~、が結論で間違いないの(確信)。


「ドーワーフは錬金関連のスキルを持つ者が多い。……食用にも回しておるのか?」

「どのような扱いを受けても決して魔族の為に力を振るわない者や、従順な振りをして不相応な行動に出ようとした者などです」

「ふん。なるほどの。どのみちその者達からは情報は得られんかったじゃろうな。よし、ドーワーフの労働奴隷全員に話を聞くのじゃ」

「全員ですか?」

「全員じゃ。天族共と戦うにあたって作られし三種族は馬鹿にはできん。連中は個では取るに足らんが武器を持ち群れると中々に侮れん。もとより強力な魔法具を初め、厄介な物を数多く作るドーワーフ共は最優先殲滅対象。よって奴隷の中から有用な情報を出した者には褒美をやれ。望むなら魔族入りを許す。逆に嘘や隠し事をした者は見せしめにせよ。中途半端にはやるなよ? 決して自分がこうはなりたくないと言う苛烈なものを持って愚かな行為に走る者を極力減らせ」


 こうなるとは思うておったが、やはり大事になってきたの。しかしあれじゃな。戦いの気配と言うものは善悪とは別のところで(おとこ)を自然と昂らせるの。忌避しながらもどこかワクワクしてしまうのじゃから困ったのものじゃ。じゃが二律背反は理性と本能を持つ者の宿命。魔術師として目を背けることの出来ない業よ。より高みに達するためにこの気持ちを粛然と受け入れねばな。


「盾の王国の近くにあると思われるドーワーフの国に関しては如何されますか?」

「それじゃが、妾達が盾の王国を滅ぼして既に半年以上が経過しておる。依然周囲数百キロメントルに及び妨害網を張り空間魔法による移動を妨害してはおるが、はてさて。まだおると考えるべきか。……お主の意見を聞こうかダークエルフ」


 エラノロカとの会話の途中、いきなり話を降られたマーレがビクリと肩を上下させる。しかしそれも一瞬のこと、マーレは意思の力で動揺を隠しきると静かに頷いた。


「恐らく……います」

「ほう。なぜそう考える?」

「真のドーワーフの王国は戦争において各国の重要な生命線です。それを隠すために天族の力も借りたかなり高度な隠蔽が施されています。一国を支援するほどの大量の武器や物資を危険をおかして直接運び出すよりも、魔族の……我々の警戒の目が緩むのをまって空間魔法による移動を行うのが定石かと」


 『我々』か。うむ。一応これからも気を付けるがマーレについてはもうあまり心配せんでも大丈夫かもしれんな。


「なるほど。盾の王国を陥落させてからは天族共を警戒してかなり広範囲に警戒網と妨害網を敷いておった。そのお陰でこちらも空間魔法を使えず、戦果を持ち帰るのが遅れたわけじゃが、その間警戒の厳しい盾の王国周辺で大規模な空間魔法が行われていたら妨害できたかはさておき、必ず気づいたはずじゃ。それでは例え逃げおおせたとしても盾の王国の存在を秘匿したい連中としては困ると言うわけか」

「はい。恐らく移動した痕跡すら気取らせないように警戒網がもっと狭まるのを待っていると思われます」


 ちなみに役割を考えると当然かもしれんが、真の王国などと大層な名前をつけてるわりには、魔族が知るドーワーフの国、つまり囮の役割をしている国の方がよほど大きな国土を持つそうじゃ。


 マーレの言葉にマイマザーは鷹揚に頷いた。

 

「そうじゃろうな。さてはて、エラノロカよ。現在警戒網と妨害網はどうなっておる?」

「当初の予定通り半年が経過したので警戒網、妨害網共に第三ラインまで下げました」

「第三……環境にも影響されるが距離にしておよそ半径五百キロメントルあるかないかか。ダークエルフよ。ドーワーフの真の王国とやらはどの程度の距離にある?」

「私が知っているのは盾の王国の近くにある一つだけですが、丁度それぐらいかと」

「平地の最高値と一緒か。となると入ってない可能性の方が高いの。エラノロカ妨害網の第四ラインを再び起動できるか?」

「申し訳ありません魔王様。流石にあの規模の空間干渉はしばらく不可能です」

「よい、一応聞いてみただけじゃ。それに既に逃げられておる可能性の方が高いじゃろうしな」

「では放置で?」

「いや、無論確認する。警戒網の方は問題なく起動できるな?」

「可能です」

「ではただちに第四ラインを展開せよ。期間は妾の別命あるまでじゃ。それとリバークロス。妾の愛しい子よ」

「ハッ。何でしょうか魔王様」


 おお!? 僕やりますアピールをしようかどうか最後まで悩んでおったらまさかのご指名? これはもう仕方ないの。うん。仕方ない。


 儂の中で高揚感と罪悪感が入り交じる中、マイマザーは唇に指を当て、何やら不満そうにその流麗な眉を寄せた。


「むー。妾の子供達はどうも妾に対して堅いの~。ママと読んでみ? ほら。さん、はい」

「何でしょうか、魔王様」


 別にママ呼びくらいしても良かったのじゃが、儂はあえて魔王様と呼んだ。理由は特にない。強いて言うならノリじゃ。


「およよよ。妾は悲しい。エラノロカ、リバークロスが反抗期になってしもうたが、どうしたら良いじゃろうか?」

「大変よろしいかと」

「エラノロカ!?」

「何か? 魔王様?」


 エラノロカはマイマザーにとても良い笑みで笑いかけた。その顔は何処かアクエロを叱るときのエイナリンに似ていた。


「う、うむ。何でもないぞ。……ごほん。よし、では妾は魔王として魔将に命じよう。リバークロスよ五千の精鋭部隊を率い、盾の王国周辺にある真のドーワーフの王国、その調査に向かえ。発見した場合状況次第で交戦を許可する。ドーワーフは中々使えるゆえ出来れば生け捕りが望ましいが最優先はドーワーフが溜め込んでおる魔法具や魔力石じゃ。必要と思えばドーワーフは殲滅せよ」


「魔王様の仰せのままに」


 そうして儂の魔将としての初任務が決まったのじゃった。


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