リバークロスのハーレム
心地の良い微睡みに包まれていた儂はふと肌に触れる柔らかな感触に気が付いた。その温もりがあまりにも心地よくてたぐり寄せる。するとーー
「起きられたのですか? リバークロス様」
胸の中でその温かなモノが声を出した。それは強い意志を感じさせながらも、どこか甘い響きの含まれた声。その声に儂は目を開けた。
「…サイエニアス」
「おはようございます」
普段はポニーテールにしておる髪がほどけ体に妖しく絡みついておる。綺麗に割れた腹筋を初め一目で分かる鍛えられた体。なのに女の色香を全く失わないその肢体。こうして抱きしめておるだけで蕩けそうになる。
「おはよう」
挨拶と共に口づけを交わす。儂はそれだけでは我慢できずにサイエニアスの絶妙なバランスで出来たその体をまさぐった。
「んっ」
押し殺したような声。それがもっと聞きたくて、儂は割れた腹筋に舌を這わせ更にその下へと触れた。
「あっ!?」
サイエニアスは声を上げながらも足をわずかに開く。初めの内は全く経験の無かったサイエニアスだが毎日休むことなく抱き続けた結果、儂の望むような反応を返してくれるようになった。
先程まで微睡みに浸かっていた儂じゃがもう既に眠気など跡形もない。ちなみに理性の方も吹き飛びそうじゃ。辛抱たまらず儂はサイエニアスに覆い被さった。その時、ベットの上で動き出す者達が居た。
「うーん。こ、腰が痛い」
「あー。ウサミン起きた? おはよう」
「おはよう。ネコミン。それにイヌミン」
「ああ、おはようウサミン。それにネコミンも。ウサミン、体は大丈夫か?」
「それが少し腰が痛くて」
「ウサミン。昨日凄かったもんね」
「ネコミンが逃げるからでしょうが」
「だって、二魔っきりでやるならともかく、こんな大勢の前であんなこと……。私には無理、無理」
「そうか? その割には最初の時…」
「わー。止めて止めてイヌミン。その話はしないでよね」
顔を真っ赤にして猫耳の獣人が犬耳の獣人に襲い掛かる。猫耳の獣人ネコミンに押し倒された際犬耳の獣人イヌミンの豊かな胸が揺れた。
まったくもって最高の光景じゃな。
見渡せば十人以上が余裕で寝れる巨大なベットの上に何人もの美女達がその美しい裸体を晒していた。おやおや、どうやら儂の悪魔としての人生は桃源郷コースに突入したようじゃな。
「…うるさい。いい加減部屋に籠もりたい」
「まあまあ。皆さん、昨日あれだけリバークロス様に可愛がってもらったにも関わらず随分と早いのですね」
不機嫌さを隠そうともせずに寝起きの体を起こしたのは、紫の髪の若干発育が足りない有角鬼族のアヤルネ。後に続くほんわりとした声はピンクの髪をした豊かな胸を持つやはり有角鬼族のマーロナライア。
「ていうか、またやってるし」
「まあまあ。元気ですわね。私もお手伝いしましょうか?」
マーロナライアが儂のハーレムの中で最も大きな胸を揺らしながら聞いてくる。
儂はそんなマーロナライアを見ながら思った。胸、大きい、桃みたい。フッ、やはりここは桃源郷だったようじゃな。
「ああ、こっちに来てくれ。アヤルネもどうだ?」
「私はやだ。朝から気分が乗らない。体はリバークロス様のモノだから勝手に使えば良いけど心は私のモノ。と言うわけで私は寝る」
そう言って二度寝に入るアヤルネ。マーロナライアが苦笑しながら頭を下げた。
「申し訳ありません、リバークロス様。でもアヤルネの代わりに私が頑張りますから」
まぁ多少残念じゃが、気の乗らない者を無理に誘っても面白くないしの。
「そうだな。では折角だからサイエニアスの上に乗ってくれ」
「分かりましたわ。サイエニアス、失礼しますわね」
「ああ。今更遠慮入らないぞマーロナライア」
おお、肉体美のサイエニアスと豊かな胸を持つマーロナライア。何というコラボ。何というコンボ。これ以上に魅力的な光景があろうか。いや無い(断言)。
これはもう今日も一日中部屋から出ないコース決定じゃな。
もう何日も部屋に籠っておるがそんなことはどうでも良い。もともと魔術の深奥を極めつつ女体を楽しもうと思って転生したのじゃ。目的の一つ、その最高峰とも言うべき光景が目の前に広がっている以上、他の何を置いてもこちらに集中するべきだろう。魂賭けちゃうべきじゃろう。ああ、魔将になって本当に良かったわい。
儂が魔将になって数日がたった頃、儂の下に魔将就任の祝いと言うことで各種族の王達から大量の財宝が届けられた。いくつもの貴重な魔法具や大量の魔力石。解体場での出費など余裕で取り戻せたのじゃが、そんなことがどうでも良くなるくらいの素晴らしい贈り物、それがこやつ等じゃ。
無論最初は少し悩んだ。いくら何でも女性を送ってくるってどうなの? という感じにの。だからまずは送られてきた者達とちゃんと話をした。嫌々来ているようなら送り返しても良いし、帰るのが無理なら儂との関係は純粋な主従にしても良いと。だが皆それぞれの意思で儂の女になることを選んだ。無論感情など読まずともそれが儂に好意を寄せた結果ではなく、それぞれの思惑があってのことだとは理解しておる。サイエニアスに至っては最初会った時に儂に忠誠を誓うが有角鬼族全体と儂とを天秤にかけたときには有角鬼族を取るとハッキリ言ったくらいじゃしな。
愛のない利害による肉体の関係。じゃが、ぶっちゃけそれが心地良い。人にもよるかもしれんが、正直年を取るとベタベタした恋愛よりも互いに線引きした関係の方が純粋に性を楽しめるんじゃよな。
互いにここから先は入ってこないでね、とキチンと線引きした上で楽しむ大人の情事。それにより生みだされるこの光景の何と素晴らしいことか。儂……転生して良かった。
「ちょっと、ちょっと。ウサミン。リバークロス様、またおっ立てたまま涙流してんだけど」
「見ちゃ駄目よネコミン。きっと辛いことがあったのよ」
「あの状況で思い出す辛いことと言うのもそれはそれで興味があるがな」
ウサミン達三人が何か言っておるが、まあ構うまい。そんなことよりも今儂が意識を向けるべきは目の前のこの極上の美女達じゃ。
「さーて。では今日も元気に一日中ヤ…」
「やらんで良いですよ~。この駄犬が~」
「ぐお!?」
突然頭部に生じた衝撃に思わずつんのめる儂。
「あらあら? まあまあ」
そんな儂をその豊かな胸で受け止めてくれるマーロナライア。ああ、桃源郷。桃源郷はここにあったのじゃ。
「貴様! 堕天使」
気配を全く感じさせず、突然現れたその存在に戦闘体勢をとるサイエニアス。上級魔族、その中でもかなり上位に位置するであろう魔力がその身から放たれる。ちなみにウサミン達はーー
「ひゃー!? 出た~!!」
「退避、退避~!」
素っ裸のまま儂のことなどお構い無く逃げて行く。唯一イヌミンが、
「これは参った」
と言いながら突然の乱入者ーーエイナリンの背後を取った。ちなみにアヤルネは「うるさい」と言って布団を頭から被りおった。
やれやれ。さすがは王達が送ってきた女達じゃ。皆が個性的で魅力的じゃの。とはいえ流石にこんな所でガチバトル何てされたら堪らんわ。
「止めろお前達」
儂が静止をかけるとサイエニアスは文句も言わずに魔力を抑え、イヌミンも構えを解いた。だが何があってもすぐに動けるようにその全身が張り詰めているのが容易に分かる。そんな姿勢を崩さない。
エイナリンがこれ見よがしの溜め息をつく。
「まったく鬱陶しいですね~。アクエロちゃんの分の仕事までしてあげてる私にこの扱い。ちょっと酷くないですか~?」
「そう言うな。まだお前に慣れてないだけだ」
「下っぱの行動はお坊っちゃまの責任ですよ~。もっとしっかり教育しておいてくださいね~」
「分かった。分かった。それで何のようだ?」
「仕事の話に決まってるでしょうが~。魔王軍での配属先が決まりましたよ~。いきなり魔将になるからシャールの奴がお坊っちゃまをどう扱うべきかメッチャ悩んでたみたいですよ~。あとその前に幾つか外せない用事が入ってますので、いい加減このお猿さんみたいな日常も終わらせてくださいね~」
エ、エイナリンがまともに仕事をしておるじゃと? クッ、何か知らんが負けた気分じゃ。
「……アクエロが従者から従者補佐に落とされたの自業自得だが、お前がそうやって真面目に従者してることが俺には未だに不思議で仕方ないんだが」
支配者の儀でアクエロが起こしたリバークロス洗脳計画の罰としてアクエロは儂の従者から外され、今はエイナリンの補佐という形に収まっておる。じゃから儂の従者はエイナリン一人となり、儂の財産と兵力の管理を始め、スケジュールの調整や魔王軍のお偉いさんとの橋渡し(ただし直接会うのは他の者に頼んでいる)など色々やってくれておる。
無論魔将就任のお祝いに送られた人材は何もハーレムメンバーだけではなく、エイナリンも仕事を一人でやっているわけではないんじゃが、それでもここまで真面目にやってくれるとはかなり意外じゃ。
そんな思いがこもった儂の言葉にエイナリンは肩をすくめて見せた。
「私だって最初は適当にやるつもりでしたよ~。別に死にさえしなければお坊っちゃまが困ろうが知ったこっちゃないですからね~」
おい! というツッコミは飲み込むことにする。こやつ相手に文句を言っても虚しいだけじゃしな。
「ならなんでだ?」
「アクエロちゃんに頼まれたからに決まってるでしょうが~。あの真面目な子があんなに頑張っていた役職を外され傷付き、それでもせめてエイナリンは頑張って。なんて涙ながらに言われたら、親友としてそりゃ頑張っちゃうしかないじゃないですか~」
その時のことを思い出しておるのか、祈るように両手を組んで瞳をうるうるさせるエイナリン。こやつ、相変わらずアクエロに良いように使われとるの。儂は納得しつつも少し呆れた。
「むしろアクエロの場合はその頑張りが問題だろうが。もう少し妥協することを教えとけよ」
なんせ自分が人生を楽しむためなら世界中の生けとし生ける者を殺しても構わないと本気で思っておる悪魔じゃからな。取り扱い注意とかそう言うレベルではないじゃろう。
エイナリンは意外なことに愚痴混じりの儂の言葉に反論しなかった。それどころかどこか遠くを見るような顔をしてーー
「ふっ。教育って本当に難しいですよね~。ぶっちゃけ、少し舐めてました~。ほんと、どこで間違えたのかしら?」
そんなことを言い出す始末。その子育てに疲弊しきった主婦のような顔に儂はーー
「お、おう」
としか言えなかった。そうか。流石のこやつもアレにはやっぱり思う所があるのか。
微妙になった空気を入れ替えるかのように、エイナリンが手の平を叩く。
「まぁ、それはそれとして~。アクエロちゃんはどこですか~? 私が発情するしか能のない駄犬の世話をしているのはあの子がいるからなのに、ここのところアクエロちゃん成分がまったく足りません~。アクエロちゃん? アクエロちゃんどこですか~? 貴方の可愛いエイナリンが探してますよ~。出てきてください~」
「ああ、アクエロなら……」
その時じゃ。隣の部屋へと続くドアが周囲の壁ごとぶっ飛んだのは。
「ふぎゃーー?」
「ぬぎゃーー?」
そして部屋の隅っこに避難していたウサミンとネコミンもぶっ飛んだ。
「何事ですか~?」
エイナリンがまったく危機感を感じさせない態度で爆発した隣の部屋を見た。ちなみに隣の部屋に誰がいるのかを知っておる儂は爆発自体には驚かなかった。驚かなかったのじゃがーー
「おいおい。まさかもうか?」
一つの実験。その結果には驚かざるを得ない。その力は聞いていたが予想通り、いやこれは想像以上に厄介だな。
「リバークロス様、これは」
「……驚いた。随分と早いな」
サイエニアスとイヌミンも儂と同じような気持ちのようじゃな。何よりも厄介なのはこの特性を持つのがアクエロだけではなく魔族の敵に居るということじゃろう。……対策を考えておいた方がよいの。
じゃが、今はそれよりもーー
「分かってる。気を付けろお前達。奴が、最凶の悪魔が解き放たれた」
目の前のことを何とかせんとの。儂の注意に女達に緊張が走る。
そうして儂らが見守る中、爆煙を掻き分けて奴が姿を表した。奴は無表情に周囲を見回すと一つ頷き、服を脱ぎ始める。
この唐突な行動には流石のエイナリンも、何やってんの? とばかりに目を大きく見開いて呆然としておる。こやつにこんな顔をさせるのは本当にあやつだけじゃな。
そうして奴は手際よく生まれたままの姿になると親指をグッと立てて見せた。
「脱出成功。さ、私も混ぜて」
その言葉にウサミンとネコミン。特にネコミンが「ひ、ひえーー。助けてウサミ~ン」と絶望的な声を上げた。
そう、何でも全力投球。自分が楽しむためなら一切の妥協を許さぬその性格ゆえに、ネコミンを快楽死寸前に追い込んだ結果、仕方なく隣の部屋へと封印されることになった最凶の悪魔にして我が半身。アクエロが解き放たれたのじゃった。