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悪魔のスキル

「ハッ!?」


 クワッという感じに覚醒した儂は慌てて額の汗を拭った。


「ふー。夢か。まさに悪夢だったね」


 心臓を口に突っ込まれるなんて、一体儂はどんな夢を見とるんじゃろうか。ひょっとしたら儂、変な性癖でもあるのかもしれん。白髭が似合う紳士な魔術師を目指す身としてこれは大問題じゃて。なにせ危険な性癖の有無で、格好いいお爺様から危険なクソジジイに早変わりじゃからの。儂としてはやはり清く正しいエロを求めたいところじゃて。


「あ、お坊っちゃま起きましたよー。良かったですね~アクロエちゃん」

「リバークロス様なら当然。だって私の主様だから」

「本当に後悔しても知らないですよー?」


 エロとは何かについて想いを馳せている儂の耳に聞こえてきたのは、数少ない今世の知り合いの会話じゃった。


「あれ? 二人とも何でここにるの?」


 と言うか、ここはどこじゃろうか? 何せ儂、産まれて四日しか経っておらぬから自宅と言っても場所の照合に時間が掛かってしまうのじゃ。……ふむ。どうやら儂の部屋のようじゃが、はて? どういう状況じゃ?


「寝ぼけてるんですか~?」

「そうみたい。変な夢見るし、今何時?」

「十六時です~。生憎と夕飯にはまだ早いですよ。ちなみにどんな夢見てましたか~?」

「え? それはその、アクロエちゃんの心臓を食べる夢だけど」


 馬鹿正直に答えてしもうたが、儂変な奴と思われんじゃろうか? しかし隠す方が何か後ろめたい気持ちがあるようで嫌じゃしな、ふーむ。


「それは夢じゃないですよ~。お坊っちゃまの中にはアクロエちゃんの心臓が入ってるんです。良かったですね。これでお坊っちゃまは『心臓持ち』ですよ~」

「ふは?」


 いかん。あまりのことについ吹き出してしもうた。


「私の心臓。美味しかったですか?」


 着替える時間がなかったのか、黒い下着とパンストのみのアクロエちゃんが聞いてくるのじゃが、その姿のエロいこと、エロいこと。おかげで儂はーー


「凄く、大きかったです」


 そんなことを言ってもうた。


「ちょっと~。いくらなんでも酷いですよ~。アクロエちゃんは心臓を捧げたんですから、もう少し気の聞いたことを言ってあげてくださいよ~」


 付き合いは浅いが、いつもどこか捉え所のない雰囲気を放っておるエイナリンが、珍しく分かりやすい非難の表情を向けてきおった。じゃがそんなことを言われてものう。


「えーと、話が見えないんだけど」


 そもそも儂、被害者じゃないの? あんな大きくて熱いものを無理矢理口に突っ込まれたわけじゃし。あれ、現代じゃったらポリス召喚待ったなしじゃからな。


「そうでした。お坊っちゃまは0歳児でした。なのにアクロエちゃんときたら、ハァ」


 今度はアクロエちゃんに対して盛大に溜め息を付くエイナリン。うーむ。いい加減に事情を知りたいところじゃな。


「ねぇ、どういうこと?」

「先程私がしたのはスキル『悪魔の契約』を持ちいた心臓の譲渡。我々悪魔は生涯を捧げるに相応しい主を見つけると、こうやって心臓を捧げるのです」


 え? その理屈でいくと儂も? 儂もいつか誰かに心臓(はじめて)をあげちゃうの?


「アクロエちゃん、その言い方は誤解しますよー。心臓の譲渡を行う悪魔なんてそうはいませんから。だからこそ同族から心臓を捧げられた悪魔は『心臓持ち』なんて呼ばれて、一種のステータスみたいになってるんですよ~」


 うーむ。つまり心臓持ちとは言葉の通り他の悪魔の心臓を得た者のことで、それは悪魔にとって価値の大きなことのようじゃな。まぁ、心臓をあげたのに無価値と言われたらあげた方も悲惨じゃろうが、半ば押し付けられた儂としては何事? と言った感じなんじゃが。まぁそれは良い。


 スキルは確か魔法と同じで肉体に宿る気を高めることで発動する特殊能力のことじゃな。ふむ、なら分からんのは一つじゃな。


「『悪魔の契約』ってなに?」


 名前から察するに悪魔は皆持っておるスキルのようじゃ。なら儂も使えるのじゃろうか?


「『悪魔の契約』は代償を払った対象との間に特別なルールを決め、それを破った際には罰を与えることができる、悪魔固有のスキルです~。契約者が大きな代償を支払うほど、強制力が高く、かつ応用力の高い契約を結べるんですよ。勿論心臓は最も大きな代償の一つです~」

「え~と、つまり僕とアクロエちゃんの間に何か特別なルールが?」

「はいです~。まず心臓を得たお坊っちゃまは自分が受けたダメージをアクロエちゃんに肩代わりさせられます。その上アクロエちゃんの魔力を自身の力に上乗せすることもできるんですよ~」


 ただでさえ凄い体なのに、更に外部バッテリーをゲットじゃと? 魔術師として儂の資質は止まることを知らぬの。


「あれ? ならアクロエちゃんは心臓を僕に渡して何のメリットが」

「それは勿論、忠誠心の証明ですよ~。心臓を渡した以上もうアクロエちゃんは絶対にお坊っちゃまを裏切れませんから~。お坊っちゃまが望むのならアクロエちゃんに何だってさせられますよ。まぁ、一応の利点としてお坊っちゃまから魔力の供給を受けることもできますが、それもお坊っちゃまの魔力が弱ければとても払った代償には釣り合いませんよ~」


 エイナリンが呆れたようにアクロエちゃんを見る。しかしアクロエちゃんはエイナリンの、何をやらかしてるんでしょうかねこの子は~、的な目を向けられても怯まない。むしろ誇らしげに慎ましくも美しいチッパイ様をはるのじゃった。


「リバークロス様なら大丈夫。私の将来は明るい」

「えー、親友として心配です~。嫌になったらいつでも言ってくださいよー。私がお坊っちゃまの中からアクロエちゃんの心臓を抉り出して上げますから~」


 ちょっ、あれ? エイナリンさん? 気のせいか、何か怖いことを言ってはおりませんかの。


 儂がエイナリンの魔族らしさに戦慄しておると、勢いよく扉が開かれた。


「ちょっと、エイナリン。呼んで来るだけの簡単な仕事に一体何時まで時間をかけるつもりですの? 私をここまで待たせるなんて不敬ですわよ」


 突然部屋に入ってきたのはマイマザーのような紅い髪のお子様じゃ。瞳は黄金色のマイマザーとは違い血のような紅で、腕を組んでエイナリンを睨み付けるその姿からは幼いながらも女王のような貫禄を漂わせておる。ふむ、何やら良いところのお嬢様のようじゃの。


「あー。ご免なさいです~。すっかり忘れてました~」


 エイナリンは悪びれた様子も見せずに笑いながら頭をかく。その姿に幼女のこめかみに青筋が浮いた。


「貴方、お母様のお気に入りだからと、少し調子に乗りすぎではありませんの?」


 幼女の紅い瞳がますます紅さを増しおった。そしてこちらに向けられる怒気。これはヤバイわい。てっきり親の七光り的なお嬢ちゃんの登場かと思えば、三百年生きた儂の勘が言っておる。目の前の幼女は決して舐めてよい相手ではないと。

 

「まぁ、まぁ。落ち着いてエグリナラシア」


 幼女の開けたドアからもう一人入ってきた。落ち着いた声音で幼女に話しかけたのは、黄金の髪と瞳の美少年じゃ。その少年を見たとき、儂の全身の肌が泡立ちおったわ。何じゃ、何じゃ? ここは化け物屋敷か? あ、儂も悪魔じゃった。


「でもお兄様」


 紅い幼女が黄金の美少年に不満そうな顔を向ける。じゃが、黄金の美少年が柔らかく微笑むと、あっという間に機嫌を直した。何、その能力? 儂も欲しいんじゃが。


「今日は僕達の弟に会える記念すべき日だよ。こんな日に小さなことで争うのは止めよう」

「お兄様がそう仰るのでしたら。それで? 私の弟はどこですの? 噂ではもう喋れるとか」


 幼女がキョロキョロと辺りを見渡す。当然儂も視界に入っておるはずじゃが完全にスルーじゃ。てっきり儂を探しにきたのかと思っておったので、若干拍子抜けじゃな。


「ここにいますよー」


 かと思えばエイナリンにグイっと背中を押される儂。


「は?」


 幼女が間抜けな声を出した。そして次に怪訝そうな表情で聞いてくる。

  

「何を言ってますの? どこの子かは知りませんが、彼はどうみても私と同じくらいではありませんか。弟はまだ赤ん坊のはずですわよ」


 どうやら幼女、と言うか話から察するに儂のマイシスターであるらしいエグリナラシアは、儂が二足歩行しておるせいで儂を赤子じゃと認識できんらしい。


「初めまして。リバークロスです」


 仕方ないので取り合えず儂から挨拶してみた。怖そうなマイシスターじゃが、せっかくの姉弟じゃ。仲良くできるに越したことはない。無論、マイブラザーともな。


 儂がそう思うのと同時、二人……二柱? いや、面倒なので人でいいじゃろ。とにかく二人が表情を変えおった。


「…本当に私の弟ですの? 0歳児とは思えないかなり強かな感情を感じましたわよ」

「本当なら凄いね。これは噂以上だよ」


 マイシスターは半信半疑と言った顔で、マイブラザーは感心したように儂を見てくる。そう言えば悪魔族は他者の感情をある程度察知できるんじゃったな。どれどれ儂も少し試してみるかの。


 ふむふむ。……うーむ。慣れてないのでよく分からんが、何故かマイシスターの方から猜疑の感情を感じるわい。どうやら何ぞ疑われておるようじゃ。

 

 儂のその考えを肯定するかのように、マイシスターが鋭い視線を儂に向けてきた。


「言っておきますけど、魔王の息子を自称すれば子供とは言え厳しい罰が下りますわよ」

「何でそこまで疑うの?」


 いくら二足歩行しとるとは言え、少々疑いすぎではなかろうか? 儂の疑問にマイシスターはキッパリと言った。


「だって貴方。どう見ても私と同じか、それ以上に体が大きいのですもの」

「え?」


 言われてみれば確かに小学生の低学年くらいは行ってそうなマイシスターと目線がほぼ同じじゃ。そこで儂が改めて自分の体を見下ろしたとき、儂、あることに気がついちゃったんだよね。


「あれ? 僕の手足が?」


 伸びておるのじゃ。というか体が成長しておる。儂の中の基準が大人なので、寝起きということもあり気付かなかったが、儂の体は赤ん坊と言うには少々無理があるサイズになっておった。


「え? 何で?」


 いくら魔王の子供でも成長早すぎではなかろうか? いや、儂と同じ魔王の子供であるマイシスターとマイブラザーが驚いている時点でこれが普通ではないと察することができる。しかし原因は何じゃろうか? 儂、何か変なものでも食べ……とるの。


「アクロエちゃん?」


 バリバリにあった心当たりの悪魔に問うてみる。アクロエちゃんは胸を張ると、


「お坊っちゃまの体の一部になれてこのアクエロ、とても光栄です。これからもお坊っちゃまが望むままにこの肢体を貪ってくださいね」


 などと、怖いのかエロいのか判断に困ることを口にしおった。まったくもって悪魔はエロ怖じゃわ。今はまだ、そんな風に思える儂じゃった。



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