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本当は怖い悪魔との契約 

 全身を襲う衝撃。それはまるで小舟で荒れ狂う大海に放り出されたかのような錯覚を俺へともたらした。意識が飛びかけるのを必死に堪え、何度も何度も繰り返し結界を張るが、その度に第一級魔法と言う途方もない大海(エネルギー)に揺らされ、小舟(けっかい)転覆(はかい)される。


 全身に走るダメージは凄まじく、スキルを使って逸らそうとするが、一瞬で消えない連続的な衝撃を全て転生させることはできなかった。俺は何か出来ないかと必死の抵抗を続けるものの、やはり不意を突かれたのは大きく、無防備に近い形で第一級魔法がもたらすダメージに耐え続けなければならなかった。もしも魔王の鎧を着ていなかったら終わっていたかもしれない。それほどの衝撃。


 だからこそ魔法が止んだ後、五体満足という結果(こううん)に喜ぶよりも先に驚いた。


「なに……が」


 意識を必死に繋ぎ止めながら俺は現状の確認を急ぐ。周囲は水蒸気のようなもので包まれ視界がまったく効かない状態だ。今もなお砕けた床からモクモクと上がり続ける煙。恐らくは試練の場という特殊な部屋を守る仕掛け、耐熱用に仕掛けられた水の結界か何かの反応だろう。


「アクエロ。……おい? アクエロ」


 ダメージのせいで可笑しくなった平衡感覚。上下左右を見失いかけながらもアナラパルの次の攻撃に備えて俺は何とか立ち上がった。


(……リバークロス様)


 ようやく返ってきた声はしかし非常に弱々しいものだった。


「どうした? 無事か?」


(申し訳ありません。予想以上のダメージに暫く外に出れそうもありません)


 俺の中に潜っていたアクエロの方が俺よりもダメージが大きいだと? まさかーー


「お前、俺のダメージを引き受けたのか?」


(従者として当然のことをしたまでです)


 答える声は辛そうではあるものの、思いの外しっかりしていた。その事実に安堵する。


「……ッチ。余計なことを。分かった。後は俺の中で大人しくしていろ。あの程度の魔族、俺だけで十分だ」


 とは嘯いてみたたものの、実際どうしたものか。いくら他の魔将に劣るとは言え、それでも幾千幾万といる魔族、その頂点の一つだ。アクエロの心臓が出力を大幅に下げた以上、実質俺の戦力は半減している。この状態で果たして勝てるだろうか?


(リバークロス様。あれをやるべきだと愚考します)


「あれ? ……って、まさか」


 最初は何のことかと訝しんだが、考えてみれば考えるまでもなくこの状況を覆せる手段など限られていた。


「あれにはお前の協力が不可欠だ。その状態で出来るのか?」


(問題ありません。私が担当するのは意識ですから、思考がはっきりしている状態ならきちんと処理して見せます。それよりもリバークロス様の方こそお体は大丈夫でしょうか? 私が肉体面のサポートをできない今、負担はリバークロス様の方が大きくなるものと思われます)


「それこそ愚問だな。お前のお陰と言うのもあるが、この程度なら何の支障もない」


(では…)


「ああ。やるぞ。そ…」


 途切れる会話。俺がそれを躱せたのは運の要素が大きく入っていた。アクエロとの会話の最中、不意に感じた悪寒。それから距離を取るように身を引けば鼻先を剣の切っ先がかすめていった。


「ち、まさかあれを凌ぎきるとはね。認めてやるよ。大したもんだ」

「テメェ」


 俺はアナラパルへ向けて(メテオ)(エッジ)を放った。咄嗟だったので魔力の増幅が足りない。これでは光弾ではなくただの投擲だ。案の定アナラパルはろくに防ごうともせずに直進してくる。ナイフはアナラパルの体に当たると悲鳴のような甲高い音を立てて弾かれた。


「無駄な足掻きは苦しむだけだよ」


 そう言いながら先程までとは戦法が打って変わり、真正面からのごり押しを仕掛けてくるアナラパル。大剣が俺の首をあるいは銅を分かとうと唸りをあげる。


「クソ。この野郎」


 こちらに回復の隙を与えないつもりだ。完全に詰みに来ている。どうする? 魔将だけあって剣術、体術どちらも独特ながら信じられないレベルだ。動けば動くほど追い込まれてーー


「貰ったよ!!」

 

 反撃するべきか回避に徹するべきか、ほんの微かな一瞬の迷いが生んだタイムラグ。一秒どころかまだ肉体にも反映されていない思考上の迷いをアナラパルは正確についてきた。


 アナラパルの動きが今までと僅かに変わったのだ。反撃か回避か、その刹那の迷いを突かれた俺は対処できずにアナラパルの降り下ろした大剣をもろに首に受ける。本来ならこれで首を飛ばされて終わっていただろう。だがーー


「甘めぇよ」


 スキル発動ーー『転生する衝撃』


 俺の首を切り飛ばすはずのエネルギーは全てアナラパルが着ている鎧へと返した。


「何だと?」


 突然自分の鎧が衝撃に大きく揺れ、ダメージはないとは言えさしもの魔将も体勢を僅かに崩す。


「ラァ!」

 

 その隙を突いて俺はその顔面を魔力を大量に込めた拳で殴り飛ばしたーーつもりだったのだが、


「あれを躱すか」


 アナラパルは俺の拳をギリギリのところで背後に大きく跳んで躱す。どうやら少し不意をついた程度では傷付き動きが鈍ったこの体では魔将を捉えられないようだ。かといって魔将ともあろう者が敵のダメージの回復を待つはずがない。


「しぶといね! けど、それもいつまで持つか」


 予想通り後ろに大きく跳んだ魔将は着地と同時にもの凄い勢いでこちらに戻ってくる。助走で勢いの付いた一太刀。あれを正面から受けるわけにはいかないだろうな。


「……セット」


 魔力をナイフの刀身で増幅していく。さぁ掛かってこい。ギリギリまで引き付けて至近距離でお見舞いしてやるぜ。


(リバークロス様! 後ろです)


 アクエロが俺の中で叫んだ。その声の意味を確認するよりも早く俺は跳んだ。直後火球が俺のいた場所を通りすぎる。例の(スキル)を俺の背後で発動させていたのか、加速して迫ってくるアナラバルに気を取られてまったく気付けなかった。


 俺が避けた火球は勢いを弱めることなくそのまま直進。当然ながら俺に向かって真っ直ぐ突進して来ていたアナラバルに当たる……かと思いきやーー


「オラァ!」


 何とアナラパルの奴、火球を大剣で野球ボールのように撃ってこちらに方向転換させやがった。その際大剣に一瞬だけ魔法陣が浮かび上がる。恐らくはそういう魔法具、あるいは魔法を反射、増幅させる類いの魔法をスキルを使って大剣に掛けていたのだろう。火球は一回り程大きくなって俺に向かってくる。


 いや、それよりも問題なのはーー


「っち、どこに行きやがった?」


 迫り来る火球も厄介ではあるが問題はアナラパルの動向だ。アイツ火球の陰に隠れて姿を完全に消しやがった。体は……駄目だ。まだダメージが抜けきらない。今接近戦を仕掛けられたら押しきられてそのまま殺られかねない。


「君臨者の名の下に光を欺け『(ダーク)(ミスト)』」


 魔力を遮断する霧を魔法で産み出し周囲を覆う。火球を受けるわけにはいかないが、攻撃を避けた後の無防備な所を斬りかかられでもしたらヤバイ。これで少しは回避の確率が上がれば良いが。


 覚悟を決め、跳躍。上ではなく横に飛んでアナラパルの攻撃に備える。火球は無事に躱せた。肝心のアナラパルはーー


「なっ、んだと~?」


 火球の影に隠れたアナラパルはこちらに斬り込んでなどいなかった。むしろ大きく距離を取りそこでゆっくりと詠唱を唱えながら魔力を練りに練っていた。何のために?ーードクン。ドクン。ーーそんなの、…決まっているだろうが。


「さあ、終わりだよ」


 詠唱を唱えているはずのアナラパルからそんな声が聞こえた気がした。魔将の顔が再びあの表情に変わる。勝ち誇っているかのような、あるいは餌を見ているかのような、そんな表情。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。魔将が放つ最大威力の第一級魔法を防ぐ結界は今から作れるだろうか? いや、無理だ。


 スキルで防ぐか? 駄目だ。それでは先ほどの二の舞だ。持続性のない魔法ならスキルを使えば何とかなるかもしれないが、それを期待するにはオッズが高すぎる。

 

 アクエロもすでにボロボロだろう。この状態でもう一度魔将が放つ第一級魔法を受けて俺の体はもつだろうか?


「ーー草原に鳴り響け。今は遠き友の所まで『野に響く反逆の牙』」


 反撃の暇など与えぬとばかりに圧倒的な風の力が解き放たれる。規模が大きい。観客を守るため周囲を結界で囲まれたこの場所では逃げきれない。


「……ふざけるなよ」


 打つ手なしの状態に歯軋りする。するしかない。そんなときーー


(お待たせしましたリバークロス様。私の分の詠唱は完了しました)


 アクエロのその言葉と共に信じられないような力が俺の中から溢れだしてきた。


「よくやった!」


 俺は叫ぶように声を上げアクエロを誉める。最初からこうする手筈だったが心話が途中で止められたせいでアクエロがちゃんと準備に取り掛かったか確認できなかったのだが、そこは文字通り以心伝心ならぬ一心同体の相手(パートナー)。俺の望む行動をきちんと取っていた。

 

 風の牙が迫る。第一級魔法という信じられないエネルギーを秘めた暴風。しかしそれが驚異だったのは先程までの話だ。俺は全身から溢れてくる魔力を持って襲い掛かってくる風の牙を止めた。


「な、何だと?」


 初めてアナラパルの顔が驚愕に揺れた。百戦錬磨の魔将のその顔は中々に見物だ。


「魔力の放出だけで第一級魔法を止めた? 何だいその馬鹿げた力は?」


 アナラパルの疑問に俺は答えない。と言うかさすがに第一級魔法を押さえながら会話に興じる余裕はない。俺は急いで自分の分の詠唱を完成させることにした。


「月の扉を開けて、夜の帳を越えて、新しき朝を迎え入れよう」


 この世界の魔法は魔力で世界(システム)と繋がり主言語や準言語と呼ばれるパスワードを唱えることで、世界(システム)が用意した一つの魔法(げんしょう)を行使することができる。


 そこである時俺は思い付いた。それなら魔力を使って自分の望む魔法(げんしょう)を世界の方に書き込むことはできないだろうかと。


「手にしたものは異なる理。異なる器。されどそれは我が望みしモノ」


 そうして辿り着いたオレだけの現象(まほう)。まだまだ未完成もいいところでアクエロの協力なしには行使できないが、その効果はこの俺の切り札に相応しいと自負している。


「おいおい、アンタ。それはまさか……」


 アナラパルが何かに気付いたかのように目を見開く。周囲でも俺がアクエロの心臓を持っているのを知った時と同等か、あるいはそれ以上のざわめきが起こっていた。


「我は行く。我は飛翔する。更なる高みへと」


 そんな中詠唱が完成する。本来はアクエロの分の詠唱(パスワード)も必要なのだが、それは既に俺の中でアクエロの奴がきちんと唱え終わっている。今第一級魔法を止めるほどの魔力は中途半端に発動しかけている魔法、そこから得ているのだ。


 アナラパルが喜ぶべきか、それとも憎むべきか判断のつかない、そんなアンビバレンツな表情を浮かべ、呟いた。


「アンタも持っていると言うのかい。世界に自らの(ルール)を書き込む権利を。王たる……その資格を」


 そうして俺がこの世界に刻み込んでやった魔法が発動する。


 創造魔法ーー『強者アストロングマン飛躍リープ』」


 それは世界の根源への扉を開け続ける魔法。


 本来魔術は様々な手段を用いて世界のエネルギーを応用し、自らが望む現象を起こす。当然起こしたい現象が大きければ大きいほど必要となるエネルギーは大きくなり、魔術師はそのエネルギーをかき集めるためエネルギーに満ちた、いやエネルギーそのものである世界の根源を目指して潜る。


 この世界で魔術を扱い易いのは既に魔法と言う形でその手段が確立されているからだ。本来は極限の精神統一や覚りと呼ばれる変性意識を持って世界の根源を目指して潜り、そこからほんの一握りだけのエネルギーを持ち帰るところを、詠唱(ボタン)一つで組み上げまでやってくれる魔法(システム)があるのだから、そりゃあさぞかし魔術(まほう)を使いやすいことだろう。


 しかしそれではダメだ。システムの括りに縛られているだけでは真の強者とは言えない。


 俺はこの世界に更なる飛躍を求めてやって来たのだ。なのに既に世界にある上限の決まったシステムを使いこなして満足などと言うことはあり得ない。


 故に俺は行く。自らを進化させたいと言う強者が持つ本能を糧に更なる高みへと。その答えがこの魔法。魔法(システム)の力を踏み台にして、より深く世界と結び付くための魔術(ぎじゅつ)だ。


 魔法(システム)より一段上の世界と結び付き、その状態を維持する。この魔法が発動している限り俺の魔力は無尽蔵と言っていいだろう。無論どれだけ燃料を手に入れてもそれを扱う器が持たなくては話しにならない。いくら魔族という並外れた魔術適正を持つ体、その中でも魔王の血を引く最高品質の器を持っていたとしても、まだ年若いこの体では精々持って数分が良いところだろう。だがそれだけあればーー


「お釣りがくるな」


 言って、俺は魔将の放った風の第一級魔法を握り潰した。


「なっ!?」


 視線の先では驚きながらも大剣を構えるアナラパル。俺は一歩を踏み出した。


「がはぁ!?」


 すると俺の体はそこそこ距離があったはずのアナラパルを轢いていた。俺の体に当たったアナラパルが馬鹿みたいな速度で吹っ飛んでいく。それを見送るオレ。ああ、でも今からでも簡単に追い付けそうだな。


 カチン。


「ん?」


 思い付きのままにアナラパルを捕まえようと思ったらいきなり足元が爆発した。同時に周囲に雨あられと魔法が降り注ぐが、何だろうか、まるで防ぐ気がしない。それよりもーー


「ちぃ。この力。どうやら本物だね」


 試練の間の結界に突っ込んでようやく止まれたアナラパルがオレの横で呟いた。


「おい」

「な!?」


 声をかけてやるとようやく反応する。何てとろいのだろうか。ぶん殴ってやっても良かったがよくみれば結構美人なのでデコピンで許してやる。


「ぐおぁ!?」


 額から血を吹き出しながらも、アナラパルはまたもぶっ飛んでいく。指を見れば肉がこびりついていた。


「…………パクリ…………うまい」


 口に広がるジューシーな味わい。うまい。うまい。うまい。もっと。もっと。もっと。


 そこで俺は違和感に気づいた。


「……何…だ?」


 意識が強い衝動に塗りつぶされていき。原始的な欲求が込み上げてくる。これはまさかーー


「おい、アクエロ。思考の制御が上手く行ってないぞ。きちんとコントロールしろ」


 この魔法の最大の欠点は世界とより深く繋がりそこからエネルギーを流し続ける。それだけの過程でほぼ全ての魔術的リソースを使い込んでしまうことだ。つまりエネルギーを組み上げるのに必死になって、そのエネルギーを活用できなくなるのだ。


 それを解決したのが俺の中にいるアクエロという存在だ。俺が世界と結び付き、そのエネルギーを汲み上げる。そしてアクエロがそのエネルギーから俺達の自我を守り、同時に魔力をコントロールする。さもなければ大量に流れ込むエネルギーに俺の自我は容易く飲み込まれ、例え死ななくても自我を失い暴走する肉体が神話の怪物の如く暴れまわることだろう。


 そうならない為の役割分担。だがそれが上手く機能していない。


「おい? アクエロ? アクエロ?」


 実戦で使う故の不具合でも出たのだろうか? 何とも不吉なことにアクエロからの返事はない。そうこうしている間にも俺の中で様々な衝動が理性を食い潰さんと勢いを増す。破壊衝動に性衝動。しかしエネルギーを得れば得るほどに性的な欲求は消えていき、破壊衝動だけが強さを増し続ける。このままだと本当にヤバイ。そう思ったときだったーー


(リバークロス様。支配者とはどのようなモノと考えておられますか?)


 ようやくあった返事は、しかし驚くほどに場違いのものだった。


「何を……言ってやがる? 早く魔力をコントロールしろ。このままでは……もたんぞ」


(私はこう考えます。支配者とは唯一の存在でなければならないと)


 俺の言葉を無視してアクエロの意味不明な言葉は続く。


(しかし唯一である。これがどれだけ難しいことなのかはリバークロス様ほど聡明な方であればお分かりでしょう。どのような財を成そうとも価値が変動すればガラクタへと成り果てる。いかなる美男美女を侍らそうとも心とは留めて置けないもの。どれ程の力を誇ろうが時代は常に新たな強者を作り続ける。唯一であるということの何と難しいことでしょうか)


「それが何だ? 価値が変動するならそれに合わせた財をまた作ればいい。心が離れるなら引き寄せればいい。新たな強者が生まれるならそいつらもまとめて超えればいい。それだけの話だろうが。分かったか? 分かったなら、くだらんこと言ってないで、さっさとやることをやりやがれ」


(ああ。やはりあなたは素晴らしいリバークロス様。ええ。ええ。勿論それでも良いでしょう。それでも立派な支配者と言えますよ)


 言えると言いつつもその口調はまったく俺の意見に賛同などしておらず、まるでもっといい考えを知っていると言わんばかりだ。


(しかしリバークロス様、僭越ながら私はもっと良い方法を知っております)

 

「…………」


 オレは答えない。いや、もう答えるほどの余力がないと言った方が正確だろう。


(それはですね。生き残ることです。この世界に存在するありとあらゆる生物を殺し尽くして、ただ一魔生き残る。それこそが唯一無二の支配者の証し)


「アクエロ。テメェ。……まさか」


 ここまで言われれば嫌でも分かる。何故アクエロが制御をまったく行わないのか。この状況は……不味い。


 クソ!! 油断した。油断した。油断した。


 アクエロがオレを自分好みに改造しようとしていたのは知っていたし、警戒もしていた。それでもまさかこんな直接的な行動に出るとは思わなかった。今更だがやはりアクエロに自我の保護を任せたのは失敗だったのだ。いや、だがしかし体を操る主体がオレである以上役割の変更は無理だ。あの時点であの決断は間違いとは言いがたい。何よりも後悔なんてしても仕方がない。早くなんとかしないと、このままではーー


「おいおい、どうなってるんだい? これは」


 霞む視界の先で、額から血を流したアナラパルが困惑したようにこちらを見ている。


「に、……げろ……」


 別に助ける義理はないが、このままアクエロの思い通りになるというのも気に入らない。気に入らないが、最早体を動かすどころか意識を保っているのも難しい。張り上げたはずの声は想像以上に弱々しかった。


(さあ、私達二魔で全てを(しはい)し尽くしてやりましょう。(しはい)して。(しはい)して。(しはい)して。そうして最後に残った私を(しはい)して。そうして完成してください。私が作り出す最強最後にして愛しい私の、私だけの式神(リバークロス))」


「アクエロォオオオーー!!」


 そうして凄まじいエネルギーの本流に飲み込まれて、俺の意識は途切れた。


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