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魔将アナラパルの戦法

 魔将アナラパル。魔王軍最高幹部の一人で魔王であるマイマザーの次に権力を持つ十三魔の内の一人。魔王軍に所属してない王を除けばその実力は魔族でも最強レベル。彼女に勝つことができれば今日やらかしてしもうたあれやこれもきっと有耶無耶になるに違いない。うん。きっとそのはずじゃ。


「セット」


 デュランダルの指輪によって作り出したナイフが儂の魔力を増幅していく。


(メテオ)(エッジ)


 溢れんばかりの魔力で光弾と化したナイフが魔将アナラパルに襲いかかる。


「ハッ。鈍いね」


 アナラパルは儂の放った三つの光弾を大剣の一振りで振り払った。うーむ。この技を開発したときは何気にコレ必殺技じゃないかと思うたものじゃが、解体場の時といい流石にこのレベル相手になると簡単に防がれるの。


「いくよ」


 大剣を構えたアナラパルが正面から迫る。ふむ。なんか思うたより遅いの。あのジジイと比べれば亀のようじゃ。


「君臨者は困惑する『惑う霧』」


 お? アナラパルが吐いた息が霧となって儂の周囲を一瞬で覆いおった。……ふーむ。気や魔力の関知にも影響が出ておるの。アナラパルとの距離感が上手く掴めんぞ。まぁこの程度の魔法儂には通じんがの。


「世界を統べた最初の君臨者。汝の名は炎『始炎』」


 直後、炎が吹き上がり霧を焼き払った。


「む?」 


 しかし元に戻った視界のどこにもアナラパルの姿はない。いや違う。空中だ。儂を飛び越え……飛び越え……飛び…? ってーー


「おい? ……まさか」


 何とアナラパルの奴、儂を無視してマーレ達の方へと一直線。空中にいるのは何かの攻撃の前準備かと思い儂は儂の上を通り越すアナラパルをバカ面下げて見送ってしもうた。


「くそ! ふざけんな」


 慌ててアナラパルの背を追いかける。追いかけるがーー


「速い?」


 儂に向かって駆けて来た時とは比べ物にならん速度。あやつ、この為にわざと速度を押さえおったな。最初の動きを見て儂は心のどこかでどのような状況でもあれなら余裕で追い付けると高を括ってしまった。その結果がこれじゃ。ええいクソ。追い付けん。


 見ればギンカはスキルをいくつも発動させながら前へ出ようとする息子を下がらせ、自身は槍を構える。そして意外なことにマーレも妹を庇うように前へ出て杖を構えた。


 迎撃の姿勢。それは魔将のあの速度を前に少年少女(あしでまとい)を抱えたマーレ達に取れる唯一の手段であることに間違いないじゃろう。間違いはないのじゃがーー


「瞬殺されて終わるぞ」


 無理じゃ。元々人間と上級魔族にはアホみたいな基本能力(スペック)の差がある。儂が想定していたのは戦いの余波からの避難やあるいは儂と戦っておる間にいくつか意図的に放たれるであろう流れ弾を防ぐこと。それにしたってかなり命がけになったはずじゃ。眷属化で基本能力が上がったとはいえ、ああも真っ正面から魔将に攻撃され、更に少年少女のせいで身動き取れないとなれば瞬殺は確定じゃろう。


「……ふざけるなよ」


 頭に血が昇り、心臓が大きく跳ねる。ああ、本当にふざけるなよ。獣人や他の魔族から目をつけられる覚悟でそいつ等を助けたんだぞ? その成果がすべて水の泡? あり得ないだろが、そんなの。


 ドクン。ドクン。心臓が熱い。理性が塗り潰されるほどの怒りが込み上げてくる。


 フザケルナ。救ってやる側に嫌悪を向けられてまでそいつ等を助けようとしてるんだぞ? 穴が開きそうになった俺の胃に謝れよ。


 ドクン。ドクン。全身が熱い。視界が一気に狭まり、他のことがどうでもよくなる。


 フザケルナ。俺の眷属(モノ)に何してやがる?


「ふざけるなよ。テメー!」


 俺は全魔力を両足に収束。反撃を受けたらとかそんな些細なことはすべて忘れ、ただ速度を捻出する。魔将が大剣を振りかぶった。当然僅かに魔将の速度が下がる。そのほんの微かな時間に割り込むべく俺の全魔力が爆発する。


「らぁー!!」


 掛け声とともに俺は振り下ろされる大剣とギンカ達の間に体を割り込ませる。その際に少し離れた場所にいるマーレ達は念動力でこの場から遠ざけ、ギンカ達はタックルの形で庇う。無論ギンカはともかくガキの方はこちらがカバーしてやらなければ上級魔族のタックルに体が持つはずがないのでその全身を俺の魔力で包んでやった。


「馬鹿が」


 魔将が無防備な背中を見せて割り込んだ俺を見て呟いた。果たしてその声を聞いたのは大剣が振り下ろされる前か後か、判別は付かなかった。


 背中に襲いかかる衝撃。足に全魔力を集中させそれからすぐに念動力で人間を保護。流石に防御に魔力を回す余裕はなかった。もしも魔王の鎧を着ていなかったら、そして魔王の鎧を今の鎧の状態にしていなければ一瞬で胴体が真っ二つになっていただろう。だがそれでもーー。


 ピキリ。


 魔族の超感覚が魔王の鎧がひび割れるのを教えてくれる。流石に魔力なしではいかに魔王の鎧でも魔将の攻撃は防げないのか。

 そんなことを頭の片隅で思えるほどに刹那が長い。魔将が振り下ろした一太刀に割り込んだ俺はまさに今生きるか死ぬかの瀬戸際。様々な情報がこの一瞬に凝縮されそれに自然と脳が反応する。魔王の鎧が一秒にも満たない時間魔将の攻撃を遅らせてくれた。


 この瞬間に俺は切り札を切った。切らざるをえなかった。


「アクエロォーー!!」


(お任せを。リバークロス様)


 俺の背中から生えるように飛び出した手が魔将の大剣を弾き返し、魔法弾を放って魔将の体に穴を開ける。


「なっ!?」


 驚愕の声が背後から聞こえて来るがすぐに遠ざかる。時間が通常の速度に戻った。俺はギンカを抱き締めながら地面を転がる。その際ギンカの後ろにいたガキは吹き飛ばしてしまったが、俺の魔力で包んでいるので問題はないだろう。


「大丈夫か?」


 俺は組み敷いた形になったギンカに声を駆けた。だがーー


「だ、大丈夫だ。だから……」


 ギンカは嫌悪に顔を歪めると俺から顔をそらし、早くどけとばかりに身動ぎする。……流石にその態度はないだろうと、かなりイラッとした。


「おい」

「え?」


 俺はギンカの顔を掴むと無理矢理俺の方を向かせ、その唇を強引に奪う。


「ん! んん!?」


 ギンカが抵抗するが知ったことではない。俺は舌を使って好きなだけギンカの中をかき回すと、さらに性魔法を行使して快楽を与える。何度かギンカの体が大きく震える。


 抵抗が小さくなってから唇を離す。そのさいわざと垂らしてやった唾液がギンガの豹のような美貌を汚した。


「はぁ。はぁ」


 涙と唾液と羞恥に染まった顔でギンカが俺を睨んでくる。その反抗心丸出しの顔を魔王がやったように舌で舐めてやった。


「お前はもう俺の眷属(もの)だ。その事を忘れるな」

「…はい。……リバークロス…様」


 全然納得してなさそうな顔で、それでも口だけは従順な言葉を吐くギンカ。僅かな腹立たしさは残るものの今の口づけでチャラにしといてやろう。それよりも今はーー


「アクエロ」


 立ち上がり背後を振り向くと俺の代わりにアクエロが魔将と向き合っていた。


「どういうつもりだい? これは?」


 アクエロの魔法で体に穴を開けられた魔将は傷口を手で押さえながら憤怒の表情で向かい合うアクエロを睨み付けていた。


「…何が?」


 アクエロは俺以外に向けるそっけのない態度で魔将の怒りを軽く受け流す。魔将の怒りが爆発した。


「惚けるんじゃないよ!! この余興は一対五と魔王様が決められたんだよ。例え従者だろうと割って入って良いと思っているのかい?」

「そのことならまったく問題ない」


 アクエロはあくまでも淡々と答える。魔将を前にまったく物怖じしない。それでこそこの魔王(おれ)の女だ。


「何だと? どういうことだい?」

「俺とアクエロは最早二魔で一魔ということだ」


 俺がアクエロの横に並ぶと、アクエロは俺に寄りかかるようにして俺の中に体を入れてきた。アナラパルは最初怪訝そうな表情を浮かべたがすぐに何かに思い当たったように瞳を大きく見開いた。


「まかさそれ、空間魔法なんかじゃなく心臓の譲渡による同一化現象かい?」


 アナラパルの言葉を聞いてか、それとも自分達で同じ結論にたどり着いたのか、客席から今までで最大の声が上がり、中には「馬鹿な!?」と叫ぶ者までいた。


「こ、これは驚いたね。従者をやっているだけでも信じられないのに、あの悪魔王の娘がまさか他の悪魔に心臓を捧げたとは。……アンタその意味分かっているのかい?」

「もちろん。この女は俺のモノだと言うことだろう」


 俺はアクエロをこれ見よがしに抱き寄せた。


「やっぱり分かってないね。その悪魔おんなを手に入れると言うことはそれだけの意味じゃないんだよ。人間を眷属にしたりと、どうにもアンタ……危険だね」


 魔将が俺に向ける魔力、そこに込められる意思が変わる。今までの子供の喧嘩の延長にあるような単純な怒りから、戦士として放つ冷徹な殺気へと。俺は心地の良いその魔力さっきに狂い出しそうになる理性を何とかコントロールする。

 そう、落ち着く必要があるのだ。ただ力を暴走させるだけでは魔将クラスには勝てない。それは第四位との戦いで既に分かったこと。だがら落ち着け。落ち着いて自分の中の魔王をコントロールしろ。きちんと俺が俺の中の力を引き出し使いこなせればーー


「この俺が負けるわけがねぇ。行くぞ、アクエロ」

「何処までもお供いたします。リバークロス様」


 アクエロと俺は同時に魔力を解き放つ。心臓が熱い。心臓が熱い。心臓が熱い。子供の頃は耐えきれなかったが成人した今の体なら話は別だ。全力で鼓動を刻める事実に二つの心臓が歓喜に震える。そうして俺とアクエロの魔力は混ざり合いながら一つの巨大な魔力を形成した。その質、その量。最早完全に目の前のアナラパルを上回っている。


「上等だよ。血筋だけのクソガキ共が。魔王軍最高幹部の肩書きを舐めんじゃないよ。掛かってきな。年期の違い、教えてやるよ」


 大剣を構えこちらに負けじと魔力を高める魔将。その力は見事だがやはり俺とアクエロの方が上だ。クックック。ようやく目の上のたんこぶを一つ潰すことができる。


 俺は歓喜に震えながら魔将に魔力を纏った掌を向けた。


「君臨者の名の下に堕ちよ眩しき光『シャイニングきの終焉エンド』」


 そうして闇が魔将を飲み込んだ。


 

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