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懲りない奴等

「二魔とも危ないところだったね」


 エイナリンの階層からの帰り道、マイブラザーが何時もの無駄に魅力的な笑みを浮かべながら言った。


「別にあれくらい余裕でしたわ。お兄様が来なくとも私達二魔でどうとでも出来ました。そうでしょう? リバークロス」


「ウン、ソウダネ。ソノトオリダヨ、オネエサマ」

「何ですかその喋り方は。真面目に答えなさいな」


 マイシスターからハイキックを頂戴する儂。これこれ、はしたないぞよ、お姉さま。


「いや、だって流石にあれは無理だよ。姉さんだって分かってるだろ?」

「そ、それは……ふん。ま、あんなふざけた態度を許されるくらいに強いことは認めますわ」

「姉さん……危うく僕等、またトラウマを刻まれるところだったんだよ。ちゃんと反省してるの?」


 儂、まだ三歳なのに下手をすれば一生ものの傷を負うところじゃったわい。主に股間に。


「いや、その辺は大丈夫だと思うよ。エイナリンさんは本気で二魔を襲う気はなかっただろうからね」

「どう言うことですの? 確かに遊ばれていたのは自覚していましたが、あのままなら私もリバークロスも確実におね……エイナリンに弄ばれてましたわよ」


 んん? 気のせいじゃよな? 今、エイナリンのことを何て言いかけましたかね? マイシスター。


「もしもエイナリンさんが本気ならそもそも僕を逃がすこともなかっただろうさ。僕がアクエロさんを連れて来るのもたぶん予想されていたね」

「そういえば時間がどうとか言ってたね」


 マイブラザーの言葉にエイナリンに追い詰められた時のことを思い出す。


「た、確かに。でも、何故そんなことを」

「さぁ、それはエイナリンさんにしか分からないけど、釘を刺したかったんじゃないかな、僕達……と言うかリバークロスに」


 儂に? はて何かしたかの。生まれてからの三年間は大人しく修行に専念しておったし、目をつけられるようなヤンチャは今日が初めてだと思うのじゃが。


「今回僕達は無防備に強者であるエイナリンさんの階層に侵入したけど、これがもしも母さんに好意的でない魔族の階層なら洒落ではすまないだろう?」

「用心深さを身に付けさせるためにビビらせたと? 考えすぎではありませんの?」

「そうは思わないよ。何せリバークロスはアクエロさんの心臓を持っているからね。エイナリンさんからしたら無茶をして欲しくないと思うのは当然じゃないかな」


 ふむ。つまり話を聞く限りーー


「え、じゃあ結局言い出しっぺの兄さんが悪いんじゃ…」

「リバークロス。秘密を暴くと言うことは心の琴線に触れると言うこと。危険と隣り合わせるのは昼時に必ずコーヒーブレークが入るくらい当たり前のことだろう? 誰のせいとかそんなつまらないことを言うもんじゃないよ」

「お、おう」


 マイブラザーの真剣な表情につい頷いてしまう押しに弱い儂。と言うかコーヒーこの世界にもあるんじゃな。


「むー。私は納得いきませんわ。大体お兄様は無防備と言いますけど、リバークロスがいたので勝算はちゃっんとありましたわ」

「確かにその辺は僕達の予想通りだったね。もしもリバークロスがいなかったら、果たして見逃せてもらえたかどうか」

「ふん。それ込みで挑んだのですから、結果だけ見るなら私達の勝利ですわ」


 反省しておるのか、していないのか。マイシスターもマイブラザーも今一つ何を考えておるのか分からんの。これがジェネレーションギャップと言う奴なんじゃろうか。じゃがマイシスターはああ見えてまったくの考えなしと言う訳でもないしの。繊細過ぎるよりは良いかもしれん。


「でも結局秘密らしい秘密は分からなかったけどね」


 しかしそうは思っても完全に調子に乗られても困るので、キチンと釘を指しておくスタイルの儂。


「いいえ。一つだけ分かりましたわ。エイナリンは……」


 言葉を切り、拳を握りしめるマイシスター。何やらマイシスターの中で色々な感情が錯綜しておる気がするのう。

 やがて目をクワッと見開いてマイシスターは言った。


「小さい女の子が好きなのですわ」

「……えーと、確かに大きくはなかったけど、そこまで小さくもなかったよ? 基本的には姉さんと同じかそれより上だったじゃないか」


 思い返せば十代の後半、だが二十には間違えられない。そんな際どい外見の者か多かったのう。まっ、それはあくまでも人間年齢に例えたらの話で、実際はもっと年上なんじゃろうがな。と言うか是非ともそうであって欲しところじゃ。


「いいえ。エイナリンの実力ならやろうと思えば選り取り見取りのはずなのに、あんな未成熟な子ばかり。これは将来私が目を覚まさせる必要がありますわね」


 マイシスターも今はエイナリンの所に居た者達と似たようなもんじゃが、恐らくは後数年の内に妖艶な美女と呼べる姿になるのじゃろうな。ふっ、子供の成長は早いと言うが魔族は早すぎで寂しく思う暇もないわい。じゃが、今はそれよりもーー


「ねえ、それ、どう意味で? ひょっとして目を覚まさなければいけないのは姉さんのほうじゃないかな?」


 危ない道に傾きかけておる気がするマイシスターの目を覚まさねば。


「フッ、何を言ってますのリバークロス。そんなに私のことが気になるならいつでも私の寝室にお出でなさいな」


 そうして儂に流し目を送ってくるマイシスター。ぬうぁおお!? と、鳥肌が!


「ちょ、そう言うの本当に止めて。姉弟で何て絶対におかしいから」

「いえ、そこは普通にリバークロスの考え方が変なのですわよ」


 現代の常識を語ったら白い目で見られてもうた。仕方のないこととはいえ……解せぬ。


「まぁ、エイナリンさんの性癖が分かったのも一つの成果だよね。さて、じゃあ次はここだね」


 そう言って少し前を歩くマイブラザーが立ち止まる。


「あれ? 兄さん。ここどこですか?」


 見渡せば周囲は未だに儂が知らない風景。…うむ。どうみても儂の部屋がある階層ではないの。


「ここはね。九十九階にある、アクエロさんのエリアだよ」

「……は?」


 何を言っとるんじゃ? こやつは。と思ったのはどうやら儂だけらしくーー


「なるほど、次はアクエロですのね。中々面白い趣向ですわ」


 マイシスターは手を叩いて嬉しそうに微笑んだ。


「そうだろ?」

「ええ、まったく。さすがはお兄様ですわ。愉快、愉快ですわ」

「いや、そんなに言われると照れるな。あはは」

「おほは」


 などと笑い合う二人のバカ兄と姉に対して儂はーー


「いや、懲りろよお前ら」


 両手チョップを頭パッパラパーな二人に敢行した。


「痛い。もう何しますの?」


 儂のチョップをもろに喰らうマイシスターと、


「あはは。リバークロスは意外と怒りっぽいね」


 綺麗に躱すマイブラザー。……ふむ。やはりこの兄は危機回避能力が異常に高いの。


「二魔とも、というか姉さん。さっきエイナリンにボロクソにやられたばかりじゃろうが。ちっとは懲りんか」


 柄にもなく真剣に説教したのじゃが、魔王の血を引く悪ガキ共はちっとも堪えん。


「リバークロス、あなた偶に喋り方がお爺さんくさいですわよ」

「そうだね。でも僕はよく似合っていると思うよ」

「…っむ」


 しもうたわ。あまりのヤンチャぶりについ素が出てしもうた。


「とにかく今日はもう帰るよ」


 もう言い訳するのも面倒なので、強引に二人…と言ってもマイブラザーは掴まえられないので、マイシスターの腕を取って元来た道を戻る。


「そんなに心配しなくとも、アクエロなら絶対大丈夫ですわ」

「なんでそう思うわけ?」


 エイナリンの時も儂、何だかんだで見つかっても大丈夫じゃろうと思うておったのに、結果はまさかのガチバトルじゃし。マイシスターが何を根拠に同じ愚を犯そうとしておるのか、理解できんわい。


「何でもなにも、貴方アクエロの心臓を持っているでしょう。つまり貴方とアクエロは主体と分体の違いはあっても、同一魔族のようなもの。自分の巣に入るのに怒られる謂われはありませんわ」

「え? そう言う考えになるわけ?」


 思い返せば、心臓の使い方を勉強することはあっても、心臓を渡されると言う意味について考えることはあまりしなかったの。


「悪魔が心臓を悪魔に渡すというのは、その者との同一を望んでいるんだよ。そして事実、二魔は心身共に極めて同一に近づく。リバークロスは普段アクエロさんの心臓を止めているようだからまだあまり実感はないだろうけど、その内その意味が分かるよ」


 ふむ。怖いようで興味深くもある。そんな話じゃて。


「なるほど。でも……」


 だからと言ってアクエロちゃんの家に無断で入ることを儂が許可するかは別。そんな感じのことを言おうとしたら、突然儂の肌が泡立った。それはエイナリンの階層でアクエロちゃんが現れた時とよく似た、だがそれ以上の悪寒。


「う、おおぉー!?」


 儂は叫びながら背後を振り返った。そこに居たのはーー



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