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一件落着

 絶体絶命の危機に現れた兄ーーレオリオンは安心させるように微笑むと言った。


「二魔ともよく頑張ったね。後は任せて……アクエロさんに」


 そう言って背後から歩いてくるアクエロに道を譲るように端っこへと移動するレオリオン。


 お前じゃないんかい! と内心で激しく突っ込んだ俺はいい加減に集中力の限界を感じていた。


 ……はぁ~。そもそも儂、もう若くないんじゃからガチバトルってやりたくないんじゃよな。そりゃあ魔術師として力の向上を確認できる実戦は貴重な機会とは思うのじゃが、それにしたってもっとスポーツのようなほのぼのとしたのがええの。


 今回のように負けたら酷い目に合うと言う戦いは出来れば勘弁してほしいところじゃ。


 そりゃあ魔術による暗示で攻撃性を高めれば残虐非道が上等なガチバトルにも確かに対応は可能じゃよ? 可能なんじゃが暗示なんていつまでも続くものでもなし、正気に戻るといつも何とも言えぬ後味の悪さを味わうことになるので、出来れば使いたくないんじゃよな。


 今回にしたってそうじゃ。エイナリンの奴、一体マイシスターに何をやっとるんじゃ!? エロイわ! ドン引きじゃわ! いくら魔族が人間よりも成長が早いとはいえ、まだ幼いマイシスターにあれはないじゃろう。マイシスターはマイシスターでそんな状況を逆手にとるし。身内でドロドロとした行為ってして欲しくないんじゃよな、儂。


「ちょっと、いくらなんでも気を抜きすぎですわよ」


 暗示が解けたことで生じた儂の変化に気付いたのじゃろう。マイシスターが小突いてきよる。そこで儂は気付いた。マイシスターのおっぱいがプルン、プルンしておることに。いや、プルンする程もないのじゃが、思うたほどはあることに。


 やれやれ、やはり魔族の成長は早いの。これで十になってないとは人間なら信じられないところじゃ。


 儂は脱いだ上着をマイシスターに渡す。


「姉さん。これを」

「あら、ありがとうですわ」


 マイシスターがお礼を言ってくるが、そもそも助けた時点で気を効かせるべきじゃったな。暗示を使うとこの辺りに気が利かなくなるのが欠点じゃて。その上悪魔ボディの関係か、思うた以上に攻撃性が高まったような気がしたのう。もしもエイナリンに勝っていたらそれだけでは満足せずに健全なるエロを目指す者として恥ずべき事をしたかもしれん。


 儂は反省点の多い今日一日を振り返る。いまだエイナリンが背後であのホラー染みた笑みを浮かべておるが、まぁ最早儂、打つ手ないし。そもそも今までの話を聞くにエイナリンの奴はこの世界で最強クラスどころか最強の一角ではなかろうか?


 そんなの無理じゃ、無理じゃ~。いくら儂が三百年分の魔術師としての経験と魔王の体と言う最高の器を得たと言っても、エイナリンの生きた時間と戦いの経験は儂を遥かに越えておるじゃろう。エイナリンを越えるには当然じゃがこの体で何十年、あるいはそれ以上の時間しゅぎょうがいる。少なくとも三歳児の儂に勝てる相手ではない。


 ならば儂の下に真っ直ぐ歩いてきた彼女ならばどうなのじゃろうか?


「申し訳ありませんリバークロス様。お待たせしました」


 そう言って跪くアクエロちゃん。


「いや、ナイスタイミングだったよ。さすがはアクエロちゃん」

「リバークロス様がこの階層に来ていることは知っていたのですが、エイナリンの階層なので危険はないと判断してしまいました。レオリオン様が呼びに来てくだされなければ、リバークロス様が一体どんな目に合わされたか。考えるだけでこのアクエロ、震えが止まりません」


 いつもは無表情な顔に慚愧に堪えないと言う表情を浮かべるアクエロちゃん。

 大丈夫じゃよアクエロちゃん。もしもアクエロちゃんが来てくれなければ、儂は睾丸を食い千切られ、マイシスターは同性に純潔を奪われていただけじゃから。……うん。本当に来てくれてありがとね。感謝感激なのじゃ。


「アクエロちゃんが来てくれて本当に助かったよ。さぁ、立ってくれないか。君が謝ることなんて何もないんだから」


 そして出来ればあのドS従者にお仕置きして欲しいのじゃが、何故かアクエロちゃんは中々立ち上がろうとはしなかった。


「いえ、私が到らなかったのは事実です。この愚かな従者に罰をお与えください」

「えっ? いやだからアクエロちゃんは何も悪くないからね」

「そうです、そうです~。アクエロちゃんは悪くないです~。悪いのは私の階層に無断で侵入したお坊っちゃま達です~」


 そう言われるとその通りなんじゃが、エイナリンに言われるのは何となく釈然としないものがあるの。

 アクエロちゃんが跪いたまま、エイナリンをキッと睨んだ。


「エイナリン。お坊っちゃまは私達の主。主が従者の物をどうしようが主の自由」

「なに言ってるんですか~。そんなのは従者じゃなくてただの奴隷ですよ~。従者はあくまでもただの仕事です~。仮に私の全てが欲しければ、自分から差し出したくなるような魅力なり力なりを見せるべきでしょ。仕事でもないのに無防備に上位者の階層に侵入したら、そりゃお仕置きの一つも受けるってもんですよ~。と言うか私の階層でなければもっと危ない目に遭っていたかもしれないんですよ~。むしろ感謝して欲しいくらいなんですけどね~」


 う~む。言いたいことがないわけではないが、基本言い返せんの。マイシスターも流石に反省しておるのか、口をへの字にしてむすっと腕を組んでおるわ。


「お坊っちゃまに謝る気はない?」

「お坊っちゃまが謝るなら聞き入れないこともないですよー」

「そう」


 いつもの無表情に戻ったアクエロちゃんが立ち上がる。その足元に闇が生まれた。


「あ、アクエロちゃん?」


 ちょっぴり期待していた展開になりそうなんじゃが、冷静に考えるとやっぱり止めた方がいいのでは? とビビるチキンな儂。

 そんな儂を安心させるように、アクエロちゃんが微かに微笑んだ。


「ご安心くださいお坊っちゃま。私がエイナリンに従者の態度と言うものを教育して差し上げます」


 そしてアクエロちゃんの生み出した闇が形を持ち始める。それは六体の鎧と剣を装備した骸骨となった。


「えー? ちょっと、ちょっと~。私はアクエロちゃんと戦う気はないですからね~」


 今日初めて、と言うかひょっとしたら儂と出会って初めてエイナリンが素で焦ったような顔を見せる。


「なら、ちゃんとお坊っちゃまに謝って」


 子供に言い聞かせる親のように言うアクエロちゃん。それに対しエイナリンは本当の子供のように頬を膨らませた。


「え~? 私別に悪くないんですけどね~」

「私も別に善悪なんて問うてない」


 そう言うことをハッキリ言う辺り、アクエロちゃんも悪魔なのだと実感するの。


 そうして暫く儂等より遥かに巨大な二魔による睨み合いが続く。まぁ、睨み合いと言うても睨んでおるのはアクエロちゃんだけで、エイナリンは困り果てたような顔をしておるのじゃがの。


 やがてーー


「はー。分かりましたよ~。」


 エイナリンが諦めたように一つ頷いた。そして頭のネジでも落っことしたのか、唐突にワイシャツを脱ぎ捨てた。そりゃあもう見事な脱ぎっぷりじゃて。てっきり脱いだシャツを肩に掛けて、俺に付いて来い。と言い出すんじゃないかと思うほどに、男らしい脱ぎっぷりじゃった。


 そしてシャツの下には何も着ておらんのじゃから当然エイナリンの意外と大きな乳房が顕になる。


「……え? 何してんの?」


 声に出して突っ込んではみたが返事はない。突然の行動に面食らう儂に構わず、エイナリンは儂の前まで来ると何処かふて腐れたように言った。


「えーと。お坊っちゃまを攻撃してマジすみませんでした~。お詫びと言ってはなんですけどー、胸見せましたー。これでチャラですねー」

「お、おう」


 何じゃ。いつぞや謝罪でパンツ見せたときの胸バージョンか。まぁ決して胸につられた訳ではないのじゃが、ここはこれで水に流すとしよう。決して胸につられた訳ではないのじゃがな。


「エイナリン。そんな謝罪じゃ駄目」


 一件落着かと思いきや、儂の横で悪魔がボソリとそう言った。あ、儂も悪魔じゃった。


「ええー。これでいいじゃないですかー」

「駄目。誠意が足りてない」

「そんなのあるわけないじゃないですかー。無茶言わないでくださいよー。アクエロちゃんの悪魔、鬼~」

「私は悪魔、鬼ではない」


 半泣きのエイナリンにアクエロちゃんは冷たく言い返す。う~む。やっぱりアクエロちゃんも容赦のない性格をしておるの。……怒らせないように気を付けよう。そうしよう。


 儂がそう自分に言い聞かせておると、エイナリンがやたらと深い溜め息をつきおった。

 そしてーー


「はー。分かりました~。なら、お坊っちゃま。今日一日だけなら私を好きにして良いですよ~」


 何てことを言いおった。


「えーと、それまじで?」


 確か処女がどうのこうの言っておった気がしたのじゃが、それは良いのじゃろうか? それとも儂がまだ三歳児じゃから、お尻ペンペンで済むと思っておるのじゃろうか?


「勿論ー、お坊っちゃまが言葉だけで許してくれるなら、私はそれで全然構わないんですけどね~」


 一瞬エイナリンの瞳にそうしろよ、オラァ~。と言わんばかりの鋭い光が宿ったのは決して気のせいではないじゃろう。

 じゃが、それを無視して儂が部屋に連れ込んでも、本当に黙って言うことを聞きそうな雰囲気があった。無論それは儂に対する謝罪の気持ちなどではなく、アクエロちゃんに嫌われたくない一心からなのじゃろうが。う~む。本人は親友とか言っておったが二人の関係がいまいち分からんの。


「それでどうしますの?」


 儂がエイナリンという謎過ぎる人物について考察しておると、今まで黙っていたマイシスターが聞いてきた。


「姉さんはどうしたいの?」

「私は……その、罰を与える必要はないと思いますわ。エイナリンの無礼さはさて置き、私達に非がない訳ではありませんしね」


 正直、その答えは少し意外じゃった。マイシスターのことじゃから自分が受けた辱しめ以上のことを嬉々としてエイナリンにやりそうじゃったのじゃが。……まぁ儂に都合の良い答えでもあるので別に良いのじゃが。


「そうだね。僕もそう思うよ」


 ここで罰を与えたら恐らくエイナリンとの関係は完全に終わるじゃろう。正直、それは物凄く勿体ない気がしてならん。

 それに何よりも今は儂がアクエロちゃんの心臓を持っておるから一先ず従っておるが、本人も言っておったように取り出せないわけでもなさそうじゃし、余計な恨みは買わぬ方がええじゃろうな。


 儂の答えを聞いたマイシスターが、目に見えてホッとする。


「そ、そうですの。まぁ、それが良いと私も思いますわよ。ならこれで一件落着ですわね」


 一件落着……は、良いのじゃがマイシスターよ。何故エイナリンの裸を見て同性のお主が頬を赤くしておるのじゃ?


 儂は心のメモ帳にエイナリンの実力ーー最強クラス? エイナリンの性格ーー子供の情操教育に悪し。と書き留めるのじゃった。



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