苦渋の選択
「おい、アクエロ。今何か言ったか?」
(キャハハハハ……え? 言ってない。それより集中した方がいい。下手すれば瞬殺される)
誰かに名前を呼ばれた気がして、ふと状況も忘れて振り返りかけたところを戦闘に酔って本性をむき出しにしているアクエロに注意された。
「ハッ! お前がまともなことを言うなんて、明日は雪が降るかもな」
「残念だけれども、降るのは血の雨だと思うわよ?」
「チィ」
俺の脳天目掛けて振り下ろされる刀を血で出来た刃で受け止めるのと同時に前蹴りを放つが、もうそこには誰も居ない。背後からの気配にオレは咄嗟にその場にしゃがみ込んだ。
「くっ」
先程まで俺の首があった場所を白刃が通りすぎる。刃の長さから見て恐らくは小回りの利く小刀。超越者級のオレでも危うく回避し損ねてしまいそうなほどの速さだった。
「舐めんな!」
振り向き様に手に持っているS級魔法具である血の刃を一線。それを体に触れるかどうかのギリギリ、まさに紙一重で回避した評議員の一人、蒼い髪の美女セランはお返しとばかりに今度は小刀ではなく長刀の方で斬りかかってくる。速度はやや小刀に劣る分威力の乗ったその一撃を俺は剣で受け止めた。
紅い刃と白き刃がぶつかり合い、甲高い鋼の悲鳴が響き渡る。
そして鍔迫り合い。力勝負を嫌ったセランが小刀を振るい、オレはそれを回避すると反撃。そのまま超高速での斬り合いとなる。これほどの至近距離で剣を振るっているにも関わらず、俺の剣はセランの女の魅力に満ちたその肢体にまるで触れられない。だからオレも決してセランの刀を俺の体には届かせまいと全ての攻撃を回避し続ける。互角。その本来ならあり得ない状況にオレは歯ぎしりして、アクエロはこれ以上無く愉しそうに笑った。
(凄い。凄い。私達の方がスペックで勝ってるのに、なのに圧倒できない。ううん、むしろ押されてる。キャハハ。押されてるよ!? リバークロス)
アクエロの言うとおり、基本性能は超越者級である俺の方があらゆる面で勝っているはずなのに、セランはそれを技術のみで埋めてくる。可能性世界に触れ、剣術や体術などの技術面でもかなり飛躍したつもりだったが、それでも上には上が居る。それが悔しい。それがーー
「……いや、楽しんでる場合じゃないか」
このまま後数時間は余裕で斬り合いをし続けられるし、それだけ刃を交えれば多くのことを学べそうではあるのだが、今回の任務の性質上、長期戦は論外だった。
俺は手っ取り早く勝負をつけるため、セランの攻撃を防ぎつつも繰り出されるセランの攻撃の一つ一つを吟味した。そしてーー
「……へぇ。そう来るのね」
目の前でセランが蠱惑的に微笑んだ。血が腹から垂れる。セランの持つ長刀がオレの腹部を貫通しているのだ。評議員の攻撃だ。魔力が残留してすぐに傷を治すことは出来ないが、治りが遅くても問題ない場所を選んであえて斬らせた。
そのままオレは直進。セランの持つ長刀の根元を目指した。肉を切らせることで今まで埋めることの出来なかった距離を一気に潰す。オレは渾身の魔力を込めた剣を振りかぶった。
「終わりだ」
そして刃を振るう。セランに小刀を使わせない。例え使ったとしても小刀ごと切り捨てる。そのつもりで超越者が放った神速の一撃は狙い通りにセランの首を宙へと舞わせた。
「まずは一人」
やはり評議員を倒すのは簡単ではない。だが倒せない相手ではない。そう確信したオレが次の獲物に狙いを定めようとした、その時ーー
(待ってリバークロス。何か変)
アクエロの警告と同時にーーパシャン。と宙を舞っていたセランの首と目の前の胴体が水の塊となって地面に落ちた。
「……嘘だろ」
決して浅くない傷まで負ってようやく掴んだ勝利……と思いきやまさかの身代わり。一体どこで水で出来た分身と入れ替わったのかまるで分からなかった。
(凄い力。私達のスキルじゃ見破れないかも。多分その女の力の本質は幻惑。スキルの保有数で勝っていても質で負けてる)
アクエロの言う通り、ここまで粗か様ではなくとも、今までの攻防でも何度かセランが使うスキルと思わしき幻覚に出し抜かれた。だから究極スキルの中に保有している鑑定系統のスキルを総動員していたというのに、結果はこの様だ。
オレが保有する数多のスキルをセランの磨き抜かれた、たった一つのスキルが上回っているのだ。
「ハッハッハッ。どうした小僧。それでも超越者か? 足を止めて尋常に立ちあえい。とう!」
上空より落ちてくる影。その場から飛び退けば白い胴着を着た初老の男(名前は確かゲンブ……だったか?)がオレが立っていた場所の地面へと蹴りを入れた。
直後、ゲンブの蹴りが大地を砕き、まるで地面に埋まっていた数多の地雷が一斉に起動したかのような大爆発が起こる。
俺は身に纏った魔力で爆発で発生した全ての障害を受け流すと、そのまま直進し、攻撃を回避されて隙だらけとなったゲンブへと斬りかかった。よほど深く蹴り入れたのか、あれ程の大爆発を起こしておきながら、ゲンブの足はまだ少し地面に埋まっていた。体勢を整えさせる暇を与えず、このまま脳天から真っ二つにする。今度こそ評議員を仕留めた。そう思ったのだが。
「甘いわ。小わっぱ」
ゲンブは魔力を纏った拳で、こちらの剣の腹を殴って斬撃の軌道を無理矢理変えた。
「どいつもこいつも」
超越者級が振るった剣をそんな無茶苦茶な方法で回避するとは、下手をすれば軌道を変えることも出来ずに頭から真っ二つになっていただろうに、流石は天界の最高権力者にして戦力だ。評議員の連中は本当に化物揃いだと痛感した。
「次は儂の番じゃあああ!」
オレの攻撃を回避することに成功したゲンブが獲物を前にした野獣のような表情で殴りかかってくる。拙い。近すぎる。ここは拳の間合いだ。
「くらえい!!」
繰り出される第一級にも匹敵しかねない魔力を秘めた拳。身を捻って躱すことに成功するが、仕切り直そうにも己の射程に収めてた敵を、百戦錬磨の猛者がそう簡単に逃すはずも無くーー
「無駄じゃ! 無駄じゃ!」
繰り出される拳の弾幕。一撃一撃が致死の威力を秘めたそれを凌ぎきるため、オレは咄嗟に剣を放り捨てた。
「ッチ。速ぇ」
「ほう、体術も中々。やりおる、やりおる」
感心した口ぶりでそう呟く間も、ゲンブの豪雨のような攻撃はその激しさを増していく。剣を捨て防御に徹しても尚、ダメージが積み重なっていくのが分かる。何とか反撃したいが、その隙が見いだせない。
(リバークロス!)
ゲンブとの戦いに全神経を集中していると突然アクエロが叫んだ。同時に転移関連のスキルが勝手に発動。これほどの魔力が入り乱れてる場所ではいかに超越者が使うスキルといえども、何の準備も無い咄嗟の転移では一メートル移動するのが精々だ。しかしその一メートルの移動でオレの首は胴体と離れずにすんだ。
「……本当にやるわね。お姉さん感心しちゃうわ」
刀を振り終えた姿勢でこちらを見るセラン。ゲンブに気を取られている隙にいつの間にか背後から忍び寄っていたのだ。アクエロが居なければ殺られていただろう。
「ガッハッハ。頑張ったが武器を手放したのは失敗だったの」
セランの横に並んで拳を構えるゲンブ。両腕の筋肉がはち切れんばかりに膨れ上がり、そこに集束されている魔力は最早第一級魔法と比べても遜色ないほどだ。
「大人しくしていれば、優しく殺してあげるわよ?」
セランの持つ刀が陽の光を受けて鈍い光を放つ。その刀身に流されている魔力はゲンブのそれと比べても決して見劣りするものではない。しかも『斬る』という刀の性質上、素手のオレが先程までと同じようにセランの攻撃を凌ぐのは難しい。
「……これが評議員か」
セランとゲンブの二人を相手取って戦闘を始めてまだそれほど時間は経っていないはずだが、俺は早くも追い詰められつつあった。単純な魔力量なら俺の方が間違いなく上回っている。なのに本来互いの間にあって然るべき数値上の差が現実に反映されていない。そんな感覚。
(魔力の練り方や肉体操作など基本的な技能が私達と次元が違う。リバークロス。ここは力押しで行くべき)
「分かってる」
余計な小技は使うなと言うアクエロの方針にオレも内心で頷き返す。今のオレがこの世界における力の極限とするなら、こいつ等評議員は言わば技術の極みだ。今のまま剣や体術を基本とした戦い方では本気で不覚を取りかねない。
仕方ないので俺は腹を決めた。
「温存はやめだ。くたばれ」
オレが超越者級の力をフルに使える時間は限られている。如何に相手が評議員といっても二人を倒せば戦闘が終了という訳ではない以上、可能な限り力を温存しておきたがったのだが、やはりと言うべきか、そんな余裕が許される相手ではないようだ。
「『闇の雷』」
「ぬお!?」
魔法名という準言語のみで放たれた黒き雷が評議員の二人を襲う。同時に素早く俺は宙へと飛んだ。もう二度と奴らに近づきはしない。距離を取り、魔力に物言わせた魔法攻撃で確実に仕留める。オレは悪魔の翼を広げると更に高くーー
(ッ!? リバーク……)
「なぁ!?」
恐らくオレがそれに気付いたのはアクエロとほぼ同時だっただろう。誓って言うがオレは魔法を放ってから、片時も評議員の二人から目を離してはいない。なのにまるで待ち構えていたかのように上空からオレ目掛けて一直線に襲いかかってくるゲンブ。気付けばセランの横に居たはずのゲンブは水となって地面を流れていた。
「貰ったぁあああ!」
「クソがぁあああ」
慌てて魔法で障壁を構成するが、ゲンブの拳はそれらをまるでガラスの如く容易く打ち砕き、そのままオレの腹部を強打する。
「っぐ……がああ!? な、んだこれは?」
ゲンブの拳を受けた部位。その内部が小規模な爆発を何度も繰り返す。オレは何とかありったけの魔力で体を守り、傷ついた体を可能な限り迅速に再生させていくが、体内で起こる不可解な爆発は一向に収まる様子を見せず、このままではいずれ致命的な傷を負いかねない。
「クソ……一体何が?」
ゲンブの攻撃で空より地面にたたき落とされたオレは、かつて食らったことのないダメージに面食らいながらも追撃に備えた。だが予想に反してゲンブとセランはこちらの様子を伺うだけですぐに攻撃を仕掛けて来ようとはしなかった。こちらを侮っている……訳ではないだろうから、考えられる理由としてはーー
「なるほど。お前等でもそう連続で使えないか。やはりこのスキルは俺の『進化の終着点』と同じか」
よくよく考えてみれば如何に体術や剣術、そして魔法の技術が凄かろうが、それだけで簡単に基礎能力で圧倒されている相手を出し抜けるはずがない。持てる最高の技術と魔力を限界近くまで酷使し続けているのはむしろ当然の条件だろう。
セランが二刀を構え直す。その刀身が一瞬陽炎のように揺らめいた。
「虚実入り交じった私の世界。誰も私を捕らえられない。究極スキル『幻惑する蜃気楼』」
セランの横に着地したゲンブが歯をむき出しにした獰猛な獣のような笑みを浮かべた。
「打ち込んだ魔力は相手の魔力に反応し続けて、対象が死ぬまで爆発し続ける。究極スキル『一撃絶死』」
ゲンブの説明を聞くまでもなく、鑑定系統のスキルを総動員して自分の中に何が起こっているのかの調べはついていた。そしてその対処法も既に考案済みだ。
「……アクエロ」
(了解。リバークロスが受けたダメージを私の右手で引き受ける)
アクエロがオレの体から外へと上半身を出す。途端、アクエロの右腕が内部から爆ぜた。肘から先が消えて無くなったが、ゲンブの魔力はさらなる被害を求めてアクエロの体、その中心目指して移動しようとする。だがそれより早くーー
「オラァ!」
オレの手刀がアクエロの右腕を肩の辺りから切り落とした。魔力は込めていなかったので腕の再生にはそれほど時間は掛からないだろう。
「っん。激しい。……ふふ。こういうのも良い。帰ったらこんなノリのエッチしよう」
アクエロはオレの唇に一度自身の唇を重ねると、なにやら怖いことを言って再びオレの中へと戻った。軽いSMごっこ程度ならまだしもアクエロがやるなら絶対そんな中途半端では済まないので、なんとしても断ろう。セランとゲンブへの警戒を怠ることなく、俺はそう決心した。
「ほう。若いのに中々どうして」
「ええ。適切な行動を取り続けてくるわね。『大罪の子』はともかくとして、まだ百にも満たない魔王の息子まで。……末恐ろしいなんて感覚、本当に久しぶりに思い出したわ」
「儂としてはこやつ等の将来を見てみたい気もするが、これも戦いに生きる者の定めよな。セラン」
「ええ分かっているわ。このボーヤはここで確実に殺しましょう。……例え刺し違えても。良いわね、ゲンブ」
「応よ」
評議員二人の気配が変わる。先程までも別に死を覚悟して無かった訳ではないのだろうが、二人が纏う空気には明らかに生還を視野に入れた余裕のようなものがあった。それが今は無い。天界の最高戦力がオレをこの場で殺す為だけに己の命を捨てると決めたのだ。
それを前にオレも自身の甘さを認めた。この世界では会ったことがないとは言え、一応は顔見知りだからか、心の何処かで実力差を教えてやれば適当な所で引き上げてくれるのではと期待していた気がする。
まったく、我ながら何を甘いことを。戦闘なんて本来一回起これば次なんて無いのが当たり前、今までも何度となく反省を繰り返してきたというのに、簡単には死なない強靱な体に意識がまだまだ引っ張られているようだ。
蛇が囁いてくる。
(反省は終わった? なら分かるでしょう? 今のままでは駄目)
そう、今のままでは駄目だ。カエラさえ捕まえたら余計な殺しはせずにさっさと引き上げれば良い。そんな甘い考えでは評議員は出し抜けない。
(そうよ。これだけの相手。仮にターゲットを確保しても簡単に逃げ切れる訳が無い。最少の犠牲で零指令を果たすのに最適な手段はターゲットを殺すことだけども、リバークロスは弟子を殺したくないんでしょ? ならやることは一つ)
そうだ。やることは一つだ。オレの邪魔をする全てをーー
(私達の邪魔をする全てをーー)
「「殺してしまおう」」
アクエロが嬉しそうに笑う。オレも笑った。高まる力に限界など無く、先に見たエイナリンの力に追い付き追いこさんと何処までも上昇する。
余力を残すのを止め、無理に殺さなくてもいいだろうという甘さを完全に消したオレの変化を、評議員の二人も敏感に感じ取る。
「これは、……驚いたわね」
「むう。凄まじい魔力。何よりもこやつ……」
「ええ。変わったわね。戦い方に甘さがあるのは若さ故かと思っていたのだけど……。とことん規格外ね」
まるでオレの力に呼応するかのように、ここから離れた場所で激突する力も更なる高まりをみせた。今のオレと互角、いやそれ以上の魔力。一つはエイナリン。もう一つはーー
「……ルシファか」
エイナリンを殺すことに特化した超越者級。たった一人を殺すために特化した超越の力がその能力の全てを解き放っていた。
「ほう、どうやら向こうも様子見は終わったようじゃな」
「これだけの面子が同じ戦場で激突するなんて何百年ぶりかしらね。昔と違って今はもうどちらも兵に余裕がないし、ひょっとすれば今日でこの戦争の大局が決まるかもしれないわね」
セランの言っていることは決して大げさでは無いだろう。この戦場に居るのは互いの種族の最高戦力ばかり。誰が死に、誰が残るかでこの先の戦況が大きく変わるだろう。あるいは魔王がカエラの奴を重要視したのも、カエラ本人よりもこの状況を読んでのことかもしれない。勿論そうで無い可能性もある。なら零指令を受けた魔将の一人としてオレがやるべき事はーー
「ウサミン! ネコミンとイヌミンを連れてエイナリンの所に行け。恐らくその辺りにターゲットが居るはずだ」
俺達から離れた場所で数の力を頼りにもう一人の評議員と激しい戦いを繰り広げているオレの女に命令を送る。命令が届くかは賭けだったがマーロナライアの奴は思った以上に優秀な中継者のようだ。
「了解ウサ。行くわよネコミン、イヌミン」
「わ、分かったわ。てか、早く行こう。もうコイツの相手嫌すぎ」
「評議員。これ程とはな」
俺の女達が取り囲んでいるのは極小の太陽。それを前に雷が、風が、水が弾丸となって次々に襲いかかっているが、そのどれも圧倒的な熱量を前に無力化されている。
(ウサミン達でいいの?)
芳しくない向こうの戦況にオレが舌を打っていると、カエラの元に送る人選に対してアクエロがあまりにも尤もなことを聞いてきた。
アクエロとカエラの間にはたった一度とはいえ因縁が出来いる。どちらも一見すると温和に見えるが、その本質はバリバリの武闘派だ。本音を言えば合わせたくない。
一番良いのはやはり俺が直接迎えに行くことだが、この戦況でオレが抜けるなどありえない。ならばせめてサイエニアス辺りに任せたかったのだが、遊撃が主なウサミン達と違ってサイエニアスのような主力が抜ければ数の力でなんとか拮抗している評議員との戦い、その形勢が一気に傾きかねない。他に選択肢などないのだ。つまりこれはーー
「苦渋の選択って奴だ。文句あるか?」
(ある訳ないわ。ふふ、何て素敵な状況。この困難を乗り越えるのはきっと楽しい。ううん。既にとても楽しい。ねえ、リバークロス。貴方もそうでしょ?)
いつもなら本性をむき出しにした状態のアクエロに同意などしなかったかもしれない。だが生と死が一瞬で交錯する戦場において、己の本性を表出させているのは何もアクエロに限った話ではなかった。
「そうだな。……最高だ。この状況を乗り越え、オレは更に上を目指す」
強くなりたい。強くなりたい。強くなりたい。マイスター・クラウリーが、リバークロスが、クロス・シャインがオレの中で叫びを上げている。
意識を完全に切り替えて、カエラのことを頭から外す。オレがこの世界で生きて更なる飛躍を遂げるにはこの異種族間戦争に魔族を勝たせる必要がある。その為にもーー
「今日、この場に来ている評議員は誰も生かして帰さない」
オレは必ず成し遂げると断固たる決意を込めて宣言した。それを聞いて笑う二つの頂点。
「ほう。面白い。吹きおったな小僧」
「若いってのは良いわね。……身の程知らずで」
セランとゲンブの魔力が際限なく高まり、かなり超越者に近いレベルまで駆け上がってくる。恐らく評議員程の者達がここに居るのは俺達と同じ理由なのではないかと予想しているが、最早そんなことオレや評議員にとってはどうでも良いことだ。
「この戦争に魔族を勝たせるため、引いてはこのオレの為に、お前達には消えて貰うぞ」
「ふふ。死ぬのは貴方よ、ボーヤ」
「ガハハ。さあ、いざ尋常に勝負だ、小僧!」
そして俺達はこの場に集った理由を置き去りに、ただお互いの存在を消すためだけに、今まで以上の激しさを持って激突するのだった。