その時のカエラ
私は目の前の現実が理解できないでいた。
どうしてこうなったのだろうか? 自信はあった。この身を削り、自身の肉と血と骨に、私が持つ全ての技術を刻み込んだ。同化した技術はあのウサギ耳に不覚をとった時とは比べ物にならないくらいに飛躍した。
だと言うのに、何故私は今再びこうして膝を屈しているのか。相手は目の前で勝ち誇り、私は生まれたままの姿で震えていた。ーー怒りに。
「納得いかないわ!」
目の前で勝ち誇るキリカ(全裸)を指差して私は怒鳴る。怒鳴り付ける相手は愛すべきギルドの仲間達(全員全裸)。
「どう見ても私の方が綺麗でしょうが。ほら、良く見なさいよ」
私が魔力を放つと、体が発光し、体内に埋め込んだ魔力回路が文字のように浮かび上がる。この文字の一つ一つに私の魔術師としての技術の全てが詰め込まれているのだ。魔術と人体の一体。この神秘が筋肉などに負けていいはずがない。
「ふっ、見苦しいですよ、カエラ。望む結果を得られないのは誰だって辛い。ですが現実を受け入れ、己の未熟さを省みてこそ開ける道と言うのもあるのです」
「キィ~~!!」
こんな露出狂女に負けるなんて。私(全裸)は髪をかきむしった。
ことの発端はそう、ギルドから天領第四等区後ノ国『ヨンヨーク』へと向かう最中、私は魔道車の中でギルドメンバーの装備に出来るだけの強化を施していた。
空間魔法が掛けられている魔道車には個室が幾つか設けられており、その一つで作業をする私の元に皆が入れ代わり立ち代わり遊びに来た。作業をしつつ、遊びにくる皆に応対していると、部屋の隅で座禅を組んでいたキリカが、ふと思い出したように言ったのだ。
「そういえばカエラ。結局肉体美勝負は私の勝ちと言うことでいいのでしょうか?」
「は? なにそ………あー、そういえばそんなのやったわね」
振り返ると何であんなことをやったのか謎すぎる。連日の無理がたたってかなり理性が飛んでいたとしか思えない。
「別にキリカの勝ちでいいわよ」
作業の手を止めることなく適当に返事をする。事実どうでもいい。今は団長として皆の生存率を少しでも上げるべく、こうして武具を強化することが最優先だ。
「そうですか。まあ、カエラの改造とやらが私の鍛練より美しい肉体を作り出せるはずがありませんからね。酷なことを聞いてすみませんでした」
その一言に、私はピタリと作業の手を止めた。
「………は? いや、…………は?」
え、ちょっと何言い出すのかしらこの筋肉?
「いやいや、私の技術で彩られたこの体が、ただ鍛えられただけの筋肉に負けるはずがないでしょ」
「再生と死。苦難と奮起。鍛えられた筋肉とは即ち人生そのもの。それを前にただ光るだけの小手先の芸など……おっと、すみません。私としたことが、どうやら言葉が過ぎましたね」
じょ、上等じゃない。
「緊急召集、緊急召集よ! 全員直ちに集合しなさい」
こうしてカエラとキリカ、美しい肉体を持つのはどっちだ? 対決がギルド『ヴァルキリー』で開催される運びとなったのだ。
ちなみに観客であり審査員であるギルドメンバーまで素っ裸なのは私がそう指示したからだ。
別に裸を見られて恥ずかしがるような年でもないが、真っ昼間からこんな勝負を素面でやるのは少しお馬鹿さん過ぎる。
ここは私が団長としての威厳を失わないためにも、皆にも一肌脱いでもらった。主に団長命令で。
これで端から見たら裸を比べ合うちょっとアレな二人ではなく、ただの裸族の集まりにしか見えないだろう。ちなみにギルドのメンバーには全員私が作った空間収納型の魔法具をあげているので、いつでも一瞬で武装することが可能だ。だから万が一の事態でも慌てることなく着替えることが出来るのだ。
そんな風に何の憂いもなく行われた私とキリカの一騎打ち。当然私は勝利を確信していたのだが、どんな怪奇現象が起こったのか、何故か私は一票さで負けてしまった。
あのキリカの勝ち誇った顔と来たら、もう。大袈裟に喜ばないから逆になんか本当に負けちゃった気になるじゃない。
「とにかく、私はやり直しを要求するわ。これは団長命令よ」
「愚かな。真の美は決して不正な権力に屈しないものなのです」
「なにそれ、格好いい。……じゃなかった。まだ二人ほど投票してないでしょ。今回の審査員はギルドメンバーなんだから、本当の決着はその二票が入ってからでしょうが」
この場にはこの魔道車を運転しているニル(この車は自動運転も可能なので声をかけたが断られた)と、何か色々と仕事を頑張ってくれてるビアン(声を掛けたら、めっさ白い目で見られた)がいない。
「ふむ。確かにそれは一理ありますね。分かりました。今から二人を……」
キリカが喋っている途中、部屋のドアがガチャリと開かれた。
「貴方達、まだやってるの?」
現れたのは今まさに話していた人物の一人にしてブリザードな眼差しの持ち主。金色のさらさらな髪に私とマイスターの為に立派な成長を果たしてくれた胸。三種族の中でもっとも美しいと言われるエルフとしての美貌を持つビアン(衣服着用バージョン)だ。
「良いところに来たわね、ビアン。さあ、どっちが綺麗か票を入れなさい。ちなみに貴方は私の幼馴染みで大親友よね?」
「愚かですねカエラ。そういうことを口にすると自分で自分の魅力を下げてしまいますよ。筋肉は黙って己を見せつければいいのです」
そう言ってポージングを取るキリカ。二の腕がメキメキと膨らみ、腹筋がこれでもかと割れる。そのくせ以前のような無茶苦茶な膨張ではなく、豹のような鋭くもしなやかな魅力を残していた。
これは私も負けられないわね。髪をかき上げポーズを取ると魔力回路に魔力を流した。すると私の全身がこれでもかと発光する。
「うわ、眩し」
「確かに綺麗なんだけどさ」
「でも、これって肉体美の勝負なんですよね? いや、綺麗ですけど」
団員の多くが綺麗綺麗と口にしている。やはり可笑しい。綺麗を口にしている団員の数は明らかにキリカに勝っているはずなのに何故か勝てない。まさかキリカの奴、袖の下に何か忍ばしたんじゃないでしょうね?
「ちょっとカエラ、眩しいから部屋の中で光るの止めてって前も言ったでしょ」
「綺麗でしょ」
「綺麗だから光るの止めなさい」
「キリカよりも?」
「綺麗だから光るの止めなさい」
ビアンは疲れたようにこめかみを押さえる。きっと日々の仕事でろくに休んでいないんでしょうね。友達として心配で仕方ない。今度ビアンのご飯に私特性の栄養ドリンクをひっそりと混ぜておくことにしよう。
まぁ、それはそれとして。私はキリカに対して不敵に微笑んだ。
「はい、これで同数ね」
「待ちなさいカエラ。それは可笑しい」
「女は黙って見せつけるもんなんでしょ? いちゃもんつけてくるんじゃないわよ」
「……む。それを言われると。良いでしょう。では決着はニルさんにつけてもらいましょうか」
え? 今ので本当に納得しちゃうんだ。自分で言っておいて何だが、キリカのバカ真面目な態度は友達として少しばかり心配になるわね。
「それじゃあ誰かニルを呼んで来てくれるかしら」
そこでビアンがため息をついた。
「まったくもう。もうすぐ『ヨンヨーク』に着くわよ。カエラは勇者。人類の代表なんだから、馬鹿なことばかりやってないでもう少し回りの目を気にしなさいよね」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは」
いや、冷静に考えればやっていることは馬鹿そのもののような気もするが、ここまで来てしまった以上立ち止まれない。最後まで突っ走るのみだ。
あっ、でも一応言い訳はしておこう。
「言っておくけどね、さっきまでは真面目に仕事やってたのよ?」
「仕事ね」
ビアンはもの凄く白い目でこの部屋の惨状を見回した。素っ裸で地面に座り込み、酒やつまみを口にしながら談笑する乙女達。部屋の隅では私とキリカ、どちらが勝つか賭けをしていたらしく、私がごねているせいなのか、その結果を巡って取っ組み合いの喧嘩が始まっていた。そこに嬉々として乱入するマレア。
うーん。風紀が乱れに乱れまくってるわね。
「いや、これは私のせいじゃなくて、そもそも勝負をふっかけてきたのはキリカであって……」
「カエラ、自分の意思で一度行うと決めた以上、切っ掛けが誰にあったかなど関係ないのです。上手くいかなかったからと言って誰かのせいにしてはいけませんよ」
こ、この聖女が。
ビアンが手をバンバンと叩いて、全員の注目を集めた。
「はい! はい! 貴方達。馬鹿騒ぎはここまでよ。全員装備を整えて戦闘体制で待機して」
「おお!? 敵か? 敵が来たのか?」
何故か嬉しそうなマレア。ちなみに喧嘩に乱入していたマレアの足元には、結構ガチな感じで血を流して倒れ伏す団員達がいて、治癒魔法を、治癒魔法を~。と唸っているが、そんな光景に驚くのはウチではオカリナくらいのものだ。
「現在魔族が広範囲の通信妨害を仕掛けているの。一応かなり近づいてるお陰で『ヨンヨーク』とはかろうじで連絡が取れるんだけど、ノイズばかりでもうほとんど会話にならないわ。そうなる少し前の話ではララパルナ王国とは完全に連絡が取れなくなったらしいの」
この一言で部屋の空気がガラリと変わった。マレアが首をかしげる。
「王国とは地脈の波長を利用した専用回線が出来てるんじゃないのか?」
「それも駄目みたい。魔族が地脈のエネルギーでさえ妨害する戦略級魔法を発動させているのか、あるいは……」
「ララパルナ王国が既に落ちたか、ね」
私の推測に部屋の空気が一層重くなる。
「あ、あの。団長」
「何? オカリナ」
「第二位の勇者であるボスノさんが要塞都市から脱出してまだそれほど経っていないですよね?」
「言いたいことは分かるわ。普通に考えたら幾らなんでも早すぎる。でも最悪の場合を想定しておくべきよ」
何よりも相手にはあのマイスターがいるかもしれないのだ、それくらいのトンデモなことはやるかもしれない。
「カエラの言葉は尤もだけど、普通に考えるならここは魔族が大規模な妨害を行っていると見るべきでしょうね。でもこの規模の妨害がそんなに長く続くはずがないわ。恐らくそう時間もかからないうちに通信は回復するはずよ」
まあ確かにビアンの言う通り、普通に考えるなら幾らなんでも落ちるには早すぎるわよね。だとしたら何らかの理由でどうしても通信網を絶つ必要があったんでしょうけど、考えられる理由としては……。
「思ったよりずっと、魔王軍の進軍速度は早いのかもしれないわね」
「ええ。恐らくかなり大規模な作戦を実行しようとしてるんじゃないかしら」
こちらの予想を超える数を動員したのか、それともまだ天族も知らない秘密兵器でも出したのか。情報が皆無なので想像するしかできない。やはり魔法が普及している社会であっても連絡手段を壊されるのは痛いわね。
「そう言えばサンエルなら天族を経由して連絡できるかもしれないわね」
下の者には情報が下りてないだけで、上の立場の者達は把握していると言うのはよくあることだ。というか、この場合はそうであって欲しい。
「残念ながら僕の魔法具も通じない。これは過去にあまり例がないレベルの妨害魔法だよ。それも何故か両軍から飛び交っている感じだ。これはララパルナ王国だけじゃない。もっと広い範囲で何かあったね」
天井が波の立った湖面のように揺らめくと、そこから蒼い髪と瞳の天族が姿を現した。
「サンエル様」
私とマレアを除くギルドの皆が膝をつく。昔は私も付き合っていたのだが、こう何度も顔を合わせる相手にそこまで畏まっていては何もできない。……というか疲れるので止めた(勿論サンエルの許可はとっている)。
「ああ、いいよ。そのままで。っていうか何で皆裸なの?」
さっきまで馬鹿騒ぎをしていたので別に裸でも何の問題もなかった。むしろ騒ぐ際の正装的な感じだった。だが話が急に真面目な方向に流れたので今は違和感しかない。
というか改まって指摘されると酷くいたたまれない感じだ。悪いことしてないのに、何か悪いことしたかな? みたいな、そんな気分になる。
「あ~、これはね…」
皆も気まずそうに黙り混んでる。
仕方ないわね。ここは団長として少々はしゃぎすぎた皆の名誉を守ってやろうかしらね。そんな風に思った私は、言い訳を考えつつサンエルから視線を外して振り返った。するとーー
「あ、あんた達」
皆がこいつですと言わんばかりに無言で私を指差していた。サンエルがビアンなみのブリザードな眼差しで私を見る。
「ああ。何だまたカエラか」
……解せぬ。ちなみに皆が素っ裸になることになったもう一人の元凶であるキリカはサンエルの登場と共に額を地面に擦り付けていた。
ここは言い訳しても墓穴を掘るだけだと悟った私は余計なことは言わずに魔法具を起動して服を着ることにする。それを見てギルドの皆も続く。これで部屋に全裸はキリカ一人、いつもの光景に戻ったわけだ。
「サンエルの魔法具でも連絡が取れないって、それってララパルナ王国にいる天族と? それともまさか…」
「天界城とも繋がらない。それどころか第三等区の担当官達ともね」
「最悪ね。つまり前線だけではなくここもすでに妨害魔法の範囲に入っているのね」
「そういうこと。ちょっと信じられない範囲だよね。まるで天族も魔族も総力をあげて通信の妨害に腐心しているみたいだ」
天族も? ああ、そういえばーー
「最初に妨害魔法が両軍から飛び交っているって言ってたけど、魔族だけじゃないの?」
「うん。どうも天族も戦略級魔法を行使してるみたい。その証拠に第三等区の地脈の流れが少し変化してるだろ?」
そんなこと言われても走っている車の中からちょっと見ただけで分かるわけがない。だがサンエルがそう言うのならそうなんでしょうね。でもそれだとーー
「よく分からない状況ね。攻められてるのはこっちなんだから救援を要請したり受けたりする側の天族まで何でそんな真似をするのよ。これだけ大規模な妨害魔法だと都合よく敵の通信だけを邪魔できる訳じゃないんでしょ?」
「さすがにこれだけの威力の妨害魔法が広範囲に飛び交ってると有線でも使わない限り長距離の念話はまず無理だね」
有線とか、苦労して配備しても魔物とかに速攻壊される未来しか見えないわね。
「なら当分式神魔法が伝達手段になりそうね」
手紙を送るだけに特化させた小型の式神魔法なら、かなりの速度で情報を伝達できる。
「うん。でもそれだと敵に奪われた時が怖いからあまり重要な情報を乗せられないんだよね」
「確かに。暗号を使っても解読のスキル持ちがいたらばれかねないものね」
まあ解読のスキルはサイコメトリーのようなものなので、対策がないわけではないのだけれども、それでもやはり重要な命令を遠距離に送るのには向いていない。
「本当に何で天軍は通信の回復ではなく妨害を行ってるのかしら?」
「さあ? 定期報告の時は評議会の方々が重要な話し合いを行っているらしいと聞いたんだけど、詳細を聞く前にこの事態が始まっちゃったんだよね」
「評議会……ね」
天族の最高指導者達。そんな彼らが関与してるとなるとやはり相当な事態のようね。
「欲しいものでもあるんじゃないのか?」
マレアが手を頭の後ろで組んで、投げやりな感じに言った。
「欲しいもの?」
「ほら、以前俺とカエが買い出しに出てる時にビアンが星の数の限定スイーツが手に入ったけど、一人分足りないから早い者勝ちだって連絡してきたことがあっただろ」
「ああ、あのどっちが先にギルドに戻れるかってアンタが勝負を吹っ掛けてきた奴ね」
あの時外に出掛けていたのは私とマレアを除けばほんの四人で、その四人もギルドのすぐ近くで遊んでただけ。甘いものに目がない私としてはここはマレアに涙を飲んでもらおうと思ったのだが、マレアはフルーツに興味がないくせに甘味を欲する私と勝負をしたいがために、そんなことを言い出して来たのだ。
「そっ。あの時カエラさ、全然本気で勝負しなくて私の後ろをゆっくり付いて来るだけだったろ?」
「まぁ、私の分はオカリナに確保してもらったからね」
魔法具で通信すればわざわざ競争する必要などないのだ。今思い返しても大人すぎる自分の対応に感心するしかしない。
「そう、それ」
マレアが私をビシリと指差した。それに私は今日はよく指差される日だなと思った。
「早い者勝ちと言う話なのにそれは少し卑怯なのでは?」
ようやく立ち上がったキリカが非難するように私を見てくる。何でもいいけど、あんたはまず服を着なさいよね。
「いや、それビアンが勝手に言ったことだし、使えるもの使って卑怯も何もないでしょ」
「あ、貴方と言う人は」
「まっ、俺はカエのそういうところ好きだからその時は感心しかしなかったんだけど、後になって俺も同じように魔法具で誰かに頼んだらどうする気だったのか聞いてみたんだよ」
「なるほど。それでカエラは何て言ったの?」
意外なことにビアンが話に食いついてきた。
「そう。そしたらカエの奴さ、魔力で妨害してたから通信はできなかったって言うんだぜ」
「ああ。それでマレアさんの後をゆっくりとはいえ付いて行ってたんですね」
「そういうこと。それでその時思ったんだ。俺も最初にビアンの話を聞いた直後にカエの通信を妨害しておけば、カエと普通に勝負が出来たのにってさ」
確かにそれをされたら私も独力でスイーツゲットに奔走しなければならなかっただろう。もしもそうなっていたらと思うと。私は友達を傷付けずにすんだ幸運に感謝した。そしてマレアの言いたいことも理解した。
「何でマレアがその話をしたのかと思えば、そういうことね」
まさかわんぱくな友人に付き合った私の大人すぎる対応がこんな閃きを生むとは。世の中って分からないものね。
「僕も分かったよ。つまりマレアは両軍がそれぞれ同じモノを欲しているからこそ、互いに互いの通信を邪魔し合ってるって言いたいんだね」
「そうだぜ。流石カエとサンエル様だ」
ニコリと笑うマレア。ビアンが顎に手を当てて、眉間にしわを寄せた。
「その考えでいくと、両軍が欲している何かは案外近くにあることになるわね」
何やら真面目に考え出したが、私はとてもそんな気にはなれない。マレアの推測は面白かったが、所詮何の確証もないのだ。あくまでも予想の一つとして頭に入れておく程度で十分だろう。
「案外カエだったりしてな。ほら、カエって美人で強くて賢いだろ? 俺だったら絶対味方にしたいと思うな」
「な、何よいきなり」
突然のヨイショに柄にもなく少し照れてしまった。
「マレア、正直なことはいいことだけど、知らない人とかいたら私が団長の立場を使って団員に誉めさせてる腹黒女に見えるでしょ。誉めるならもっと遠回しにさり気なく誉めてよね」
「ん? カエは腹黒だろ? 別に間違ってないじゃないか」
「あ、あんたは……。いや、まぁいいわ。でもさすがにその予想は違うでしょ」
別に自分の力を過小評価するつもりはないが、だからといって過大評価する気もない。
「そうですね。カエラは確かに勇者の中でも凄いポテンシャルを秘めているとは思いますが、天族の方々や上級魔族と比べるとどうしても見劣りしてしまいます。いえ、本来はどちらも人間と比べるような対象ではないのですが」
「俺は別にそんなことないと思うけどな~」
聖女の身内贔屓なしの評価にマレアが唇を尖らせる。
力不足を指摘されるのはあまりいい気分ではないが、魔術師として冷静に考えれば考えるまでもなく、キリカの言う通りだ。大体万が一私がターゲットなら通信妨害を仕掛ける前に私がララパルナに向かっていることを把握してなければ意味がない。
上級天族であるサンエルと一緒に尾行や監視には特に気を使っているし、ララパルナ行きを決めたのは少し前で直接行くのだからと出兵の要請に返事も返していない。
魔族が私達の動きを把握している可能性は極めて低いと見て良いだろう。
一応マレアの獣じみた直感力と勇者というブランドの価値を考慮して考えてみたが、やはり私、もしくは勇者がターゲットだったなんて展開は万が一にもなさそうだ。
そしてマレアに続いて皆があーでもない、こーでもないと言い出すが、これ以上続けても有益な情報は出そうにない。というか今の段階でそんな情報が出せるとしたら予言者の類いくらいなものだろう。残念ながらこのギルドに予知能力を持っている者はいないのだ。
「はいはい。これ以上は考えても仕方ないわ。取り合えず連合軍の合流地点である『ヨンヨーク』についたら情報収集を中心に動くわよ。今から当分の間ギルドメンバーは単独行動禁止ね。どんな時も必ず二人以上で行動しなさい。分かった?」
「「「は~い」」」
緊張感はないが元気の良い団員達の返事に私は取り合えず満足する。さてはて、何だかきな臭くなって来たけれども、果たしてこの先にどんな運命が待ち受けているのかしら?
それから少しして、私達は何事もなく天領第四等区後ノ国『ヨンヨーク』へと到着した。




