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エイナリンの大親友

「そういうわけで、今回儂らに付いてくることになった、プリティーデビルちゃんだ」


 出陣の準備はシャールアクセリーナと軍団長統括であるデカラウラスに任せて、儂は近衛であるハーレムメンバーにプリティーデビルちゃんを紹介した。


 反応は儂が思っていた以上に大きかった。


「わああ!! 凄い、凄いよネコミン。あのプリティーデビルちゃんが目の前にいるよ」

「ば、馬鹿! 落ち着きなさいよ。プリティーデビルちゃんさんに失礼でしょうが」

「ネ、ネコミンこそ、プリティデビルちゃんにさん付けなんてどういうつもり? プリティーデビルちゃんに失礼でしょうが」

「そ、そうだったわ。ご、ごめんねプリティーデビルちゃん」


 おおはしゃぎのウサミンとネコミン。というかこやつら、何で謝っておるんじゃ?


「んー。どうしよっかなー。許してあげよっかなー」


 後ろで手を組み、片足を少しだけ持ち上げプラプラとさせるプリティーデビルちゃん。そんなプリティーデビルちゃんの判決を互いの手を強く握りしめ、今か今かと待つウサミンとネコミン。


 そんな二人にプリティーデビルちゃんはーー


「仲直りのプリティー」


 手でハートマークを作ってみせた。それにウサミンとネコミンも同じマークを作って答える。


「「プリティー」」


 な、なんじゃこのテンションは。クソウ。向こうでは幾つになっても童心を忘れないお茶目さが儂の売りだったのに、この異次元空間に適応できんだと?


 こ、これがジェネレーションギャップならぬ異世界間ギャップか。いや、今では儂もこちらの世界の住人。理解しようとして出来ないはずがない。


「……あの女、そんなに有名なのか?」


 儂は内心の戦慄を隠しながら問いかけた。儂の中でアクエロが答える。


(私は見る機会が無くてあんまり詳しくない。ただ有名なのは事実)


 ふーむ。好きなこと以外はとことん無頓着なアクエロが知っているなら相当じゃな。


「プリティーデビルちゃん殿は、歌って、戦って、強奪するアイドルというコンセプトの元、悪魔族のみならず各種族に多くのファンを抱えています」


 そう言ったのは儂の近くにいたサイエニアスだ。その後ろにはアヤルネとマーロナライアも居る。


「歌うと戦うは分かるが、強奪というのは?」

「はい。プリティーデビルちゃん殿はその高い戦闘能力を多いに活用してやりたい放題。一度は解体場で行われていた解体ショーに乱入して勝手に歌い出したあげく、ヤジを飛ばしてきたその場の上級魔族すべてを叩きのめし、ついでとばかりにその日解体場に連れてこられていた全ての魔物を強奪したという伝説を持っています」


 何か何処ぞの堕天使を彷彿とさせる奴じゃの。正直あんなのが二人も居るだけで迷惑なのに、何で揃って儂のところに来るん? 儂、マイマザーを怒らせるようなことをしたじゃろうか?


「それ、よくエルディオンが許したな」

「父はプリティーデビルちゃん殿には手を出さないと公言しておりますので」

「やっぱり魔王様の縁者だから?」

「恐らくは」

「ふむ」


 マイマザーの血縁なら儂にとっても身内のようなもの。しかし気になるのは何故今まで教えられなかったのかということじゃ。マイマザーの血縁はてっきりアクエロの母親である悪魔王だけかと思っておったのじゃが…。


 しかしそれだけ有名なのに今まで会わないばかりか話にも出んとは?


 アヤルネが普段は眠そうにしている目を戦闘時のようにギラついたものに変える。


「……何あれ? 強い? ……分からない。戦いたい。戦ってもいい?」


 盾の王国での戦い以降、サイエニアスやマーロナライアと共に修行に明け暮れ、更に肉体を儂によって強化されたアヤルネの強大な魔力が獣の唸り声のように静かにその体から溢れてくる。


「駄目に決まっているだろ。マーロナライア、アヤルネの手綱はしっかり握っておけよ」


 あんなのでもマイマザーが寄越してきた大事なお目付け役じゃ。役に立つかどうかはさておき、接し方には注意せんといかん。殴り掛かるなど論外じゃ。


「あらあら。まぁまぁ。大変な役ですがお任せください」


 マーロナライアはその大きなきょうきをアヤルネの体に押しつけ、アヤルネが暴れてもいつでも取り押さえられる距離をゲットする。


「なんの騒ぎですか~?」


 と、そこで従者のくせに毎度のように重役出勤してくるエイナリンがやって来た。


 その姿を見たプリティーデビルちゃんの顔がパッと輝く。


「ああ! エイナリン。私の親友! 元気だった?」

「げっ!?」


 プリティーデビルちゃんを見たエイナリンの表情が変わる。それは非常に珍しいことに苦虫を噛み殺したかのように苦いものだった。


「貴方…」

「貴方の親友プリティーデビルちゃんよ。会いたかったでしょ?」

「何言っ…」

「大・親・友のプリティーデビルちゃんよ。嬉しいでしょ?」


 おお!? あのエイナリンが押されておる? エイナリンは尚も何か言おうとしておるが、その度にエイナリンの言葉を遮り、大親友を連呼するプリティーデビルちゃん。


 やがてエイナリンは何かを諦めたかのように肩を落とした。


「はー。何でもいいですけど、まだそんなことしてるんですかー? 私が言うのもなんですけど、もう少し年考えたほうが良いですよー」

「ごめんさないエイナリン。それは無理。だって私は生まれついてのアイドルだから。はい。ニッコリ私の笑顔をプレゼント。みんなー、プリティってるー?」

 

「プリティ、プリティ」


 ウサミンとネコミンが何処から出したのか、小さな鐘のような物をカラン、カラン。と鳴らす。


「……なぁ、あれどう思う?」


 元の世界のアイドルと同じと思えば別にそれほど驚くようなことでも無いはずなのじゃが、何故かあの輪の中に入っていける気がまったくしない儂は、気づけばアクエロに聞いていた。


 するとーー


(私は楽しくて好き。プリティ、プリティ。…よし、私もやろう)


 アクエロは儂の中から飛び出すとウサミン達の横に並んで一緒に鐘をカラン、カラン。と鳴らし出した。

 

 あ、アカン。アクエロが汚染されてもうた。つーか只でさえ問題児のあやつがアイドルにハマったらどうなるのか、考えただけでもーー


「不安だ」

「ですがリバークロス様。見たところ実力は噂以上ですわ。連れていって損はないかと。貴女もそう思うでしょ? マーレリバー」

「は、はい。い、イリイリアさん」


 どうやら儂の呟きを勘違いしたらしいイリイリア。まぁ、イリイリアの言うことも最もなんじゃが。それよりも今気になるのはーー


「どうしたマーレリバー? 大丈夫か?」


 マーレリバーの顔は真っ青で、全身にびっしょりと汗をかいておった。


「わ、わかりません。ただあの方を見ていると震えが」


 ふむ。パッと『視』た感じ、どうやら肉体の異常ではなく精神的なものが原因のようじゃな。


「お前は補助関連に能力を特化させたからな。何か感じ取っているのかもしれないな」


 見ただけでは儂にもプリティーデビルちゃんの力は測れん。恐らくは兄さんと同じ系統の術者で、隠密系に特化しているのではなかろうか?


 確かに不意を突かれるとマズそうじゃが、正直シャールエルナールより強いというのは怪しいと思っておる。シャールエルナールはマイマザーをリスペクト……というか信仰しておるから、儂を含めたマイマザーの血縁者にはとことん甘い。それ故の評価ではなかろうか?


 と、さっきまでは思っておったのじゃが。


 プリティーデビルちゃんを見るマーレリバーの表情は、まるで暴漢を怖れる無力な少女のそれじゃ。普段儂等と行動を共にするマーレリバーがここまでビビるなら、少しだけシャールエルナールの評価にも信憑性が出てくる。


「仕方のない子ですわね。ほら、いらっしゃい」

「あっ? イ、イリイリアさん?」


 震えるマーレリバーを見かねたのじゃろう。イリイリアがマーレリバーを背後からそっと抱き締める。


「ほら、こうすると落ち着くでしょう?」

「はい。ありがとうございます」


 泣きじゃくった子供が親にあやされ眠るように、イリイリアの腕の中でみるみる落ち着きを取り戻していくマーレリバー。


 ふーむ。この二人も随分仲良くなったもんじゃな。昔はもう少しだけ他人行儀な感じじゃったが、いつの頃からかイリイリアがマーレリバーのことを呼び捨てにしだしてからは、本当の姉妹、あるいは親子のようじゃわい。


「それにしてもプリティーデビルちゃんだが、何でそんなに強いのに魔将に入ってないんだ?」


 何か今イリイリア達に話しかけるのも躊躇われたので、儂はその横のサイエニアスへと問うた。


「それは簡単です。魔将は元々若い魔王様を補佐するために各種族から魔王様に送られた精鋭なのですが、当然各種族の王達は王達で自分を守る臣下きょうしゃをちゃんと残しています」


 ふむ。まぁそれは当然じゃな。人のところに強い者を送ったのは良いが、それで自分の手元に強者が残らないなんて事態になれば、それって王としてどうよ? ってな感じじゃし。


 じゃが、それはすなわちーー


「魔将より強いのがいるってことか?」

「いえ、魔将は各種族の代表。その力が最高峰であることに代わりはありません。ただ王の近衛には魔将に劣らぬ者も居ると言うのも事実です」

「ふーん。ならあのプリティーデビルちゃんは……」

「はい。魔王様の近衛の一魔ではないかと言う話で、私もそう思っています」

「なるほどな。そういうことなら…」


 そこで急に大音量の音楽が鳴り響き、儂の言葉を遮った。


「プリティ、プリティ、私はプリティデビルちゃん。お空が落ちる時もあざとく振る舞うデビル心。運命、宿命、お星様? 知らない、見えない、聞こえない。小難しいルールは置き去りに、今悪魔の世界に革命起こすよーー」


 魔法でマイクと同じ効果を発生させたプリティーデビルちゃんの歌声がそこら中に響き渡る。


 う、うるさいのう。


 さすがにちょっとどうなの? と思わなくもないが、儂とて三百年以上生きた身。この程度のことはグッと堪えるくらい訳のないことよ。


 儂は気を取り直してサイエニアスとの会話を再開する。


「…そういうことなら魔王様がプリティーデビルちゃんを送ってきたのもなっと…」

「あ~!! 可愛さそれは修羅の道~! 自分を欺け、他者を欺け! 駆けろ、駆けろ、アイツがやって来る。年齢? それがどうした? 束縛、常識、ゴミ箱上等。駆けろ、駆けろ。それが私のーー」


「「「プリティ道ぉ~!!」」」


 ウサミン達が声を合わせて共に歌う。


「って、喧しいわ!」


 つーかアクエロ、お主よく知らんとか言っておきながらバッチリハモっておるではないか!


 儂が怒鳴ると、音楽がピタリと止まった。


「ちょっと、ちょっと、子供がそんな短気でどうするの? 魔生なんて楽しんでなんぼでしょうが。ほら歌って、歌ってー! 短気な心なんて捨て去って。私と一緒に歌がもたらす極楽境地なビックウェーブに乗らないかい?」


 そう言ってサムズアップしてくるプリティーデビルちゃん。だけならまだしもーー


「そうよ。そうよ。リバークロス様は短気よ! プリティデビルちゃんに謝って」

「まったくね。今のはリバークロス様が悪いわ」


 何やら非難がましい目を向けてくるウサミンとネコミン。


 儂はニッコリと微笑むと、いつもより少しだけ細めた目でそんな二人を見た。


 そしてとってもと~~っても優しい声で聞いてあげるのじゃ。


「え? 今なんて?」


 途端、ウサミンとネコミンの毛が逆立つ。


「と、とか何とか言うネコミンは最低ね。リバークロス様の命令が聞こえないの? この愚か者!」

「そ、それは私の台詞よ。リバークロス様が黙れと言えば黙りなさいよね、このアンポンタン」


 そして何やら醜い争いを始める二人。まったくこやつらは。儂が呆れておるとーー


「やめて、皆。私の為に争わないで」


 またプリティーデビルちゃんが何か言い出した。つーか、お主の為と言うよはりはむしろお主のせいじゃからね。


 そこんところを理解しているのか、いないのか。プリティーデビルちゃんは祈るように両手の指を合わせると、今にも泣き出さんばかりの表情で訴えてきた。


「全ては可愛すぎる私が悪いの。でも後悔はないわ。誰だってプリティーになりたい。そう、だって私達女の子だもん」


「「「プリティーデビルちゃん」」」


 感極まった表情でプリティーデビルちゃんに抱きつくウサミンとネコミン、後ついでにアクエロ。


 そして四人はまた仲良く歌い出す。


 う、うるさいのう。


「おい、エイナリン」

「なんですかー?」


 空中に浮かび足を組んでいるエイナリンが、眠そうな顔をこちらに向けた。


「お前の親友だろ。少し静かにさせろよ」

「嫌ですー。関わりたくないですー」


 随分と冷たい親友もおったものじゃな。


「私がやる」

「あらあら。まぁまぁ。ダメよアヤルネ。私が怒られちゃうわ」


 拳を鳴らしながら前へ出ようとするアヤルネをマーロナライアが止める。ふむ。さすがにアヤルネを行かすのは拙いか。ならここはーー


 儂の意思をくみ取ったかのようにサイエニアスが前へと出た。


「プリティーデビルちゃん殿」


 そして再び音楽がピタリと止まる。プリティーデビルちゃんは何故か頬を膨らませた。


「ちょっとそこの鬼っこ。悪魔の名前を間違えるなんて失礼でしょ」

「お、鬼っこ。? いや、それよりも間違えてはないだろう。プリティーデビルちゃん殿」


 サイエニアスが訝しげな顔をするが、プリティーデビルちゃんは呆れたとばかりに大きくため息をついた。


「わかってないわね。そこのウサミミちゃん。説明してあげて」


 そしてこれ見よがしに眼鏡の位置を指で直すプリティーデビルちゃん。ウサミン、そしてネコミンが一歩前へと出る。


「ちょっと。ちょっと。プリティーデビルちゃんは、ちゃん付けのみで呼ばれたいという面倒くさい性格してるんですから、気を付けてよね」

「そうよ。そうよ。プリティーデビルちゃんが拗ねたら大変なんだからね。気をつけてよね」


 ウサミンとネコミンが物凄い勢いでサイエニアスに食ってかかる。


 何なのお主ら? 既に心はプリティーデビルちゃんの手下なの? 儂との蜜月は遊びじゃったの? マイスター超ショックなんじゃが。


 ちなみに獣人の常識人、イヌミンは二人と距離を取り、我関せずを貫いておる。


「「謝って。プリティーデビルちゃんに謝って」」


 ウサミンとネコミンの謝ってコールに基本真面目な性格のサイエニアスは容易く折れた。


「す、すまなかったプリティーデビルちゃん。そんな事情があるとは知らず、てっきりちゃんまでが名前なものかと」


 あ、それは儂も悩んだ。聞くのも何か面倒だったので名前と思うことにしておいたんじゃが、どうやら違ったようじゃな。


 プリティーデビルちゃんは後ろで手を組むと、少しだけ持ち上げた片足をプラプラとさせ出した。


「んー。どうしよっかなー。許してあげよっかなー」


 おい。そのパターンはさっきみたぞ。そして何でウサミンとネコミン、後ついでにアクエロはあんなに期待に満ちた目をしておるんじゃ? 


 そしてやはり思うた通り、プリティーデビルちゃんは手でハートマークを作りおった。


「仲直りのプリティー」


 そしてそれにすかさず応えるウサミンとネコミン、後ついでにアクエロ。


 三者は同じマークを作ると、


「「「プリティー」」」


 をした。


 あ、頭いたい。不覚にも目眩を感じた儂がこめかみを押さえておると、


「プリティー」

「ん?」


 何じゃ? 一連のお約束が終わったと思えば、何故かプリティーデビルちゃんはなおもプリティーをし続けておる。そのプリティーが向かう先はーー


「え? いや、プリティーデビルちゃん?」


 サイエニアスのポニーテールがおののくように揺れる。プリティーデビルちゃんはそんなサイエニアスと距離を詰めると再び、


「プリティー」


 をした。そこで儂は気付く。


 あっ、これってサイエニアスがプリティーするまで終わらないパターンじゃ。


「え? いや、その、私は…」


 どうやら儂と同じ考えに至ったらしいサイエニアスが困ったように周囲を見回すが、既にその時にはーー


「「「プリティー」」」


 サイエニアス包囲陣が完成していた。ウサミンとネコミン、後ついでにアクエロの三者はプリティーデビルちゃんと一緒になってひたすら「プリティー」をし続けた。そしてついにーー


「プ、プリティ-」


 サイエニアス陥落。儂の背後でマーロナライアが声を必死に押さえ、イリイリアが「あら、可愛い」と微笑む。マーレリバーは少し気の毒そうな顔をして、アヤルネは相変わらずジッとプリティーデビルちゃんを見ておった。


「リバークロス様」


 そんな、何なのこの空気? なところにやって来たのは軍帽に軍服、髪の長さと手袋などの色を除けばシャールエルナールに良く似た人物、つまりーー


「シャールアクセリーナか。準備は終わったか?」

「ハッ! いつでも出発できます」

「そうか、ご苦労だったな。出発まではまだ時間があるから休んでいてくれ」

「ハッ! ありがとうございます。……あの、それでリバークロス様。アクエロ様はあちらで一体なにを……なっ!? あ、あれはプリティーデビルちゃん?」


 シャールアクセリーナのお尻から伸びる悪魔の尻尾が凄まじい勢いで左右に揺れた。シャールエルナールが興奮したときと同じ反応じゃ。…………シャールアクセリーナ、お前もか。


 儂の冷ややかな視線に気付いたシャールアクセリーナは一瞬だけ硬直すると、素早く姿勢を正して敬礼した。


「わ、私としたことが。も、申し訳ありませんでした。この処罰はいかようにも」

「いや、別にいいけどな」


 それにしても以外じゃ。シャールエルナールはともかくシャールアクセリーナの方までプリティーデビルちゃんのシンパとは。


 何とも言えん気持ちで、やべ、やっちゃった。みたいな顔で敬礼しておるシャールアクセリーナを見ておると、軍団長である二人、カクカクカクロウとケンタロウスがやって来た。


「カラカラ。カラカラ。魔将殿これはなんの騒ぎ……ぬおー!? プ、プリティーデビルちゃん? 我輩にサインを、一心不乱のサインを一つ、この骨に刻んでおくれー!!」


 骨をカラカラと鳴らしながらプリティーデビルちゃんの元へと走っていくカクカクカクロウ。


 いや、お主何しに来たん? 一応直属の上司である儂を差し置いて、プリティーデビルちゃんの元に走るカクカクカクロウの後ろ姿を、儂は呆れた気持ちで見送った。


 やれやれ。結局まともなのはケンタロウスだけか。まぁ、こやつには勿体ないくらいの婚約者がおるしの。


「ん? どうした?」


 しかしよく見れば、なにやらケンタロウスの様子が可笑しいんじゃが。


「く、お、俺にはエグリナラシアが、し、しかしこの機会を逃すのは……。サイン。せめてサインだけでも。いや、しかしエグリナラシアが。いやプリティーデビルちゃんはアイドル。そこまで深く考えずとも」


 筋肉で盛り上がった体をプルプルと震わせて、マイシスターとプリティーデビルちゃんの名前を連呼し出すケンタロウス。


 儂はこの時心底から思ったものじゃ、


「…………アイドル怖いわ~」


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