プロローグ
現代最強の魔術師である儂は、この世界を去る覚悟を決めた。
幻想なき世界に生まれ落ちて早三百数十年。三十まで童貞を守り、意味もなく滝に打たれ、箒にまたがって崖下にダイブしたりしているうちに、何やかんやで魔術師として覚醒した儂は夢中で魔術を極めようと修行に明けくれた。
石に素早く二連撃を加える修行。片手の親指のみで逆立ちをし、その状態からあり得ない数の腕立てをする修行。そして箒にまたがる修行。儂は一生懸命魔術を極めんとした。そしてその結果として悟ったのだ。
そうだ異世界行こうーーと。
正直この世界は魔術師には厳しすぎるのじゃ。百五十歳を過ぎた辺りからツタノヤでDVDを借りようとしたら、毎回店員に変な目で見られるし。二百歳辺りから年金はもらえなくなるし。長寿な者に対する制度が全くなっておらん。後、何かしらんが肉体の魔術適正が低すぎて簡単な魔術を行使するにも複雑な行程を必要としすぎている。だから儂は思ったのじゃ。
ファンタジー世界なら万事解決じゃんーーと。
この世界とは違い魔術が当たり前の世界に行けたのならば、現代社会ですら本物の魔術師になることができた儂ならば誰よりも高みへと行けるはず。後、もうちょっと女の子にもモテるはず。そう思ったからこそ儂は様々な研究を行い、そして完成させたのじゃ。異世界転生の魔術を。
「さぁ、出発の時じゃ」
儂は儂が持ちうる全生命力を地面に書き込んだ儂の血で出来た魔法陣に放出していく。この血の魔法陣を完成するのがまた痛くて痛くて。何せ魔法陣を書く度にイチイチ手首を切っておったからの。その苦労と来たら御察しと言うやつじゃ。
「月の扉を開けて、夜の帳を越えて、新しき朝を迎え入れよう」
正直、あまり唱える必要のない詠唱を唱える。じゃが術に失敗すればこれが儂の人生最後の魔術となるわけじゃから、悔いのないように格好をつけたところでバチは当たらんじゃろうて。
「現世の肉を捨て、異なる世にて新たな器をいざ求めん」
術が進む毎に少しづつ頭に見たこともない風景が浮かび上がってくる。ーー美しい。今からこの世界で勇者として生まれ変われるのかと思えば、この現代で手に入れた何もかもが惜しくなくなる。
勇者。そう儂はどうせ転生するならと、転生先も決められる魔術を開発しておいたのじゃ。これにより勇者という人類で最も高い魔術適正を持つ体に生まれ変わることができる。
フッフッフ。楽しみじゃ。ひじょ~に楽しみじゃ。勇者ならイチイチ三十になるまで女体を堪える必要もないじゃろうから、魔物とか言う動物もどき共を狩りながらせいぜい人体の神秘を満喫するとしようかの。
さぁ、いざいかん魔術と女の素晴らしき世界へ。く~わっはっは。
そうして儂は異世界へと旅だったのじゃ。