あ行系小説3、相前後~青空
101、相前後
俺は急に眠くなった。
それと相前後して、体に異変が起き始めた。
突然叫びたくなったり、散歩がしたくなるのだ。
人を襲いたくなる衝動にも襲われ始めた。
徐々に心の奥底が闇に侵食されていくようで、理性は心の闇に取り込まれそうになっていった。
「これじゃあ、人間じゃなくてまるで犬のようじゃないか」
骨付きの肉を齧りながら虚ろな表情で俺は一人ごちた。
「そういえば、ペットの犬にも餌をあげなくちゃな」
麻痺しつつある感情の中、ペットの犬に餌をあげる。
こいつはどこで拾ったんだっけ。ああ、ドライブに行った帰りの夜に国道脇にのっそり立っていたんだっけな。
でもこいつが立っていた場所には花や、ドックフードがたくさん供えられていたよな。
まさか、こいつ幽霊じゃないよな?
俺はふふふと笑って犬を撫でる。
確かに犬のふわふわとした感触がある。
その時、近所の家の人が庭の横の道路を通りかかった。
「あら、犬でも飼うんですか? 犬小屋なんかを置いて」
え? 何を言っているんだ? 今、ここにこいつがいるじゃないか。
背筋が凍りつく。
頭が混乱する。
俺は「ええ、実はそうなんですよ」とその場は相手に合わせた。
近所の人が通り過ぎると俺は犬をまじまじと見た。
犬はたしかに存在している。
俺は写真を撮って見ることにした。
写真を撮り、デジカメを見てみると犬は写っていなかった。
ああ、何てことだ。
瞬間、周りの景色がまるで氷解するかのように鮮明に映った。
どうやら幻を見ていたらしい。まさかあの幽霊犬が俺に幻を見せたのか? 何で?
俺は犬小屋の中を覗き込んだ。
そこにはたくさんの餌としてあげていたはずの腐敗した肉と犬の骨が無残に横たわっていた。
そういえば犬を拾ったあの場所。
数年前同じ場所を通った時、ちょうど轢かれた犬の死体があったんだよな。
その時、俺は何気なくこう思ったんだった。
『可哀想な犬だな。俺が飼い主だったら犬が轢かれる様なことはしないように注意するのにな。今度生まれ変わったら俺の家にペットとして来なよ』と。
102、哀訴
あら、猫が捨てられているわ。
学校帰り制服姿の女は校門の横を通り過ぎると、まだ生まれてまもない子猫がダンボールに入って捨てられているのを発見した。
その猫はとても愛らしく、ミーミーと鳴いていた。
「ごめんね。私のお家では飼うことが出来ないの。ペット禁止のマンションだし、お母さんが許してくれないのよ」
女は猫の頭を切ない感情で撫で続けた。
しかし、猫は依然としてミーミーと鳴き、哀訴している。
子猫は思っていた。
なんで、こんなに可愛く鳴いているのに俺を拾わないんだ?
こいつには母性本能っていう感情がないのか?
家に連れて帰るのが無理でも餌ぐらいよこせよ。
何さっきから頭を撫でているだけなんだ。そんな行為俺にとっては何の価値もない。こいつはただ、自己満足して自分に陶酔しているだけだ。本当に俺のことを思っているなら、餌だ。餌をくれ。それがだめなら、おっぱいを吸わせろ。たとえ猫のではなくてもこの際構わない。同じ哺乳類なんだから。母乳が出なくても、いいから。吸う行為だけで我慢してやるから。
子猫はそう思い、感情に訴えかけるように強く強く、鳴き続けた。
ミーミーと鳴き続けている子猫を見て、女は子猫の気持ちなど知らずにずっとずっと猫の頭を涙をながしながら撫で続けていた。
103、愛想笑い
僕は今危険な状況にある。
とても暴力的で、殺人的な相手が目の前にいるのだ。こいつにはいつも悩まされてきた。
僕によく絡んでくるのだ。
あー。鬱陶しいったらありゃしない。
だが、そんな考えを表情には出さず、僕は愛想笑いを浮かべる。
「なあ、そこを通してくれよ」
僕は言うが相手の反応は変わらない。
鬼の形相で僕を見つめている。
僕はだんだんとイライラしてきた。
小さい時から、こいつには悩まされ続けていた。
僕はふと、テレビの情報を思い出した。
そういえば蜂って黒い服や、香水とかに反応するんだっけ。
僕は今日、黒い服装で、香水も付けていた。
そっと僕は後ずさりをし、その場を去った。
104、愛想が尽きる
僕は愛想が尽きた。
友にだ。今同じ部屋にいる。
彼とは小さい時からの親友だと思っていた。
彼は凛々しく、優雅な雰囲気は僕の憧れの存在でもあった。
彼のように強くたくましく、生きたかった。
だから、僕は彼のことをもっと知りたくて、もっと一緒にいたくて、彼にご飯をいつもご馳走していた。
だけど、それももう今日で終わりだ。
僕は彼とは縁を切ろうと思う。
なぜかって? なぜなら彼は僕のことを強く噛んだのだから。
彼は僕の指を目一杯噛み、僕は肉が少し千切れた。
だから、僕は彼を無理やり捕まえた。そしてこの家から追い出すことにした。
「ちょっと、何しているの!」
外に出たとき、母ちゃんに見つかった。
「飼ったからには、最後まで責任を持ちなさい」
バケツに入れられたピラニアである彼は母ちゃんの一言で再び家へと戻された。
105、愛蔵
愛蔵している物は誰でもあるかと思う。
私もそうだ。
私はミイラを愛蔵している。
実は私は吸血鬼の出来損ないで、吸った人間のからからになったミイラを愛蔵しているのだ。
ふつう吸血鬼に吸われた人間は吸血鬼になるのだが、私はだめ吸血鬼として生まれてしまった。
だから血を吸っても吸われた人間は吸血鬼にはならない。
私はミイラが飾ってある漆黒に光り輝く部屋を開けた。
色んなミイラがあり、いつ見ても飽きない。
その様子を眺めていた奴がいた。
この捕まえた吸血鬼は自分が捕まえられ玉の中に封じられているとはしらないんだろうな。
永久に私が作った玉の中で偽物の人間の血を吸い、生き続けるがよい。
光り輝く透明な玉を覗き込みながら男はくっくと静かに笑った。
106、愛息
私には愛息がいる。
息子は小さい時から可愛かった。
だが、私は本当は女の子が欲しかった。
だから息子に物心つく前から、女装をさせていた。
そして今、息子は女装が趣味のりっぱな大人へと成長した。
私は嫁、息子と三人でフランスレストランに行った時のこと。
向かいの席に王子様の格好をした不思議な男とその付き人を発見した。
コスプレか何かかな。と思っていたがバックから100万円の札束がいくつも見えたので本当の王子様なのだと私は悟った。
家に帰り、ポストを開けると信じられないニュースが入っていた。
先ほどの王子様が結婚相手を募集するというのだ。
その王子様が住んでいる町は私の町と同じ町だった。
私の町にそんな王子様が住んでいたなんてまったくしらなかったが、私は息子に王子の嫁になるように説得した。
息子はしぶしぶ嫌がっていたが、王子の顔や人柄に惹かれ嫁になるべく試験を受けることにした。
息子は目一杯しゃれ込んで、その試験に臨んだ。結果王子の嫁になることになった。
でも息子は女の格好はしていても中身は男だったので、どうしようかと本気で悩んでいた。まさか本当に結婚することになるとは思わなかったのだろう。
でもそれはすんなり解決を迎えた。
実は王子は女だったのだ。王子の格好に憧れていて女が好きな百合の彼女は女を結婚相手として募集した。だが、受かったのは女の格好をした男だった。
まあ、王子も女装している息子を気にいってもらったみたいだし、息子も王子の顔や人柄に惹かれていたので、まったくといっていいほど問題はなかった。
そして、王子の格好をした女は、女の格好をした息子の子を産み、末永く幸せに暮らした。
107、愛孫
愛孫。
私にも可愛い孫が出来た。
とても元気な孫で、将来に期待がもてる。
今日はその孫の面倒を私一人で見ている。
我が一族は先祖代々特別な職業についている。
この職業についているのは世界でも稀だろう。
だが誰でも出来る職業というわけではない。
この職業に就くのは実力はもちろんのこと、一瞬の柔軟な判断力や、度胸、左右されない鋼の意志が要求される。
数多くの一族が命を失ってきた。
そして、私達も数多くの人を殺めてきた。
私達の仕事は暗殺業だ。
「ふぎゃぁ、ふぎゃぁ」
おお、よしよし。お腹がすいたか。
私は孫に食べさせる為にご飯を持ってきた。
そしてご飯を孫の口へとスプーンでゆっくり運んだ。
その時。
「ふぎゃあ」
孫の目が威光を放った。
孫は人差し指と中指を二本立て、私の目に勢い良く向けてきた。
私はぎりぎりのところでかわした。
「まさか私が毒見をしなかったので怒ったのか? なんて孫だ。こんな幼き時から暗殺業の素質を存分に発揮させるとは」
私は満面の笑みを浮かべた。
そして、孫にあげるご飯の毒見をした。
「ぐ、ぐはあ!」
ま、まさか。こ、これは。
孫が……孫が入れたというのか。いつの間に……。
私は体から力が抜け落ち、スプーンを床にカラーンと落とした。
まさか、いつの間にか私が毒見する為のスプーンの上にのったご飯に自分のうんちを入れるとは……。
末恐ろしい子!
108、あいたい
あいたい。雲が盛んな様をそう呼ぶ。
今日は雲がたくさんあり、どんよりしていた。
今日は休日。こんな曇りの日は家でのんびりしていたいとは思ったが、逆にこんな時こそ外に出るべきだろうと思い、俺は外出することにした。
何しようかな。買い物かゲーセン、公園散歩、どうしようか。
右手を丸めて顎の下にのせ、考えながら歩いていたら、ドン! と人にぶつかった。
「キャッ!」
バタンと倒れる相手。
「だ、大丈夫ですか?」
「ちょ、ちょっと。どこ見て歩いているのよ」
金髪のロングの髪の美少女は言った。
「す、すいません。考え事していたもので」
「ふんっ……。あれっ? 雲が晴れてお日様がのぞいている。さっきまであんなに雲があったのに」
「あ、もしかしてそれ俺のせいかもしれないです。俺って晴れ男なので」
「え、あんた晴れ男なの? へえー」
急に目の前の美少女の目が輝きだした。
「ど、どうしたんですか。急に」
そのあまりの変わりように驚いて俺は聞いた。
「あたしと付き合って下さい!」
「え? えええ? ど、どうしてそんな急に」
すると美少女は少し恥ずかしそうな顔をした。
「あ、あたしはね。実は曇り女なの」
「曇り女?」
「そう。だから、ずっと晴れ男を捜していたの」
「ああ、そうなんですか。晴れの方がいいですもんね」
俺はこんなチャンスはないと思い、美少女と付き合うことを決めた。
「じゃあ、よろしくお願いします。これから2人でどこに行きます?」
「2人? 何言っているの?」
「え? だってこれから付き合うんですよね」
「勘違いしないでよね! 付き合うっていったのは男女交際の意味ではなくて、私の世界征服の夢に付き合ってって言ったのよ」
「世界征服?」
「そうよ」
そう言うと美少女は携帯をいじり、どこかに電話を掛けた。
「あ、もしもし? あ、うん。私。でね、ようやく見つかったのよ晴れ男が……。これから皆の所にも電話するつもり」
その後、しばらく色々な所に美少女は電話を掛けまくっていた。
美少女が電話を切った後、俺は美少女に聞いた。
「一体誰に電話をしていたんですか?」
「うん。今電話していた相手はね」
美少女は凛とした表情を崩し、笑みを浮かべ言った。
「雷女と雪男、台風ニューハーフに、地震おかま、ひょう幼女に山火事お爺さんの所よ」
「へ?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
しかしそんな様子も気にせず、美少女は声を高々にして言った。
「皆で世界の天候を操作してこの世界を支配しましょう」
109、相対
私は今得たいの知れない生命体と相対している。
そいつは可愛らしい見た目とはうってかわって、暴れまわっている。
私の難しい言葉はそいつには理解できないようだ。
縦横無尽に暴れ、城を破壊し、地面に穴を穿っている。
まだ私の存在には気づいている様子はない。
このまま、その生命体の観察を続けよう。
その時、後ろから声を掛けられた。
後ろを振り向くと警察官がいて、私の肩に手を置いていた。
「ちょっとそこのあなたさっきから何しているの?」
私の児童観察はこうして終わりを迎えた。
110、あいだい
あいだい。舟歌のこと。
船をこぎながら私は唄を歌い、網で魚を捕っていた。
すると、下に黒い巨大な影が姿を現した。
まさかクジラか? クジラがもし、下から突き上げてきたならこんな小さな木の船はひとたまりもないだろう。
そしてその黒い影は船の少し離れた所まで移動し、海面に浮上した。
ジャッバーン!! 海面が大きく波打ち、私の船も大きく揺れた。
な?
海面から姿を現したのは何と、巨大な美少女の顔だった。
凛とした顔だちに、金色のポニーテールの髪の毛、桜色の唇に、愛らしい優しそうな目。
どこから姿を現したのか不明の美少女は私の存在を確認すると、こちらに近づいてきた。
私はこのまま美少女に食べられて死んでしまうのかと思った。
だが、次の瞬間その美少女は海面から全身を突き出し宙に浮いた。
美少女は口を開いた。
「まさか、機械の不良で一旦海面に浮上しなければならないとはな。そして浮上したら何とも運悪くすぐに見つかってしまうとは」
え?
私はその巨大な美少女をまじまじと眺めた。
機械? ってことはロボット? とてもそんな風には見えない。
「この美少女ロボットはわが国が最先端の科学技術を集めて秘密裏に作ったものだ。秘密を知られたからには君にも協力してもらわなくてはならない。断ればどうなるか分かっているだろうな」
私は脅され、強引に美少女ロボットに乗ることになった。
中に入ると、膨大な数の機械や操作盤があり、眩暈がした。
「ちょうど美少女ロボットのパイロットが不足していた所なんだ。これから朝から晩までみっちりと美少女ロボの勉強をしてもらう」
中にいた男が言った。
私はそれから数年間美少女ロボの中に監禁され操作方法を教わった。
そして、私は美少女ロボの操縦士として、駆りだされる時が来た。
戦争中、紛争中の地域に行き、皆を萌えさせる為だ。
私の操縦した美少女ロボットは荒んだ兵士や子供達、政治家達の心を和ませた。
私は今日も美少女ロボットで皆の心を癒しに旅に出る。
111、相太刀
相太刀をすることになったのはふとしたことがきっかけだ。
俺がトレーニングルームで体を鍛えているとスピーカーから声が聞こえた。
「これから、相太刀をしてもらう。相手はお前自身だ」
俺がクローン人間だということは生まれて早い段階で知らされていた。
何の為に俺は生かされているのか、トレーニングをさせられているのか、それは分からなかった。
ただ、漠然と毎日を過ごしていた。
「クローン達の数は教えないが、全部のクローンを倒したらお前を自由にしてやる」
スピーカーからの声はそう言った。
自由になり、自分自身について知りたかった俺は部屋に送り込まれる自分と同じ姿のクローン人間を次々と太刀で殺していった。
時は流れ、数年が経った。
殺したクローンの数は1000人は下らないだろう。
罪悪感は最初は多少なりともあったものの、今では麻痺してすっかり感じなくなっていた。
そしていつまでこの状態が続くのだろうかという無力感に支配されていた。
「よくここまで頑張ったな。次が最後の相手だ」
スピーカーから声が聞こえた。スピーカーの向こうの声は楽しそうでどこか笑っているかのような声だった。
ようやく終わりを迎えることが出来た。
俺はそう思い、疲れ果てた表情で入り口を見た。
しかし一向に入り口からクローン人間が入ってくる様子はない。
「どういうことだ」
ボソッと呟く。
「さあ、早く闘いたまえ。最後のクローンが残っているぞ。はっはっはっ」
スピーカの声は笑いながら言った。
まさか。
最後の相手は俺なのか?
俺を殺せと言っているのか。馬鹿な……。
その言葉を聞いた俺は力が抜け、膝から崩れ落ちた。
「このクローンは、出来の悪いクローンを処理してくれるのに最適だな。重宝するぜ。さあ、もう一度記憶を消して、またクローンの作成を開始するとするか。また出来の悪いクローンはこいつに処理させてな。ハハハ」
クローンの元となった男は高らかに声を上げた。
112、あいだる
なよなよしていることをあいだると言う。
俺はあいだるだがそんなことは気にしない。
むしろほこりを持っている。
こんな体でしかもいつも暗い部屋に閉じこもっていたので本当に大丈夫かと心配する人もいる。
いや心配しているのは俺だけではなく、同じ施設で育った皆のことだが。
だが、こんな体でも大丈夫だ。
ちゃんとすくすくと皆育っているし、栄養だってちゃんとある。
だから俺のことをちゃんと食べてね。
そう皆の想像通り俺もやし。
113、愛鳥
僕には可愛がっている鳥がいる愛鳥だ。
とても綺麗な翼をもっている鳥で顔だちがとても美しい。
僕が話しかけると言葉は分からないが答えてくれる。
性別はメスで僕はその鳥に可憐と名付けた。
だが可憐はなぜか寂しそうな顔でいつも僕のことを見つめる。
「なあ、可憐。なぜそんな悲しそうな顔をしているんだい? 鳥かごの外に出たいのかい? でもそれはだめだよ。外は危険すぎる。外には君よりもっと大きな鳥がわんさかといるんだ。君なんかすぐに食べられてしまうよ」
僕は寂しそうな可憐を慰める為に友人を家に連れてきた。
「これが可憐だよ。たまたま散歩していた時に草むらの影に倒れていたので連れて帰ってきたんだ」
「おいおいまじかよ」
「ん? どうしたんだ?」
「これってまさか妖精じゃないか?」
「よ、妖精?」
「ああ、これは鳥じゃないよ」
僕は鳥篭の鍵を開けて可憐を駕籠の外へと出した。
可憐は駕籠から出るときらきらと光る凛粉を撒き散らしながら嬉しそうに飛び回った。
「ごめんな。可憐が妖精だとは思わなかったよ。でももうこれでお前は自由だよ。今までどうもありがとう」
僕は張り裂けそうな思いでそう言った。
すると可憐は僕の周りをゆっくりと周り僕の頬に軽くキスをした。心なし頬が朱に染まっているように見える。
そして可憐は僕の胸のポケットにすっと入り込んだ。
「こ、これからも……よ、よろしくお願いします……」と可憐の口から発せられた僕が聞いた初めての日本語は聞き取れるかどうかのぎこちない、音に近い響きだった。
だが、僕は感激し可憐の頭を人差し指で優しくそっと撫でた。
「こ、こちらこそ、ど、どうぞよろしくお願いします」
僕の灰色の人生が彩り始めた瞬間だった。
114、相通づる
人が相通づることは世の中にたくさんある。
国は違えど皆、ご飯を食べ、トイレに行き、寝る。
音楽や芸術作品に触れて感動したりする。
笑い、泣き、怒り、喜ぶ。
どの国の人も一緒だ。
じゃあ、もし宇宙に人がいたとしたらどうなのだろう。
地球人だけがご飯を食べ、トイレに行き、寝て、宇宙人は感動したり笑ったり、泣いたり、怒ったり、喜んだりしないのだろうか。
いや違うと思う。
もし宇宙人がいたとしても地球と同じように感情溢れる人達なのではないだろうか。
僕はそんなことを思いながら冬の澄んだ空の下、星降る夜空を眺めていた。
115、相次ぐ
相次いで俺の人生に不幸が起きている。
毎日学校に行かなくてはならない。無理やり行くので神経を消耗し寿命が縮む。
だんだんと髪の毛や体毛が伸びてくる。それによって散髪に行かなくてはならなくなり、お金が減る。
目の中に埃が入ってしまい目が少し痒くなった。
家の近くで工事をしているらしく音が五月蝿くてイライラし神経が磨り減る。
呼吸することにより何かしらのウイルスを吸い込んでいると思われ夜も眠れない。
歩くことにより足の細胞の一部が圧迫を受けている。
俺は相次いで起こっている不幸を友人に話した。
「ネガティブか!」
芸人のようなツッコミで友人が俺の頭をスパコーンと叩いた。
俺の頭が叩かれ脳の細胞が少し死んだと思われた。
俺の身に起こる不幸はいつまで続くのだろうか。
116、相槌を打つ
俺は相槌を打っていた。
俺は昔鬼が住んでいたと噂の山に行き伝記を元に鬼の痕跡を探していたのだが、その途中突如何者かに拉致されたのだ。
袋を被せられてどこかに移動させられた俺。
数時間は経過しただろうか。被せられていた袋が取り除かれ視界に眩しい光が差し込んできた。
目が慣れてくるとそこには鬼の姿があった。
鬼は手にこん棒を持っていたので俺は鬼を刺激しないようにと鬼の話に相槌を打っていたのだ。
その鬼の話によると鬼は絶滅したわけではなく、ひっそりと山の地下で細々と暮らしていたという。しかし、その鬼ももう目の前にいるこの鬼だけになってしまったとのことだった。
俺は鬼に聞いた。
「何で、地上に出ないのですか?」
「だって、鬼だって分かったら皆鬼狩りに来て僕殺されちゃうじゃん」
「何で俺を拉致したのですか。今までも拉致した人はいるのですか?」
「いや、今までは僕を探しに来る人はいたけど、この秘密の場所は人間が入れない入り組んだ場所にあるし、放っていたんだけど、君は例外なんだよね」
「俺が例外?」
不思議そうな顔をする俺に鬼が少しもじもじしながら言った。
「僕、君に出会った瞬間から心の中がビビビッと来たんだ。これが初恋ってやつかな?」
「え?」
鬼に惚れられた?
俺は鬼を見る。
鬼は言葉こそ僕と言っているがどう見ても女の子だった。人間の年齢にすると15、6歳に見える。
整った顔立ちで、透明な透き通る肌をしている。腕は華奢で足もすらっとしている。髪はシャンプーなどをしていないせいか、ボサボサだ。目はうるうるとしていて、俺好みだった。どこか照れくさそうな仕草もツボにはまった。だが、頭の上に申し訳程度に生えている角がこの子が鬼という確固たる証拠を示していた。俺を拉致するだけの力がこの細い腕のどこにあるというのだろうか。
そんなことを考えていたら鬼が俺に言った。
「僕じゃ、やっぱりだめかな?」
俺は即決したい気持ちもあったがやはり徐々に仲を深めて行くことがいいと思ったので「まずは友達から」と言った。
鬼は恥ずかしそうに俯きながら「うん」と言った。
こうして俺は鬼と友達になった。
休みの日には鬼の隠れ家に行き日用品や服を始めとする様々な物を差し入れしに行った。
月日は流れ俺は鬼と結婚することになった。
2人だけの結婚式だ。
その後子供も産まれ、俺達は小さな隠れ家で幸せに暮らしている。
いつか家族皆で地上に出て、人間達と仲良く出来る日を夢見ながら。
117、相床
今僕は一人旅をしている。
就職前の時間ある今しかできないと思い僕は旅に出た。
免許を取ったバイクで日本全国を旅している途中だ。
金はあまり持っていない。
なんとかやりくりしながら全国一周の旅を終えるつもりだ。
北海道から出発して今、ようやく関東に入った所だ。
旅に出てもう一週間が経った色々と回り道をしながら、写真に納め、ブログに掲載しながら一日一日を過ごしている。
バックから財布を取り出し残りの金を確認する。
もう僅かしかなかった。
今日はどこに泊まろう。
11月も後半に入り、朝は底冷えする寒さになってきた。
流石にこの季節に野宿は危険かもしれない。
もう夕方近いので早いところ今日の宿を探そう。
僕はそう思い、バイクで辺りを駆け回った。
すぐにボロボロのホテルが見つかった。
ほの暗い感じで、不気味に感じられた。
「こんばんは。泊めて下さい」
僕が言うと奥からおばあさんがのっそりと現れた。
「いいですよ。この建物はもうすぐ壊されるので泊まるだけならただでいいですよ。ただし相床でいいならだけどね」
おばあさんはくまの出来た目を僕に向けながら言った。
「それは助かります」
僕はお金がなかったので食事は抜きにして泊まるだけにした。相床だけどただで泊まれるだけありがたい。
部屋に入ると、異臭が漂っていた。
「おや、今日は客が多いね」
部屋にいた御婆さんが寝転がりながら僕に言った。
「すいません。今日は相床させてもらうことになりました」
「はいよ」
僕が泊まるこの部屋には3人ほどのお年寄りがいた。
皆静かに横になっていた。
あまり騒がしいことは出来ないので僕はイヤホンを耳に当て、音楽を再生した。
そして目をゆっくりと閉じた。
次の日解体工事が始まると作業員はその建物から4体の死体を見つけた。
いずれも白骨化しており、死後数年が経過していた。
すぐに部屋に案内されると
118、相伴う
誰しも何かしら力を貰うものやことがあるだろう。
好きなアイドルグループを応援することにより、生きがいを見つけ力が出る。
大事にしている物やペットから力を貰う。
音楽を聴いたり、絵を描いたりすることにより活力が出る。
買い物をしたり、散歩に出かけたり、遊んだり、力を貰うことは人それぞれだ。
俺も誰かが歌うことと相伴ってどんどんとエネルギーが上昇してくる。
誰かが歌うとその歌を糧として力がみなぎってくる。
そして今日もどこかの誰かが俺に向かって精一杯歌を歌う。
俺はその歌を体内に吸収した。俺の体のパワーがぐんぐんと上がっていく。
ピピピピピピ!
83点です。
俺は採点機だ。
119、相取り
物事を一緒になって行う人が僕にはいる。相取りだ。
僕はいつも彼女と一緒に会話や食事をしたり、色々な所に行って遊ぶ。
彼女は僕がいつも引っ張っている。僕が行動を起さないとと彼女は動かない。文字通りぴくりとも。
だから僕はいつも「はあ」とため息をつきながら彼女をエスコートしていく。
だけど僕がいないと何も出来ないそんな彼女が僕は大好きだ。とてもいとおしいと思う。
もっと彼女のことを知りたい。そして彼女に近づき触れたい。僕はそう思っている。
けれどもその夢は一生叶わない夢なんだ。
だって彼女はゲームの世界に住む人なのだから。
120、アイドル
我が家にはアイドルがいる。
とても可愛いアイドルだ。
よく飼育ケースの中をを動き回っては私達家族をその愛らしい表情で楽しませてくれる。
臆病者ですぐに隠れてしまうがそこがまた愛くるしい。ピョコンとした見た目も好きなんだよな。
最近とても幸せな出来事が起きた。
彼女が何と妊娠したみたいなのだ。
やったー。皆でその喜ばしい記念すべき出来事を喜んでそれが分かった日は家族皆でお祝いのケーキを食べた。
可愛いなあ。
僕は彼女に近づきそっとその体を撫でた。
滑らかな柔らかい感触。僕は思わずふふふっと笑った。
人間に懐かない気まぐれな感じがツンデレキャラみたいで可愛いんだよな。
「あっ」
その時一瞬の隙を付いて我が家のアイドルが飼っている飼育ケースから飛び出した。
僕は必死で彼女を捕まえようとするけど逃げられてしまった。
こりゃあ、なかなか見つかりそうにないな。
その日、僕達は我が家のアイドルを必死に捜索した。
けれどその日はとうとう見つけることが出来なかった。
僕達は悲しみで途方に暮れた。
次の日の朝、起きると異変に気づいた。何か背中の所に違和感を感じる。
ま・さ・か。
僕は悪い予感が当たらないようにと心の底から祈りながらベットの今しがた寝ていた所を振り返る。
そこには僕の体重によって無残にも潰されてしまった我が家のアイドルの姿が……。
僕は絶望でしばらく何もする気が起きなかった。しかしその時、死んだと思われる我が家のアイドルが少しだけ動いた気がした。まさかまだ生きているのか?
僕は泣き顔のまま顔をそっと近づける。
すると……。
「あっ」
新たな生命が芽生えているではないか。
急いで僕は子供達を逃がさないように手で掬った。
僕は悲劇を二度と繰り返さないようにしなければ、と固く心に誓いゴキブリの子供達を優しく飼育ケースへと入れた。
121、安全
女性は夜道一人で歩いている時不安になることはないだろうか。
力が弱い女性は一人で歩いていると性犯罪者からすると格好の餌食だ。
そんな世の中を嘆いていたある鬼才がある商品を開発した。
臭い商品の数々だ。
まずは臭いガムだ。夜道襲われるのが怖い女性はこのこのガムを噛むと良い。
ガムは丸い形をしている。
何もない時は口の中で転がしていればよい。
しかし、何か不審な気配を感じたらこのガムを噛もう。
ガムの味は大便の味だ。本物の大便は一切使用してはいないが、一旦噛みだすと物凄い悪臭が口一杯に広がりそしてその臭いが辺りに漂いだす。
この臭いを嗅いだ性犯罪者や性犯罪者予備軍は女性を襲う気をなくすだろう。
次の商品は女性のパンツに刺激のある液体を仕込んだパンツだ。
その液体は痴漢撃退用スプレーなどに用いられる刺激の液体や唐辛子成分などが大量に含まれている。
そのパンツは普段はただのパンツだがそのパンツと連動しているボタンを押すとパンツの液体が入った部分が破れ外へと漏れ出す。すると性犯罪者はその刺激物に耐えられなくなり性犯罪を諦める。
こうして性犯罪は減少したとさ。
122、愛重
マリンブルーの瞳が特徴の彼女には愛重しているものがあった。それは人や人との繋がりだ。
彼女は魔法が使える。
使える魔法は物を小さくする魔法 、ただ一つだけ。
だけどそれだけ使えれば彼女は十分だった。
彼女はとても寂しがり屋で、常に他者(動植物を含む)と交流を求めていた。
そんな彼女が考えに考えた結果出した答えはこうだった。
「世界中の皆と交流したいわ。でも一体どうすればいいのかしら。そうだわ! 直に触れ合えばいいんだわ」
彼女は人間を始め、様々な動植物を小さくした。そしてそれらをむしゃむしゃと食べ始めた。
「皆と交流できて、皆と一体になれて私はとても幸せだわ」
「あら」
彼女は突如便意を催した。
すぐにトイレへと駆け込む彼女。
便秘気味だった彼女だが久方ぶりに苦もなく、排便を終えた。というより快便だった。
彼女はとても嬉しかった。
これも皆と一体になったことにより自分の体が良い方向に働いたのだろう。
彼女はそう思った。
「消化されていなかった方々もいたけどごめんね。でも私と一瞬でも一体になれたからいいでしょ。旅は一期一会って言うしね」
彼女は屈託のない笑みを見せると、今後まだまだ出会うであろう新しい食事のことを考え思いを馳せた。
123、生憎
今日は本当は祭りの予定だった。
心うきうき湧き踊るカーニバルの日だった。
だが、生憎の天気の為それは中止にする事にした。
俺はまだ若い。精神的な意味だけでなく実際に年齢も若い。齢にして7歳だ。
俺を客観的に眺め、文章として描写するならこうだ。
まだ幼い年齢ながらもその小さな頭にはまるで高性能のコンピューターが入っているかのような情報処理能力や記憶力、様々な状況に臨機応変に対応し、最善の答えをいつも導き出すその少年はまさに神童と呼ぶに相応しい。
理知的で凛々しい顔をしていて、瞳の奥はまるで深海のように読み取ることが出来ない。未知で、それでもその瞳の奥に感じることができる少年の何らかの思考に興味が湧き少年から片時も目を離すことが出来ない。
一つ一つの仕草や行動にも何かしら意味があるような気がする。
少年が動くとまるで妖精が鱗粉を撒き散らすかのような輝きが少年の周りに宿る。艶のある動きは見るものを魅了し離さない。
まあこんなところだろう。
で、今日やる予定だった祭りは何だったかと言うと、それは血祭りだった。
俺の家の前を血祭りにしてやる予定だった。
だがその計画は雨の為、頓挫することにした。
だってせっかく血祭りしても雨で血が流れたら意味がないからね。
え? 血祭りって何だって?
血祭りっていうのはね。家の前でね、釣りで釣ってきた大量の魚を捌き、捌いた時に出た血を家の前に撒き散らすことを言うんだよ。
俺ねまだ7歳だけど釣りと、魚を捌くのは得意なんだ。
124、東の風
東の風が吹いてきた。
僕は地面から葉を拾い風の中に放り込む。
葉は風にさらわれながされる。
これは人生に似ているな。
人生にも風は吹いている。様々な風が。
色々な方向に。
一度として同じ風は吹かない。
自分の目指す方向の風を見つけよう。
そしてそれを見つけたらその風に乗るんだ。
風は待ってはくれない。
その風を逃したらまたいつ次に自分の待っていた風が吹くかは分からない。
なんてね。
僕は河原の土手で頭の後ろに両手を組み寝転がりながら夕焼けの空を見上げながら僕はふと考えた。
125、あいつ
あいつに出会ったのはある晴れた日のことだった。
桜が満開に咲き誇る春、俺は桜並木を一人ぽつんと歩いていた。
その日は休日で特にすることもなかった俺は花見がてら散歩をすることにしたのだ。
満開の桜の木から花弁が俺の周りを優雅に舞いながら落ちて行く。
その情景は美しくそれでいてノスタルジックな雰囲気を感じさせた。
学校に行ってみよう。
俺はふとそう思い学校に向かうことにした。
もちろん今日は休日なので学校はやっていない。だが、俺の通っている学校は桜の名所でもある為行ってみようと思ったのだ。
学校内には入れないが外から見るだけでも十分だろう。
学校に着くと、俺は外から学校内の桜を見渡した。
俺の他にも花見と思われる数人の大人たちが桜を見ながらゆっくりとだべり歩いていた。
俺はある一本の桜の木にふと目をとめた。
「だれか……いる?」
桜の木に体をもたれさせるように一人の少女が立っていた。
「あんな所で何をしているんだろう」
俺はそう思った。
少女は俺の視線に気づいたのかふと顔を上げ俺の方を見た。
少女はにっこりと笑った。
桜の木の風景に溶け込んでいるかのような彼女はまるで現実にはいないおとぎ話の世界から抜け出たかのように美しく、儚い少女に見えた。
俺は意を決し、少女に会いに行く為、学校の校門を乗り越えた。
乗り越えた瞬間、眩い一筋の光が俺に降り注いだ。
校門を乗り越えると俺は少女の元へと近づいて行った。
少女は少し驚いたような顔をし、小首をかしげている。
少女の元へとたどり着くと、暑さの為か少し息が切れていた。
「はあ、はあっ」
すると「大丈夫ですか?」
少女が言った。
その声はまるで鈴の音のように透き通った優しい声だった。
なんて美しい声なんだ。
俺はずっとその声に聞き入っていたかった。
「どうしたの……でしょうか?」
少女は俺の顔を不思議そうな瞳で下から覗き込んだ。
「い、いや。君が学校に一人でいるからどうしたんだろうと思って心配で来たんだよ」
「本当?」
「ああ、本当だよ」
俺が言うと少女は笑った。
だがその顔は先ほどまでの笑った顔とは違って感じられた。
口は確かに笑っているのだが目は笑っていないように見えた。
目は笑っているように細められてはいるのだが、その目の奥が凍りつくように冷たく感じられた。
少女は語り出した。
「私ね。死のうと思っていたの」
「え? 死ぬ?」
「そう。私、昔から色々と虐待を受けていたの」
「虐待?」
「うん。どんな虐待かっていうとね性的虐待よ」
「そうか。それで死のうと思っていたのか」
少女は何も喋らずに頷く。
「なら、相談所に行こう。俺が連れて行ってあげるよ」
少女はふふふと笑った。
「ねえ、なんで私がここにいたと思う?」
「え? 何でって?」
「私ねここで待っていたんだよ」
「待っていた? もしかして自分に手を差し出してくれる人のことを?」
「違うわ。私に近づいてくる人のことをよ」
「どういうことだ?」
「こんな小さな私に乱暴をしようとするようなロリコンは許せない」
「そうだな。許せない奴だなそいつは」
俺は同意した。
「それで私は待っていたの。私に近づいてくるロリコン野郎をね」
「ロリコン野郎を待っていた?」
「そう。あなたみたいなね」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺はロリコン野郎じゃない。ただ君が心配だったからここへ来たんだ」
俺が言った直後、少女は俺に体を預けるように寄りかかってきた。
「あ……」
思わず言葉が洩れた。
俺の服から赤い物体が滴り落ちている。
少女の手には銀色に光る物体が握りしめられていた。
「あ……あ……」
俺は力なく地面に膝を着いた。
「な、なんで」
少女はその光景を見てただただクスクスと笑っていた。
「なんでこんなことをしたんだ」
俺は怒り狂った。
「ロリコン野郎許せなかったんだもん」
「だからって俺の服にオタマに入れたトマトケチャップをかけるなんて酷いだろう?」
「いいじゃん、別に……ロリコン野郎なんだから」
俺は少女の手を引っぱった。
「家はどこだ?」
少女は答えない。
「はあ」
急に俺は面倒臭くなった。
もうどうでもいいやこんな奴。心配して損した。
俺は少女に背を向け、すたすたと歩き出した。
「ごめんなさい。寂しかったの。友達誰もいなくて……」
俺は少女の方を振り向いた。少女は目に涙を浮かべていた。
「じゃあ、さっきの性的虐待の話も嘘なんだな?」
「それは本当よ。私が1、2歳の時に父親に体を洗ってもらったの」
「それは普通だよ!」
俺は突っ込んだ。
「え? 普通なの?」
少女はポカンとした顔を浮かべた。
「やばい。パパに悪いことしちゃったかな。パパに体を洗ってもらったっていう話をママから聞いてから、ここんところパパのこと無視していたの!」
「なんでやねん」
俺は関西弁で突っ込んだ。
「じゃあ、私、帰るね」
少女は走り出し俺の方へ向かって来た。
少女は俺の目の前で立ち止まると「今日はありがとうね」と言った。
「どういたしまして。服のことは許してやるよ」
「ありがとう。あっ、そうだちょっと耳貸して?」
少女は手招きをした。
俺は頭を少女の方へと下げた。
チュッ!
「なっ??」
「じゅあね、今日は本当にありがとうね」
元気一杯の無邪気な声で少女は言うと校門を乗り越えて颯爽と帰って行った。
俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
舞い落ちる桜の花びらのような少女だった。
126、相作り
「さあ、今から相作りの料理が食べられるんだなあ」
僕は旅館でまったりゆったりのんびりしながら食事が部屋に運ばれてくるのを待った。
高校を卒業し、4月から大学に通うことになった僕だが果たしてこのままでいいのだろうか。
そんな思いが頭を駆け巡っていた。
勉強ばかりし、知識だけ詰め込んで今まで生きてきた僕。世間については何もしらない。なにかまるで世間と接点を感じることが出来なかった。
温室育ちの植物、井の中の蛙。もしかして僕はそうなのではないのだろうか。
日に日にそんな思いが強まってきていた僕は決心した。一人旅に出ようと。
そして僕は大学が始まるまでの間、日本全国をぶらりと気ままに旅をしていたのだ。
で、今僕は一人旅を始めて5日目が経った。
旅館でお風呂に入り、部屋に戻り、食事が運ばれてくるのを待っている次第だ。
僕はテレビをポチっと点け適当に番組を見ながら食事が運ばれてくるのを待った。
「失礼します」
その時、部屋の女将の声が外から聞こえた。
「どうぞ」
僕が言うと、女将が静かで上品な立ち振る舞いで部屋に入って来た。
「ご食事の準備が出来ました」
「そうですか」
僕はにこりとした笑みを女将に返した。
すぐに部屋に食事が運ばれてきた。
高級肉に、繊細な飾りが施された和食、旬の野菜や炊き込みご飯、そして僕の大好物の相作りだ。
僕は相作りの刺身を見た。
「えっ?」
異変に気づいた。
相作りとは赤身の魚の刺身と白身の魚の刺身を並べたことを言う。だが、そこに並べられていたのは赤身の魚の刺身のみだった。
僕はそれを見て激こうした。
「何で白身の刺身がないんだよ!」
「申し訳ございません。今持ってきます」
「まったく冗談じゃないよ! 僕は相作りが大の好物なんだよ」
「申し訳ございません。サービスしますので」
女将が言ったので僕は納得した。
ほどなくして女将が相作りを持ってきた。
僕はそれを食した。とても美味しく僕は一瞬にして嫌な気分が飛んで行った。
次の日も僕はその旅館に泊まることにした。
なぜなら、その日は風が強く、旅どころではなかったからだ。
僕はもう一泊する申請をすると女将が僕に聞いた。
「今日のご夕飯ですが二種類ございます」
「二種類?」
「はい、昨夜とまったく同じ料理と、あとはスペシャル相作り料理です」
僕は即決した。
「スペシャル相作り料理にします」
女将は「かしこまりました」と笑顔で言った。
その夜、夕飯の時が来た。
女将が昨日に引き続き「ご夕飯のご準備が整いました」と言った。
「どうぞ」
僕が言うと、女将が部屋に上がり込んだ。
その後を大柄の男が二人女将の後を追うように姿を現した。
二人の大柄の男は両手に棺桶を持ちながら、上がってきた。
「なんだ? これは」
「スペシャル相作り料理です」
女将はにたにたとした気色の悪い笑みを貼り付け言った。
大の男が棺桶を開けた。
そこには赤身と白身の刺身が規則正しく並べられていた。
「いかがでしょうか。スペシャル相作り料理は……」
「ふざけんな。悪趣味にもほどがあるだろ、気持ち悪いんだよ。ババア」
僕は暴言を吐いた。
すると女将が顔色が見る見る変わった。
「おい、お前達!」
「はい、姉御!」
大柄の男は女将を姉御と呼んだ。
「やっておしまい!」
「へい!」
大柄の男の内一人が僕を羽交い絞めにした。
もう一人の大柄の男が懐から拳銃を取り出し言った。
「姉御の悪口を言うなんてあんさん、許しませんわ」
男は僕に向かって拳銃の引き金を引いた。
乾いた音が部屋に響き渡る。
僕は眉間を打ち抜かれ、死んだ。
「おい、死体はこの棺桶にしまって、どこかに埋めな!」
「へい!」
僕は相作りの棺桶の中に入れられた。
「でもこいつも幸せではないでしょうか」
大柄の男の一人が言った。
「そうですね。自分の好きな物に囲まれて天国に行けるんですからね」
もう一人の男が言った。
「私に暴言を吐く男が天国になんて行けるはずないだろ!」
女将が言った。
二人の男は「たしかに」と言った。
三人ははっはっはと高らかに笑いあった。
「なんだったんだよ。この旅館は」
僕はその様子を天に昇る途中、複雑な気持ちで見つめていた。
127、相槌を打つ
僕は相槌を打っていた。
「さあ、もう当たって砕けろの精神で行くしかないな」
先輩が僕の耳に向けて小さな声で言った。
「はい」
僕も小さな声で先輩に答えた。
先輩は心優しき人間だ。
いつも皆に優しい。
学校では環境委員会や生物保護の活動に日夜熱心に取り組んでいる。
そんな優しいいつもにこにこ笑顔を絶やさない先輩だが、今日は心に余裕がないのか顔に焦りの色が見える。
僕達は囲まれていた。
気配は感じなかった。
だが、ふと気づいた時には僕達は完全に封鎖状態で四方八方塞がれていた。
突然の出来事に僕達は戸惑った。
何でこんなことになってしまったのだろうか。
僕も先輩に影響されいつの間にか心優しき人間になっていたのだ。
当たって砕けろと先輩は言ったが僕にそれを実行するだけの勇気があるだろうか。
その時、先輩が僕の手を強く握った。
「行くぞ! 強行突破だ!」
先輩と僕は足を踏みしめその場を勢いよく突破した。
先輩が足を止めた。
「なんとか突破することが出来たな」
「は、はい」
僕は先輩の顔を覗き込むように見た。
先輩は泣いていた。
「せ、先輩!」
僕も先輩につられてもらい泣きをした。
頭の中で歌手がもらい泣きの歌を大熱唱していた。
「な、なんでこんなことになってしまったんだろうな。まさか途切れることのない蟻の大群に囲まれるなんてな」
「そ、そうですね。何時間経っても蟻はいなくならなかったですもんね。でもこうするより他はなかったですよ」
「そうだな。蟻を踏み潰して突破する以外に俺達が家へと帰る方法はなかったのかもしれないな」
僕と先輩は泣きながら互いに見つめあい、頷き合った。
128、相弟子
僕は今、師匠の下で修行をしている。
師匠は格闘家をしていてその実力は世界トップレベルだ。
格闘技の種類は立ち技全般でもはや師匠は生きる伝説と言っても過言ではない。
「おい、チャバ」
師匠が僕を呼んだ。
「はい、何でしょうか師匠」
「クロを読んでこい!」
「は、はい」
僕は言った。
クロとは師匠の下で一緒に修行をしている相弟子だ。
彼と僕はいつも喧嘩をしている。
僕は彼の元にたどり着くと、彼は岩の上で昼寝をしていた。
「おい、お前。何寝ているんだ! 修行はどうした!」
クロは面倒臭そうな瞳で僕を見つめた後、言った。
「なあ、毎日毎日変な修行ばかりさせやがって師匠の奴、許せなくないか?」
クロが師匠を冒涜した。
だが、僕も師匠の修行方法には多少なりとも疑問を持っていたのでクロを怒ることは出来なかった。
僕がクロを連れて師匠の前に行くと師匠が不敵に笑った。
「どうした? 不満そうな顔をして? どうだ? 修行の成果を試してみるか?」
「修行の成果を試す?」とクロ。
「そうだ、私とお前たち二人で対戦をしようじゃないか」
「くっくっく。それはいい」
クロが笑って言った。
僕は自分の実力がどれくらいついたのか知りたかったので頷いた。
師匠はとてもすごい体をしている。
なんていうかまるで岩なのだ。いや体だけではない。頭も手足も岩のようなのだ。
あの固い体で殴られた日には自分の体が跡形もなく消し飛んでしまうのではないかと思うぐらいだ。
だけど、師匠と手合わせが出来るチャンスなんて次にいつくかも分からない。
だから僕は恐怖を飲み込んでクロと一緒に師匠に立ち向かうことにした。
師匠は僕とクロの攻撃を一切かわさなかった。
すべて攻撃を受け止めた。
何べんも何べんも攻撃しても師匠にはまったく効いていないように見えた。
だが……。
ピシッ。
師匠の体にひびが入った。
それは瞬く間に体全体に筋を走らせた。
そして。
パリン。
中から出てきたのは美少女だった。
「え? し、師匠?」
師匠は語り出した。
「ねえ、岩の実って知っている?」
岩の実? 聞いたことがある。たしか伝説の実だ。食べた人は皮膚の表面が岩のように固い物に覆われてしまうという。
「実は私その岩の実を食べてしまったんだよ」
「そ、そうなんですか」
「うん。だから人里離れたこの場所で修行をしてなんとか私の岩のような体を割ろうと修行をしていたんだ。そしたらいつの間にか力がついてきちゃった」
「そんな経緯が……」
「うん。それでお金も稼がなくちゃいけないから格闘技の大会に出ていたらチャンピオンになっちゃった。テヘペロ。そんな時、君達が弟子になりたいって言って私の所に来たのよ。私は君達を見てピンと来たわ。君達の溢れ余る才能を感じたの。だから私は君達を鍛えて、私の岩のようなバディーを元のスリムで誰もがうらやむパーフェクトバディーに戻してもらおうと思ったの」
「それじゃあ、僕達は師匠に利用されていたのですね」
「ごめんね。なんて言ったらいいのか、言葉もないわ。でも君達はちゃんと強くなった。今、君達は世界チャンピオンの私をも上回る力を身につけたのよ」
「え?」
「本当?」
僕とクロが言った。
「うん。本当よ。その証拠に私の体の岩のような物も君達が破壊できたし。
「確かに」
「あなた達には感謝しているわ。好きなことを言って頂戴。出来ることなら何でもするわ」
僕とクロは顔を見合わせた。
そして「「師匠、これからも僕達をご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」」
僕達は言った。
師匠は「うん」と透き通った声で言い、どこか嬉しそうに頷いた。
129、相照らす
人間は何で皆姿形が違うのだろうか。
いや人間だけではない、動物、植物、魚、虫、生きとし生ける全ての存在は一つとして同じものはない。同じ種類の虫だって模様は一匹一匹違う。貝だって両方がっちりと合うのは存在しないと聞いたことがある。双子ですら似てはいるが、姿、性格は違う。
僕は自分の右手を左手を相照らして見た。
僕の右手、左手どちらもひ弱な手だ。
どちらも毛が生えている。
ツメも生えている。
最近爪を切ってもらってないな。
僕はそんなことを思った。
僕は爪を切られるのが好きな甘えん坊なんだ。
ふと僕のことを見つめる視線に気づいた。
僕は両手を視線の主に向かって突き出し叫んだ。
「ニャー」
「あら、この子爪を切ってって催促しているわ」
僕は飼い主の膝の上に乗った。
飼い主はまるで壊れ物でも扱うかのように僕を優しく抱きかかえ爪を切った。
僕はとても幸せな気分だった。
僕は爪を切られた後、ありがとうの意味を込めて飼い主に「ニャー」と鳴いた。
その後、僕は飼い主の膝の上ですやすやと眠った。
130、相番
深夜仕事仲間と相番をしていた。
私達の仕事は学校の当番をすることだ。
私はまだこの仕事を始めたばかりで何も知らないペーペーだ。
相方はこの仕事が長いらしく、もうかれこれ20年間はこの仕事に携わっているらしい。
私は相方に聞いた。
「どうだいこの仕事は? 飽きたりはしないのかい?」
すると相方は眉間に皺を寄せた。
「おいおい馬鹿なことを聞かないでくれよ。仕事は仕事、楽しいからやっているんじゃないんだよ」
「仕事だからと割り切っているというのか?」
「当たり前だろ。生活がかかっているんだから」
「ふうん。じゃあ、やりがいなんて特にないのか?」
「やりがい?」
相方は私のことをキッと睨んだ。
「な、なんだよ」
「馬鹿野郎。やりがいもくそもないぜ。命が懸かっているんだからな」
「命?」
相方は私の手を引張った。
「どこへ行くんだよ」
「いいから来い!」
相方に連れられてたどり着いた場所はある教室だった。
口元に人差し指を当て、「しいっ」と私に言う。
教室をゆっくりと開ける。
そこには数えきれないほどの半透明の幽霊が教室内を縦横無尽に行き交っていた。
「な?」
「こいつらは夜になると姿を現す。放っておけば町へと繰り出し、人々を襲う。だから俺が退治するんだ」
「ま、まじかよ」
「だから言っただろ。命が懸かっているって。お前がこの仕事に就く事が出来たのはお前の霊能力が優れているからなんだよ」
「え?」
「さあ、これを持て」
相方は私に見慣れない文字の書かれているお札を渡した。
「さあ、行こうぜ! あいつらをやっつけに」
相方は私の手を取り、教室内へと駆け込んだ。
突如やってきた新たな幕開けに、私の胸はまるで子供のように高鳴っていた。
131、愛猫
私の家には愛猫がいる。
実は私は極度の猫アレルギーなのだが、彼女の場合は大丈夫なのだ。
これも愛の力のなせる技なのではないのだろうか。
名前はみゅうと言う。
みゅうは私が撫でると柔らかい声で鳴く。
お風呂にも一緒に入っている。
みゅうにシャンプーやリンスもしてあげる。
みゅうはどこへも行かない。
私のことが大好きみたいだ。
いつも私の愛くるしい笑みを見せてくれる。
私はみゅうに触った。
だが、今日みゅうはいつものように鳴かなかった。それどころかまるで反応がない。
「みゅう。みゅう!」
私は急いでみゅうをひっくり返した。
「あ……」
みゅうの体に信じられない異変が起きていた。
無残にも体の一部が破壊されていたのだ。
「誰が一体何の目的でこんなことを」
だがすぐに気づいた。
そういえば昨日みゅうを机の上に飾っていたんだった。
もしかして何かのはずみでみゅうは机から落ちてしまったんではないだろうか。例えば私の歩く振動とかで。
私は深く後悔し、これからは二度とみゅうを危険な目に合わせないと誓い、床に転がり落ちた電池を拾いみゅうに再びはめ込んだ。そして蓋をかぶせた。
「みゅう」
みゅうは私にまた優しい声音で問いかけてくれた。
私はみゅうを優しく抱き上げ頬擦りをした。
132、愛撫
私は今愛撫をしている。
うふふ、うふふ。何て可愛いんだろう。
もうかれこれ10時間は愛撫をしているだろう。
甘い香りが私の鼻腔を刺激する。それが更に私の興奮を高める。
もっとだもっと。
私は愛撫をし続けた。
「あ、あああっ」
どんどんどんどん消えていく。
待ってくれ! 行かないでくれ。
とうとう元の姿は消え、後に残ったのは残滓だけだった。
「また新たにコーラ味の消しゴムを買わなくちゃだめか……」
窓の外には飛行機が青空を切り裂くように飛んでいた。
私はそれを憂鬱な瞳で見つめていた。
133、歩ぶ
歩ぶ。出歩くこと。
今日は学校が午前中で終わった。課外授業の準備の為と先生は言っていた。
僕は家に帰るとすぐに用意されていたご飯を食べた。
今日の昼飯はスパゲッティーか。育ち盛りの僕としてはそれだけでは何か物足りなかった。
「ちょっとコンビニに行って来る」
母親に告げると僕は自分のこづかいを手に取りコンビニへと向かった。
コンビニに向かう途中、公園の横を通る。
その公園はとても大きい。ブランコや、シーソー、滑り台、砂場、小さなアスレチックが出来る場所などがある。
その公園を横目で見ながら歩いていると、視界に急にボールが飛び込んできた。
ボールはポーンポーンと跳ねながら僕の手元へと来た。
僕はボールをおもむろに拾った。
「ねえ、ボール返して?」
公園の奥から出てきたのは、顔面が真っ白の子供だった。
「え? お、おばけ!!??」
僕はあまりの驚きと恐怖で、持っていたボールを子供に向かって力強く投げつけた。
ボールは子供の顔面に直撃した。
僕はその隙にダッシュでその場を後にし、家へと一直線へと帰った。
コンビニのことは完全に忘れてしまっていた。
次の日、先生が教室に入って来た。
「ごほん、皆さんおはよう!」
「おはようございます。先生!」
生徒達が一斉に先生に向かって挨拶をする。
「うむ。で、昨日の課外授業の結果が出たから報告する」
課外授業? 僕はそんなのに参加した記憶はまったくなかった。
「皆、とても素晴らしい行動をしてくれて先生はとても鼻が高かった。ただ一人を除いては……」
先生はそう言うと僕を少しきつい目で睨んだ。
「おい、加岩。昨日は一体どういうことだ?」
先生は詰問口調で僕に言った。
「昨日のこととは?」
「お前は昨日のことも覚えていないのか? 昨日公園でボールを拾っただろう?」
ボール? 僕はすぐに昨日の幽霊のことを思い出した。
「まったくこのクラスのお前以外の他の生徒達は皆親切な行動をしたっていうのにお前はボールを拾って、碌に対応しないどころか子供に向かってボールをぶつけたみたいじゃないか。あの子供は先生が送り込んだサクラだ」
「え? サクラ? 先生があの子供のことを仕込んだの?」
「そうだ。あれが課外授業の内容だ。生徒達の普段の生活環境や、行動を観察する授業だ」
「も、もしかしてあれは成績に影響出たりしないですよね」
「出るに決まっているだろうが、あれはれっきとした授業なんだぞ」
「で、でもあんな顔面真っ白なお化けみたいな子供が出てきたら誰だってボールを投げて逃げますよ!」
「いい訳するな!」
先生はしかめっつらをして僕に言った。
「そ、そんな理不尽なー」
その後、一学期が終わり、成績表が配られた。僕の生活態度の成績は見事に1だった。
134、相惚れ
私には思ひ焦がれている人がいる。
しがない、いち学生の私にとても優しく接してくれる先生だ。
彼女は玉川 花と言う。
いつも私のことを気にかけてくれる。
いつしか私の胸は彼女の虜になった。
だが、先日私にとても幸せな出来事が起きた。
私の下駄箱にラブレターとおぼしき物が入っていたのだ。
私は下駄箱からそれを取り出すとトイレへと直行した。
トイレの個室に入り、はやる気持ちを抑えきれずに破るような勢いで封筒の封を開けた。
やはり中はラブレターだった。
中には私への思ひが便箋にずらっと文章で刻まれていた。
その文章は私の胸を激しく揺さぶった。それほどまでに熱烈で私への愛に溢れていた文章だったのだ。
だが、一番私が驚いたのだその手紙の送り主だった。
その手紙の送り主はなんと私が恋焦がれ続けていたあの先生ではないか。
私は胸の奥が張り裂けそうになるのを感じた。
「会いたひ」
思わず私の口から思いのたけがあふれでた。
私はトイレから出ると真っ先に先生の元へと駆けつけた。
その瞬間の私は周りから見ればまるで太陽のように輝いていただろう。
それほどまでに私の胸は煌々と輝いていたのだから。
先生はいた。ちょうど授業終わりで職員室に帰る途中だった。
先生は私に気づいた。
「先生! 私も先生のことをずっと思ひ焦がれていました」
私は先生に向かって叫んだ。
先生はそれを聞いて瞳を潤ませた。今にも涙が零れ落ちそうだ。
何て綺麗なんだ。私はただ先生に心を奪われていた。
「私も好きよ!」
先生は言って、私へと向かって来た。
先生は私のことをぎゅっと力強く抱きしめた。
そして私を高く抱き上げた。
その時、「君達、何をしているんだ」という声が聞こえた。
声の主の方に私達は顔を向けた。
そこには熱血教師でしられる生徒指導の相沢先生がいた。彼は正義感が強く間違ったことが大嫌いな男で有名だ。
私の顔から血の気がすーっと引いていった。
まずい、まさかこんな所をよりによってあいつに見られるなんて。
「あら、どうしましたの?」
先生が言った。
「どうしたも何も今先生は、彼を抱きしめて何をしているですか?」
詰問口調の相沢先生。
すると先生が咄嗟に機転を聞かせて言った。
「ああ、この子が高い高いをして欲しいっていうから抱っこしてあげたのですわ。ほほほっ」
「そうでしたか。私はてっきり先生と生徒の禁断の恋でもしているのかと思いました」
「勘違いは誰にでもあるものですわ」
先生はおどけた口調で言った。
相沢先生はその後何事もなかったかのようにその場を後にした。
私が小学一年生で良かった。
それにしても咄嗟にあんなことが思いつくなんて。なんてクレバーな先生なんだ。
私は先生への思ひがますます深まるのを感じた。
135、曖昧
私は医者だ。子供の頃から両親に英才教育を施され育ってきた。
0歳の時から家庭教師をつけられ、勉強はもちろんのことピアノ、ギター、水泳、無数の外国語などを習い、様々な技能を修得してきた。
自分の意思が尊重されてきたとは思わないが、普通の家庭では経験できないような経験をさせてもらい親にはとても感謝している。
私は最近自分の人生について考え続け悩んでいた。
今までは親の夢を背負って生きてきていたのかもしれないと。
この今の自分の医者としての肩書き、地位にはとても満足している。親には感謝してもしきれないほどだ。だが、自分の意思はどれほど持っていたことがあっただろうか。ただの操り人形だったのではないだろうか。今まではそれを受け入れてきたし、自分でもそれでいいと思っていた。だが、これからは私が決めなければならないのではないだろうか。自分の人生が曖昧なままでは死ぬ時に笑顔で死ねるのだろうか。
そう考えるようになってきてから私は曖昧な考えを捨てようと努力した。
好みもだんだんと変わってきた。
昔は甘ったるいカフェオレが好きだったが、曖昧な味に感じられ、コーヒーはブラックしか飲まなくなった。
審判の影響が多大にでるスポーツも曖昧に感じられ見なくなった。
引き分けがあるゲームもしなくなった。
私は白か黒かはっきりとさせたくなったのだ。
だんだんと私の思考が毒されていくのを感じていた。
このままではまずい。心が私に警鐘を鳴らしていた。
だが、止めることは出来なかった。
今までの自分の人生が全て曖昧に感じられ、止めようとも次第に思わなくなって行った。
堕ちていく。
自分でもそれは自覚していた。
頭の中で悪魔が私に微笑んでいるのが見えた。
「先生、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ!」
看護師の若い女が手術前私に問いかけた。
「ああ、大丈夫だ」
私は額から汗を流しながら看護師の女に答えた。
今日はちょっとした患者の出血の怪我による、縫合手術を行うことになっていた。
手術を開始する前、ふと私の頭にある思いがよぎった。
待てよ。こいつは怪我をしている。怪我っていうのは健康な人間からすると曖昧な存在なんじゃないか?
頭の中がぐるぐると回りだした。
突如として眩暈が私を包み込んだ。
そうだ。そうだ。怪我は曖昧だ。不完全だ。白か黒かどっちかにしないと。怪我をしていない生きている人間が白だとすると、黒は果たして……? ああ、そうか死だ。黒は死なんだ。
私は看護師の助手からメスを渡されると患者に向けてそれを勢いよく振り下ろした。
「あはは……あはははっ」
オペ室が絶叫に包まれた気がした。
何だ? 何で皆叫んでいるように見えるんだ?
私はただただ特に何も考えず、あははははははと笑っていた。
誰かが私を強制的に連れて行こうとしている。
制服を着て、帽子を被った男達だ。
何だ? 何をするんだ? 嫌だ嫌だ私はまだまだすることがたくさんあるんだ。こんなまだ結論も出ていないまま誰かに自由を奪われるのは嫌だ。
私は先ほど使ったメスを自分の喉元めがけて横一文字に一直線に引いた。
血が喉から勢いよくピューと飛び出しているのが分かった。
ああこれで私の曖昧な人生も幕を終えることが出来るのかなあ。
あはははっ。
私は声の出ないまま最後まで笑い続けた。
136、相見積もり
欲しい物があった。
近年それらは規制され世の中から全て消えたかのように見えたが、裏市場では再び売られるようになってきた代物だ。
それらは中毒性があり、脳内に快楽物質を作る。
一度その罠にはまったら抜け出すことは困難と言えよう。
だが、再び売られるようになったとはいえ、表市場ではまだ規制され、厳罰の対象となる代物だ。
だから、複数の裏業者の金額を比較対照する為に、相見積もりをすることにした。
値段を比較し、検討した結果ようやく一つの業者に絞ることが出来た。
そして大金を払い、ようやくその物の一つを手に入れることが出来た。
ジェラルミンケースに入れ周りを警戒しながら自宅へと帰った。
慎重にケースを開ける。
笑みが自然とこぼれた。
手袋をし、慎重に物を取り扱う。
そして物を隅から隅まで余す所なく堪能した。
脳内からドーパミンが大量放出されているのを感じられた。
十分に堪能した後、隠し部屋を開けた。
ずらっーっと過去の物のバックナンバーが本棚に一寸の乱れもなくビシッと収められていた。
物を手にした私は、新たにコレクションの仲間入りした物を本棚にしまった。
しまう時、表紙の裸の女が微笑みかけてくれたように見えた。
137、阿吽の呼吸
阿吽の呼吸とはよく言ったものだ。
私には共同作業を行っている相方がいる。
女では住む世界が違う相方ではあるが、相性に関しては唯一無二の存在である。
名前は果実と書いてジュエルと読む。まあ当て字だ。
ジュエルはとても美しい。これほどまでに美しい女には出会ったことがない。
彼女と出会ったのは奇跡と言えよう。
私の家にふらふらとボロボロの姿で迷い込んできたのを私が保護したのだ。
警察には届けなかった。
誰にもジュエルをあげたくなかった。奪われたくなかった。独占したかった。
私はその時は名前も知らない、ジュエルに名前を聞いた。
だが、ジュエルはなき叫ぶだけで、私の声など耳に入っていないかのようだった。一体ジュエルに何があったというのだろうか。その真相は今現在も分かってはいない。
今では少し、落ち着きを取り戻したのか私と共に共同作業を毎日行っている。だが、まだまだ心の傷が完治したとはいえないと私は思う。なぜなら朝、急に狂ったようになきさけぶ時があるからだ。
心の傷がいえるまでは私が守るからな。
そう心に誓うのだった。
そして今日も私はジュエルと共同作業を行う。
ジュエルのお尻を適度な強さで叩く。
コケッ!
ジュエルは鳴く。
ポン!
ジュエルは卵を産んだ。
私は再びジュエルのお尻を適度な強さで叩く。
コケッコッ!
ポン!
ジュエルは再び卵を産んだ。
私とジュエルの共同卵産み作業はまさに阿吽の呼吸だ。
こんな日がいつまでも続けばいいな。
私はそう思い、ジュエルが産んだ卵をカゴにそっと回収した。
138、喘ぐ
私は喘いでいた。
ぜえぜえ。
私はお宝ハンターだ。お宝の匂いを嗅ぎつけ素早い動きで獲物をとる。
……昔はそうだった。だが今は……。
獲物を見つけ出し、それを我が物としようとした瞬間。
「なっ??」
私は抗うことの出来ない巨大な力によって引き離され獲物を横取りされる。
なぜ、なぜなんだ?
心に焦燥感が生まれる。
だが、私はお宝ハンター、お宝を探す為に休んでいる暇はない!
私は今日もお宝求めて必死に泥臭くぜえぜえと喘ぎながら獲物を探す。
「ブヒブヒ!」
「おい、この豚、鼻息は他の豚より荒いけど、宝を探す執念は他の豚の比じゃないぜ。まるでお宝ハンターだ」
豚に紐を付けてトリュフを探している豚の飼い主は、驚嘆して言った。
139、あえす
あえす。したたらすこと。
夜、私が仕事をする為に出かけていると道路に人が倒れていた。
街頭の下に倒れていてその周りには赤い染みが広がっていた。
もしかして殺人か?
ゆっくりと辺りを警戒しながらその人へと近づく。
体には無数の穴が開いており、その穴から血がしたたっていた。
なんてことを……。
倒れていたまだ若いと思われる男は予想通り死んでいた。
すぐに私はその場を後にした。
ここ最近似たような事件が多発している。
体中に穴が開けられ殺される事件だ。
一体誰がこんなことをしたのだろうか。
ふつふつと怒りが込み上げ、体が熱くなるのを感じた。
「絶対に犯人を見つけて成敗してくれる」
仕事そっちのけで私は犯人を捜すことにした。
血の臭いをたぐり、闇に紛れながら私は空中を猛スピードで移動した。
「いた」
私はそいつの前に降り立った。
「うん? 誰だお前は?」
「お前かここら辺の住民を襲い、穴だらけにし、殺しているのは?」
「ああそうだけど? もしかして君も吸血鬼?」
「そうだ」
「僕に何の用?」
「ここは俺の縄張りだ」
「そんなの知らねえよ」
「何であんなに色々な所を噛み穴だらけにした」
「どこか美味しい部位はないかなって思っただけだよ」
「スマートじゃないぜ」
次の瞬間私はその吸血鬼の後ろに一瞬で回り込んだ。
そしてその吸血鬼の首元に牙を立て血を一気に吸った。
名前も知らない吸血鬼は力なく、くずおれた。
「血はこうやって吸うもんだぜ」
私は吸血鬼を片手に抱くと、森へと向かった。
森の開かれている箇所に吸血鬼の死体を置く。
ここなら朝になったら日が当たりこいつは消滅するだろう。
こいつのせいでしばらく飯を食べる機会が減っていた。
私は腕時計を確認した。
「まだ朝までは時間があるな。これから一仕事、ご飯を食べに行くとするか……」
私は呟き、闇に溶けるように消えて行った。
140、肖者
あえもの、漢字では肖者と書く。お手本とするもの。似せたいとする対象。
格闘の世界に入ってどれぐらい経っただろうか。血の滲むような修行の結果私は、ある一定の成績を残すことが出来るようになってきた。
具体的には世界チャンピオンに何度もなることが出来た。まあ、数多くある格闘技の一つでの話だが。
だが、私には肖者がたくさんいる。
私はいつも彼らを見て、格闘技を勉強し取り入れている。
明日は防衛戦の日だ。
私は彼らにお礼を言うと、明日にそなえ休息をとることにした。
リングに上がると大歓声が私を迎えてくれた。
私は応援してくれている客に深々と頭を下げた。
リングアナウンサーが私をコールした。
「さあ、今日はどんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか? 今日の師匠は一体誰なのでしょうか?」
対戦相手が私の目の前に姿を現した。
「俺は今までの相手とは違うぜ。猿真似でこの俺に勝てると思ったら大間違いだぜ! お前の腰に巻かれているチャンピオンベルトは俺が頂く!」
威嚇するように私を見つめ言う男。
今日の私のあえものは昨日出会ったカマキリだ。
「ワチョー!」
私はカマキリのポーズを取り、相手を威嚇した。
カーン!
試合開始の合図が会場内に高らかと鳴り響いた。
141、赤い鳥
赤い鳥を求めて私は異国の国、ジャポンへとやってきた。
辿り着いた場所とある片田舎の場所だった。
木で出来た手作りの駕籠を手に持ちながら赤い鳥をひたすら探す。
「必ず見つけて、我が国へと持ち帰るのだ!」
私は決心を口にした。
「い、いた!」
赤い鳥が空を優雅に舞っていた。
私は急いで赤い鳥の元へと駆けつけた。
追いかけて、追いかけて、追いかけて。
この地へと着いたのは朝方だった。だが、気づけば夕暮れが辺りを包んでいた。
もう……だめか。
そう諦めかけたその時。
赤い鳥は地面へと降り立った。
相手も私に追い掛け回されて疲弊しきっていたのかもしれない。
私はチャンスとばかりに最後の気力を振り絞って赤い鳥の元へと向かった。
赤い鳥はやはり疲れているようだ。
私が近づくと、赤い鳥は私に気づき羽を広げ、飛び立とうとした。
「とうっ!」
私はジャンプした。
無意識の所作だった。気持ちが思考を上回ったのだ。
そして……。
「捕まえたぞ!」
私は赤い鳥を駕籠へとしまうと、安心したこともあり、しばしその場で眠ってしまった。
私は国へとその赤い鳥を持ち帰ることに成功した。
国へ帰ると、さっそく赤い鳥を国の者へと見せた。
国は喝采に沸いた。
あくる日のこと。
赤い鳥がうっすらと汚れていたのを発見した私は、濡らしたタオルで汚れた体を拭く為に赤い鳥を拭くことにした。
せっかく見つけた貴重な赤い鳥だ。汚れなんてもっての他だ。
汚れを拭いているとタオルには赤い色が付着していた。
「な、何だ? これは!?」
ちょうどその時、ジャポンではあるニュースが流れていた。
「カラスの体に赤いペンキをかけていた男が逮捕されました。余罪は数百件あるとみられています……」
142、青海原
青海原を浜辺で一人膝を抱えながら、日が沈む直前見つめていた。
疲れ切っていた。何もかもが。
自分のいる今の環境、矛盾だらけの狂った世界。
頭の中は負のイメージで一杯だった。
ざざっ。
砂を激しく踏み鳴らす音が遠くから聞こえた。
視線を横へと向ける。
少し離れた浜辺で若者達が踊っていた。
酒とスナック菓子を手に持ちながら小粋なステップを踏んでいる。
ダンスはまるで様になっていない。どうやらベリーダンスやサンバ、阿波踊り、ヒップホップ、などをその場のノリで組み合わせ、踊っているようだ。
昔の私ならそのダンスを見て笑っていただろう。
だが、今の私にはそんな感情さえも沸き起こって来なかった。
人間は海からやって来て……海へと帰る……か。
声にならない呟きは寄せては返す波音にかき消されていった。
海へと足を一歩踏み出す。
冷たい。
ふと昔の記憶が甦った。
子供の頃の記憶。夏休みおじいちゃんおばあちゃんの家に行き、縁側でスイカを食べ、燦燦と照りつける太陽の下、麦藁帽子を被り、網と虫かごを手にし、カブトムシを探しに行ったあの日。
セピア色だった思い出がなぜか鮮明に甦った。
涙が一滴、ぽたりと海へと落ちた。
死にたくねえ。死にたくねえよ。
その時、海が光った。いや光ったのは私の周りだけだった。
光の粒子が円形に私を包み込み、遥か上方へと舞い上がる。
目の前に人型の黒い影が現れた。
おばあちゃん? なんで死んだおばあちゃんが目の前に??
「おや、久しぶりだのう」
これは夢ではないだろうか。私は動揺を隠し切ることが出来なかった。
「そんなに驚かんでも。わしは仕事でここへ来たのじゃ」
「仕事?」
「うむ。わしはあの世で魔法少女の力を与える職に付いたのじゃ」
「魔法少女?」
「うむ。どうじゃ魔法少女になりますか? なりませんか」
「な、なる!」
ほぼ条件反射のように私は口走っていた。
おばあちゃんはにっこりと笑みを浮かべた。
変身の呪文と、変身解除の呪文をおばあちゃんから教えて貰った。
「じゃあわしは役目を終えたので帰るとするかい」
おばあちゃんの体が徐々に薄れて行った。
魔法少女か。
これからはどんな怒涛の人生が待ち受けているんだろうか。
だけど、心配よりも期待の方が大きかった。
ふとあることに気づいた。
私は子供でも女でもないのだ。
浜辺で悲鳴が聞こえた。
先ほどの若者が女性を襲おうとしていた。
私は無我夢中で魔法少女に変身し助けへと向かった。
143、青えんどう
その日、僕は青えんどうを収穫した。
初めて作った農作物で、苦労したけどようやく収穫にありつけた。
僕は虚弱体質だ。たまに注射などを打っている。太陽の光はあまり好きではない。どちらかと言えば夜行人間だ。だが、やはり収穫するのは日が出ている時に限ると思う。
太陽の光を浴び、汗をかきながら自分の育てた農作物を収穫する。
「何か感慨深い物があるなぁ」
まるで、僕と共に育ってきた息子や娘のようだ。僕は青えんどうを見てにっこりと微笑み、今日の夕飯は何にしようかと考えた。
料理本をめくり献立を考える。
ページをめくる手が止まった。
「グリンピースご飯か……」
青えんどうはグリンピースとも呼ばれている。
「決めた!!」
今日の夕飯はグリンピースご飯にしよう。
流石にそれだけでは味気がないので他にも野菜炒めなどの比較的簡単な料理をおかずとして作った。
炊飯器からグリンピースの香りが蒸気を通して僕の鼻腔へと届いた。
「待ち遠しいな」
その時、ドンドン! と大きな音が聞こえた。
音は炊飯器の方から聞こえてきていた。
「何だ? 故障か?」
舌打ちを小さくし、僕は炊飯器を調べ始めた。
外観はどこも異常がない。
しばらく点検していると、再びドンドン! と大きな音が聞こえた。
聞こえた場所は炊飯器の中からだった。
「はあっ」
僕はまだご飯を炊いている最中だったので開けたくなかったけれども仕方なく炊飯器の中を開けた。
「ああ、あっつーい!」
女の声が聞こえた。
「本当にあついねー」
今度は別の女の声がした。
僕は炊飯器の中を覗き込んだ
炊飯器の中には大量の女達がいた。
彼女達はびっしりと炊飯器の中にまるで満員電車内のようにぎゅうぎゅうに蠢いていた。
大きさは豆粒だいの大きさで、持ってきたルーペで彼女たちを見てみるとまだ比較的年齢は若いように見えた。女子高生ぐらいだろうか。
僕が彼女達を舐めるように見つめていると、「早く出してよ!」と彼女達の一人が言った。
僕は慌ててすぐさま近くにあったしゃもじで、炊飯器の中の彼女達をそっとすくい、茶碗へと移した。
「ありがとう」
僕が彼女達を炊飯器から移すごとに彼女達は僕に礼を言った。
「どういたしまして」
ようやく全部彼女達を救い出した。
茶碗は3つ使った。
僕は彼女達に何者なのかを尋ねた。
「私達? あおえんどうから生まれたあおえんどうの精よ」
万物には神が宿ると昔から言われているが、まさかえんどう豆にも精霊が宿っていたとは」
「君達は皆で一つの精霊なの?」
「違うわ! 見れば分かるでしょ! 皆それぞれ顔も性格も違うわ!」
まじか。一粒一粒に精霊が宿るのか。
僕は驚嘆した。
「君達はなんで生まれてきたの?」
「あなたに食べてもらう為よ」
「僕が君達を食べる?」
「そうよ。私達はあなたに食べられてあなたの力になりたいの!」
僕は戸惑った。彼女達はえんどう豆の精霊とは言ってももはや彼女達の体はえんどう豆ではなく人間と変わりなかった。大事な部分がえんどう豆で隠されてはいるが見た目は普通の女子高生だ。
「ねえ早く食べて、早く食べないと私達腐っちゃうわ」
「腐る?」
「ええ。いくら私達が精霊だとは言っても肉体はえんどう豆なのよ。だから今この瞬間にも私達の体は刻一刻と腐敗へと向かって突き進んでいるわ。さあ、早く私達を食べて!」
何て切ない人生なんだ。
僕はえんどう豆の精霊を見つめ涙を流した。
「泣かないで! あなたには未来があるわ。それに私達も死ぬわけじゃないの。あなたに食べられて、あなたの血となり肉となることであなたと共にこれからの人生を一緒に過ごすのよ!」
僕は泣きじゃくりながら頷いた。
「一つだけお願いがあるんだ」
「なあに?」
「君達に名前を付けさせてくれないか?」
僕が言うとえんどう豆の精霊達は優しく頷いた。
えんどう豆から生まれた精霊か。僕は必死で頭の中をフル稼働させ考えた。
そして……。
「遠藤さん」
僕は皆に語りかけた。
彼女達はにっこりと笑った。
僕は遠藤さん達をはしで摘み口元へと持っていく。
ポニーテールの遠藤さんは笑っていた。
「さあ、食べて?」
僕はポニーテールの遠藤さんを口の中へと入れ奥歯で噛み切った。
口の中にグリーンピースの芳香がほんのりと漂った。
「グリーンピースってこんなにも美味しかったんだな」
僕にグリーンピースの美味しさを教えてくれたポニーテールの遠藤さん。
次にショートカットの遠藤さんを口元へと運んだ。
僕好みの遠藤さんだ。
ショートカットの遠藤さんはどこか切ない表情をしていた。
「大丈夫だよ。遠藤さん」
僕はショートカットの遠藤さんに声をかけ、ショートカットの遠藤さんの体を舐めた。
「くすぐったいわ」
遠藤さんは言った。
彼女の体も深みのあるグリーンピースの味がした。
「これからも一緒だよ」
遠藤さんは小さく頷いた。
僕は遠藤さんを前歯で小刻みに切り刻み、飲み込んだ。
そして僕は次から次へと遠藤さんを血の涙を流しながら食べて行った。
いよいよ最後の一人の遠藤さんになった。
僕が箸でツインテールの遠藤さんを口元へ運ぶ。
僕は最後の遠藤さんを大事に大事に扱い食べる前になめ回した。
玄関のドアが開かれる音が聞こえた。
でも、僕には遠藤さんの方が大事だった。
「遠藤さん、遠藤さん、遠藤タン、はあはあ」
僕の両手が掴まれ後ろへと回された。
その拍子に遠藤さんが箸から床へと落ちた。
「遠藤さん!」
「私は大丈夫よ」
良かった。遠藤さんは無事なようだ。
「おいおいこいつは末期じゃねえか? えんどう豆に向かって語りかけているよ。ほらこんなに使用しているし」
部屋に入って来た拳銃を腰に下げた制服姿の男達が僕の注射器と魔法の粉を見て何かを呟いていた。
144、青男
私は青男だ。年も若く未熟だ。
だが、未熟なままで終わりたくはない。私はすぐに旅に出た。
向かう場所は人通りの少ない田舎に決めた。都会なんかには興味はなかった。
思えば長い間眠っていたように思う。
桜舞い散る春の日も、灼熱の夏の日も、凍てつくような雪の日も、私は寂しく過ごしていた。
しかし悲しんでいる暇はないのだ。
私の寿命は残り一週間しかないのだから。
私は蒸すような夏の日差しの下、地上に出れた喜びを感じつつ風を纏い飛んだ。
「ミーンミンミンミン。ミーンミンミンミン」
145、青い粉
体重を落とすには何が効果的なのだろうか。
僕はボクサーだ。駄洒落ではない。
最近試合をしていなかったので気が緩んでいたのか、少し太ってしまった。
だが、ジムのトレーナーから「おい、今度試合を組んだぞ、相手は超強豪だ」なんて言われたからめちゃくちゃ頑張ってはいるのだが、試合が近づいているにも関わらず体重が全く落ちなかった。
やはり今までの怠けていた癖のついた生活を急に変えるのはなかなか難しかった。
そんな時テレビで青い色は食欲を減退させるとかなんとか言っているのを聞いて僕は「これだ」と思った。
食べ物を全て青色にすればいいんだ。
僕は青い粉を買い、全ての食事にふりかけることにした。
しだいに食事だけでは満足できなくなった。全ての物を青くしたい願望にとらわれた。
世界の全てを青く見たかったので青いサングラスを買いかけた。
それは自分にも及んだ。服も全て青中心の服を着た。髪の毛も青く染め、肌も青く染めた。
で街を歩いていたら芸能スカウトの方に声を掛けられた。
結局僕はボクサーを止め、なんやかんやテレビタレントとして頑張っている。
146、青ざめる
変わりゆく景色、窓から吹き込み頬を撫でる生暖かい風、風が運んでくる夏の草の香り。
俺は今おばあちゃんの家に向かっている途中だ。
電車の乗換えを何度もし、あと3駅ほどでおばあちゃんの住んでいる町へと到着する。
電車は一定のリズムと音を奏でている。
本当なら心地よさを感じるであろうが、今はそれどころではなかった。
窓に映った自分の顔を見る。
なんとなく青ざめていた。
それもそのはず俺は物凄くトイレに行きたかったのだ。
でもここにはトイレがなかった。
電車は淡々とに自分のペースで前へと進んでいく。
ふと前の席に座っている女の人を見た。
にやにやと笑っている。
くそうっ。馬鹿にしやがって。
俺は大きな声で叫んだ。
だけど前の席の女の人は変わらずに笑っている。
俺は周りの乗客も見てみた。
周りも皆俺を見て笑っている。
周りの人皆に気づかれているようだ。俺がトイレに行きたいということを。
電車はようやく目的の駅へと到着した。
俺は駅へと降りるとトイレを探した。
よしあそこにしよう。
俺はおしっこをした。
駅を降りた側の草むらに。
小さい女の子が俺の頭を優しく撫でた。
ふん、俺はもう子供じゃないんだぞ。
俺は大きく「ニャア」と鳴いたが女の子は全然怖がっていはいなかった。
まだまだ俺も貫禄がないな。
まあいいや。新たなるトイレの場所も作ったし、今日の目的はおばあちゃんの家へ向かうことだ。
俺は一つ大きなあくびをし、おばあちゃんが飼われている家へと向かった。
147、青汁
青汁は体に良いと聞いたことがある。
まだ年齢的には比較的健康を気にするような年齢ではないとは思うのだが用心に越したことはないと思い、青汁を飲むことに決めた。
ドラックストアーに行ってみる。
青汁にも様々な種類があって僕はどれにしようか悩んだ。
結局僕は青汁を買うことが出来なかった。
途方に暮れて家路へと帰る。
次の日、学校に向かう為、いつものように電車に乗るべく駅へと向かった。
言い忘れていたが僕は高校3年生だ。
受験を控えている。まあ、関係のない話だ。
電車に揺られ、僕が通う学校のある駅で降りた。
ん?
駅中に新しいお店がオープンしていた。
『青汁カフェ』
はい、来ました。渡りに船です。
僕はその日の学校は青汁カフェのことで頭が一杯だった。
学校を終えると、真っ先に駅へと向かった。ちなみに部活は何も入っていない。しいて入っているとすれば帰宅部か。
駅に着くと、青汁カフェへと真直ぐに向かう。
「いらっしゃいませ」
店員が微笑みながらはきはきと通る高い声で僕に言った。
席に着くと店員がお水の変わりに緑汁を持ってきた。
「これは青汁ですか?」
「いえ、ただの水です。ただし着色してあります」
さいですか。
健康をうたっているはずの青汁カフェだが出てきたのは着色された緑色の水。僕はこの店に少し不安を抱いた。
メニューを見てみるが、何がなにやらまったく分からないような仕様になっていた。
『青汁ジュース』『体に超いい青汁ジュース』『ギガ体に染み渡るジュース』『メガ盛り青汁』『ウルトラ青汁』
はあっ。
僕はため息を吐いた。
この店はたぶんすぐにつぶれるだろう。
だけど、一度入ったので試しに注文してみることにした。
僕は無難にただの青汁ジュースを頼んだ。
どんな野菜が入るのだろうか。
野菜が僕の目の前に運ばれてきた。
ほうれん草、緑茶、大豆若葉とか色々と。
何か普通の青汁っぽいな。僕は拍子抜けしたと同時に安心した。まあ、変に奇をてらったものよりも普通がいいよね。
美人店員がやってきた。年はまだ20歳前後に見える。
「それではただいまから青汁ジュースを作らせて頂きたいと思います」
美人店員は言ったが、手にはミキサーなどは持っていなかった。
もしかして、おろし金みたいなのを使うのかな。雰囲気を重視して。古風な感じで。
ふふっ。僕はそれを想像して少し笑った。
すると美人店員が野菜を口に全て押し込んだ。
もぐもぐもぐもぐむしゃむしゃむしゃむしゃ。
唖然。
そして……。
ぺっ。
目の前に置かれた空のグラスに吐き出した。
「おまたせしました。完成です」
美人店員が言った。
声は爽やかな風鈴のような澄んだ声。
だけど僕に向かって笑いかけた店員の歯は緑色だった。
まるでカマキリが昆虫を食べて満足したかのようなマジキチスマイルを見て僕の背筋が凍った。
すると他の店員がやってきた。
「はい。これは美人が青汁を作ることによって体が喜び、興奮し、免疫力があがり健康になります」
青汁自体の効果じゃねえのかよ。
だけど、僕はそれを一気に飲み干した。
そしてなんやかんやで癖になった僕は次の日も学校は休みであるのにも関わらず、僕は行くことにした。
駅に着くとまっ先に青汁カフェへと向かう。が、今日は閉まっていた。
な、なんで?
僕は隣にあった別のお店に入り、店員さんに聞いてみた。
「あー、何かあの店色々と違反していたらしくて摘発されたみたいだよ」
まあそうだろうな。
僕は思った。だけどそれと同時に、昨日もっと別のメニューも頼んでおけばよかった、何て僕は思った。
「あなた屑ですね」
ちょうど通りかかった自称超能力者が僕の頭の中の思考を読んだらしく僕に向かって言った。
148、青信号
信号が青信号に変わった。
手を挙げて、信号を渡ろうとする。
この体では信号も命がけだ。実は私は怪我をしているのだ。普段ならどんな誰よりも早く信号は渡れるのだが今の状態では誰よりも遅いかもしれない。
横断歩道を渡っていると、早くも青信号が点滅し始めた。
早く渡らなければ轢かれてしまう。
「あっ」
信号が赤に変わった。
だが、こんな俺を見れば車は止まってくれるだろう。
俺は願望に近い感情で思った。
車は止まらない。
何とか数台の車はかわすことが出来た。
「ふうっ、ふうっ」
歯が恐怖でカチカチとなる。
体がまるで金縛りにあったように動かない。
その時、キキッ! と音がして通り過ぎた車が止まった。
まさか俺を助けてくれるのか?
俺は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「大丈夫か?」
そんな声を期待していた。
俺はやってきた人間を上目遣いで見上げた。
だけど俺の希望的観測は絶望へと変わった。
「へっへ。ラッキー!」
やってきた男は俺を見てニタニタとした気色の悪い笑みを浮かべ俺の体をつかまえた。
拉致か? 拉致監禁するつもりなのか?
俺は命一杯叫び、助けを呼んだ。
声にならない叫びは空に溶けて行った。
そして俺は連れ去られた。
今俺は狭い部屋に閉じ込められている。
部屋は全面ガラス張りで外が丸見えだった。
俺を閉じ込めた男がやってきた。
ガラスの向こうから男の声が聞こえた。
「さあ、こいつを酒漬けにでもするか」
何てことを言うんだ。この男は。
くそっ、くそっ。
俺は怪我をしている、今は役に立たない羽をブンブンと羽ばたかせた。そして威嚇の為に針も何度も出し入れした。
「こ、怖えぇ! このスズメバチ」
男は言うと、瓶の蓋を少しだけ開け俺のいる部屋に酒ゆっくりと注ぎ始めた。
149、青筋
怒りが込み上げ、青筋が立った。
ことの発端はこうだ。
俺がレジでお金を払っていると相手の女がクスっと笑ったのだ。
「何で笑っているんだ?」
睨みながら女に言った。
「だってお金を手渡す動作がきこちないんだもん」
この女は客の俺に向かって何て口のきき方をするんだ。
「おい、俺は客だぞ」
俺が怒鳴っても、女は「そうだね。ごめんね」とにこっとした笑みで言う。
くそっ、完全に舐められているな。後で俺がちゃんと教えてやらないと。
俺はお金を女に渡した。
女はお金を受け取ると商品をレジ袋に入れもせずにそのまま俺に手渡しした。
もう我慢の限界だった。
俺は持っていたお金を地面へと叩きつけた。
カシャンというちゃっちい、小さな音が部屋の中に響いた。
「もう、なんでお金を投げ捨てるの!」
女は怒って俺に言った。
「うるせえ。こんなの本当のおかねじゃねえし、ただのプラスチックの偽物のお金だし」
俺が大声で言うと女は泣き出した。まだ4歳だからって泣けばいいと思いやがって。これだから女は困る。まあ俺も4歳だが。
ふんっ。
俺はぷいっと横を向いた。
だが、女は泣き止まない。
「分かったよ。俺が大人げなかったよ。今度は怒らないからもう一度お買い物ごっこやろう? 今度は俺が店員の役をするから」
俺が言っても女は、グスリ、グスリと鼻水を垂らしながら泣いている。
俺は女の頭を撫でた。
「なあ、今度こそ怒らないでちゃんとやるから」
「本当? 本当に今度は怒らない? あなた」
「ああ、本当だよ。お前。俺が好きなのはお前だけだ」
いつの間にか夫婦ごっこに変わっていた。
150、青空
今日は良い天気だ。空一面に青空が広がっている。まさに快晴だ。
こんな日はのんびりと過ごしたいと思う。
だけど、バイトがあるからそんな呑気なことも言ってはいられない。
良い仕事がないからしょうがないとは言えいつまで経ってもこの仕事にはなれない。
サメの歯が生え変わるのをヒントに科学者が色々と研究し、人間のある一部を次から次へと出てくるようにすることが可能となった。
常に新鮮に生まれ変わる為、嬉しいがその反面やはりどこか抵抗もある。
ブームになったこともあり今では世界中のほとんどの人のある一部がほぼ毎日新たに生まれ変わる。もちろん自分もそうだ。今少しその部分が痒くなっている。そろそろ取れる頃だろう。
バイト場所に着いた。
バイトは運搬回収業をしている。
トラックに乗り込み、指定されたコースを巡り始めた。
まずは指定された家へと向かう。
到着すると、家の呼び鈴を鳴らし言った。
「回収にまいりました」
しばらくして中からこの家の50代ぐらいの奥さんが出てきた。
「ごくろうさん」
奥さんは俺を玄関に入れ、コップに入った麦茶とお菓子を差し出した。
「ちょっと待ってて下さいね。今持って来ますから」
しばし麦茶とお菓子を食べながら待つ。むしむしとした天気で不快だった体がほんの一時生き返る。
「はい、どうぞ」
奥さんは大きなビニール袋一杯に入った物を俺に渡した。
「ずいぶんと溜められましたね」
「ええ。本当はゴミ箱にでも捨てればいいのでしょうけれど、自分の体の一部がもし、誰か知らない人に利用されたりしたら嫌なので、業者に頼むことにしているんですよ。業者を呼ぶのもお金がかかるからそんなに頻繁には呼べないですけどね」
奥さんは笑いながら言った。
俺は回収された物とお金を受け取るとその家を出た。
眩しい光が目に飛び込んで来た。蝉の鳴き声も耳朶を打った。
「今年の夏は暑くなりそうだな」
独り言を呟くと俺は回収した物をトラックのポンプでゆっくりと吸い込んでいった。
「まだまだ今日は周る場所がたくさんあるな」
トラックに乗り込み、冷房を強くし、呟いているとふいにぼろっと自分の目が落ちた。
しかし新たに次の目も生まれ変わっているのでもちろん視力には影響はない。ないどころか目が新しくなったことにより視力は良くなっているはずだ。
「自分の目はまだいいけど、人の目はやっぱりどこかグロいよな」
俺はタンクの蓋を開け、落ちた自分の目を無造作に放りこむと、再び目を回収する為にトラックを走らせ始めた。




