#1「テンプレートだって言ってんだろ!」
「ケンカ売ってンですかッ?」
と、言われた。
「…」
まあそりゃ、そんな問いに即答できるわけもなく、黙る。
「いいですか?」
金丸はスーツで包んだ長身をソファーに掛けなおしながら、
足を組み替え、セリフを吐き捨てた。
俺はそもそもそんな説教も教授もされる謂れはない。
「最大の危機に瀕しているんですよ。今。」
そりゃそうだろう。
だが、その危機に至る経緯へと導いたのは、他ならぬ金丸自身だ。
しかし、残念ながら金丸に自覚などない。
あれば、こんな事態には陥っていない。
それ以前に、俺にこんな無茶振りをして「ケンカ売ってるんですか?」などと吐き出すこともないだろう。
「真面目にやってください。」
いや…。極めて真面目にやってるつもりです。
ここで賢明なる読者の皆さんは<つもり>って何?
だったらオマエが抜けんじゃん?
と、思うと思います。
ええ、そうでしょうそうですともつもりですがなにがわるいんですかああああうぇひうおmp、l@。;「/
…。
失礼、取り乱しました。
「そもそも、テンプレートというものがあるのですよ、まず、そこから理解してください。」
最初に言えよな、それ。
「ググりゃ分かるでしょう?」
金丸は身を乗り出し気味に、暑苦しい表情でさらに吐き捨てて、その語尾の「?」は俺の顔面を横切った。
まあ、現実にそんなことアニメでもない限りありえない。
ただ、そんな気がしただけなんだが。
「シキナミさん、あなた何年パソコン使ってるんですか?PC-8001の時代から使ってるんでしょう?」
ええ。そうですよ。8ビット時代からですよ。ジジイですが何か?
「いいですか?」
お前好きだね、この語り口。
「そもそも、もう何行目だと思ってるんですか?」
いや、あの、別にこの会話、原稿用紙で書きながらしてるわけでも、チャットでもないから、
その表現は面白いと思って言ってるつもりなのですか、アナタ?
「まず、異世界に行かないっていう時点でダメなんです。」
金丸はため息まじりに言い放った。
「異世界…ですか。」
俺はそんなこと分かりきってるが、ソシらぬフリで答えた。
もちろん調べてないわけではない。
傾向も分析済みだ。
まずは引きこもり気味の鬱屈した良いところのない主人公が、
気まぐれに出かけてトラックに跳ねられるか、
気まぐれに学校行って、なぜか女子クラスメートに殺されるか、
気まぐれに家に隕石が落下するか、
この三つのどれかを選択し、
「社長、応接室に来客です。」
と、そんな事を考えていたら、秘書の千路さんが会話に割り込んできた。
まあ、会話と言っても、俺が一方的に金丸社長に言われ続けていただけで、
七十数行のうち「異世界…ですか。」としか言ってないわけだが。
「天武銀行の、」
千路さんが眉を顰めつつそこまで言うと、金丸社長は、
「すぐ行く。」
と、会話を捩伏せた。
そして。
「いいか、シキナミ。とにかく書き直せ。
こんなしみったれた企業物ストーリーなんか、」
金丸社長は立ち上がり、俺の顔に指を指し、さらに近寄りつつ。
「絶対に金にならんからな!」
吐き捨てると、眉が顰まったままの千路さんを、
肩で押し退けるように出て行った。