第二話
朝、登校したら、私の席の机と椅子が無かった。
いつもは仲が良かった太田海をはじめとする友達が心なしか、冷ややかな瞳でこちらを注視してくる。
望月のほうを見やると、彼女は窓の外を血の気の引いた顔で見つめていた。
私はバッとそちらへ行き、窓を開けて身を乗り出した。
校庭の端っこの芝生には、窓から投げ捨てられたであろう私の机と椅子があった。
「あ、あの、川崎さん……!」
「うっひょーーーーーーーーーー!」
私は興奮して叫ぶ。
「何これ! こんなことやったやつ誰? どんなバカ腕力持ってんだよ!」
私はスマホを取り出した。
「写真写真! ツイッターあげとこ!」
ふと振り向くと、引き気味の表情の望月がいた。彼女は成績が超優秀だし、言動、言葉遣い、顔立ち、その全てが淑やかなのに、こういうふとした表情はめっちゃ残念だ。
「か、川崎さん、キャラ変わってない?」
「私、元々こんな奴だよー」
にへっと笑う。
そのあと、太田グループの元へ向かったら全員から無視されたので、多分、あいつらがやったんだと思う。
人の机を投げるなんて、非常識な奴らだなー。
そう考えていたら、望月が机と椅子を校庭から持って帰ってきた。
「あ、ありがとー。自分でやるからよかったのにー」
「なんか今、川崎さんに人の温もりを感じてもらわないと、この先人間不信になったらどうしようかと思って……」
こんなバカ正直な女の子を前にして、人間不信に陥れる奴がどこにいるか。
私は望月と一緒に廊下へと移動して、こっそり質問した。
「ねえねえ、太田たちが私のこと無視するんだけど、なんでだと思う?」
「う~ん。川崎さんがこの高校のイケメントップスリーを振ったことが学校中で話題になっていて……。
あの三人は川崎さんの悪口を言うどころか庇っているけど、それが気に入らなかったみたいで、女子の妬みがちらほら……」
「まあ太田だしね……」
結構太田は悪い意味で女度が高い女子だ。
はっきり言うと、バイト先の先輩が求愛してくるなんてウソ。それどころか彼氏もいない。
中学生が持つようなケアベアの時計をプレゼントする男がどこにいるよ……。
「太田さんのこと、怒らないの?」
「怒っているよ。でも、元々信用していなかったから、傷ついていないだけ」
「じゃあなんで仲良くしていたの?」
「太田が私のところによくやってきていて、来る者拒まなかっただけ」
人間関係ってそういうものだ。別に学校内の付け焼刃の人間関係なんて、テキトーでいいよね。
智とか、信頼できる人もきちんといるし。
「川崎さん、これからどうするの?」
「別に一人でも、高校生活楽しめるっしょ!」
「そりゃそうだけど……」
意外にも望月はぼっちを否定しなかった。
しかし。
「でも、こんな感じで苛められたら大変でしょう?」
「へーきへーき! いざとなったら、先生に言えばいいし!」
「もうすでに先生に言うべきレベルだよ!?」
「いやー。もの壊されたらさすがに頼るわー」
望月はまたもや呆れた顔をした。
「なにか困ったことが教えてね?」
やはり望月は相当優しい子だと思った。
「でも、私と一緒にいると、望月さんまで苛められちゃうんじゃない?」
「いいよ。私、どうせ太田さんに嫌われているし、空気が読めなくてお喋りだから、そこそこみんなに悪口言われているし」
確かに、望月のことを悪く思っている奴も多い。それ以上に望月のことを真面目でどうでもいい奴だと思っている人も多いけれど。
「じゃあ、頼っちゃおうかな」
私の言葉に、望月は嬉しそうに顔を綻ばせたのだった。