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01 非日常の始まり(1)

2013/10/10 初稿

2014/01/03 情景描写の修正及び誤字の修正


「やはりと言うか、何と言うか……」


「リアル、ですね」


 一頻(ひとしき)り工房の中を視て回った二人は、居間に入るなりへたり込んだ。間取りや調度品は間違いなく〈エルダー・テイル〉の工房に(しつえら)えた『それ』。一方で、窓から流れる風は土と草の匂いを含み、鍛冶場の煤はトラクの指を黒く汚した。どちらも〈エルダー・テイル〉(ゲーム)では在り得なかったことである。


「これは、どういう状況でしょうか?」


「さっぱり解らん。景色はウチの工房にそっくりなんだが……」


 トラクは、リュージュの言葉に答えつつ、部屋に設えられた姿見の前に立つ。鏡に映る影は『今の』トラクの姿だ。ゲーム時代(かつて)、この姿見は単なる飾り(オブジェクト)であり、前に立っても姿が映ることはなかった。


 それに、鏡に映る彼の姿は、現実世界で45年間顔を突き合わせてきた草臥(くたび)れた中年の直路(ただみち)でも、〈エルダー・テイル〉で20年間液晶モニタ越しに冒険を共にした〈暗殺者〉(アサシン)のトラク・鳥栖(トス)でも無い。強いて言えば、トラクをベースに直路のパーツを配置したハイブリッド、それが『今の』トラクの姿だった。


 記憶にある〈エルダー・テイル〉との微妙な差異。それらは喉に刺さった魚の小骨の様に「ここはゲームの中ではない」と告げていた。だが、その声無き声を封殺するかの様な事実も確認している。視界に二重写しに浮かび上がる〈メニュー画面〉もその一つだ。手で触れば操作できてしまう『それ』は、この世界と〈エルダー・テイル〉の共通点をこれでもかと突き付けてくれた。更には、トラク自身、幾つかの〈スキル〉が実行可能であることをその身を以って確認している。


 結局、トラクとリュージュの出した結論は、〈エルダー・テイル〉を無理矢理に現実化した異世界という、中途半端なものにならざるを得なかった。


 曖昧な結論ではあるが、この非常事態にあって落ち着いて状況を分析したこと自体は賞賛に値するだろう。彼らが結論を出した同時刻、この世界に落とされた〈冒険者〉の大半は、未だに現実を受け入れられずにパニックを起こしていたのだ。流石は年の功だと言いたい所ではあるが、余りに非現実的な状況に二人とも思考が追い付いていなかった、ただそれだけの話である。


 人間、パニックが過ぎると、一週回って逆に冷静になると言う。しかし冷静になると言っても、喚き散らさないだけで内心はしっかり動転しているものである。


 ――そう、動転していたのである。


 ――すぐに気付いて然るべき違和感、そして疑問に思い至らない程に。


 リュージュがその違和感に気付いたのは、自分のステータス画面を確認していた時だった。ハッとした様子を見せ、(おもむろ)に自身の体を触り始める。


「有る。……無い」


 声に絶望を滲ませ、膝から崩れ落ちるリュージュ。トラクもナニが、と訊くような野暮はしない。胸を揉んで股間をまさぐっていれば、何を確認したのか尋ねる必要もない。何も言わず、絶望に打ち(ひし)がれる弟分の肩に手を乗せ、静かに頷くトラク。その表情は、菩薩(ぼさつ)も斯くやと言わんばかりの優しさに満ちていた。


 他の〈冒険者〉であれば、すぐにでも気付いたであろう。しかし、不幸にもリュージュの外見(アバター)『店に出る時』(おかまバーのママ)の姿を模していた。勿論、偽乳(パッド)も標準装備である。鏡に映る姿も、胸の圧迫感も現実(リアル)と大差が無かったため、本人ですらステータス画面の性別欄を視るまで気付かなかったのだ。


 また、リュージュの反応から判る様に、彼女?はおかまバーのママであるが、その内面はれっきとした男性(ノンケ)である。あくまで職業としての「おかま」であり、その訓練としての〈女性冒険者〉(リュージュ)なのだ。


「兄貴ぃ……俺の、俺のマグナム(ジョニー)が!」


「良いんだ、竜嗣。何も言わなくて良い……」


「兄貴ぃ……ううっ、うわぁぁぁぁ!!」


 トラクに縋り付き、号泣するリュージュ。喪った者にしか解らぬ悲しみがあることを、トラクは知っていた。最近は大人しくなったとは言え、トラクの男の象徴(トーマス)は健在だ。苦楽を共にした相棒との離別(わかれ)を経験していない自分には、弟分に掛けてやれる言葉は無い。トラクに出来たのは、己に縋り、慟哭するリュージュの背を優しく撫で続けることだけだった。


     ◇     ◇     ◇


「兄貴、これからどうしましょう?」


「そうだな……取り敢えずは、衣食住の確保。それから情報の収集、といったところか?」


 強制性転換の絶望からおよそ1時間。何とか立ち直ったリュージュの問い掛けに、思案顔で返すトラク。とは言え、彼自身、異世界サバイバルの経験などあろうはずも無く、聞き齧った程度のサバイバル知識を返すのが精一杯であった。


「ゾーン設定が生きてるなら、ここが一番安全だと思う」

 

「そうですね。服もまあ、なんとかなります。後は……食ですか?」


「いや……井戸もあるし、フィールドもある。まあ、最悪でもストックで保つんじゃないか?」


「ああ、なるほど」


 設定次第では訪問者の選択までもが可能である工房、そして〈裁縫師〉のサブ職業を持つリュージュ。「住」そして「衣」の問題は即座に解決した。残る「食」に関してもトラクは特に心配していなかった。


 工房に設置してある井戸からは、(生水を飲んで大丈夫かという問題はあるが)水が確保できる。また、果物を始めとした食材が周囲のフィールドゾーンで収穫可能だ。工房の倉庫に保管されている料理、食材まで考慮に入れるならば、暫くは「食」に困窮することは無い。それがトラクの余裕の根源であり、リュージュを説得して余りある根拠であった。


 逆に意見が分かれたのが、情報の収集だ。工房を動かず、念話のみで状況を確認するべきだと主張するトラクと、最大のプレイヤー都市である〈アキバ〉まで足を伸ばすべきだと主張するリュージュ。


 安全を優先して限られた情報で我慢するか、危険を顧みず現地での情報収集を優先するか。


 どちらにも一理有るが故に真っ向から対立しかねない両者の主張。しかし単なる直感であったことが幸いし、話はあっさりと折衷案――すなわち、最寄りのプレイヤー都市である〈シブヤ〉に向かい、他のプレイヤー都市に向かうかは〈シブヤ〉で決めるという案に収まった。別名、問題の先送りとも呼ばれる手法であるが、様子見に〈アキバ〉よりも〈冒険者〉の数が少ない〈シブヤ〉を選ぶ辺り、安全への配慮は怠らない二人であった。


 念の為、狩り用の装備に身を包んだ二人であったが、直ぐに自分たちの予想が甘かったことを思い知らされる破目となった。〈帰還呪文〉で〈シブヤ〉を訪れた一行が目にしたのは、無力感に(さいな)まれて随所でへたり込む〈冒険者〉の姿。NPCに詰め寄る者や泣き喚く者などは元気があるだけマシな方で、大半が俯いて道端に座り込んでいる。


「ひどいな……」


「ええ、この有様では情報収集も侭なりませんね」


 悲観と諦観に支配されている〈冒険者〉の様子に、眉を(しか)める二人。まともに会話できそうな〈冒険者〉を探すものの、誰もが俯いたまま顔を上げようともしない。情報収集の一歩目から躓くことになるとは予想だにしていなかった二人であるが、諦めることなく声を掛けていく。


「ちくしょう。これは夢だ……。悪い夢なんだ!!」


 話の出来そうな相手を探していたトラクの耳が、その声を拾い上げたのは偶然だった。顔を上げたトラクの視界の片隅、雑居ビルの5階。声の主は地上15メートルの窓枠に片足を掛けていた。


 早まるな――咄嗟に制止したトラクの言葉も虚しく、錯乱した男は宙を舞った。世を儚んでの投身である。僅かな浮遊時間の後、男は瓦礫の向こう側に消えた。重量物が落下するドスンという音、そして瓦礫の崩れるガラガラという音。


 手遅れであると予想しつつも慌てて駆け寄ったトラクであったが、結果から言えば、それは意味の無い行為に終わった。身を投げた筈の男がむくりと起き上がり、そのままふらふらと歩き去ったからだ。現実世界なら、地面に真っ赤な華を咲かせかねない状況。しかし、立ち去った男の頭上、残りHPを示すバーはそれほど減っていない。それは〈冒険者〉の強靭な肉体、そのスペックの一端を垣間見せる構図であったが、同時に残酷な事実を暗示する構図でもあった。


 俺たちは死ぬこともできないのか――事の一部始終を目撃した誰かが呟いた一言がさざ波のように広がり、周囲の空気を更に重いものに変える。トラクとリュージュに、その空気を払拭できるだけの材料があるはずも無く、ただ足早にその場を去ることしか出来なかった。


 情報収集が失敗に終わり、気まずい沈黙を抱えたまま、二人は〈都市間ゲート〉(ゲート)に向かっていた。〈シブヤ〉での情報収集を諦め、〈アキバ〉に向かうためである。勿論、〈シブヤ〉の〈冒険者〉全てが現実から目を背けていた訳ではない。状況を把握し、行動を起こした彼らは、更なる情報を求めて〈アキバ〉に向かっており、トラクたちが〈シブヤ〉を訪れた時点では既に都市を離れていたのである。


「おっと、すま……ッ!!」


 自分の目前、衝突寸前の位置に現れた若い男を慌てて避けたトラクであったが、謝罪の言葉を口にしかけたところで息を飲んだ。一方の男は、途切れた謝罪の言葉や固まったトラクを気にした風でもなく、足を止めることも無い。呆然、あるいは絶句と表現すべき表情を浮かべるトラクを余所に、そのまま歩き去ってしまった。言葉を失い、ただ男を見送るトラクを不審に思ったリュージュが声を掛けるが、トラクには彼女の気遣いに言葉を返す余裕は無かった。


 完全に意思の光を喪失した目。漫画やアニメでは、レイプ目などと呼ばれるそれが、トラクを硬直させた原因である。魚が死んだ様などという生易しいものではない、全ての感情が抜け落ちた、底なし沼のような目。トラクは恐ろしかった。相手が生きた屍であったことが、ではない。無気力と諦観の果てにある、全てを無価値と断じる狂気、その可能性に思い至ったからだ。


 自暴自棄になった〈冒険者〉の手で無法地帯と化しかねない〈シブヤ〉。もし〈アキバ〉や〈ミナミ〉も同じような状況だとしたら。トラクは"ゲート"への道のりを急いだ。


     ◇     ◇     ◇


「ダメです。動いてませんね」


〈妖精の輪〉(わっか)はテーブルが判んないしなぁ……どうするか」


 自分たちの目前、光を失い完全に沈黙している"ゲート"を眺めつつ、落胆した表情を顕わにするトラクとリュージュ。"ゲート"の使用を前提にしていたため、予定の見直しを迫られたのだ。


 (もっと)も、〈アキバ〉であれば徒歩で向かっても今日中には到着できる。むしろ、〈シブヤ〉での失敗を繰り返さないためにも、〈アキバ〉で情報が収集できそうか、事前に確認するべきではないか。ここ至って(ようや)く、二人は情報を集めてから現地に向かえば良いということに気付いたのである。


 そこに思い至れば話は簡単である。〈アキバ〉に本拠地(ホーム)を構える知り合いに連絡を取ることにして、フレンド・リストを呼び出す二人。リュージュがすぐに念話で話を始めたのとは対照的に、トラクは延々とリストを(めく)っている。別にトラクが相手を吟味している訳でも、サボっている訳でもない。


 連絡する相手が、居ない。それだけの理由だった。


 彼の名誉のために付け加えるのであれば、〈エルダー・テイル〉歴20年にも及ぶトラクの友人帳(フレンド・リスト)自体は相当な分量に及ぶ。決して、ぼっちプレイを続けていた訳ではない。ただ、友人が軒並み引退(ログアウト)している上、〈アキバ〉に居そうな数名も話し中なだけなのだ。


 片や、数年前まで〈アキバ〉でも知られたロール系ギルドの(ママ)を務め、今もギルドの幹部(おねえさま)として運営に携わる身。片や、かつては大規模戦闘(レイド)の先陣争いを繰り広げ、その二つ名をサーバ中に轟かせるも、ここ数年は辺境の工房に引き籠っていた身。その差は歴然としていた。未練がましくリストを捲り続ける兄貴分に肩を一つ竦めると、リュージュは念話を再開した。


 一方、意地になったトラクは、〈アキバ〉を本拠地にしている友人以外にも検索範囲を広げていた。彼自身、現役の友人が少ないことは自覚していたが、流石に全滅(ゼロ)は予想外だった。これでは兄貴分の沽券に係わる――そんな僅かな焦りを感じつつ、リストを片っ端から開いていた彼の視線が、1つの名前で止まった。暗灰色の名前の羅列の中、白く輝く『葉衣:神祇官』の文字。それは、在り得ないが故に頭から抜け落ちていた名前だった。


 葉衣(ようえ)を操作していたプレイヤー――竜嗣は、リュージュとしてトラクの目の前に居る。それは間違いない。では、今ログインしている葉衣の中に居るのは誰なのか。もしかすると、この異常事態の手掛かりが判るかもしれない。期待が膨らむトラクであったが、同時に酷く嫌な予感もしていた。


 ――もし、葉衣の中も竜嗣だったら?


 ――もし、現実世界にはちゃんと自分たちが存在したままであったなら?


 自分は平静を保てるだろうか?


 更に、ネットで拾ったオカルト知識や似非(えせ)科学知識が、トラクの不安を加速させる。自分のドッペルゲンガーに出会ったものは死ぬと言う。また、同一人物が対面した場合、自我の独立性を喪い、一方、あるいは両方の人格が崩壊するとも言う。


 リュージュから距離を取り、震える指でフレンド・リストをタップ、コール。


 1秒……2秒……3秒……。


『……はい』


「葉衣、トラクだ。大丈夫か?」


 数回のコールの後、聞こえてきた声は聞き覚えのないソプラノボイスであった。トラクは思わず通話相手を確認するが、間違いなく葉衣である。だが、トラクが疑問を口にするよりも早く、事態は動いた。それも、悪い方向へ。


『兄貴? こかぁ、何処……まさか"スワ"、か? ん、あァ? 俺の声……か……ッ! なッ……、嘘、だ……ろ……。そんなッ! うぅ……うわぁぁぁあぁぁあ!!』


「葉衣、落ち着け! 落ち着くんだ!!」


 トラクの必死の呼び掛けも空しく、絶叫と共に途切れた念話。再度コールするも、葉衣の反応はない。トラクの不安は一気に膨らんだ。


 "スワ"――葉衣は現在地について、そう言った。こうなれば"スワ"、すなわち〈スワの湖畔市〉まで確認に向かうべきだろう。宙に向かって会話を続けているリュージュの様子を窺うと、トラクは急いでルートの選定に取り掛かった。


 〈スワの湖畔市〉は、現実世界の諏訪市に位置するNPCの街である。〈シブヤ〉からの最短ルートは、中央道に相当する〈セントラル廃街道〉を西に進んで〈シェルワース盆地〉に抜け、そこから北上するルートだ。


 ただし、最短ルートは〈タカオ山〉、〈フジ樹海〉といった高レベルのフィールドゾーンに隣接しており、〈セントラル廃街道〉自体も中レベル帯とは言え、パーティ級、レイド級のフィールドボスが出現する危険地帯である。


 余談ではあるが、真の最短ルートは〈スワの湖畔市〉までの直進コースであるが、〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァーン)の生息地を通過するため却下されている。同様に、比較的安全なルートは最短ルートに比べ時間が掛かり過ぎるため却下されている。


 あっさりと最短ルートの使用を決定したトラクであるが、〈スワの湖畔市〉へは自分一人で向かうつもりであった。頭を過ったオカルト的な不安(ドッペルゲンガー)が理由ではない。葉衣との念話が途切れた以上、「最悪の結果」を予想してのものである。


 リュージュには食料調達を兼ねて、このまま情報収集をして貰えば良い。方針を決めたトラクは、リュージュの念話が終わるのを待って声を掛けた。


「〈アキバ〉に向かう前に、フィールドの確認をしようと思う。ちょっと遠出して状況を確認してくるから、リュージュは食料を確保したら、宿で引き続き情報を集めてくれないか?」


 私は隠し事をしています、そう言わんばかりの唐突な提案。下策も下策である。


 寝言は寝てから言え、そう言わんばかりの厳しい視線でトラクを睨むリュージュ。トラクも黙ってリュージュの視線を受け止める。


 ――何を隠しているんですか?


 ――すまない。それは言えない。


 ――そんな言葉で私が納得するとでも?


 両者無言での視線の応酬。結果、先に折れたのはリュージュの方だった。


「……はぁ~。はいはい、判りました。食料の調達と情報の収集ですね」


「すまん。助かる」


「それで、遠出するのは判りましたが、どうするんです? ソロだと厳しくありませんか?」


 不本意ながらも単独行動を認めたリュージュの問いに、トラクは1つのアイテムを取り出すことで答えた。精緻な細工の施された竹製の笛である。


〈鷲獅子〉(グリフォン)。そう言えば、兄貴は笛を選択してましたね」


 トラクの無言の回答に、どこか懐かしそうな面持ちでリュージュが呟く。


 〈鷲獅子(グリフォン)の召喚笛〉。死霊が原(ハデスズプレス)大規模戦闘(レイド)クエストの報酬として選択できるアイテムの1つである。廃人(エンドユーザー)であれば所有する機会は少なくないアイテムなのだが、実際にこのアイテムを所持している〈冒険者〉は日本サーバでも200名程度に留まる。これは、乗騎として微妙な性能のグリフォンよりも、他の報酬を選択した〈冒険者〉が多数を占めたためである。


 長距離移動では〈輪っか〉や〈ゲート〉に軍配が上がり、近場の移動では飛行というアドバンテージを活かせないなど、移動手段としてよりは純粋に空の旅を楽しむための乗騎と言う認識が強いグリフォン。しかし、それはあくまで〈エルダー・テイル〉がゲームであった頃の話である。長距離転移手段が利用できない現在、グリフォンは時間制限こそあるものの、この世界でも最速クラスの移動手段であった。


 当然、トラクもグリフォンの存在を前提として、最短ルートを採用している。現実世界の渋谷―諏訪間がおよそ200キロメートル、〈エルダー・テイル〉ではその半分の100キロメートル。グリフォンであれば、今日中に到着することができる距離だ。


 更に言えば、飛行中のグリフォンに攻撃できるモンスターなど、余程の高レベルゾーンでもない限り、そう多くない。〈ロック鳥〉や〈鋼尾翼竜〉(ワイヴァーン)といった飛行属性のモンスターも、山岳地帯の頂上付近にしか出現しない。


「葉衣……。無事で居てくれ」


 〈シブヤ〉の外れ。リュージュの見送りを断ったトラクは、グリフォンの背に乗り〈スワの湖畔市〉目指して飛び立った。


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