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永久  作者: ちびた&ちろ
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生まれた女の子は、ほのかと名付けられた。


涼子は、実家へ里帰りしていた。晃のほうは相変わらず仕事が忙しく、なかなかほのかの顔をみに行くことができなかった。


涼子には、年の離れた兄がいた。両親と兄から愛情をたっぷり注がれながら、成長していったのである。


兄の順一夫妻には、女の子と男の子が一人ずついた。順一の家族は、東京に出ていたため、両親とは別に暮らしていた。


英雄と由紀子にとって、ほのかは三人目の孫である。生まれたばかりの赤ん坊は久しぶりなので、ふたりとも、かわいくて仕方がなかった。


由紀子からいろいろと教わりながら、涼子も徐々に母親らしくなっていった。


こうして、実家での穏やかな日々を一ヶ月ほど過ごしてから、涼子は自宅へ戻った。


太一と光子にとっては、初孫である。涼子が実家から帰ったことを聞いた二人は、頻繁に連絡をして、孫の顔をみたがっていた。特に太一は、女の子のほのかを目に入れても痛くないくらいかわいがった。


太一は事情も考えずに、連絡することもあったので、涼子は初めての育児と義理の親とのコミュニケーションに少し疲れを感じ始めていた。


晃に相談したいこともあったが、相変わらず仕事中心で、家を空けることが多かった。


また、晃にとっても、ほのかはかわいい娘であったが、家に帰る度に、どんどん増えていく部屋の中のものに対しては違和感を覚えていた。


「おもちゃなんて、こんなにたくさん必要なの?」


「必要でしょ。ほのかだって喜んでるのよ」


「そんなものかな」


「そんなものよ。それと、お義父さんが、たくさん買ってくれるのは、うれしいけど、しょっちゅう孫の顔をみせろって言われちゃって……。」


「親父は、ほのかに夢中だからな。毎日、写真を眺めてる。でも、涼ちゃんの都合もあるだろうから、あとで僕から言っておくよ」


「ありがとう、そうしてもらえると助かるわ。それより、晃さん、ほのかをお風呂に入れてみる」


「えっ、僕にできるかな」


「できるわよ。パパなんだから」


晃は、涼子にいろいろと教わりながら、まだ首のすわらないほのかと一緒に風呂へ入った。小さな小さな存在も湯船につかり、気持ち良さそうである。


涼子はスマホで、二人の入浴を写真に撮った。


それから、涼子の指導のもと、赤ちゃん用のシャンプーで頭と体を洗った。


「晃さん、なんかかわいい」


恐る恐るほのかを洗っている晃の姿が、涼子にはそうみえたのである。


だが、晃は真剣だった。落としたりキズを付けたりしないように、慎重に作業を進めていく。途中で泣きそうになったが、涼子がほのかの小さな手にガーゼを握らせたら落ち着いた。


目にお湯が入らないように、注意しながらシャワーで流し、無事終了である。


風呂場の外で、ずっと見守っていた涼子へほのかをそのまま手渡した。晃は一安心しながら、自分の体を洗い始めた。


「育児って、思ったより大変だね。それと、なんだか涼ちゃんも、ずいぶん母親らしくなってきた」


「プシュッ」


風呂から上がった晃は、缶ビールを開けた。


「女性はみんなそうじゃない」


涼子はスマホを持ってきて晃に見せた。


「見て」


「一ヶ月で、結構大きくなったんだね」


ほのかの写真である。アルバムアプリで、きちんと整理されていた。


「パパと初めてのお風呂」


早速、追加された、この日の写真に付けられたコメントである。


「晃さん、今度の日曜日は、お宮参りよ。覚えてる?」


「覚えてるよ。ちゃんと仕事も休みにしてあるから安心して」


日曜日、市内の写真館にきていた。太一と光子も一緒である。ほのかは涼子の実家から送られた祝い着に身を包み、スーツ姿の光子に抱かれている。涼子は、ほのかに合わせて着物を着ていた。


写真館の老夫婦の指示に従って、写真撮影が始まった。


じっとしていない赤ん坊の写真撮影は大変である。老夫婦は、ほのかをあやしながら、シャッターを切っていく。


ほのか一人の写真と晃と涼子の三人の写真と、太一と光子も入れた五人の写真が無事カメラに収められた。


写真撮影が済むと、そのまま神社へ向かい、お宮参りをした。これほど長く太陽にさらされるのは、ほのかにとって初めてのことなので、日傘でしっかりとガードされている。


晃は、ビデオやデジカメで、その様子を撮影していた。こだわって選んだ立派な機材を使用していたが、撮影の腕前はそれほどでもなかった。


ほのかの誕生を祝い、健康と長寿を祈願するお宮参りも無事に終わり、五人は遅いランチを済ませ帰宅した。


こうして、涼子のアルバムアプリには、また一つ思い出が刻まれた。


それから、間もなくして、ほのかの首もすわってきた。この時期になると、今度は、お食い初めである。


晃たちのアパートには、英雄と由紀子が先に到着していた。涼子は由紀子とは、お食い初めの準備にとりかかった。赤飯は由紀子が自宅から持ってきていたので、鯛やお吸い物などを作っていた。


しばらくすると、太一と光子もやってきた。


膳の支度が終わると、女性陣は団結し、一生涯、食べる事に困らないようにという願いを込めて、ほのかに食べるマネをさせた。


太一と英雄は、嬉しそうに、眺めていた。晃は、ここでも撮影係りである。


膳の食材を一通り、食べるマネをさせると、今度は歯固め石をかじらせた。これは歯が丈夫になるようにとの願いを込めて行われる儀式である。


ほのかのイベントが無事に終了すると、早速、乾杯して大人たちの時間になった。


みんな酒好きなので、お昼の楽しいひと時を過ごしていた。


だが、母乳を与えなくてはいけない涼子だけは、この時も酒を控えていた。


「涼ちゃん、ごめんね。僕らばっかり」


「気にしないで。もう、お酒なしの生活が普通になっちゃった」


「母親になるとそんなものかな。そしたら、僕は男で良かった」


「晃さんは、どれだけお酒が好きなの」


無事にイベントをこなし、大人たちの笑顔に囲まれながら、幸せそうに休んでいるほのかであった。

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