表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女が自覚するまで
3/47

第3話  彼女はまだ気付いていない③

 ご主人様がパンパンと手を叩くと、影でこっそり控えていたらしいメイドさんが2人、出現しました。

 瞬く間に、1人はティーテーブルの用意を、もう1人は自然な様子で椅子に座らせたご主人様の髪の再セットをすると出て来た時と同じように、いつの間にか何処かに姿を消します。


 ルーシェリカさんは何をしていたかというと、レディ・マクスリールを椅子に誘導、そのまま給仕をしてました。

 さすがメイドスキルA保持者。

 私は動けないので見ていただけですが、流れるような自然で無駄の見えない作業でしたよ。


「じゃあ、そろそろおいとまするわ」


 茶菓子のマフィンを1つ口にして、一杯分の紅茶を飲み干すと、レディ・マクスリールは退室を口にしました。


「ナタリー、私はお父様にもお願いされたから、しばらく王城ここに滞在することになったのよ。何度かお茶会を開くから、時間が合えばでいいの。出席してくれると嬉しいわ」

「……分かりました」


 苦虫を噛み潰したような顔で、頷くご主人様。

 嫌だときっぱり言えない事情がありそうですね。


 渋々といった形ではありましたが、ご主人様の出した了承に。レディ・マクスリールは嬉しそうに微笑んで、椅子から立ち上がりました。

 彼女付きの侍女らしき女性と連れ立ち、そのまま優雅な足取りでしずしずと退室していきます。


 それにしても、あの侍女さんはいつの間に現れたのやら。

 さっきのメイドさんみたいに、視界に入らない位置で影ながら控えていたのでしょうか?


「……やれやれ。ようやっと帰ってくれたのじゃ」


 両肩をを落とし、疲れた様子で大きく溜め息を吐かれるご主人様。

 ルーシェリカさんは黙って新しい紅茶を高そうなカップに注いで、そっと差し出します。

 ご主人様はティーカップを持ち上げると、口の中を湿らすように、一口分だけ紅茶を音も立てずにすすりました。


「ルーシェリカ……来てくれて助かった。悪い方ではないと分かっているのだが、わらわは姉上、苦手なのじゃ。すっかり元気になられたようで、何よりではあるが……」

「亡くなった先代マクスリール公爵閣下の件ですね」

「うむ……父上も義兄上の喪の期間が明けてすぐ、王城ここに姉上を呼び戻されて滞在を命じなさったくらいじゃ。姉上の様子が気になっていたらしいの」


 どうやら、レディ・マクスリールは公爵夫人で未亡人のようです。

 国王は自ら、わざわざ命じてまで傍に居させている。

 長女が可愛いのか、それとも――他に何か理由があるのか。

 ちょっぴり気になりますね。 


「――それで? わらわに何の用事か?」

「はい、ご主人様。実は……」


 用なんかないと思ったら、実はあったようです。

 ルーシェリカさんは、次の夜会の衣装合わせに関するスケジュール調整について話し出しました。

 割り振ったはずなのに、まだ少し通常職務があるようですね。

 まあ、確かに。

 特別任務を受けたとはいえ、何も用件がないのにご主人様の元へ来れないでしょうけど。


 話が終わって、自室に戻るとすでに聞き慣れたピローンという効果音が響きます。


『ルート共通イベント『遭遇・ナタリーとベネット』を回収しました』

 

 どうやら、レディ・マクスリールはベネットというお名前のようです。

 そういえば、イベント中に名前が一度も出ませんでしたね。

 この天の声ナレーションが無かったら、図鑑を見るか、ミレイ嬢に聞きに行かない限り、長い間知らずにいた可能性があります。


 机に近づいて、『状態を確認する』を選び、ステータス画面をチェックします。


  1日目・朝・自室。


  ルーシェリカ・シリス(17)

  レベル1

  称号 ナタリー王女付きメイド長

  HP 56/56

  MP 20/20

  状態・健康

  属性・闇

  所持金 0ギラー


  戦闘スキル 短剣A(MAX)

        鞭A(MAX)

        格闘C

        闇魔法C

        急所攻撃S(MAX)

        連続攻撃C

        緊急離脱C

  一般スキル メイドA

        薬学知識C

  スキルポイント 残り0P


  装備 投げナイフ/皮の鞭

     上級メイド服

  所持品 爆薬(液体)/鋼糸/毒薬(効果・麻痺)

      回復薬(小)1


  贈り物アイテム ミーミル産高級茶葉1

          小さな風景画1


  特殊アイテム 謎の仮面  


 私が見たかったのは、正確に言うとステータスではなく、イベントで入手したアイテムが出るかどうかです。

 思った通り、ステータスに贈り物アイテムとついでに特殊アイテム欄が出来ていました。

 『回復薬(小)』は所持品に入ってますから、戦闘中で利用出来るものはこっちに入るということでしょう。

 さっそく文字を突っついてみて、内容チェックします。


「うん。2つとも売れるね」


 いくらになるか分かりませんが、大切な軍資金候補です。

 それに討伐モンスターを倒すのに、回復アイテムが1つだけじゃ心もとないですからね。

 私は1人で頷くと、ドアに近づき、『街に出る』を選びました。


 すると、ルーシェリカさんはおもむろに着替えを始めました。

 さすがにメイド服のままでは出掛けたりしないようですね。

 綺麗な若草色の膝丈ワンピースに、それよりも丈の長い白い上着を羽織り、膝下までの網上げブーツを履きました。

 わざわざ丈の長い上着を羽織ったのは、武器が見えないようにするためのようです。

 実に慣れた様子で、外から見えないワンピースと上着の間に装着していきましたから。


 最後に鞄を持って身支度を済ませると、ルーシェリカさんは自室から廊下に出て、さくさく城の外に出て城門まで歩いていきます。

 

  冒険者ギルドに向かう

  商店街に向かう

  神殿に向かう

  王都の外に出る

  王城に戻る


 冒険者ギルドは多分討伐関連、商店街はそのまんまアイテム売買でしょう。

 神殿は何をするのでしょうね?

 王都の外に出れば、普通にモンスターとの戦闘になりそうな気がしますよ。大概のRPGはそうですから。


 そういえば、RPGで街中にモンスターが出ないのって、どういう仕組みなんでしょう?

 モンスター除けの結界でも張っているか、街と外を区切っている場所にモンスターが近寄らないよう物理的な仕掛けをしているのでしょうか?

 そういうのかないと、強いモンスターがいる地帯って、モブキャラの兵士とか軍人では対応出来なさそうですし。


 私の夢の産物ですが、この世界には少なくとも6柱の神々が存在するのですよ。

 神殿もあることですし、その神々の力を使って結界でも張っていそうな気がします。


「まあ、いっか。とりあえず、上から順にこなそう」


 冒険者ギルドは私が思った通り、討伐モンスター関係でした。


 暇だったのか、それともルーシェリカさんが提示した身分証のせいなのか。

 説明してくれたギルド長のアレンさんによると、他にも採取したアイテムの依頼などがあり、依頼を請け負って提出することでお金が稼げるようです。

 受付嬢に声をかければ、1日幾らかは本人と交渉する必要があるけど、紹介された冒険者同行してもらって即席パーティも作れるみたいでした。

 今日は紹介出来る冒険者が出払っているようで、パーティ編成は無理です。


 アレンさんは暇な時、声をかければ協力しても良いようなことを言ってましたね。

 王家の人間に繋がる伝手が欲しいのか、ルーシェリカさんの愛らしさに思わず提案したのか、それとも本当にたまに暇を持て余す時があるのか。

 判断がつきにくいです。 


 アレンさんとルーシェリカさんの会話を聞いていて分かったのですが。


 ご主人様(ナタリー王女)の指示を受けた人間ルーシェリカが討伐モンスターを倒す。

→討伐モンスターに賭けられた賞金を孤児院に、ご主人様の名前で寄付。

→第2王女が下々の生活を気にかけてくれている+孤児院に全額寄付の指示を出すなんてお優しい方だ――と、街の噂になる。

→民衆の支持率がUP。


 こういった仕組みで民衆支持率が上がるようです。


 つまり、賞金は1ギラーも私のモノになりません。

 アイテム依頼がなかったら、資金繰りに大変苦労することとなったでしょう。

 楽な稼ぎ方ってないのでしょうかね?


 『王城に戻る』という選択肢があるだけあって、冒険者ギルドから出ても自室に戻ったりはしませんでした。

 そうじゃないと、ターン経過が凄いことになるからでしょう。

 お城でいちいち戻ったのって、その方が時間経過が少ないからだと思います。


 次に、選択した商店街にある万屋よろずや<青い鳥>で、早速アイテムを売りました。

 『ミーミル産高級紅茶』は8000、『小さな風景画』はなんと20000ギラーで売れましたよ。

 私は買い取り金額の高さに。

 素直に喜ぶことが出来ず、むしろ、賄賂は一回いくら掛かるのかと非常に不安になりました。

 

 売っている商品から、回復薬(小)と解毒剤を5つずつ買いました。

 両方とも1つ200ギラーで、計2000ギラーかかりました。

 あと、お弁当が打っていたので買ってみましたよ。20ギラーでした。物価価値が良く分からないので、高いのか安いのかよく分かりません。

 ちなみに、売値の5分の1で買い取ってくれるそうです。


 防具類も売買していて、試着コマンドで装備パロメーターが確認出来ました。

 ただし、現在装備中の『孤児院卒業祝い・院長お手製ワンピース』が、現時点で買えるどの防具よりも数値が良かったので買っていません。


 シリス孤児院の院長さんは防具職人スキルか、錬金術スキルあたりを持っているのでしょうね。

 ちょっと質の良いだけの、どこでもありそうなのワンピースに攻撃力15%UPが付与してある理由がそれ以外思い浮かびません。


 看板娘のグレーテルさんは、ビン底のようなぐるぐる眼鏡を煌めかせながら一枚100ギラーで宝くじを売っていると教えてくれたので、とりあえず5枚ほど買っておきました。

 これで今日の出費は2520ギラー。

 現在の所持金は25480ギラーですね。

 買った分以上のお金がは戻ってくることを祈ります。


 さてさて。

 続けて何をするか、よく分からない神殿に向かいます。

 ついた先は、地下にある神殿でした。松明の明かりがあるので、転んだりはしないでしょうが薄暗いです。

 何故?


「ようこそ、カーティス神の加護を受けし子よ」


 出迎えてくれた年齢性別不詳の神官さんのおかげで、謎が解けました。

 

 そうですよね。

 ルーシェリカさんってカーティスの加護持ちですから、自然に自分と関わり合いのある神殿を選びますよ。

 闇と夜と死を司る神様だけに、明るい所に神殿建てられないのでしょう。イメージが合いません。


 それにしても。

 この神官さんて、本当に年齢も性別も分かりにくいですね。


 神官衣はタップリして体の線が分かりにくく、フードを目深に被っているので見事に鼻先まで隠れています。

 見えている部分的に、皺や皮膚の弛みがない様子なので、そこまで歳はいってなさそうなのが分かる程度。

 これで前がちゃんと見えているのでしょうか?

 その上、声、分かりにくいんですよ。

 高めの男性の声にも、低めの女性の声にも聞こえて。


「私はカーティス神の忠実なるしもべ、セシル。加護を受けし子よ、何を望んで此処に?」

 

 名前まで、男女どっちでも通用するモノですね。

 これは関連イベントを起こさないと不明なままでしょうか?


 そんな風に私がぼんやり考えていると、おなじみの選択肢を告げる文字が空中に浮かび上がりました。


  祝福してもらう

  カーティスに祈りを捧げる

  神殿から出る


 祝福は、短期間のエンチャント効果辺りでしょうか?

 神に祈りを捧げてみると、いったいどうなるかも気になりますね。

 とりあえず、両方ともやってみましょう。

 まずは『祝福してもらう』を選んでみます。


「セシル神官。この身にカーティス神の祝福を与えてください」

「分かりました。ではひざまずきなさい」


 素直に指示に従ったルーシェリカさんが跪くと、セシルさんは何語か不明な言葉を唱え始めました。

 神官が使う類の専門語でしょうかね?


 やがて、ぼんやりとした光がセシルさんの手袋で覆われた右手に宿ります。

 セシルさんはその光る右手で、跪いたルーシェリカさんの額を一瞬だけ、そっと触りました。

 なんだか温かいものが、すうっと水が染み込むように体の中へ入り込んでくるのが私にも感じられます。


 ピローン! 効果音と共に、天の声ナレーションが効果を解説してくれました。


『ルーシェリカは闇の祝福を受けた。

 最大HPと最大MPの値が1上がった。

 祝福は1日につき、1度しか受けることが出来ません』


 おお~!

 一時的な攻撃力UPとかじゃないんですね。

 最大値は1上がるだけでも馬鹿に出来ませんから、ターン数変動がない場合、毎日神殿通った方がよさそうです。


 神様に祈った場合、どうなるのか楽しみになってきました。

 さあ、ルーシェリカさんも立ち上がったことですし、選んでみましょう。


「――カーティス神に、祈りを捧げたいと思います。祈祷所に向かいたいのですが……」

「そうですか。では、この奥に向かってください」


 あれ?

 セシルさんと一緒に祈祷するかと思ったんですが、違うみたいですね。

 ルーシェリカさんはセシルさんの指示した方へ、薄暗がりの中、足音を立てずに歩き出しました。


 しばらく進むと、薄闇の中、ぼんやり光る魔法陣みたいなモノが刻まれた床と、魔法陣の光に照らされた祭壇のようなモノがある場所に辿り着きました。

 ルーシェリカさんの他には、誰もいません。

 途中、分かれ道みたいなものが見えたので、セシルさん以外の神官さんとかはそっちの方にある部屋にいるんでしょう。

 

 迷う様子無く、ルーシェリカさんは魔法陣の上に移動すると、その場で跪きました。

 そして両手を組んで、軽く目を閉じます。

 うわ、真っ暗。

 何も見えませんね。

 

「私に加護を与えてくださった闇の神カーティス様……生き抜くための力をくださったこと、心より深く感謝いたします」


 ルーシェリカさんの言葉が終わった瞬間、ほんの一瞬だけ、声に応えるようにふわりと何かに包まれるような、不思議と落ち着く感覚がありました。

 真っ暗な中、そんな現象が現実にあったのならホラーですよ。

 でも、全然怖さを感じなかったですね。


 そして、すっかりお馴染みの効果音と共に、暗闇の中でも見える光る文字が私の目の前に浮かんできます。


『ルーシェリカはカーティスに感謝の祈りを捧げた。

 スキルポイントが2増えた。

 祈りは1日1回しか捧げられません』


 祈りはポイント増加ですか。

 これも地味に美味しい効果です。

 ルーシェリカさんはレベル1のわりに、随分戦闘スキルが多くて高いものがありますから、もしかすると、結構な頻度で神殿に祈りをささげに来ていたとかいう裏設定があるかもしれませんね。


 もうすることがないので、『神殿から出る』を選択します。

 ピローン!


『ルート共通イベント『カーティス神殿の参拝』を回収しました。

 神殿の『祝福』と『祈り』は選択しても、ターンの経過がありません。

 メインキャラ14名が登場した結果、用語図鑑を入手しました。

 分からない単語が、いつでも自室でチェック出来るようになります』


 天の声ナレーション、続けてきましたね。

 効果音、ちょっと煩くなってきました。

 消音出来たらいいのに。

1ギラーは10円相当です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ