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金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女が自覚するまで
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第2話  彼女はまだ気付いていない②

「あ。おはようございます、お姉様!」


 1番下の選択肢に出ていた場所――『職場』のドアを開けるなり、愛らしい声が聞こえてきました。

 

 その中にいたのは、椅子に座ってファイルみたいなものを読んでいる、黒髪に緑の目の執事っぽい燕尾服の青年。

 ホウキの柄を両手で持った、明るい茶色の髪を1つのみつあみにした美女メイド。

 そして、私に声をかけて来たと思わしき、金髪ツインテールの美少女メイドの3名です。


「おはよう、みんな。ミレイ……『お姉様』って呼ぶの、止めてくれない?」


 これが、お助けキャラのミレイ嬢ですか。

 色白で小柄で華奢。

 保護欲をそそりそうな感じの美少女ですね。『お姉様』という発言は、キャラ的に似合っています。うん、なんていうか、見た目が百合キャラっぽい。

 私の方を見る琥珀色の瞳が、とってもキラキラしてます。

 ハッキリとその眼から、好き好き大好き光線が出ているように思えますよ。

 これは……ちょっと、ルーシェリカさんが引いても仕方ないかもしれません。


「心配ならずとも、内輪の席――この詰所内でしか『お姉様』とお呼びしたりしませんわ。ナタリー王女殿下やお姉様にはご迷惑をおかけしません」

「……そういう意味で言ったのではないのよ」


 ルーシェリカさんは疲れたようにそう呟いて、頭が痛いと言いたげに軽く額を右手で押さえました。


「おはようございます、メイド長。ミレイお嬢様が申し訳ありません。お嬢様は一度こうと決めたら、簡単には撤回なさらない方でして……」

 

 本当に申し訳なさそうな顔で、みつあみ美女メイドが軽く頭を下げて言いました。別段掃除中でもなさそうなのに、何故かホウキを持ったまま。


 ルーシェリカさんも充分女性的で均整の取れたスタイルですが、この人はそれを上回るメリハリのあるスタイルの持ち主ですね。

 右目の傍にある泣きぼくろが、更に色っぽさを上げていますよ。

 瞳の色は髪よりも濃い茶色。

 ちょっと垂れ目で、優しいお姉さんといった雰囲気のある美女なので、ミレイ嬢はこの人を『お姉様』と呼ぶべきだと思うのですが。


 発言からしてどうも、ミレイ嬢の身内のようですね。

 『お嬢様』って言ってますし、お目付役でついてきた使用人か、ミレイの家の領地出身者あたりでしょうか?


「おはよう、イリス。貴方も諦めず、私と一緒に説得して」

「ルーシェリカ。ミレイ嬢はしつこそうだし、お前が諦めて『お姉様』呼びを受け入れる方が簡単だと思うぞ」

「……ルーファス。他人事だと思って適当なこと言わないでちょうだい」 


 座って淡々と作業を続けている、黒の燕尾服姿の青年をキッと軽く睨みつけ、ルーシェリカさんは口を尖らせました。

 よく見たら、ルーファス青年はパッケージイラストで見た、男性主人公にそっくり。


 髪の色は同じ黒ですけど、ルーファスの瞳は深い緑色です。顔立ちも普通――よくよく見ると地味に整っているといった感じで、ルーシェリカさんに似ていません。

 血の繋がりはなさそうですね。

 実の兄枠は無さそうです。


 それよりも1つ、気になる事があるんですよ。

 私、初対面のはずのルーファスの声に、何故か聞き覚えがあるのです。


「――ところで、姫様から呼び出されていたようだけど、何かあったのか?」

「ええ。ご主人様は、ついに決意なされたの。その件の責任者に任命されたわ」


 何処で聞いたんでしたっけ?

 怒涛の遭遇イベントは違います。もっと前。


「ルーファス、ミレイ、イリス。ご主人様の望みを叶えるためにも、協力してちょうだい」

「……お前も本気みたいだな」

「ええ。全てはご主人様のお望みのままに」


 プロローグのセリフ聞いて、思い出しましたよ。


 あの声です。

 一週目に、サクッと殺してくれた正体不明の暗殺者の声。

 私の考えが合っているなら、ホントに薦めてきた友人が言う通り、このゲームって背景が殺伐してますね。大きなミスをしたら、同僚が殺しに来るって。


 でも、これは私の脳内補完したシナリオのはずですから、私の思考がシビア過ぎるのでしょうか?


「ようは、特別任務をこなすために手が回らなくなりそうな、お前が担当している通常職務の補佐というか、肩代わりしろと?」

「そういうことね。余裕が出来ればその分もこなす予定だけど、はっきり言い切れないから」


 ルーシェリカさんの職務は『メイド長』ですし、任されている仕事の量も多いのでしょう。

 少し、ルーファスの口元が引きつっています。


「仕方ないか……お前がこなしている書類仕事は、侍従おれらの方で分配しとくよ」

「お任せください、メイド長。メイドの職務の方は、私が皆に知らせて割り振っておきます」

「ありがとう。ルーファス、イリス。持つべきものは頼りになる同僚ね」


 すみませんでした!! 

 身体が自由に動かせたのなら、土下座して謝ります!!


 特殊任務の影響で仕事が増えて負担になっているのに、仕事を増やした当の本人が何もせずにゴロゴロ20日も寝て過ごしていたとしたら、普通に殺意も湧きますね。

 もしかしたら、あのバッドエンドは命令ってだけではなく、私怨も混じっていたのかもしれません。

 ほとんど痛みもなく一撃で殺してくれたのは、長年の同僚としての、せめてもの情けだったのかも。


「お姉様! わたくしでお役に立てることがあるなら、何でも遠慮なくおっしゃってください」


 ずずいっと、勢いよく近づいてくるミレイ嬢。

 顎の下で両手を組んで迫ってくる部下の態度に、ルーシェリカさんは半歩後ずさりました。

 その気持ち、私もよく分かります。

 ちょっと近すぎますから。


「……ミレイ。貴女、噂を集めるのが得意だったわね?」

「はい。情報収集は淑女の嗜みですもの」

「ご主人様に対する民衆と貴族の支持状況、それに、各有力者から見た私達に対する情報が欲しいの。出来るかしら?」

「お任せください、お姉様。その程度のことならすぐに分かりますわ。今すぐにでも!!」


 目をキラキラさせて声高に言い切るミレイ嬢の手前の空間に、ふっと文字が浮かび上がりました。


  支持率をチェックする

  どう思われているかをチェックする

  今は止めておく


 せっかくなので、見てみましょうか。

 初期設定なので変動はないでしょうけど、どんな形で出てくるのか興味があります。

 まずは支持率を選んでみますか。


「支持率が知りたいんだけど……」

「分かりました。お姉様」


  民衆支持率 20(MAX200)

  貴族支持率 20(MAX200)


「……お姉様。これが、ナタリー王女殿下の現状でしてよ。特別任務を受けたお姉様が何もしなければ、支持率は日毎ひごと低下していってしまいます。お気をつけくださいまし」


 ミレイ嬢は目を伏せ、実に悲しそうな顔でコメントを付け加えてくれました。

 ミレイ嬢の様子と数値からして、ご主人様の勢力というか、認知度はあまり大きくないようですね。

 数値から私が想像するに、この国にはナタリーっていう名の王女様がいるよ、って程度っぽい。


 というか、支持率って最初ゼロじゃないんですね。

 全部がゼロで発生する『暗殺①』が20日目の夜だった点を考えると、支持率が上がるような行動をしない場合、1日で支持率は1落ちるようです。


 そういえば。

 今更思ったのですけど、エンディングまで何日間なんですかね?

 表記に『朝』と『夜』が出て来たことですし、1日で2ターンないし3ターンでしょうけど。


 この世界は夢のくせにシビアなので、両方効率よく上げていく必要がありそうです。

 片方の支持だけじゃ、また違うバッドエンドになりそうな気がヒシヒシと。

 だって『暗殺①』でしたから。きっと②があるはずですよ。


 さて。次は好感度と友好度を見ましょうか。


「どう思われているか、知りたいのだけど……」

「はい、お姉様」


  ナタリー  好感度0  友好度0

  ????     0     0

  エドガー     0     1

  シャール     0     1

  シュダァ     0     1

  セルマ      0     1

  セリガン     0     1

  ミハイル     0     1

  カミル      0     1

  ロゼ       0     1

  ジェラール    0     1

  ????     0     0

  ????     0     0

  ????     0     0


「お姉様。特にどうとも思われていないようですわ。あ、わたくしは勿論、イリスやルーファス侍従長はお姉様の味方でしてよ!!」


 分かった点が2つあります。


 まず1つ目。

 私はご主人様ナタリー王女を抜かし、順番に遭遇イベントをこなしてきました。普通に考えるなら、王城内での重要キャラには全員面識があるはずです。

 それなのに、名前が分からないキャラが居る。

 と、いうことは、ご主人様のところでも遭遇イベントが発生するということを意味します。隠しキャラが居ない限りは、ですけど。


 ジェラール以降の3人は、多分ですが、街に出れば会えそうですね。


 2つ目。

 そのキャラに会いに行けば、友好度が1上がること。

 ご主人様が両方0なのが良い証拠です。

 好感度は多分、そのキャラ関連のイベント発生させるか、賄賂か贈り物が必要っぽいですね。


 あと、ミレイ嬢の発言からして同僚3人組は数値に出ないだけで、両方とも高い状態のようです。

 討伐とかについてきてくれたらいいのですが。

 男性主人公にして暗殺者(多分)のルーファスは、確実に戦闘スキル持っていますからね。

 でも。

 現実的に考えてみると普通に仕事が忙しそうなので、休みの日とかがない限り、私への同行は無理でしょう。


 見るべきものは見ましたし、『今は止めておく』を選びます。


「じゃあ、そろそろ私、失礼するわね」

「お~。頑張れよ」

「メイド長。お気をつけて」

「お姉様。常に情報は集めておきますので、またこちらに顔を出してくださいませ!」


『ルート共通イベント『同僚3人と数値確認』を終了しました。

 ミレイに話しかけることで、その時点の支持率・好感度・友好度を確認することが可能です。なお、確認でターン数の変動はありません』


 職場ここは、遭遇イベント発生地ではなかったようですね。

 チュートリアルの説明みたいなものでしょうか?


 まあ、いいです。

 遭遇イベントがあると思わしき、ご主人様のところに行ってみましょう。

 ルーシェリカさんが自室に戻るのを待ってからドアに近づき、さっさと選択肢を出して、移動します。

 

 しばらく歩いて、目的地に着いたのでしょう。

 ルーシェリカさんの足が止まり、続いて重厚な印象のある両開き扉をノックしました。


「――誰じゃ?」

「ルーシェリカ・シリスです、ご主人様」

「良いところに来た!! ルーシェリカ! はよう、入れ!!」


 なんだか、ご主人様が焦っているというか、切羽詰まったような声を出してます。

 私と同じような印象を持ったのでしょう。

 ご主人様の危機だと思ったのかもしれません。

 ルーシェリカさんは、バッ! と素早く扉を開け広げました。


 一歩室内に足を踏み入れた途端、ルーシェリカさんは足を止め、ナイフを取り出しかけるという臨闘体制に入っていた体から、ふっと力を抜きます。

 室内の光景に気が抜けたのでしょう。


「あらあら。ナタリーのメイド長さん。いらっしゃい」


 室内の光景――

 そこには、ご主人様を膝の上に乗せてその細腕でしっかり抱き抱え、長椅子に座った銀髪のうら若く美しい貴婦人の姿がありました。

 にっこりと蒼い眼を細めて微笑んでいるその貴婦人と、あからさまに嫌そうな表情を浮かべ、自力でも離れようとしているのか、バタバタと暴れているご主人様の対比は落差が激しいです。


「ルーシェリカ!! はよう、わらわを助けよ!!」

「はい。ご主人様」


 脱力ついでに固まっていたルーシェリカさんは、足音も無く2人に近づきました。

 長椅子の少し手前まで来ると、いったん足を止め、敬礼します。


「お久しゅうございます、レディ・マクスリール。早速ですが、ご主人様がお望みになられていらっしゃいます。どうか、お離しになられてくださいませ」

「そうねぇ。ナタリーとも久々に会うから、もっと感激の再会を分かち合いたいところだけど――」


 どうやら、レディ・マクスリールというらしい貴婦人にとって、これは感激の再会によるスキンシップのようです。


「わらわにとっては感激の再会などではない!! 離すのじゃ!!」


 この通り、ご主人様はめっちゃ嫌そうですよ。思い切り顔を歪めても、美少女レベルは全然落ちていませんけど。

 プロローグでは綺麗にセットされていた髪が、乱れてぼさぼさです。

 本気で暴れているようですね。

 そんなご主人様を、笑顔で押さえつけているレディ・マクスリールは、タダものではないでしょう。彼女の纏っている、その瞳の色に合わせたと思わしき上品な深い青のドレスには、乱れひとつ見てとれませんし。


「……仕方ないわねぇ。ナタリーも嫌がっているし。第1王子エドガー第2王子ミハイルで、ナタリーの分も感激の再会をすることにしましょう」

 

 そう言って、名残惜しいのか本当に残念そうな顔で、レディ・マクスリールはご主人様を抱え込んだ腕を解きました。

 気が変わらないうちに――と、言わんばかりにご主人様は膝からさっさと飛び降り、私の後ろに移動しました。

 何だか、盾にされているような気がしてなりません。


 それにしても、爆弾発言ですね。

 図鑑で確認していないので年齢不詳ですけど、おそらく10代半ばのミハイル王子(女顔の美少年)はともかく、同年代のエドガー様(悪役顔)にレディ・マクスリールが抱きついている図なんて想像出来ません。

 抱きつく以前に、あっさり振り払われてそうな気がするのですが。


「……姉上。ミハはまだ時間的な余裕があるからよいと思うが、兄上は忙しい身の上。怒られても、わらわは知らぬ」

「あらあら。大丈夫よ。あの子の暇な時間調べていくから」


 随分気安い様子だったので王家筋の人間だとは思っていましたが、どうやらレディ・マクスリールは第1王女のようです。

 ルーシェリカさんが『王女殿下』と呼ばなかったので、すでに降嫁なさっているもよう。


 そういえば、ここの国の王家の人間って何人いるんでしょうね?

 王妃が複数居るようなので、現国王の近親だけでも結構な人数が居そうです。 

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