第18話 彼女は驚く②
今回短め。
ジェラールの持っている『幸運S』の恩恵は、戦闘以外でも発揮されるらしいのです。
近くで採取しているだけで、いろんな素材アイテムがじゃんじゃん見つかりました。
恩恵内にエンカウント率低下もあるようで、丘陵に着いてから一度もモンスターに遭いません。
スキルの恩恵をモロに受けている本人は、既に必要分の素材を確保出来ているのでしょう。
昼食を取った後は、ルーシェリカさんの解説兼教師役を務めてくれています。
綺麗な形で取れるまで繰り返すので、採取は1種類につき最低5個がノルマ。
せっせと採りますよ!
まず初めに、雷マークそっくりな形の草――ハクライ草。
風属性の魔力が微弱にあって、魔法薬によく使われるとか。ふーん。
お次は、この丘陵の由来になった、薄ピンク色の果実をつけるアロエっぽい植物――ノウェルの葉肉と実。
ノウェルはいらない場所がない植物だそうです。李と一緒ですね。
その次は、黄緑色で地面に剥き出しだったのでツタだろうと思っていたら、実は根っこ――イズの根。
皮膚が爛れる酸性の樹液が内部にあって危ないから、絶対に千切っちゃ駄目?
そんな危険物、採りたくないんですけど。
そのまた次は葉も茎も同じ色なので、もしかしてこれは花じゃないのかもと疑ったら、案の定だった――ニセフラワキノコ。
食感がふわふわで味が甘く、ヒトの手では養殖不可能なので高値で売れるらしいです。マシュマロ風味?
離れたところで、川辺に生えていた紫色の小さなつぼみが可愛い――パープルアニス。
ほほう。繁殖力が強くて、根っこ以外の部分が違うことに使えるから、根元ザックリで採っていいのですか。
そして多彩な色彩だけど、形や質感が桜の花にしかみえない花畑――ピンクマリン、オレンジマリン、ホワイトマリン。
ええ? これって、ハーブの一種なんですか?
ジェラールの、深い薬草知識と練達と言っていいまでに高められた採取のコツをBGMに。
思わず突っ込みを入れる私とは違って、ルーシェリカさんが真面目かつ真剣に10種類目の素材アイテム『イエヴの花』を採っている時のこと。
ピローン! と、効果音が響き渡りました。
『ルーシェリカは一般スキル『採取D』、『植物知識D』を取得しました』
おお!
新しいスキルです。
ランクDは『訓練すれば誰でも身につく』なんで、すぐに取得出来たっぽい。
このスキルって、単独行動でも取得出来たと思います。採取を慣れるまですれば。
ジェラールが実際に目の前で採取して見せる役をやってくれているから、効率上がって早期取得出来た気がしますけど。
「……さて。そろそろ帰りますよ」
不意に、ジェラールがそう告げてきました。
採取に集中していたルーシェリカさんがハッとしたように顔を上げ、空を見上げます。
太陽の位置が西に移動していて、空の色が変わるまでは時間の問題という塩梅ですね。
「分かりました。ジェラール先生。少しだけ、お待ちを」
何故か、ジェラールは片眼鏡を掛けました。
ステータスサーチならびにエネミーサーチ付加のついているアイテムですが、今まで持っていても装着していなかったのです。
ルーシェリカさんも不審に思ったのでしょう。
背負い袋(大)のひもを固く結びながら、首を傾げます。
「ああ、これですか? 大半のモンスターは夜に近づくほど活性化しますからね。必要のない戦闘をなるべく回避するためですよ」
確かにその片眼鏡つけていると、視界に入れば遠くからでもモンスター発見・レベル確認出来て便利ですね。
王都からだいぶ離れているので、ルーシェリカさんではとても倒せないモンスターも居そうですし。
「なるほど……お待たせしました。帰りましょう」
そして、行きと同じようにスタタタタと高速移動で2人は進みました。
途中、カットバニィ3匹を発見し、ルバウルフ2匹に追いかけられましたが、ジェラールの敵ではありません。それぞれ、あっさりと撃退。
出番がなかったルーシェリカさんは、戦利品拾い係です。
完全に夜になる前に、王城に到着して。
行きに言っていたように、ジェラールがモンスターの戦利品をまるっと全部くれました。本当にいらないようで、選択肢もなしでしたよ。
重量オーバーになるんじゃないかと不安でしたが、なんとかOK。
ルーシェリカさんはお礼を言って、自室に帰宅。
本日のターンは全部経過していたようで、採取したアイテムを水張ったバケツに入れたり、乾燥させるために机の上に広げたり吊るしたりした後、夕食→お風呂に移行し、おやすみなさい。
一瞬のブラックアウトの後、翌日になりました。
朝になり、私の方に肉体の操作権が来たので、さっそく昨日手に入れた(正確にいえば譲られた)ドロップアイテムを『バニィの肉』以外コンテナの方に移します。
そして、採取したアイテムの処理を見つめました。
ルーシェリカさんはジェラールの教えに従い、花系統は水を張ったバケツ内、草・根・実・キノコ系統は乾燥させるために部屋干し(影干し?)しています
この中に、アイテム依頼で該当するものもあるかもしれません。
いちいち何度も往復するのは面倒なので、花系統は水気を拭き、重いものから背負い袋(大)へ詰めていきます。
さて、冒険者ギルドへ行こうと思い、私はドアの前に立ちました。
誰かに会いに行く
自室で過ごす
ロゼと一緒に街に向かう
1人で街に向かう
あ。
そうでした、そうでした。
今日は混沌の日ですね。ロゼと出かけられる日です。
昨日の移動中は覚えていたのに、何故かスコーンと頭から抜けていましたよ。
その後に十種類の詳細な植物知識を叩きこまれたせいでしょうか?
さっそく『ロゼと一緒に街に向かう』を選択します。
兵舎に向かってロゼを迎えに行くと、今日は彼女の方が先に支度が済んだらしく、玄関で待ち構えていました。
ロゼは顔を合わせるなり、パチン! と顔の前で両手を合わせて拝むようにして言ってきます。
「ごめん、ルー。この間の件で、衣装合わせするのに別邸へ行かなきゃならないんだ。採寸とかで、間違いなく午前中は潰れちゃう。それが終わった後でも構わないなら、今日一緒に出れるけど?」
ロゼとは午後から出かける
今回は諦める
う~ん……これは、ちょっと迷いますね。
ロゼは午後からといってますが、時間がズレて長引く可能性もありますし。
でも、そうなったらセルマを口説き落とせない限り、水の日まで討伐依頼が受けにくいんですよね。
今はレベル5なので、カットバニィとソードバニィなら1人で遭遇しても楽勝なのですが、未知なるモンスターと出会った時が心配。
午前中で衣装合わせが終わることを祈りましょう。
では『ロゼとは午後から出かける』をタッチ!
「午後からでも全然かまわないわ。何処で待ち合わせする?」
「そっか。じゃ、ウチの別邸の方に来てよ。あたしからルーのこと、言っとくから。場所分かる?」
親しいとはいえ、中流貴族(伯爵)の別邸に家に遊びに行く感覚で平民が訪ねて、問題になったりしないのでしょうか?
ロゼの言葉に、私はそんな感想を持ちました。
「大丈夫、場所なら分かるわ」
「そう、よかった。そうそう。堂々と表からきて」
そんな経緯で一時的にロゼと別れると、ルーシェリカさんは自室に戻りました。
今度は『街に行く』を選択し、神殿に向かいます。
1日振りに会うセシルさんに祝福してもらい、カーティス様に祈ってステータスUP作業。
次に冒険者ギルドに向かうと、アイテム依頼の掲示板に向かいました。
さてさて。
何か持っているモノは出ていますかね?
しばらく掲示板に目を走らせ――私は思わずグッと手を握りしめました。
「あったぁぁぁ!」
『イエヴの花、5本
依頼者……キサ・エア
報酬……5000ギラー
期限……フレメイアの月、闇の27日まで』
『パープルアニス、3本以上
依頼者……薬屋<春の海>
報酬……1500ギラー以上(1本500ギラー)
期限……フレメイアの月、混沌の15日まで』
しかもパープルアニスの方は、ジェラールの手が空くまでに適当に採っていたモノの中に入るのですよ。
全部で8本あります。
上手く採れなかった分も含めて引き取ってくれるかは分かりませんが、期待出来ますね。
その2枚の依頼書をべりっと剥がすと、私は次に討伐依頼の掲示板の方へ向かいました。
ランクDの依頼がないか、チェックします。
……どうも時期が悪いのか、カットバニィの討伐以外見当たりませんね。
一度引き受けたことがある依頼って、受けられるんでしょうか?
アレンさんいわく、マンドラゴラの依頼が達成出来るならランクCの方も充分出来る――とのことでした。
ロゼと一緒に行動するなら大丈夫でしょうし、ランクCを見てみますか。
「……これなら何とかなる、かなぁ?」
幾つか見比べて、私はそのうち1枚を手に取りました。
私が受けたものは寄付に回るので関係ありませんが、同じランクでも報酬金額の差によって、おおよそ難易度が分かります。
Aの依頼の方が倒す数が多いのにも拘らず、Bの依頼に比べて報酬が安ければ、それはAのモンスターの方がBのモスターよりもレベルが低いということでしょう。報酬には危険手当分も入っているのですし。
『討伐依頼ランクC
討伐希望数10体
それ以上は3体ごとに追加報酬あり
カットバニィの異常繁殖の影響により、ルバウルフが獲物を追って王都近郊へ移動してきた形跡があるという情報が入りました。
旅人が襲われたという情報はまだありませんが、民間に被害者が出ないうちに狩ってしまいたいと考えています』
ルバウルフ……昨日、ジェラールがあっさり2匹倒しましたね。
どれくらいの強さか分からないのが不安ですが、チャンスですよ。証拠品の『ルバウルフの毛皮』ももらってありますし、あと8体倒せば完了ですから。
有効期限も2週間ほど先ですし。
私は1人頷くと、受付に向かいました。
今回、銀縁眼鏡が光るサラ嬢が相手です。
アレンさんは居ますが、何か他の冒険者に捕まっている様子。
現役冒険者時代のことでも聞かれているんでしょうかね?
「複数の依頼をお受けになられるのですね?
討伐クエストの方は問題無いので、このまま受理いたします。
ただし。アイテム依頼の場合、破棄されることは当ギルドの信用に直結しますので、厳しい処置を取らせていただいています。同年内で到達不可ならびに破棄が3件以上確認された場合、当ギルドの出入り禁止となります。依頼の期限にはくれぐれも気をつけください」
まず、そうやって脅されました。
確かに。健全な経営のためにはお客を呼べる信用が何よりも大切ですよね。
「今すぐ依頼を達成出来るのでしたら、品物を確認させていただきますが。今回は依頼受諾のみで?」
アイテム依頼の達成報告する
アイテム依頼を受諾する
やっぱりやめる
浮かび上がる選択肢。
もちろん、『アイテム依頼の達成報告をする』ですよ!
私が選択すると、ルーシェリカさんは背負い袋(大)をその場に降ろして、イエヴの花を5本、パープルアニスを8本受付カウンターに置きました。
サラさんは虫眼鏡を取り出して、提出された2種類のアイテムを鑑定。
「……確かに、依頼の品ですね。パープルアニスが2本ほど形がいびつですが、この程度でしたら問題ないでしょう。依頼票通りの金額で買い取らせていただきます」
サラ嬢はポンポン! と、依頼票に『達成』と刻まれた判を打つと、新たにカウンター内から取り出した用紙に金額を記入した。
「――お手数ですが、この用紙を1番奥の支払いカウンターに提出してください。そこで賞金が出ます」
「分かりました」
入口に支払いの場所が近いと、強盗が現れたとしたら危ないですからね。
多少の時間が稼げれば、ギルド内の人間が異変に気付いて対応することも出来るようになるでしょうし。
「こちらが今回支払われる金額になります。ご確認ください」
用紙を出して、しばらくすると受付の青年が籐で編んだ底の浅い籠を差し出してきました。
その上に乗っているのは、ギラー紙幣。
えっと……ギラー紙幣が9枚。
9000ギラーちょうどですね。
「現在、ソードバニィ出没の情報を得ています。王都周辺からの殲滅を目標としていますので、倒した際は御一報ください。証拠品として『ソードバニィの角』の提出された方に、ささやかですが謝礼金を用意させていただいています」
謝礼金!
幾らか分からないですが、通常価値より高く買い取ってくれるでしょうから期待出来ます。
今、持っていませんけど。
明日の神殿行きのついでにでも寄りましょうか。
さて、次は<青い鳥>に行きましょう。
少し鮮度の落ちた『バニィの肉』を売っ払いに。
ついでに、昨日採ったモノで高く買い取ってくれそうなものがあったとしたら、売りましょう。
賄賂金額までは、まだまだ長く険しい道のりなのです。
今回目標としているところまで書けませんでした……