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金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は手探りで進む
17/47

第17話 彼女は驚く①

 さて。

 7日目の朝になりました。

 今日はジェラールと採取予定日です。

 早速、用意しておいた手袋2つを所持品用の鞄の中にしまいました。


  誰かに会いに行く

  自室で過ごす

  ジェラールと出かける

  街に出る


 ドアに近づくと、浮かび上がってきた文字に私は眉をしかめました。


 ……コレ、『ジェラールと出かける』を選ぶと、王都を出る前の寄り道が出来そうにない気が。

 ロゼの時は『ロゼと街に出る』という表記だったのに、そうじゃありませんから。


 おそらく遠出する関係上、出立する時間がかなり早いのでしょう。

 その関連で、寄り道――神殿での『祝福』『祈り』コンボも、冒険者ギルドに寄ってアイテム依頼確認も無理っぽいです。

 かといって、『街に出る』を選択すると、ターン変動はなくても実際には移動で多少の時間が流れていますから、ジェラールにさっさと置いていかれることになりそうな気がヒシヒシと。


 神殿通いの関係上、何気にセシルさんと毎日顔を合わせていましたが、その記録更新もここまでのようですね。

 私はステータス強化より、今後の資金源となるアイテム採取を優先させます。 


 『ジェラールと出かける』を選択すると、ルーシェリカさんは外出着に着替えました。

 そして、先程まで手袋のあった場所に目を向け、無いことに首を傾げながら鞄を開け、革製の黒い手袋を装着します。


 あらら? 

 私がわざわざ用意しなくても、この分なら自分で探して身につけてくれてたみたいですね。

 よく考えてみたら、私と一緒にルーシェリカさん自身もジェラールの話は聞いていたのですから、当然だったかもしれません。


 身支度を整えると、早足で朝食利用者で賑わう食堂に寄って昼食用のサンドイッチを入手し、ルーシェリカさんは薬剤院方向に移動。

 玄関前に到着した時、ひょっこりとジェラールが工房アトリエの方向から姿を現しました。

 ……このタイミングで此処にいるってことは、『街に出る』を先に選んでいた場合、やっぱり置いていかれたんでしょうね。


「ああ。来ましたか。おはようございます、ルーシェリカ」

「おはようございます、ジェラール先生。今日はご教授よろしくお願いします」


 ルーシェリカさんは礼儀正しく一礼。

 確かに、教えを乞う立場ですからね。


 本日のジェラールは、ここ数日見て来た中で1番――と、いうより遥かに洗練された貴族っぽい格好でした。

 一瞬、強烈な違和感を覚えましたよ。

 だって、あのジェラールがダサくないんですよ?


 ええ。

 私、正直あの格好はダサいと思っていました。

 それが今は――むしろ、カッコイイ。

 ビジュアル面では、残念美形じゃなくなってました。


 左手に持っているのは薄く青みを帯びた銀色の金属製の棍――これは、まぁ、色が綺麗だけど武器だし、剣持ってくるより違和感がないからいいとして。

 丈の長い深緑色の上着はシンプルですが、上質で品の良いものですし、背負っているリュックも良質ななめし革で作られたもので上品さUPに貢献しています。

 上着の上から腰に巻かれた剣帯から下がる短剣も、べルト部分の細工が精緻なせいか、むしろソレ自体が飾りのように馴染んでいますね。

 中に着ているシャツは皺もなく、スラックスも普段着ているものと違い、体の線にあっていてシュッとして見えますよ。

 手袋も素材は分からないですが、見た目高級品ぽいですし。


 ……多分、ジェラールが体に合っている良質のしっかりとした服を着ている理由は、いつもの格好だと袖や裾が引っかかったりして、採取のための探索をするのに邪魔になるからでしょう。

 履いてるブーツなんかは頑丈そうですからね。

 それでも高級そうな服をちゃんと着こなしている辺り、そういえば貴族だったと実感。


「出かける前に、これを身につけてください」


 ジェラールは上着のポケットから取り出したモノを、ルーシェリカさんに渡してきました。

 艶消しの銀色の細い鎖状の環が2つ。

 何故にブレスレットのセットを? 


「歩行速度を上げる術を付与したアンクレットです。採取場所にはモンスターも出没しますから、馬で出るわけにはいきません」

「……わざわざ、こんな貴重なモノを用意してくださったのですか?」

「いえ。何年か前に錬金術修行で作成して、他の練習作品と一緒に倉庫の1つに放置していたモノです。再利用品ですよ。正直に言えば、同じような練習品が何点もあっていらないので、貸すのではなく差し上げます。

 靴形状でも作りましたが、ボクのサイズですから貴女には大き過ぎて歩きにくいでしょう?」


 ジェラール……その素敵な宝の山、譲ってくれないですかね。

 全部売り払えば、賄賂金額簡単に到達そうですよ。

 これもあっさり譲ってくれましたし、頼めばくれそうな感じが何ともモヤモヤします。


「ありがとうございます。少し、待っていただけますか?」

「ええ。両足につけてください。そうじゃないと効果出ませんからね」


 ルーシェリカさんは薬剤院玄関の傍の植え込みの上に腰掛けると、ブーツを脱いで両足首にアンクレットをつけました。

 必要だとはいえ、異性の前で素足を晒していることが恥ずかしかったのか、ルーシェリカさんは素早くブーツを履き直します。

 

 ピローン! 

 ブーツを履き終わった瞬間、音と共に、お馴染みの天の声ナレーションが。


『銀のアンクレット+2を手に入れました。

 ジェラールが一時的にパーティメンバーに入ります』

 

 待って待って!

 +2ってことは、付与が2つですよね。

 他にもう1つ、何かの効果があるんですよね。

 今すぐ内容を確認させてください!


 私の魂の叫びもむなしく。

 選択肢の時とは違い、天の声ナレーションには時間停止が付属していないので、ルーシェリカさんの体を動かせるはずもなく。

 数秒で文字は消え去りました。

 くっ。


 装備確認したい気持ちでいっぱいの私をよそに、ルーシェリカさんとジェラールは和やかな雰囲気で歩き出しました。


 2人とも普通に歩いているのですが、競歩くらいのスピードが出ていますね。

 これが付与効果!

 すぐに王都入口に着きましたよ。

 いつも歩いて数十分かかるところを、十分前後で到着です。


「――さて。何か欲しい植物はありますか? 時期や採取場所によって全然取れるモノも違うので、希望があるなら言ってもらいたいんですが」

「いえ。今のところ、特にこれといったものは。今日はジェラール先生の行きたい場所に向かってください」


 あ。なるほど。

 アイテム依頼受けてないから、ジェラールの希望先になってしまうんですね。

 私が変な気を回し過ぎたせいなので、仕方ありません。


「分かりました。では、ノウェル丘陵きょうりょうに向かいますよ」


 ジェラールの目的地宣言と共に、彼のステータス情報が目の前に浮かび上がりました。


  ジェラール・ステア・ラル(27)

  レベル18

  称号 レイニドール王宮付き薬師

  HP 706/706

  MP 3907/3907

  状態・健康

  属性・大地

  所持金 ????ギラー


  戦闘スキル 棒術A(MAX)

        短剣C

        大地魔法B(MAX)

        錬金術A

        高速詠唱C

        範囲攻撃C

        隠密行動A(MAX)

        幸運S(MAX)

        緊急離脱D

  一般スキル 薬師S

        調合S

        採取S

        錬金術師A

        薬学知識S

        植物知識A

        錬金術知識A

        医学知識C

  スキルポイント 残り0P


  装備 ミスリル製の棍+3

    (攻撃力75%UP)

     ミスリルナイフ+3

    (魔法攻撃力75%UP)

     巨大女王蜘蛛の糸で織ったクローク+3

    (異常状態/暗黒・麻痺・石化無効)

     モノクル+2

    (ステータス・エネミーサーチ)

     火鼠の毛皮製の手袋+3

    (器用度50%UP・火属性攻撃効果軽減)

     鉄板入り軍用ブーツ+3

    (俊敏25%UP・歩行速度上昇・疲労軽減)

  所持品 魔法のリュック+3

     (内部超拡張・重量軽減・指定アイテム取り出し)

      

 こ……これは、なんたる……


 本職、薬師でしたよね?

 明らかに文官職なはずです。

 現に称号もスキルポイントじゃ取れない一般スキルも、そうなっていますし。

 それなのに――何だってこんなに強いんですか!?

 戦闘職であるロゼより3倍レベルがあるって…………薬師はそんなにデンジャラスな環境にある職務でしたっけ?

 MPなんて、4桁ある……


 ああ。もしかして。

 棒術スキルがMAXになっていますから、ジェラールはモンスター定期討伐の従軍経験があるのかもしれませんね。

 軍支給のブーツ履いてますし、医療知識もランクCまでありますから。


 それとも。

 毎週、近場で入手出来ない素材を求めて自ら足を運んでいるようですし、モンスターとやり合うことが多くて、いつの間にやら強くなっていたというオチでしょうかね?


 装備も付与ばっかりです。

 見たことのない素材ばっかり。

 今日の服装は貴族っぽくてカッコイイ――と、称賛した結果がこれですよ。

 錬金術師であっても裁縫や鍛冶などの一般スキルはないので、既製品を強化したのでしょうけど、付加強化しまくりじゃないですか!

 なんて羨ましい!

 

 というか、錬金術って戦闘中に使えるんですか?

 ちょっと気になったので、早速文字をつっついて説明を見ます。


『錬金術。

 体内の魔力を練り上げて放出し、物質に馴染ませてその様を変容させ、他の物質と合成させることで新たな性質の物質を作成したり、特殊な性質や能力を付与させる技術。

 ランクDで物質合成、ランクCで性質付加を一種類、ランクBで性質付加を2種類、ランクAで性質付加を3種類、ランクSで性質付加を4種類と『賢者の石』の作成が可能になる。

 戦闘では、練り上げた魔力を体外に放出することくらいしか出来ない。

 しかし、属性魔法とは違って詠唱が必要なく、放出量を調整出来るうえ、熟練者は半秒ほどで敵に魔力波攻撃することが可能。魔導師でも護身用に会得する者は多い』


 つまり――やろうと思えば、憧れのアニメ技が実際に出来ると言うことですね。

 しかも威力調整出来て、速射・連発可能な。


 どうやったら錬金術スキルは会得出来るのでしょう?

 ジェラールか、持っていそうなシュダァ様に弟子入りすればいいのですか?


 真剣に悩んでいる私を置いて、2人はどんどん目的地に向かって歩き出しました。

 スイスイ進みます。


 途中、巣が近いらしく、カットバニィの群れを見かけました。

 その中に、ソードバニィも1匹混じっています。

 無視して先に進もうとするジェラールに、ルーシェリカさんが異常繁殖の件を告げると、広範囲大地魔法<大地の錐>が炸裂。

 その一発で、カットバニィ12匹+ソードバニィ1匹は全滅しました。

 さすがレベル18。

 ルーシェリカさんが行ったのは戦利品集めだけです。


 ジェラールの持つ『幸運S』のせいでしょうか?

 一定の確率で入手の『バニィの毛皮』も、12匹分手に入りましたよ。『ソードバニィの尻尾』というNEWアイテムもです。

 ……そのスキルも欲しいですね。希少アイテム入手が楽そう。


「ボクはバニィ系統の戦利品、使わないんですよね……欲しいですか?」

「……せっかくですが。肝心の採取品が入らなくなりそうなので、今回は遠慮しておきます」

「運べるなら欲しいと。じゃあ、ボクが保管しておきます。王城に戻ったら渡しますよ」

「あ、ありがとうございます」


 そういえば、ロゼと違って戦利品の分配とか決めていませんでしたよね。


 やっぱり、ジェラールは金銭欲が低いようです。

 錬金術で付与した練習品を大量放置しているらしい点といい、いらないモノは売り払ってお金に代える――と、いう発想が出てきてない。

 ……何人かに声をかけておいた――と、ご主人様が初日に言っていたので、協力者だからという可能性も捨てきれませんが。


 戦闘終了後はステータス確認が出来るので、早速『銀のアンクレット+2』を見てみました。

 効果は『歩行速度上昇』と何故か『毒無効』です。

 練習品らしい、まるで関連性のない組み合わせですね。


 あっ!?

 ジェラールのブーツと違って『疲労軽減』がついてないから、ルーシェリカさんは後日筋肉痛になる可能性が出てきましたよ。

 通常一日では行き来が困難な距離を、高速長距離移動で踏破するのです。

 両足に相当な負荷が掛かることでしょう。


 明日は混沌の日ですよ。

 ロゼの休みで同行可能日なんで、筋肉痛になるなら是非とも明後日以降になってほしいですね。

 私には、ルーシェリカさんに加護を与えているカーティス神に祈ることしか出来ませんが。


 ジェラールが魔法のリュックに大量の戦利品をしまい込むと、2人は再び、スタタタタと高速移動で目的地に向かいます。


 それ以降は、モンスターに遭遇することもなく。

 王都出立から1時間もしないうちに、目的地であるノウェル丘陵に到着しました。


 ノウェル丘陵は、赤、白、黄、ピンク、オレンジ、紫など――色とりどりのたくさんの花が咲き乱れていて。

 まさに春爛漫といった風景でした。

 パッと見回しただけですが、王都周辺では見た覚えのない植物も数多くあります。


 華やいでいる絶景に感嘆の吐息を漏らすルーシェリカさんでしたが、ジェラールは見慣れていることもあってか、特に感慨が湧いた様子ではありません。


 ジェラールが小川の方へ向かうのを見て、風景に見惚れていたルーシェリカさんが慌てて、その後を追いかけます。


「少し休憩を取ったら、採取を始めますよ」

「はい! ジェラール先生」


 張り切った様子で、ルーシェリカさんは力強く頷きました。 

ジェラールのレベルがそこそこ高いのは、中の人の推察+αです。

αの理由は当分先で。

ジェラールはだいたい年に1か2レベル上がればいい方――と、いうスローペースでしか戦闘しません(必要ないと避けられない時しか戦わないから)。


ちなみに、ロゼは実父に引き取られた際、貴族教育のために1年半ほど実家に缶詰め状態にされていました。

就職して1年半しか経ってません。仕事を真面目にしていれば、3年後くらいに追い付きます。

数話前で言っていた『新人の頃』と、いうのはロゼの方のこと。

ルーシェリカは就職して2年過ぎて(現在は4年目)仕事にも慣れて余裕があったので、ロゼが就職して数カ月くらいはちょくちょく様子を見に行ってました。

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