表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は手探りで進む
13/47

第13話 彼女はすでに巻き込まれている②

「ふむ。来たか、ルーシェリカ」


 どうやら、ちょうどお茶の時間だったようで。

 ご主人様は猫足の椅子に腰かけ、傍らにティーポットを用意したメイドを控えさせ、白磁のティーカップを手に持った状態でこちらに目を向けてきました。


 精緻なレース編みの白いテーブルクロスの上には、数種類の焼き菓子を乗せたプレート――と、ソーサーの上に乗ったご主人様の手にあるものと同じ白磁のティーカップ(紅茶入り)。

 その正面には、ベリーのタルトをナイフとフォークで上品に食べているキラキラした少年の姿がありました。

 

 太陽の光に透けてキラキラ輝く豪奢な黄金色の髪、大粒のエメラルドを思わすアーモンド型の大きな目、髪色と同じ弓型の細い眉、バサバサと音が鳴りそうな長い睫毛、陶器のような肌理の細かい眩しいほど白い肌、薄桃色の小さな口。

 ほっそりとした体躯に白と緑を基調とした、ひらひらとした貴公子然とした衣装を纏っていますが、その顔のパーツは全て女性的で――彼の名を知らない者にとっては、男装した美少女にしか見えないことでしょう。

 初めて見た時、私は実際そう思いました。


 先触れを頼んだメイドは何も言いませんでしたから、事前に決まっていたお客様ではありません。

 この女顔の美少年は、予定外の突発的なお客様ですね。


「本日はお初にお目にかかります、ご主人様――ミハイル殿下もおいででしたか、御会談中、お邪魔したようで申し訳ございません」

「ルーシェリカ、頭を上げや。ミハはかまわんでよい。こやつの訪問は予定外じゃからの」


 丁寧な動作で頭を下げたルーシェリカさんに、御主人様はそっけない、何処か突き放したような口調でおっしゃいました。

 一瞬、ルーシェリカさんに対してかと思いましたが、ゆっくり顔を上げてみると、ご主人様はミハイル王子を冷めた眼差しで見ています。

 そっけなくしているのは弟に対してだったもよう。


「うん。姉上のいうように、ボクのことは置き物だと思って気にしなくていいから。お茶しに来ただけだし。用があってきたんでしょ?」


 そっけなくされた張本人は、あっけらかんとした様子で同意。

 ご主人様の態度には慣れているようです。


「――は。承知いたしました」


 ルーシェリカさんはそう呟くと、ミハイル王子から視線を外しました。視界からも外れています。

 ……王制では王族の命令は絶対とはいえ、置き物扱いしてホントにいいんでしょうかね?


「ご主人様。少々お時間を割いていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「よい、申せ……何があった?」


 ルーシェリカさんは右手を少し動かしました。

 決められている合図だったようです。

 室内に居たメイド集団はご主人様達に一礼して、静かに部屋から退出していきます。

 そして室内に居るのは、3人だけになりました。 


「――本日、冒険者ギルドの長であるアレン・セリム殿と面会した際のことですが……」


 ルーシェリカさんはアレンさんに聞かされた話を、経過が分かりやすいようにでしょう、順を追って説明していきました。

 ソードバニィとカットバニィの混ぜるな危険! 生態に対してまで話を進めると、ご主人様の顔が曇ります。

 展開が予想出来たからでしょうね。


 ミハイル王子が、どんな反応しているかは分かりません。

 ルーシェリカさん、ご主人様しか見てないので。

 でも、話し始めの頃に聞こえていた、かちゃかちゃと食器を動かす音が消えたので、真面目に聞いているっぽいです。

 内容が内容ですからね、


「――申し上げたいことは、以上です。ご主人様」

「……よく知らせてくれた。わらわが手筈を整えておく」


 ご主人様は硬い顔で、それでも労いの言葉を口に出しました。

 話に深く聞き入っていたのでしょう。ずっと手に持ったままだったティーカップのことを、ふと思い出したように見て、一口分啜られます。


「――ところで、ルーシェリカ。定期討伐の際の役目で、アレン・セリムは兄上と懇意にしていたと思っていたのじゃが……今回おぬしに頼んできおったということは、わらわの勘違いであったということかの?」

「いいえ。ご主人様の認識は、間違っておられません」


 どうやらご主人様は、アレンさんはエドガー様側の人間と判断していたようですね。

 毎年60日間もすぐ近くで過ごし、直に接するのです。時には、同じ戦場で協力し合ってモンスターと戦う仲間にもなります。

 よっぽどソリが合わない相手じゃない限り親しくもなるでしょうから、妥当な判断と言えるでしょう。


 アレンさんはエドガー様に対して『知人』という表現をしましたが、ルーシェリカさんは王宮務めの使用人の中でも高位にいます。

 用心して控えめな言い方をした可能性ありです。


「ならば、何故じゃ?」

「エドガー殿下ご自身と親しくとも、エドガー殿下まで繋ぎを取れる伝手はお持ちでは無いそうで」

「ほう……」


 また一口、ご主人様は紅茶を優雅な仕草で啜ります。

 それを見ていたルーシェリカさんはティーポットを手に取りました。

 ご主人様の強張っていた可憐な顔が緩み、ふわりとした笑みの形に口元が動きます。


「良い心がけではないか。派閥争いに首を突っ込む気がなかったということじゃな。ま、些事に巻き込まれることを疎んだせいで、今回のような大事になるやもしれぬ事態に備えず、余計な時間を取ったかもしれぬ点は評価出来ぬがの」

「おっしゃる通りです」


 ご主人様に空のカップを差し出された瞬間、ルーシェリカさんが中身を注ぎます。


「今後、同じようなことが起こらぬとは限らぬ。わらわと繋がる気はあったか?」

「いいえ。中立を動く気はないとのことですので、私の判断でエドガー殿下に繋がる伝手を紹介するとお約束いたしました」

「――何で!?」


 疑問の声を上げたのは、ご主人様ではありませんでした。

 ずっと黙っていたミハイル王子です。

 ルーシェリカさんはご主人様が頷くのを見て、ミハイル王子の方へ体の正面を向けました。

 説明してやれってことでしょう。


「セリム殿は元々中立を保ったまま、エドガー殿下と親しくしておいでです。つまり、それでも許されていたのです。私が申し出なくとも、自ら近いうちに伝手を作られたでしょう。弱みに付け込んで強要しても、ただ反発を招くだけと判断いたしました」


 冒険者ギルドの長に悪感情を持たれるというのは良い手ではありません。

 王宮に上がらない、あるいは上がることの出来ない立場でいる、優秀な人材を握っていますから。冒険者でないと対応出来ない問題というのもあるでしょうし。

 実際、アレンさん、感謝するけど中立から動く気ないって言いましたしね。


 説明に、ひとまず納得したでしょうか。

 ミハイル王子からの質問や反論はありません。


「要は紹介を引き受けることで、恩を売ったか。高く買ってもらえると良いな」

「はい」


 こういう言い方を聞くと、結構打算的な判断していたんだと思えますね。実際のルーシェリカさんの考えはどうあれ。


 アレンさんは、すでにルーシェリカさんへの呼びかけを変えました。

 親しみと引き換えています。

 恩を買ってくれそうなのは残り2名。エドガー様とシャールさんですね。

 支払いが反発や疑念でなければいいですが。


「ならば、早い方がよかろう。早速、今日の内に行ってまいれ。食休みの時間辺りなら、兄上も時間をさいてくださるだろうて」

「はい。そういたします」

「結果は知らせよ。良いな?」

「御意」


 用があるのはシャールさんですが、筆頭の部下という立場的に、エドガー様の近くに控えている可能性が高いです。

 遭遇イベントでも傍に居ましたし、そもそも侍従ってそういう役割ですから。


 この話題はこれで終わりと言わんばかりに、チリンチリーンと、ご主人様が小さなベルを2回鳴らします。

 呼び出しの合図に、部屋の外に控えていたメイド達が室内に戻り、所定の配置にそれぞれつきました。


「……ねえ。メイド長さん、アレン・セリムって、どういう奴だった?」


 入ってきたメイドの1人と交代しかけていたルーシェリカさんに、ミハイル王子がそう問いかけてきました。

 先程の話題から、少し気にかかったのでしょう。


「ボクも来年になったら16歳だし、参加しなくちゃいけないんだ。ボク、兄上みたいに武闘派じゃないし、父上や叔父上みたいに加護持ちでもないから、お荷物だって思われないかな?」


 情報げっと。

 ミハイル王子の口振りだと、どうやら定期モンスター討伐with騎士団への参加は、レイニドール王家の男性の義務のようですね。

 

 外見は、明らかに肉体労働に向いていなさそうなミハイル王子です。

 避けきれぬ事態なのですし、出来るだけ自分の身辺が不快にならないように整えるためにも、同行すると決まっている外部からの人物像を事前に知りたいと考えても不思議はありません。


「ミハイル殿下。セリム殿に接触したのは片手の指で足りるほどだけです。そして、私のまったく個人的な判断です。それでもよろしいでしょうか?」

「構わないよ。メイド長さんは姉上に信頼されているからね」


 なるほど。

 要は、ルーシェリカさん自身を信用しているわけではないということですね。

 姉であるご主人様が重用しているから、適切に人格を見極める程度の判断能力はあって当然だろうという意味ですし。

 遭遇イベントで私が感じた、前から知り合い(ただし、個人的な関わり合い薄め)という印象は間違っていなかったもよう。


 ルーシェリカさんは、面倒見の良い方です――と言葉少なに答えました。


 ええ。それくらいしか言えないですね。

 個人的なことで、じっくり話したこともないですから。

 ギルド長という立場的に、かなり面倒見のいい人間じゃないとやっていけないでしょう。

 冒険者達という、個性豊かであろう人材を統括してますしね。


 お茶会の終了と共に、ルーシェリカさんはご主人様の傍を離れ、食堂へ。

 少し早いですが、お昼を取ることにしたようです。

 これは強制的にターン経過したということでしょう。


 今日の昼食は野菜の煮込みと、何かの肉を焼いたもの、そして焼き立てのパン。品数自体は少ないですが、具だくさんですよ。


 ルーシェリカさんはメイドという職種のせいか、とっても早食いなのです。食べ終わったら、すぐに行動します。

 しかし、今回は時間調整の必要があってでしょうか。いつもの倍以上時間をかけた、ゆったりモードの食事です。


「そこの貴女。頼みたいことがあるのだけど、いい?」


 いつもは取らない食休み中、ルーシェリカさんは部下らしいメイドに先触れを頼みました。

 暇している時間だと分かっているとはいえ、予告なしに行ったら迷惑です。


 しばらくすると、ルーシェリカさんが歩き始めました。


 辿り着いた場所は、見覚えのない――執務室のような場所です。ルーシェリカさんから見て左の壁にドアほどの空間が空いていて、隣の部屋と繋がっているようです。

 廊下を歩いている間、何人かとすれ違いましたが、話は通っているのか、呼び止められることなく来れました。

 何やら作業中の赤い髪の糸目――シャールさんが、ノックをして入室したルーシェリカさんを認めると書類棚の戸を閉めました。


「こちらに用があるとのことですが、どのような用件で? 今月中の行事に関する打ち合わせは、すでに始まっていますが、何か障害になることでも?」

「そちらの件ではありません」


 至って事務的な様子で、ルーシェリカさんとシャールさんの会話は進みました。

 ルーシェリカさんはご主人様にした説明を交え、経緯の発端から説明しています。


 あ、シャールさんも渋い表情になりましたね。

 職務の一環だと判断したらしく、何故冒険者ギルドに居たのかは説明しませんでしたけど、突っ込まれませんでした。

 やっぱり、一連の出来事は相当マズイ状況になりかねない事態で間違いない様子。

 ルーシェリカさんがわざわざ経緯から説明したのは、他の陣営にも事前に知ってもらうことで、より通しやすくするためでしょう。


「セリム殿は風の日以外の午前中であれば、冒険者ギルド内に必ずいらっしゃるとのことです。早めに繋ぎを取った方がよろしいかと」

「――そうですか……今回の件は、すでに?」

「ええ。先にナタリー殿下に御報告いたしました。すでに動いておいでです」


 ルーシェリカさんはご主人様だけではなく、ミハイル王子も知っていることは言いませんでした。

 多分、第2王子は今のところ政務に関わりが薄いのと、ご主人様が弟に対して口止めしていたのを見ていたからでしょう。


「分かりました。御一報くださって、ありがとうございます」


 やっと終わった――そう思って、私が気を抜いたのが悪かったのでしょうか?


「……で、どうなさいますか? エドガー様」

「――無論、こちらも動くぞ」


 威圧感のある美声に。

 ハっと息を呑み、ルーシェリカさんが咄嗟に左に目を向け、慌てた様子で頭を下げました。

 一瞬でしたが、見えましたよ。エドガー様の姿が。

 ……話が分かっている様子からして、繋がっている隣室でこっそり会話を聞いていたんでしょうね。


「おい、ルーシェリカ・シリス。頭を上げろ」


 うわ、1回しか遭遇していないのに、フルネームで覚えられてましたよ。


 ルーシェリカさんは命令に従い、顔を上げました。

 うん。

 お会いするのは2度目ですが、怒っているわけでも、不機嫌そうというわけでもないのに威圧感満点で怖いですよ。エドガー様。

 弟妹と一緒に居ると、傍目にはマフィアのボスと誘拐された美少女姉妹(誤字にあらず)にしか見えなさそうです。


「今回アレンはお前を、ナタリーを頼った。それは事実だからな。功はそちらに譲る」


 難癖付けてくるかと身構えましたが、違いました。


「邪魔をする気は毛頭ないが、軍部や幾つかの部署はこちらの方が早い。ナタリーから聞いた――と、いうことで通すから任せろと伝えておけ」

「――は。そのように御報告いたします」


 エドガー様は無駄に迫力あって怖いですけど、話が分かるおヒトのようです。

 上から目線というのは変わりませんけど、それは生まれ的な付属効果で当然な態度でしょう。

 ちょっと戸惑うくらい、あっさりとした様子でした。


 退室の挨拶をして、そそくさとルーシェリカさんはその場を脱出。

 結果報告に、ご主人様の下へ向かいました。


「――そうか。兄上も相変わらずじゃな」


 苦笑してご主人様がそう呟くと、ピローン! と効果音が響き渡りました。


『イベント<アレンのお願い>が終了しました!

 メインキャラから王国の政治に関わる問題の依頼を受けることがあります。

 上手くいくと、貴族支持率UP。

 賄賂とは違って、特にギラーの浪費はありません。

 貴族支持率が10上がった!』


 初の貴族支持率上昇です。

 でも。選択肢らしい選択肢が少なかったせいか、ふーんとしか。

 何か民衆支持率UPの時と違って、達成感が少ないですね。


 そういえば賄賂って、どうやれば出来るようになるんでしょう?

 用語図鑑に載ってますかね?

現在(2週目の5日)の支持率状態。

民衆37/200、

貴族26/200です。

まだまだ先は長い。


これであと未登場は4人……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ