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金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は手探りで進む
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第11話 彼女は共に戦う②

 かつてないほどピンチです。

 今、私は命の危険をヒシヒシと感じていますよ。


 ……どうしてこんな状態に陥ったか、順を追って説明しますと。

 

 私はロゼと共にレイニドール街道を歩きながら、周辺を捜索していました。

 マンドラコラの討伐のために。

 

 最初の遭遇以降、あれほどの集団で埋まっていることはありませんでした。


 移動中の個体と遭遇したり(四つ股大根が街道をトコトコ横切っている様子はとってもシュールでした)、ぐるぐるとコマのように高速回転しながら埋まる為の穴を掘っている個体を見つけたり(攻撃したら叫ばれて、その叫びで驚いて出て来た猪系モンスターのレッサーボア1匹と連続戦闘になりました)、擬態に気付かず、傍を横切ろうとしたカットバニィ2匹を今まさに吸血しようとしている現場に遭遇したりしました。

 あ、カットバニィ2匹は一緒に倒しましたよ。


 埋まっている10体目を見つけた時には、昼食の時間から、だいぶ経っていて。

 そろそろ王都方面に引き返そうか――と、話している頃合いでした。

 マンドラコラ1体だけとあって、油断があったのでしょう。

 周囲の状況をちゃんと見て確認していれば――そう私とルーシェリカさんとロゼが思ったのは、ほぼ同時だったと思います。


 MP消費削減のため、マンドラコラかどうかの確認のため、ルーシェリカさんにナイフを投げさせた直後。ソレ・・は起こりました。


 ナイフが刺さったマンドラコラが痛みに叫び声を上げたのです。

 そこまでは予想通りでした。

 直後、突進したロゼの一撃で倒されたマンドラコラの遺したアイテムを拾い集め、ナイフの回収を終えるまでは平穏でしたよ。


 予想外はそれからです。


 現場から数メートルほど離れた所に、大きな樹があったのですけど。

 私達から見えていない位置――マンドラコラの『叫び声』の効果範囲内に……なんと、巨大なハチの巣があったようなのです!!


 ぎゃあああああ!!


 そして、巣を守るべく続々と興奮したハチが出てきて――現在、命懸けの追いかけっこ中です。

 しかも追いかけてくる十数体のハチは、普通のハチではありません。

 その体長は、ルーシェリカさんの片腕の長さと同じくらい――50センチ以上あるでしょう。立派にモンスターです。

 追いつかれてあの集団に囲まれたら、何度か刺されるだけでも普通に死ねます!

 ハチの体液で拒絶反応起こす前に刺し殺される!


「ルー! 咄嗟に逃げちゃったけど、ビィ系モンスターは肉食だから、興奮状態が収まっても近場で誰か歩いている人が居たら二次被害が出ちゃう!」


 現場から数分間――1キロ以上逃走した頃になって、ロゼが走りながら叫ぶように言い出しました。

 さすが見習いとはいえ騎士というか、全く息が切れていません。

 ですが、言っていることはとても深刻です。

 肉食って……ヤバさ倍増ですね。


「――街道周辺に生息するモンスターはそんなに強くない! このまま逃げても、王都まであたしはともかく、ルーは持たないでしょ!? この辺りで迎え撃とう!!」

  

 確かに。

 私は心の中で同意しました。

 ルーシェリカさんはかなりスピードタイプです。戦闘スキルに『連続攻撃』とか『緊急離脱』とかありますし。


 私は一時期、体力作りにウォーキングしていたことがあるので経験上分かりますが、平均体格の成人女性が早足程度の速度で進んでいると10分で1キロ以上の距離を踏破出来ます。


 何度か小休憩しつつも、午前中のかなり早い時間に出発して歩き続けていたのです。

 王都から出たのが9時前としても、今は感覚的に14時前後辺り。

 なので、休憩や戦闘などで1時間ほど省いても、計算上、4時間ほど歩いています。

 2人は普通に歩いているので、早足と比べれば少し速度は落ちますから時速5キロと仮定しても、現時点で王都から20キロ前後離れているでしょう。

 ルーシェリカさんもロゼも私より健脚ですから、私の世界よりも舗装が甘い道であろうと、その速度は落ちることなくほぼ一定。

 間違いなく、20キロほど歩いていると断言出来ますね。

 

 追いかけてくる巨大バチ集団とはつかず離れず、数メートルの距離。

 ブンブンブンと何重もの羽音が聞こえてくる距離ですよ。

 ルーシェリカさんに命懸けの20キロ耐久マラソンを達成出来る体力があるかと言われたら、確かに不安が残ります。


 ルーシェリカさんの体力が尽きて、ろくに抵抗出来ない状態で追い付かれて囲まれたら、ジ・エンド。


 巨大ハチ集団に包囲され、全身を刺されに刺されて遺体は食べられるという、残酷描写グロ注意死亡エンドは創造神のお気に召すでしょうか?

 万が一、無慈悲にして無垢なる混沌が気に入ってループ脱出だったとしても、私はそんな無残な死に方をルーシェリカさんにさせたくはありません。


 それなら、ロゼの言うように余裕が残っている状態で立ち向かっていった方が、生存確率は上がるでしょう。

 仮に無事逃げ切れたとしても、巻き添えの被害者を出してしまったとしたら、後味が悪過ぎますよ。


 巨大バチ集団は固まって追いかけてきていますから、範囲対象の魔法に全部巻き込まれてくれそうです。

 そして、闇魔法は異常状態付与がメイン。

 あのドリルを思わす凶悪なお尻のぶっとい針も、状態異常に陥らせて、体に当たらなければ脅威ではありません。

 さほど強くないのなら、距離を保ちつつ魔法を何度か打ち込めば倒せるでしょう。倒し切るまでMPさえもってくれたらいいのですが。 


「……ロゼ。私が魔法をぶつけるだけの時間稼げる?」


 ロゼの攻撃力も防御力も、ルーシェリカさんの軽く倍以上あります。

 今まで、彼女に向かったモンスターほぼ一撃で天に召されましたし、マンドラコラの叫び声ではダメージゼロだった事実が証拠ですよ。

 囮役に向いてます。


 初撃をぶつけたら、おそらくマンドラコラの集団と戦った時のように、一瞬巨大バチ集団も痛みで動きを止めるでしょう。

 その一瞬でロゼが何体倒せるか、何体引きつけられるかによって、戦闘状況が変わりますね。


「ルー、あたしが守ってあげるって言ったでしょ! 任せて!」


 ロゼは一瞬たりとも迷う様子なく、囮役を了承しました。

 その笑顔が実に眩しく輝いています。

 

 現在走りながらでも普通に会話出来ているので、詠唱するのにも問題はないでしょう。多分、いけます。

 詠唱中に襲われた時、しっかり迎撃出来るように投げナイフを抜いて両手に持ち、まず唱えるのは闇魔法<奪光>!


「<――慈悲深き、カーティスに乞い願う――>」


 そのまま走るルーシェリカさん。

 戦鎚メイスと盾を手にしてその場に立ち止まり、背後を振り返るロゼ。


「<――我が敵の視界を塞ぐ霧を、此処に!――>」


 ルーシェリカさんは唱え終わる直前、背後を振り返りました。

 どうも、この世界では魔法を使う際の最低条件に、対象を目視する必要性があるようです。

 

 立ち止まったロゼに向かって、黒と黄色の巨大バチが殺到し――ロゼの間合いに入った瞬間。

 突然、数メートルに渡って発生した闇色の霧に、その集団の8割方が飲み込まれました。


 巻き込まれなかった残りの巨大バチ達が、いったん停止する仲間達を追い抜きます。

 闇色の霧を割いてロゼに襲いかかっていき、唸る戦鎚メイスの一閃が、それらを向かい撃つのが目に飛び込んで来ました。

 その一閃に巻き込まれた何体か、そのまま勢い良く地面に叩きつけられて、動かなくなり崩れていきました。 


 巨大バチ集団のうち、2体が離れているルーシェリカさんの存在に気付いたのか、ロゼに構わず真っ直ぐ飛んできます。


 ルーシェリカさんはジリジリ後退しながら、向かってくるその2体にナイフを素早く投げつけると、早口で再び<奪光>を唱え、巨大バチ集団に包囲されつつあるロゼを完全に巻き込む形で発動させました。


 ロゼが変わらない様子で平然と戦鎚メイスを振り回しているのが見て取れるので、この世界の魔法は味方を巻き添えにすることが無いようです。

 詠唱的にも神に乞うて扱う魔法ですし、『我が敵』と明確に指定していますから敵味方の識別は出来るようですね。


 闇魔法<奪光>の2発目発動で、後方に居た残り数体を残し、ボトボトと巨大バチが一斉に墜落していくのか目に入りました。

 魔法防御力がべらぼうに弱いのか、単純にHPがさほど多くないのでしょう。


 一方、ナイフを投げつけた2体は耐えきったのか、そのままルーシェリカさんに襲いかかってきます。

 近寄ってくる巨大バチの大きな目が、光ってて怖いです。マジで。

 投擲には近過ぎますし、ナイフで斬りつけるには遠い。

 これは鞭で叩き落とすしか。


「――をりゃぁ!」


 そう私が判断した瞬間、気合と共にロゼが投げつけた盾が巨大バチの片方にぶち当たり、見事撃墜。そのまま盾の下敷きに。

 もう1体も盾がかすったらしく、落ちませんでしたが動きが鈍りました。

 ロゼは残りの巨大ハチを戦鎚メイスで片付けつつも、こちらの状況が見えていたようです。凄ェ。有言実行。


 ルーシェリカさんはすかさず鞭を振るって、残りの1体を打ち落としました。そして、空いた左手でナイフを持ち、地面でピクピク痙攣している2体にトドメを刺すと、まだ戦闘中のロゼに目を向けます。

 ちょうどその時、最後の1体の頭部めがけてロゼの戦鎚メイスの一撃が叩きこまれ。

 巨大バチは地面に墜落し、そのまま動くことなく崩れていきました。


「ロゼ! 大丈夫!?」


 ルーシェリカさんは戦利品を拾うことなく、幼馴染に向かって駆け寄りました。

 さすがに、あれだけの敵に囲まれていたロゼは無傷ではありません。

 顔は庇ったのか綺麗なままでしたが、鎧にも傷がついていましたし、鎧で覆われていない部分に何箇所か血が滲んでいます。


「ん~……ちょっと、キツイかな。ルー、解毒薬持ってる?」

 

 ハチに刺される際に注入される体液に対する拒絶反応に、解毒薬の効果が出るかどうか分かりませんが、使わないよりはマシです。


 地面に落ちている巨大バチは瀕死のモノも多いのか、まだ結構な数、ピクピクしながら形を保っていますね。

 ルーシェリカさんは傷薬(小)と解毒薬を取り出してロゼに渡すと、次々に巨大バチ達に留めを刺していきました。

 巨大なハチの屍が消え、20センチ以上の大きさのドリルっぽい形の針と、羽、触角っぽい何かが地面の上に残ります。


「ロゼ、まだ薬欲しい?」

「痛みは治まったから、もういいよ。でも戦利品集め終わったら、さっさと帰ろ。一応、大丈夫かどうか医者に診てもらいたいから」

「分かったわ」


 頷いてルーシェリカさんはロゼと一緒に、せっせと戦利品を回収し始めました。


『ルーシェリカ達はキラービィ17匹との戦闘に勝利した。

 ルーシェリカは99の経験値を手に入れた。

 ルーシェリカはレベルが2上がった』


 ……とっても巨大バチ集団の経験値はおいしかったようです。

 一気にレベル5になりましたよ!!


  現在のスキルポイントは88Pです。

  使用しますか?

  はい

  いいえ


 ピローン!

 効果音と共に、目の前に光る文字が浮かび上がってきました。

 とりあえず、『はい』を選びます。

 

  ランクUP可能スキル

  格闘C

  闇魔法C

  連続攻撃C

  緊急離脱C

  投擲D


 ををを!!

 やっと闇魔法のスキルUP可能ですか。

 もちろん『闇魔法C』を選択です!


  残りスキルポイントは38Pです。

  使用しますか?

  はい

  いいえ   


 まだ何かのスキルを上げられるようですね。

 とりあえず、もう一度『はい』で。


  ランクUP可能スキル

  格闘C

  連続攻撃C

  緊急離脱C

  投擲D

  

 う~ん。

 悩みますね。

 闇魔法はさっき50Pも消費しましたから、当分溜めないと上がらないでしょう。


 攻撃回数を増やすか、ナイフ投げの攻撃力と命中率を上げるかですね。

 格闘は素手での戦闘関連でしょうが、今のところ必要ありませんし、モンスターから逃げるのは相当なレベル差があるか、厄介な能力が相手にある場合だけでしょう。


 ……よし、決めましたよ。

 今回は『連続攻撃C』を上げます。   


『ルーシェリカは<闇魔法B>と<連続攻撃B>を取得した。

 ルーシェリカのレベルUPによるMP上昇値を変更。

 ロゼは57の経験値を手に入れた。

 ロゼのレベルが1上がった。

 ロゼはスキルポイントを使用しなかった。

 キラービィの針を17個手に入れた。

 キラービィの羽を17枚手に入れた。

 キラービィの触角を5個手に入れた』


 PTメンバーとはいえ、自分以外のステータスはいじることが不可能なようです。

 あくまで、何のスキルを上げるかは本人が選択するようですね。


 さてさて。

 早速、現在のステータスをチェックです。

 マンドラコラ集団と戦った後で確認した時には、確かHP最大値が87でMP最大値が34でした。

 

 おお~!

 最大HPが122、最大MPが101になってますよ!?

 やっぱり同レベル時のロゼにはHP最大値が負けていますが、両方とも三桁!

 特にMPが凄く上がっています。

 天の声ナレーションが、闇魔法スキルを上げたから上昇値変更と言ってましたし、魔法関連のスキル上げたらMP量が増えるんでしょうか?


 テンションが上がる私をよそに、ルーシェリカさんとロゼは王都に向かってとっとと帰還すべく、街道を競歩レベルの早足で進んで行きました。

作者が勝手に決めていること……それは、2話連続でキャラのステータス表を出さないことです。

主な理由は字数削減。


今回の語りはレベルUPに必要な経験値。


最初(レベル2)は20で、次(レベル3)が30。

つまり1・5倍ずつ、レベル上げに必要な経験値が増えていきます。

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