格
「君たち。わたしたちの町で何をしてるんだい。」
底冷えのする静かな声。
「な、」
「?!」
頭の拳は、結界によって阻まれていた。寸前で止まった拳。
「ラブリークリムゾン…」
「はじめまして、ラブリーオクトパス」
紅い衣装を着た少女が車椅子に座って、こちらを見て、手を伸ばしていた。その手は印を結んでいた。
「なんで?」
「申し訳ありませんね、こちらは修行の途中でしてね。門下生にした以上、卒業まで育て上げる。逃がすつもりはないです。」
車輪の焦げついた匂いが立ち込める。どんな速度できたんだ。
「っ…想定外や。火事はどうしたんや」
「あのボヤ騒ぎはやはり、あなたでしたか。」
表情は変わっていなかったが、わずかに怒気が孕んでいる。
「全て処理しましたよ」
「あ、アホな」
「我々紅蓮を甘く見すぎです。いつも定刻にくるはずの遅い弟子。街の異変。被害のあった場所から反対側のラブリー反応。縄張りから消えたラブリーズ」
彼女は諌めるように俺に話しかけた。
「一つ、怒りのままこぶしをふるわない。怒りをのせて、剣を振るいなさい。一つ、修行で言われてたことを実践しなさい。」
「は、はい」
「すみませんね。中断してしまいまして。さぁ、はじめて」
有無を言わさぬ口調に2人は生唾を飲み込む。
「いや、こう、見られながら戦うのは、なぁ」
「あ、え、と、その」
「はじめて?」
「「はい」」
微妙な空気になってしまったが、まっすぐ相手を見る事ができた。怒りを剣に乗せる、か。手頃な枝を拾いあげる。
「なんやお前、枝なんか拾うて、剣士かいな」
「おれは、お嬢様の執事だ。」
「は。ラブリーズになる男なんて気持ち悪いだけやわ。さっさと倒して、家に帰らせてもらうわ」
タコ足を広げ臨戦態勢になる。普通の手足にエナジーにより形成された3本の腕。
「次は斬られへんで、三下ぁ!」
「あんたを越えて、お嬢様を守れる執事に!!」
力が湧き上がる。これがエナジー。ラブエナジーなのか?
「蛸脚強化!」「秋道流執事術亜流!」
「渦潮廻踊!!」「紅蓮一刀!!」
次々と迫り来る打撃。連打。連撃。かわそうとも、逃げようとも、受けきることは敵わない。ラブリーオクトパスの手数の多さを活かした技である。
「怒りをのせて、」
お嬢様を傷つけた怒り、己の不甲斐なさに対しての怒り、お嬢様の死をイメージした時の後悔に対しての怒り。
「おれは、おれは、お嬢様が好きだ!!」
執事だから、と、幼なじみだからと、押さえつけていた感情を爆発させる。
「どけよ。タコスケ。おれの恋路を邪魔すんな!!」
「知るかボケェ!!」
ありったけの力を枝にこめる。1本、2本と蛸脚が弾き飛ばされていく。だが、奴は焦りはしない。
「ぉおおお!!!!!」
「んな、エナジー込めて、加減せな、、、ほら!おしまい」
3本目を破壊した瞬間。枝がくだける。
「経験値も、格も違う。舐めんなや!」
「いまから、全部かっさらうんだよ!あほんだらあああ!!」
振り抜いたこぶし。に、再びエナジーをこめる。1発2発、3発。顔面を殴られる。だが、その瞳は閉じない。1度よろけるも、あくまで、止まらない。止まるつもりも、振り返るつもりもない。後悔も失敗も飲み込んで腕を振るう。
「秋道流武闘術、漢1本、桜道!!!」
エナジーを溜めに溜めた拳で、ガードした腕もろとも右拳で殴り潰す。
「だぁ、らあああ!!!!」
膨れ上がるエネルギーは桜色になり、散っていく。
いくつかの木をなぎ払い。ようやく頭〈ヘッド〉の身体は止まった。パリパリと残響が残り、そのあとには、たくさんの証が浮かび、衣装に吸い込まれていく。
「勝ったのか?」
「えぇ、お見事です。」




