《蛸》
誘き寄せた場所は秋道たちの通う学校の裏手にあるグラウンド。整備はされてないが、敷地だけは広く、人もあまり寄り付かない。子供たちの遊び場であり、早朝には人が来ることはないと見越してだ。
交渉役は、手。銃口は、イライラしている少年に向けられている。縄で縛り上げてここまで運んだ。頭の姿もよこにある。
今回命じられたのは、ラブリークールの証の回収と廃棄。なぜ、変身しない。ラブリークールといえば、知略家として、名高い。旧四天王の一人。もっとも100個に近づいた一人だろう。変身しなければ、証の奪い合いはできない。
「俺の要求はこいつの身柄と証の交換だ」
「なーんであんたがそんなもんいるのよ?」
大道寺はヘッドホンをかける。あれがやつの変身アイテムか?
「妙な動きをするな。こいつが」
「あたしの執事に」
片手でスマホを操作し、爆音を奏でる。
「触んなや」
「んな?!」
ヘッドホンをかけた手は髪留めを引き抜き、振り抜く。飛んできた髪留めは、棒立ちになっていた頭の顔面にせまる。走り出したターゲット。変身してない。
「頭!!」
「心配したふりなんかして、中身はないんだろ?」
ターゲットの少女は、笑う。
「呼吸はしてない。唇は動いてない。瞬きをしていない。ハリボテ」
「正解!気づいたところで射程圏内やけどな」
蛸の能力は、《オクトパス》。八本の自在に動かせる腕をつくりだし、自らの分身を出現させることができる。グランドが見える木の上で頭が引き金を引く。
ヘッドホンが破壊され、突進したターゲットが横に吹っ飛ぶ。
「桜子ぉおおおお!!!!」
動かないお嬢様をみて、人質の少年がさけぶ。拘束した手は緩めない。…証が出てこない。
「頭」
「わーってる。」
薬莢を弾き出し、第二射撃の用意をする。
「おおおおお!!!」
手の手を振り解き、桜子のもとに駆け寄る。
「さくらこ、さくらこぉ」
「へ、、、けんかしてた、、、わりには、、心配してくれんじゃん、、へへ」
弱々しい声に安堵したが、込み上げる怒りをおさえることが出来なかった。
「ぶち殺してやる。…ラブリーベイべー…」
手は、即座に、四角いリュックを自分の前に構える。
ミシッという重たい音と、何本かの骨が折れる音がした。
「かは」
殴り切る。
「手?!どないしたんや」
イヤホンからはものを殴る音が続く。応答がない。
「ハンド!ハンド!?なんだ、あの変態。それに、なんで男の方が変身してるんや」
「…撃ったやつは」
こちらを見定める。着弾の様子から推測し何かを探るように、山の中を見据える。
「ウソやろ」
「そっちか」
こちらに走り出すスカート姿の男子高校生。確実な射撃をするために近い距離にしてしまったのが仇となったか。木の上で戦慄する。
「クソが」
木に固定していた蛸足を解除する。
自由落下の中、スコープを覗きこむ。
いない。
「そこかぁ」
咆哮が聞こえる。
「っ!!」
飛んできた銀色の盆をかわす。蛸足でふせぐが、一本切られてしまう。
蛸足を伸ばして、木に貼り付けて、第二射をかわす。場所の特定されたスナイパーは脆い。
「よくも、お嬢様を、、、、」
「なめんなや。みんな自分の夢のために戦ってんや。生ぬるいこと、言ってんなや!!蛸足強化!!」
三本の蛸足が腕に絡みつく。
「遠距離だけで、シングルが務まると思うなや!!どらぁ」
「うぉぉらぁ」
二人の拳の衝突が激しい音をたてる。
「舐めんなや!蛸殴り」
強化した腕でそのまま殴りまくる。自分の腕にラブエナジーを流した蛸足を巻きつかせて、威力が上がっている。
「…っテーブルクロス」
広げたテーブルクロスが視界を奪う。払い除けた布の後ろには、少年の姿はなく。
振り向くと、顔面に迫る拳に驚く。
「んぐ!!」
顔面から鼻血が出るのを感じる。鉄の味が口の中で広がる。インカムに叫ぶ
「っ!手!その女やっちまい!!」
「っ!」
彼女は不敵に笑う。
「頭を怒りに支配されすぎや。手をボコボコにして、戦意を折ったつもりだろうが、あんまり、あたしらを舐めたらあかんで、腕一本切られようが、《蛸》には関係ないわ、ボケぇ!ターゲットは確実にしずめたる!!」
急いでグランドに戻ろうと踵を返す。
「アホが!」
後頭部を思いっきり殴られる。
「お前ら二人!脱落や!!!」
「蛸足強化7!!!」
腕に巻き付いた七本の蛸足。前のめりに倒れる秋道に目掛けて振り下ろされた。




