蛸2
一斉に襲いかかってくる生徒たち。もみくちゃにされながら叫ぶ。
「川奈さん!!何のつもりですか?!」
黒板消しに、シャーペン、サンダル、ありとあらゆるものに襲われる。消しゴムで肌をゾリッとされるわ。バットで殴りかかられるのを避けるついでに、モップを引っ張り、生徒をコケさせる。
「情報把握能力、運動神経、反射神経、機転ともに悪くないですね。足技を中心にして、相手を傷つけないようにする余裕がある。」
余裕なんかないわ。必死だわ。こめかみにコンパスが迫ってきたのを屈んでかわす。
「冷静に分析してないでたすけてください。」
「秋道くん。あなたが言ったのですよ。幼なじみを守るため闘い方を教えてくれと。まぁ、分析術はその幼馴染のラブリークールに教えてもらったのですけど。」
「言い、ました、けど!」
お玉にバレーボールにまち針に、どうなってるんだよ。
「君は、なぜ、フィールドを張らないのですか。あれを張れば、普通の生徒は意識を失います」
「どう、やっ、て!!張るんで、すか!!」
フィールドってあれか?あの女社長が張ってた結界。やり方なんて知らねーよ。
「通りで、合点がいきました。あなたは、ラブリーズのことを何もわかってないのですね。みんな、ありがとう。」
すっ、と学生たちの動きが止まった。
「「「押忍」」」
「いまのは演技ですよ。」
「演技?!!」
嘘だろ。めっちゃ舌打ちしてるよ?舌打ちしすぎて、スズメがたくさんいるかのような音がなってるよ??!
「道場に行きましょうか」
「道場?」
「炎城高校では授業で柔道や空手などをやるために道場があるんですよ。朝や放課後は【紅蓮】のみんなを鍛えるために使わせていただいてます。」
道場に足を踏み入れると、畳の匂いがした。体育館の半分程の広さに袴をはいた2人がいた。
洞爺湖 剣と夏海 華火だった。剣は、木刀をとりだして畳に突き刺した。
「ラブリーフィールド」
部屋の中に風が流れた気がした。木刀を構えたつるぎが突っ込んでくる。
「ラブリーアイテムにラブエナジーを一定量流し込むとフィールドを展開できます。このフィールドは、一般人の排除と自身の強化二重の意味を持ちます。ある程度ラブエナジーがあれば、変身をしなくても、フィールドを張ることは可能です。人払いはしてあります。変身してください。」
「ら、らぶりーべいべー」
見られながら変身するのは、気になるな。パンツをおずおずとかぶる。
「わたしは、こんな変態に負けたのかよ。私の証を返せ!!」
剣が、突っ込んでくる。こないだよりも早い!!
「っ秋道流テーブルクロス引き!!」
手首から赤い布を引っ張り出す。布をはためかせ、注意を引く。
「火柱!!」「闘牛士!!」
わずかに誘導された剣筋。そこを防刃の布で絡めとる。
「えっ」
「そりゃ」
秋道流執事術の応用である。刃物の勢いを利用して、布を巻きつけ、武装解除もしくは腕を封じる。つるぎは苦々しく感じているようだ。歯軋りがすごい。
「落ち着いてください、剣さん」
川奈さんが拍手をする。
「お見事ですね。秋道流執事術とやらはSPとしての技術もあるようですね」
「父さんに叩きこまれたんです。お屋敷での仕事とお嬢様を守るために」
「あなたは、それなりに戦う術をすでにお持ちです。あとは、ラブリーズとして、その技術を使えるかです。剣」
「は、はい」
「ラブエナジーを込めて、木刀を振るいなさい。あと、大事な人を想いながら」
「はい!!」
いや、いくらなんでも無理だ。こう絡まれた布を振り解くことは大の男でも苦戦する。よほどの怪力でも、それは。
「うお、」
体がひっぱられ、壁に叩きつけられる。
「これがラブエナジーの難しいところでもあり、可能性でもあります。」
「感情が実力を引っ張り上げることはよくありますが、ラブリーズの場合はそれが顕著です。愛の力をいかに引き出すか。」
「今日からしばらくここに通いなさい。剣と華が相手になってくれます。」
それから、俺は学校に行く前と放課後、炎城高校に通い始めた。お嬢様は白崎先輩と何やら企んでいるみたいだ。正直心配ではあったが、任せることにした。
「人は愛に満ちてます。ラブエナジーはだれもが持つエネルギー。大道寺カンパニーは、それを抽出する方法を見つけました。変身アイテムは変身、フィールド展開、近くのらぶエナジーの感知、証の管理。色々してくれます。」
「証は、敗北を感じた時に抜け出ます。特にラブリーズバトルロワイヤルでの敗北はラブリーズの変身の核となる証が抜け出やすいです。」
「核となる証が抜け出ると変身能力を失います。また、核となる証は、所有者の能力を継承してしまう特性もあります。」
「その場合はどうなるんですか?」
「例えばあなたの場合。剣の証を得ています。なので、剣術が少し使えるようになってるはずです。木刀を振ってごらんなさい」
はじめて木刀を握ったが、やけに手に馴染む。振り方もやったことないはずなのに、しっくりくる感じがする。
「力を発揮する時に想いを込めなさい。より強く、深く。」
「わたしの剣術が」
様々な型が体を通して再現出来る。つるぎの表情が険しくなる。
「か、返しましょうか」
一瞬、嬉しそうな表情になったが、ぴしゃりと川奈さんが制した。
「剣。今回この話を引き受けたのは、あなたの修練のため、己で勝ち取らねば意味がありません。あなたは所詮初心者とたかをくくっているかもしれませんが、あっという間においつけなくなりますよ。」
「はい、」
やけにあっさり引き受けてくれたと思ったら、そういう魂胆だったのか。
「文句はありませんよね」
「当然!」
「問題はここです。シングルと呼ばれるラブリーズ。つまり、10個以上証をあつめたラブリーズは強敵です。」
「秋道さんは、ラブリーズの想いを載せる技術を身につけつつ、変身後と執事術の結びつけを。剣は、秋道さんから、おのれの証を取り戻すべく、叩きのめしてください。相手は数日前のあなたの剣技を使います。己をこえなさい」
「自分は何をしたら」
傍らに佇んでいた華火は尋ねた。
「華は、2人の戦いぶりを見ながら、いつものように感情を制御できるよう修練してください。その後わたしと組手です。」
ホテルの一室。
「……おかえり。頭〈ヘッド〉」
「んー、ただいま!手〈ハンド〉!地図なんか広げてなにしとるんや。観光するんはお仕事終わってからやで」
少年はため息をつく。
「……地の利はアイツらにあるんだ。いつものようにいかないだろう?狙撃ポイントや仮アジトの選定。考えないといけないことあるだろう。どうするつもりだよ」
「出会いがしらにズドンよ」
「……よくそんなので、証を集めれたんだ」
「偽善者たちが集めた証を強奪したんや。良い行いをしたら、証をやる?はっ、あほかいな。ラブリーズの背後には大道寺カンパニーがある。結局は企業の価値があがる仕組みになってんや。甘ちゃん連中相手の狩りは楽しいで。」
「……この街にも【紅蓮】って呼ばれてるボランティア集団がいるみたいだな。不良を更生させてるとかえらく街の人に評価されてたよ」
「へーよく調べたな。手〈ハンド〉」
頭〈ヘッド〉と呼ばれている女の双眸が細くなる。
「……奴らのリーダーもラブリーズだな」
「ターゲットをやるのに、邪魔されたら叶わんわ。先に戦意をそいどくか」
彼女は静かに言った。




